目指せ人生一発逆転~アラサーがネット小説書いてみた 作:kuroe113
ネット小説家あるある。
長編を書こうとしても、人気が出ないと中編程度の長さで終わらせてしまう。
お気に入り数8
感想11
PV312
20XX年2月〇日
「これもう、どうしようもないんじゃないか」
漠然とした不安がいつしか絶望という暗闇に変化した。
人気が出ないという暗闇は、それほどまでに僕の精神を蝕んでいた。
現状を説明するとすればだ。
作品を投稿してからおおよそ一か月。
文章の投稿量に関しても、平均的な単行本と同じ15万字を越えた。
だというのに、お気に入りもPVも上記の通り。まったく伸びない。
「これは無理だな」
この作品で書籍化できるという甘い考えは捨てた。
「でも行ける、これならいける」
しかしながら、僕の心は熱く燃え上がっていた。
それこそ、今の作品を執筆していた時と同じく、あるいはそれ以上に。
なぜなら、新しい小説のプロットが恐ろしい勢いで進んでいるからだ。
雫さん、ありがとう!
Kore117
急募、真作のネタ求める。
Kore117
現在、ネット小説家のネット小説の執筆を決意。
改めてな〇うでの小説執筆のテクニックを募集。
読み専1
タイトル!
読み専2
あの長すぎるヤツ?
読み専3
そう、長ったらしい、もはやあらすじなのか文章なのか分からない、あのタイトル。
読み専4
みんなは、ネット小説の長すぎるタイトルは好き?
読み専5
ワイは嫌い。
読み専6
わかる、長たらしくて美しさがない。
読み専7
見つけやすいから有り派、ワイ!
読み専8
タイトルなんてどうでもいい、重要なのは中身だ。
読み専9
その中身を、ネット小説だと見つけにくいからみんな題名を長くするんやろうが。
読み専10
やっぱり、ネット小説で売れるにはまず手に取ってもらえないから、タイトルは重要なんでない?
読み専11
分かる、ランキング意外見ないし。
読み専12
偶に新人を探すけどなぁ。
読み専13
俺は、とりあえず、タイトルでこれは面白そうって思ったら、お気に入りにする。
読み専14
おお同士よ。
そして、そのまま読まないのがワンセット。
読み専15
そこは読んでやれよ!
「こいつら、タイトルのことしか話しやがらねぇ」
それだけタイトルが重要だってのは分かるけど、わかるけども!
もっとこう、なんかあるだろ。
いや、怒るな僕、落ち着け僕。
クールになれ。
質問に向こうは律義に答えてくれているんだ。
話してくれるだけ感謝しないと。
「まずは手順1。
自分の作品がどうしてネット小説で受けなかったのか、その理由を捜査したうえで書きだしていく」
結局、新しい小説のネタは自分で考えることにしました。
やったぜ。
ネットの掲示板は頼りにならないから、動画や小説に付いて書いてある本などで情報を入手していく。
その上で、自分の一体何がだめだったのかも……。
本当はやりたくないけど、ここはしょうがない。
「で、書いたはいいけど、これをどうやって小説にしていこう」
意外。というほどではないが、思いのほか素早くダメ出しは終わった。
「自分の小説の分析結果なんてもの、本だとか論文としての面白さはあるんだろうが……。
小説としての面白さはないよな」
問題はそこだった。
わたくしの小説の悪いところはここであり、A点とB点、それぞれを改良した結果……。
という分析結果を、大真面目に小説に記載したとしよう。
「つまらないから、小説を破り捨てるな」
エッセイとかなら価値はあるが、小説としての価値はそこにはない。
「ごみ箱に捨てられることなく、手に取ってもらうためにもストーリーを書くにはどうすればいいんだろう」
で、ノートだと持ち運びが不便だからこそ手に持っている手帳を見つめた。
「これをかぁ……」
この無味乾燥。
味気ない研究論文をどうしろというのだ。
少なくとも今すぐには無理。
「でも、これ受けるのかぁ?」
悩みはストーリーだけではない。
ネット小説について学んでいったからこそ、自分の作品がネット小説の定石から外れているのではという答えに行きついてしまう。
「好き勝手話を書いた結果、大爆死した。
今度は大衆受けするために皆が好みそうな要素をいれたいけど……」
どうしてもストーリー上削らざるを得ない場面がいくつも存在している。
1タイトル→〇
これについてはいくらでも変更可能。
2文体→?
分かりやすく、中学生レベルをイメージする。
知識、経験不足のためにこれであっているのか分からない。
3俺TUEE要素→×
これはどうしようもない。
だって、成長系主人公でないと無理だし……。
主人公最強要素とするために、カリスマネット作家が下々の人間に教えるならいけるか……。
でもなぁ……。
4登場人物をほめる→×成長系の主人公だから。そして、主人公最強要素がなく、皆に鍛えられ成長していく形だから、賞賛の言葉がどうしても弱くなってしまう。
「人気を重視すれば物語のコンセプトが死ぬな。
僕が目指しているのは文学作品のように、皆に共感してもらえる作品なのだから」
この作品のコンセプトはリアルな底辺作家の生活だ。
そこを根幹にしている話の都合上、ハーレム展開や俺TUEE展開を挿入するのは困難だった。
さて、この解決策をどうしようと考えに考えた。
しかし、答えが出ない。
ついでに今の作品もある。
それを完結させてからの話だなと考え直す。
今は自分ができることを少しずつ進めていこう。
それ以外にできることなどありはしないし。
20XX年2月〇日
『階段の前、ゆったりとした足取りで立ち止まった自分を、妹は少しきつめの瞳で睨みつけてくる。
狭い階段だ、横を通りすぎることもできない。
何故立ち止まるのか、いったいどういう意図があるのだ。人が目の前にいるのだ。顔を見てしゃべれ。手帳に文字を書くのを優先するな。このコミュションが、……と、きっと声には出さないが内心で思っているに違いない』
と、手帳の中にいろいろな散文を書いているが実際僕は彼女のために道を開けている。
今は扉の前に立ち、手帳にこれから起こったであろう、事の顛末を記載して言っているのだ。
なのに。
「それで、階段の前に立ち止まって手帳を書いている理由は何なの」
未来の情景を小説風に描いたそれは、いつの間にか小説ではなく、預言書に早変わりしていた。
「練習だよ、文章力向上の。
日常的に見たり聞いたりしたことをメモにして執筆の練習をしている」
ほら、知りたいことはもう知れただろ。
しかし、妹はまだ立ち止まったままだった。
「何?」
「そっちを曲がるの」
「道をふさいでいたな、悪い」
謝って、僕はうしろに一歩下がった。
「あ!」
道を譲る最中にトラブル発生。
体を壁につけ、腕を曲げた拍子に、手帳を落としてしまった。
「ふぅん、何か面白そうね」
当然僕はすぐさま拾おうとしたが、涼子の異常なまでの瞬発力にあっさりと後れを取ってしまう。
しかも、僕に手帳を返すのではなく、何か面白いものはないかと手帳のページをパラオパラとめくっていく。
我が妹ながら、性格が悪いぞ。
返してくれと、右手を前に出すが、涼子は知らぬ存ぜぬと、ページをめくる手を止めることはない。
「階段上る時ですら書いているから何やってるんだろうと思ったけど、また兄貴がみみっちい作業を延々と続けている!」
え! 小説執筆のための下準備、そんな風に思われていたの!
「それで、この小説の展開だけど、ほとんど兄貴の日記みたいなものだよね。
もしかしてだけど日記小説!
私たちの日常を赤裸々に話すなんてやめてよね!」
人のネタ本を勝手に読んどいて、その上で文句を言うな!
「そこは大丈夫。
事実3割、小説の執筆技術2割、創作5割くらいの割合で書くから」
自分だって、日常を小説の媒体で垂れ流すつもりはない。
「さっき書いた内容も?」
「大丈夫、改変するから。
今回の内容だって、そうだな。
『気がつくと、僕は喫茶手の前で、僕をこの古本喫茶に誘ってくれた女性と扉越しに睨み合う形になっていた。
僕は一歩後ろに下がり、トイレの入り口の前くらいで足を止めた。
そして、店長にいわれたアドバイスの通りに、今起こった情景を手帳に記載していく。
さぁ、譲ってやったんだから、そっちも早くどいてくれ。
そう心の中でお願いしているというのに、彼女は一向に動いてくれない。
「そのどうしたの」
「曲がるの、そっちに」
その発言を聞いた時に、申し訳なさから一歩後ろに下がった』
くらいには改変するから」
「今、一瞬でこの日常から着想を得て文章にしたの、すご!」
「練習の成果だよ、練習の。
まぁ、この練習を始めてまだ三日しかたっていないけどね」
「三日坊主でもそこまでになるとは。普段の執筆作業が少しずつ形になってきているということか」
「やはり、努力こそが最高のチートだってことだ。
あれ、これはどこか、ネット小説のタイトルに使えそうだな、というか、似たようなタイトルを見た気がする」
確か、アニメ化すらされている人気作品だけど、あまりの出来の悪さから、千尋さんがいろいろとダメ出ししていたのを覚えている。
「なんというかさ、私も、兄貴の今の姿をどこかで見たきがする。
具体的には、大学の教授の中に兄貴にそっくりな人がいるよ」
「日本のエリート中のエリートと比較されるなんて光栄です」
妹の声からは飽きれの色が混ざっているのが感じられた。
でもさ、腐っても鯛ということわざがあるように、それがどんなに変人であろうとも、大学教授と比較されるというのは不思議と悪い気がしない。
「本当にそれでいいの、優秀な人であるというのは認めるけど、ものすごく問題ある人なのよ。
具体的には、少しでも何か思いつきがあったら、所かまわず、それをメモにする人でね」
「すごい、今の僕の言動とぴたりと一致する」
だから、何だという話ではあるが。
「教授がいったいどんなことを書いているのかと思ったけど、きっとこんな風に自分が気づいたことをそのままメモしているんだね」
チッチッチッチ!
甘いな、妹よ。
「残念だけど、今書いているのは日常の中で気がついたことをそのままメモにしているわけではない。
日常の中で気がついたことを小説のプロット風にして記載しているんだ。
決して、思いついたことをそのまま、メモにしているわけではない」
「新しい作品のプロットなのこれ!
ということは、今書いている作品を完結させて次に行くの。
前にどんな作品を書くかっていう計画見たけど、まだまだ先は長いんでしょ」
「それは……」
こいつ、言いにくいことを……。
「私も読んでみたけど、まだまだ終わらないと思うな、あれ」
質が悪いことに、涼子はぐさりと心のもろいところを突き刺してくる。
「それとも、作品に人気がないから、いったん完結させて、別の作品に行く気なの」
正解。
100点満点だよ、畜生!
だが、これは同時にチャンスだ。
このまま作品を続けるのかどうかを実は悩んでいたし。
相談してみるか。
「正直どっちにしようか決めかねているんだ。
アドバイスを貰いたいんだけど、今の作品を続けるのと、現在制作中のこの作品、どちらを優先するべきだと思う」
「そんなこと私にきかないでよ。
兄貴のことを心配して作品を読んでいるだけで、小説に関してはそこまで詳しいわけでもないし」
こういうのは直感でいいんだよ、直感で。
でもわかる、というよりも、自分でも薄々ではあるが自覚はしているのだ。
今回の一件を相談すべきなのは涼子ではないことくらい。
「それに、いるでしょ。
私よりも小説に関して詳しい友達が。
そっちにききなさいよ」
励ましの言葉の裏に、僕と雫さんの関係を肴に楽しみたいという下心があるのは自覚している。
それでも、僕の心を見透かしたように、助言してくる姿を見て、『こいつ悟りか』と思ってしまった。
「ほら、ちゃんとメッセージ送るのよ、定期的に」
このあと押しは正解だったのだろう。
妹に背中を押されたからこそ、だだらだらと理由をつけて、先延ばしにしていた決定を実行するときが来た。
「雫さん……」
結局のところ、誰も読んでいないこの作品に固執している理由は、たった一人だがファンがいるからだった。
彼女の応援があるから、まだ執筆をつづけている。
彼女のおかげで新しい作品を書くことを決めたのだ。
その彼女の意見を無視して新しい作品に乗り換えることなどできやしなかった。
緊張からくる胸の高鳴りと共に、彼女に連絡を取った。
彼女に送った文章はたったの二つだった。
今ある作品をいったん終わらせて、新しい作品を書きたいのですがどうですか。
そして、ずっと聞きそびれていたアカウントだった。
絶対相談しないといけないことで、脳内で何度もシュミュレートしてきたからか、すんなりと文字を送ることができた。
そして返信はすぐに来た。
あれほどの覚悟を込めた文章だったのに、返事は『好きにすればいいんじゃない』と、軽いものだった。
そしてアカウントも。
「こんな偶然ある」
そのアカウントは僕がずっと応援していた作家の物だった。
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