目指せ人生一発逆転~アラサーがネット小説書いてみた   作:kuroe113

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第18話彼女は陰謀論者②

 ネット作家あるある。

 時間が無くてももう一度推敲したくなる。

 

 

 

 

 

20XX年2月〇日

 待ち合わせ場所は日本料理店だった。

 それも個室。

 男女が狭い室内で、何も起きないはずもなく……。

 ドキドキしたけど、何も起きないとは確信していた。

 

 残念だが、この小説は全年齢向け。えっちぃ展開は起こりません。

 あれ?

 僕だれに説明してるんだ。

 まぁ、いいか。

 

 いつもの居酒屋でいいのでは? とも思うのだが、今回の一件は相当な長話になりそうだから、静かな個室がいいだろうと、ここが選ばれた。

 

 初めて訪れた店だ。

 慎重に周囲を見渡す。

 

 完全な個室だ。

 普通の机と、和という要素を残すためかソファーは畳になっていた。

 

 そして、防音設備を証明するかのように設置されていた、カラオケ設備に少しだけ身構える。

 学校の頃、音楽の成績が常に1だった僕には音楽関係を見るだけで苦手意識が出てくるのだ。

 

 その恐怖から顔をそむけるように、何を注文しようかと、店内に備え付けられているタッチパネルを操作していく。

 横にいる雫さんのことを思い、とりあえず定番の商品を手早く注文する。

 

 そして、雫さんにタッチパネルを渡す。

 

 ぼーっと、前を眺めていれば注文内容が視界の端に映った。

 その内容は、やはりというかなんというか『酒』のたぐいが中心だった。

 

「念のためにきいておきたいんだけど、車は大丈夫」

 

「大丈夫です。今日は徒歩で来ましたし。

 ここは家から近いんで」

 

 酒によってやらかした経験というのは、あの居酒屋での一件が初めてではないらしい。

 雫さんはシカリト自分が酔ってやらかしたときの対抗策を考えていた。

 

 もっとも、一番いいのは、酒は飲んでも飲まれるなという風に、ほどほどにたしなむことなのだろうが。

 

「よし、今日は飲むぞ!」

 

 と、満面の笑みで酒を品定めする姿を見れば無理そうだと思ってしまう。

 

「ほどほどにね」

 

 僕にできることは、事前に彼女へ忠告するくらいのことだった。

 

 

「お待たせしました。さんまの塩焼きです」

 

 毎度毎度のことだが、料理注文からの待ち時間は嫌いだ。

 

 あまりにも嫌いすぎて、時間がかかりそうな複雑な料理は頼まないようにしているくらいだ。

 

 だから、焼き魚は失敗だったかもと思ってしまう。

 シンプルな料理だけど、意外と時間がかかるんだよ。

 

 だが、待ったかいはあったものだと焼魚の香ばしい匂いを嗅いだ時点で思う。

 今僕の机の上にはサンマに白米、味噌汁という、The 日本食が並んでいた。

 

 

「そっちも注文来たんですね」

 

 物欲しそうにサンマを見つめる雫さんだが、もうすでに彼女の前には多数の料理が並んでいる。

 

 サラダ、ウインナー、ポテト。

 それらをつまみながら、外が寒いということもあってか熱燗を喉に流し込んでいく。

 

 僕はここに飯を食いに来たのだが、彼女はここに酒を飲みに来たのだな。という、明確な違いを感じてしまう。

 

 それと同時に、これから小説について話すのに、このまま飲んで大丈夫なのかという心配も。

 

「……」

 何かを言いかけて口をつぐむ。

 他人の食事に口をはさむのは流石にと思ったからだ。

 

 

「好きなんですか、さんま。

 私の場合、家だと後処理が面倒なのでここ最近食べてないんですよね」

 

 と言いながら、雫さんはタッチパネルを操作する。

 

「そうだね、少なくとも魚の中では一番。いや、一番はやっぱりマグロかな。

 でも、焼き魚の中ならばサンマ以上の魚はないと断言していいくらいにサンマは好きだよ」

 

「そうそう、サンマといえば……」

 

 ここで、雫さんはまるでいたずらっ子のように微笑んだままに動きを止めた。

 

「目黒にかぎる……でいいのかな?」

 

「ええ、正解」

 

 彼女は満面の笑みを張りつけたままだった。

 

「でもさ、落語の落ちを考えれば不正解のほうが正解のような気がするんだけど。

 まぁ、サンマの産地なんてもの北海道以外知らない身だけどね」

 

 確か、目黒のサンマの落ちは、サンマの産地でも何でもない目黒で食べたサンマを、お殿様がここがサンマの産地だと思い込んだのを皮肉った話だったと記憶している。

 

「そのままの産地が正解? かなぁ」

 

「それ、どちらを選んでも正解であり不正解でもある、欠陥を抱えた質問だよね」

 

 雫さんは、熱燗をそっと口につけ、ポテトをひとつまみ、僕の皿の上に置いた。

 

 あぁ、ポテト美味しい。

 

 

 雫さんはもう、話をするよりも、飯を食うモードに移行したらしい。

 僕もまた、せっかくの焼き魚が冷めてしまうのは避けたいので、さっさと箸をつけることに決めた。

 

 箸をつけてみると、未だにパチパチとサンマの上で脂が跳ねている。

 口の中に放り込めば、肉とは根本的に違う、さらさらとした癖のない脂が口の中に広がる。

 そこに魚が持つ濃厚なうまみ、檸檬が持つさっぱりとした酸味が加わる。

 ただ魚を焼いただけ。

 そこに果実を垂らしただけ。

 そんな工夫も減ったくれもない料理だというのに、僕はいま猛烈に海を感じていた。

 

 僅かに香る潮の香り、あまりにも濃い塩気。

 そして、海の中で確かに生きていた命がその錯覚を引き起こしたのだろう。

 

 ああ、もう我慢ならんと、僕はいそいで白米に手を付けた。

 すると、確かな旨味があるというのに、あまりにも塩気が濃いというサンマの欠点が、どんなものでも受け止める、白米という真っ白なキャンパスによって中和されていく。

 

 秋の風物詩に、日本に生まれてよかったと心から思う。

 

 まぁ、今は冬、暦の上では春だけどね。

 だとしたら、感謝するべきなのは、この鮮度を落とさずにサンマを提供できる冷凍技術なのかもしれない。

 

 

 

「それでプロットですが」

 

 さんまを初め、机の上に並べられた食材をあらかた片付け、追加でいったい何を注文しようかなと考えていたころだ。

 雫さんがようやく本題を切り出してきた。

 

「ネット作家としての私は面白いと感じます」

 

 賞賛の言葉に僕は胸をなでおろした。

 

「ですが、人気作になれるかというと、難しいと思います。

 一般受けする要素が少ないですし」

 

 厳しい指摘のせいで、胸が痛い。

 

「やっぱりかぁ」

 

 反論はなかった。

 自分も薄々そうじゃないかと思っていたし。

 

 

「具体的にどこがだめ」

 

「小説について、専門的な話ばかりするのはどうにも……」

 

「本当に? ネット小説をよんでいるんだから、みんな最低限の知識があるから大丈夫だと思うけど」

 

「だめです。

 ネット小説を読んでいるからといっても、全員がネット小説に興味があると考えるのは飛躍しすぎだと思います」

 

「そっか~、だめか~」

 

 自信あったのに。

 

 

「どうすれば改善できると思います」

 

「……」

 

 困った顔。

 あ! これは解決策を考えていなかったんだな。

 

「そうですね。

 創作活動以外の要素を盛り込んでいくというのはどうでしょう」

 

「他かぁ」

 

 果たしてどんなものがいいだろう。

 

「恋愛系、ギャグ、困ったときに何かほかの要素を混ぜるとするならばこの二つは鉄板ですよ。

 理論上の話になりますが、この二つの話は日常にあまりにも隣接しているので、バトルでも、サスペンスでも組み込もうと思えば組み込めますし」

 

 確かにと、その提案に関しては納得できることが多い。

 異世界ファンタジーでも、意外なことにそういった流れというのは多いんだよね。

 仲間内で恋愛したり、日常の合間合間でおバカなことをしたりと。

 

 まぁ、複数のものをねじ込むとそれはそれで面倒になるのだが。

 

「他にもあるとしたら、掲示板形式でしょうか」

 

「それは……、いけるかもしれない」

 

 なんでそれを思いつか無かった!

 と、話をして、自分の間抜けさを呪ってしまう。

 

 掲示板形式。

 あるいは配信系の物語というのは、近年主流となった、ネット小説の形式の一つである。

 要するに、ネット小説の中で、周囲の反応、多数の反応を人々の声という形ではなくて、掲示板。

 つまりは一種のネットのイベントで行うという形式である。

 

 

「掲示板を使えば……、自分の小説の中で問題になっていた、自己肯定の欠如というのがカバーできるかもしれない」

 

 すごい! すごいぞ!

 使っているところを想像したら、一気にこれは人気が出るぞという確信が生まれた。

 

 

「それで、私の作品はどうでした」

 日本酒をちびちびと飲みながら、雫さんは尋ねて来た。

 酒を飲めないからこそ、知識はないのだが、美味しそうに飲んでいる姿を見ればきっといい酒なのだろうと思う。

 

「ほら、今回の集まりの目的は小説の情報交換じゃないですか」

 

 約束はしたが、正直ここまでディープな話になるとは思っていなかった。

 こういう時は、数字なり説得力のある材料をよういするのが鉄板なんだろうが、僕にはそんな気の利いた真似などできやしない。

 

 でも、彼女の作品なら毎度しっかりと呼んでいるからこそ理解できる、しっかりと感想をいえる。

 

「そういうことなら、遠慮なく言わせてもらうけど……」

 

 ろくに下調べをしていないことを隠すためということもあり、スマホで彼女の作品を開く。

 

「『未確認飛行物体といえども、その姿形はさまざまだ。

 円盤状。

 これが私たちが感じるものの最も多くの姿であるだろう。

 しかしながら、さまざまな姿が確認されている。

 まずは細長い葉巻型。

 一般的に知られるUFOよりもなお単純な形態である、球体がった。

 その球型から、中心に穴が開いたようなドーナッツ型。

 円形から離れた三角形型……』と、ここまで読んだけどさ。

 いくらなんでも例が多すぎない?」

 

「いいんです、それは狙ってやっていることなんですから!」

 

 疑問にすぐさま反論。

 いやぁ、速い。

 

「僕の場合だと、あまりにも文が長くならないように例なんてものは三つが上限なんだよね」

 

「私の作品は文章のテーマ性が最重要なんです。

 読みやすさの為にそれをゆがめたいとは思いません」

 

 小説というのは自由なものだ。

 自分がここが気になったから直せばいいと言ったが、その形式をとって人気を獲得している作品というのは少なくもない。

 なら、本人がそれでいいのであれば、僕がこれ以上何かを言うのも筋違いだろう。

 

「そういえばなんですけど。

 その伝えたいテーマは何ですか」

 

「それはですね、政府が隠蔽している宇宙人の存在を知らしめることです」

 

「え!」

 

 彼女の作品はその大半がホラー、宇宙人の脅威を訴えかけるものだった。

 なので、きっと宇宙人が好きなんだとは思っていたが、まさかこれほどとは。

 

「大体さ、宇宙人の話をすればみんな信じてくれないんですよ。

 この太陽系から存在する範囲でいったいどれだけの数の人類が、生物が存在する惑星が存在すると思っているんですか!

 その惑星に地球外の生物が住むと!

 その惑星の存在が、私たちの知らない未知の手段を用いて、宇宙を航海しているとどうして……」

 

 興奮から乾いたのどを潤すために、彼女が一気に酒をあおり、空になったそれを机に叩きつけたとき、驚き目を丸くする僕の瞳に、彼女の赤らんでいるのに、凍り付いた表情が映った。

 

「その、少し酔ってしまいました。

 体調があまりよくないのでこれで失礼します」

 

 

 そして、彼女は出ていった。

 そう、あまりにも意外な事実に僕は凍り付いた。

 雨宮雫。しがない地方公務員でしかない彼女。

 実は『陰謀論者』だったのだ。

 

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