目指せ人生一発逆転~アラサーがネット小説書いてみた   作:kuroe113

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第21話喫茶店にて

 ネット作家あるある。

 主語が複数あるとどれが対応する述語か分からなくなる。

 

 

 

20XX年3月〇日

「フン、フンフフッ♪」

 

 雫は鼻歌を歌いながら、ネット小説の感想を眺めていた。

 数秒で読み終わるはずの文章を舐めるように何度も何度も見返していく。

 その喜びようは、初めて感想が書かれた時とどっこいどっこいだった。

 

「もし、新字さんの新しい作品が書かれたら、私が最初に感想を書いてあげますか」

 

 顔見知りということもあって、雫はもうお返しの計画を考えていた。

 もっとも、今はプロット作成中だ。

 次の作品が投稿されるのは、最低でも1か月後になるだろうから、気が長い計画ではある。

 

 

 感想を、じっくりと考えながら返信を書いていく。

 

 しばらくして、今度は直接連絡。

 なんと食事の誘いが来た。

 

「え!」

 

 若い男女が二人っきりで、食事。

 以前にも食事をしたから、何もないと分かっているのに、思わず変な声が出た。

 

 ごまかすように、身を丸める。

 すると、雫に集中していた視線はいつの間にか自然と分散していく。

 

(確かに、奇妙なことをしたけど、これなら大丈夫)

 

 しばらく息をひそめようと決める。

 このままいけば、男に飯を誘われたなどという特大のからかいポイントは誰にも気がつかれないと予測していたのに、

 

「で、彼と何か進展あったの?」

 

 もうすぐ昼休憩が終わりということもあって、隣にいた友人が質問すれば、ゴホッゴホッと雫は咳き込んだ。

 

「やっぱり噂の彼と、何か進展があったのね」

 

 友人が目をキラキラと輝かせながら、真実を暴き出そうと身を乗り出した。

 

「趣味について、そう、趣味について話そうと約束しただけだから」

 

「つまりデートね」

 

 更なる追撃に、雫は落ち着くために口に含んでいたお茶を口に含んだままむせてしまい、今度は苦しみもだえることとなった。

 

「嫌さ、新字さんとはそういった関係じゃないから。

 これまで2度食事したけど、普通に話して解散よ解散」

 

「えー、でもそんだけ会ってるなら、趣味以外の話くらいしてるでしょ、親睦を深めるために……」

 

「それは……、一切ないわね」

 

「またまたぁ」

 

「いや、本当にないから」

 

「本当に?」

「本当」

 

「一応聞くけど、おごらされたり金銭を要求されたことないよね」

 

「そういうことはないね」

 

 同僚からの心配を、ぴしゃりとはねのけた。

 

「でもさ、噂の彼のことどのくらい知ってるの?」

 

 そういわれても、はっきりと言って、雫は新字と小説の話しかしていなかった。

 それ以外の話をしたことがないのである。

 

 メールやラ〇ンでのやり取りも、小説やプロットのチェック。

 それ以外の要求をされたことがない。

 

「その様子だとさ、また出かけるんでしょ。

 その時まだ趣味の話しかしないようなら、完全に脈無しね」

 

(そういえば、私って良く知らない人と、これまでずっと付き合ってたのよね)

 

 いまさらであるが、友達のことよく知らないと思い知らされた。

 

 これまで直接会ったのはたったの2回。

 ネット上での付き合いがあったから、身近に感じているが、その関係も間接的なものだけだった。

 

 果たしてこれは健全な関係といえるだろうか。

 あるいは彼に何かしらの狙いがあるかもしれないと雫は疑ってしまった。

 

 

 

20XX年3月〇日

「その、それで、今日の代金ですけど……」

 

 同僚との会話もあってか、少し、警戒心を強めて、相手の出方を窺う。

 

「別々でいいだろ、そっちの方があとくされないし」

 

 身構えていた雫は、胸をなでおろした。

 

 

 今日、雫たちがやってきたのは、山小屋のような姿をしたおしゃれな喫茶店だった。

 

 全てが木ができた小屋。インテリアのたぐいも木で構成されており、周囲からはヒノキのかぐわしい匂いが漂う。

 

 この喫茶店には以前から数度訪れたことがある。

 ということで、雫はお気に入りのメニュー、シュークリームを頼んだ。

 初めてここを訪れた新字はおいしいという話に便乗して、同じものを注文した。

 ただし飲み物だけは、新字はコーヒーを、雫は紅茶を注文した。

 

 しばらく待っていると、先に飲み物が。しばらく後にバターの匂いが二人の鼻を刺激した。

 

 小さな口を開き、雫は注文の品を口に。

 サクッとした皮。そして、下からフワッとしたホイップクリームがあふれだす。

 

 やがて、皮が口の中で溶けて消えれば、今度は濃厚なカスタードクリームが、口の中でとろけるようなホイップクリームとまじりあう。

 

「美味しかったですか」

「まあ」

 

 そして、少し前方を見れば、よほどおいしかったのだろう。

 もうすでに、新字が出された品を平らげていた。

 気に入ってくれた姿を見て、やはり自分の選択は正しかったと、うなずき、自分もまた、食事を進める。

 

 

(それにしても、ダサいですね)

 

 こっちが食事をしているからだろうか。

 特に話しかけてくることもなく、スマホをいじっている新字を雫はじっと観察する。

 

 青いジーパンに、無地の上着。

 シンプルだから、可もなく不可もなくだが、女性とともに、あるいは誰かとともに食事をするのであれば、その服装は失格だろう。

 

(気合入れてお化粧をしてきた私がバカみたいですね)

 

 改めて、目の前の人間がどんな人間かを知ろうとすると、いきなり欠点が見えてきた。

 

 

「それで、プロットの内容についてなんだけど」

 

 そういって、新字がカバンから取り出したのは、『教育改革~私立AI学園』と書かれた数枚の資料だ。

 

(これはまた)

 

 奇抜なタイトルに雫は戸惑ってしまう。

 

『「これって内の学園のことじゃないか。まだ内部の人間でも知らないことを書くなんて。さすが記者」

 

 そういって、タブレットを眺めながら朝食をとっていた活字はその大胆不敵な行動に感心させられた。

 

 その記事の内容はこうだ。

 

 教育改革。

 AIによる審議の結果、国語の授業は現在最も読まれている作品を使用することになりました。

 

 その後ろの欄で、なんかたいそうなお偉いさんが、

「それならば聖書が教科書になるだろう」

「世界で最も読まれた作品、それはホームズだ」

「全ての人間が使っている、ならば、国語辞書では」

 

 と議論を交わしながら、自分のおすすめの作品をプッシュしているが、それを見て活字は腹を抱えて笑った。

 

「俺の時代が来たぁ!!」

 男は確信する。自分のおすすめの作品が教科書になることを。

 

 そして来年、な〇う小説が、教科書となることに決定した。』

 

「で、これどう思う」

 

 視線から、雫がプロットを読み終えたことを悟った新字が、冒頭を読んだ感想を聞いてきた。

 

「まず、設定は斬新ですね。

 舞台は近未来、AIと人間との食い違い。ディストピア系の作品にもつなげられそうな気もします」

 

「……!

 そんな発想もあるのか。

 機械が人間を支配しているのなら、見方によっては……。

 正直その発想はなかったよ」

 

「それに話にも説得力がありますね。

 どうしてネット小説が教材に選ばれたのか。

 AIによる暴走、あるいは、今読まれている作品と昔から、この作品が良いとされていた作品の乖離。

 恐らくは、ネット作家にしか刺さらないであろう、現状の芸術性への批判……」

 

「悪いけど、そんなこと、これっぽっちも考えていないから」

 

 どんどんとあらぬ方向に進んでいく話に、新字は何それ知らん、怖っ! と引いていた。

 

 

「問題はキャラの描写ですね。

 まだ、冒頭も冒頭なので仕方がないのかもしれませんが、もうちょっと主人公についての説明をいれたほうが分かりやすいとは思います。

 直接的に、もう少し説明文を挿入する。

 それが嫌だというのならば、朝食の描写をもう少し加えてもいいとは思います」

 

「朝食の描写、ね」

 

 新字は未だ湯気が立ち上るコーヒーを手に取った。

 

「部屋の中にはコーヒーのかぐわしいにおいが立ち込めた、って感じ」

 

「冒頭以外ならそれでいいかもしれませんが、冒頭でそれはダメです」

 

 雫は周囲の環境を観察するように大きく息をする。

 

「『ああ、まだ疲れが取れない。

 昨日は何やら教育改革。新しい改革案が発表されるというので、上も下も会議に次ぐ会議。

 休まる暇もありゃしない。

 こんな時こそ、職場の友であるコーヒーだ。

 少しでも疲労が消えることを願って、トーストをその黒い液体で流し込んだ』」

 

 さてどうだと、雫は問いを投げた。

 

「そうだな、この人物が教師であること。

 近く大きな変化があること、社会人として疲れ切っていること、それでも仕事をしようとしているからこそ、まじめさが分かる。

 流石だな」

 

 新字は千尋さんから言われた、とにかく相手をほめろと言うアドバイスを実行する。

 

(そのスタイル、嫌いではありませんね)

 

 

「さてと、そういえば新字さんの今日の朝食は何ですか」

 

「パンと目玉焼き。

 いつも通りの朝食だからこれだと描写したし」

 

「だったら好きな食べ物は?」

 

「どうしてそんなこと聞くんだ」

 

 雫は友人から、眼前の人物を何も知らないという指摘から、どうにかその素性を探ろうとした。

 いまだに、ただの日常会話でしかないというのに、小説を語っていた時は饒舌に動いていた舌がさび付いていた。

 

「ほら、キャラだてのためですよ。

 何を食べているのかというのは結構そのキャラの心情とかを表すのに重要ですから」

 

 雫はそういって、優雅に紅茶を口に含んだ。

 

「稲荷ずし、あるいはお茶漬けかな。

 これならば、さっき話した描写につなげられる気がする。

 その場合、コーヒーは没になるけど、疲れているからこそ、胃にやさしいお茶漬けで腹を満たしている。あるいはそう、あまりにも忙しいから、それで何とか時間を短縮し、社畜としての……」

 

(何だろうこの人。世間話だと口が重くなるのに、小説の話になると止まらないんだけど)

 

 理系だとか、研究者特有の、自分の興味がある話題だけじょうぜつになる、変人を大学時代何人か見たことがあるからこそ、雫はその変人と、目の前にいる男性を重ねて見てしまう。

 

「それで、いつから小説を……」

 

「そんなことより」

 

(取りつく暇もない)

 

  相手の過去を聞こうとしても、新字はそんなことよりもと、小説の話題を続ける。

 

(ああ、この人、小説にしか興味がないんだ)

 

 あるいは重度のコミュションと思ってしまうのだが。

 

 

「結局何も聞きだせなかった」

 

 新字が帰った店内で一人、雫は追加で注文したレモンティーでのどを潤していた。

 

「でも、まぁ、小説にしか興味がないだけで、私をだまそうとしてるわけじゃないのは分かったかな」

 

 それでも、きっと彼とは小説を書いている限り関係を続けるのだろうという予感があった。




 これにて第一章が終わりです。
 しばらくはほかの作品を書こうと思うので、この作品の投稿はしばらく休止します。
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