目指せ人生一発逆転~アラサーがネット小説書いてみた   作:kuroe113

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第8話文体とは

 ネット小説家あるある。プロットを書きなれていないと無駄な部分が多く出る。

 

 

 

20XX年10月〇日

「フハハハハハ、プロットだ、プロットこそがすべてを解決するぅ!」

 

 今は、まさにこの世の春だ。

 鼻歌で一曲歌ってもいいほどに僕は上機嫌だ。

 

 最初の長編小説を書いた時は苦しみに苦しみぬいたあげくにペンを投げ捨てたに、今ではすいすいと次の展開が思いつく。

 

 

「動画見て、小説読んで、その後に小説を執筆する。こんな日々が続けばいいのに」

 

 今自分が書いているのはTRPGの世界観を下敷きにした現代ファンタジーもの。

 某巨人漫画を見て、最近の流行りは曇らせだ!

 と分析し、ダークな世界観を作り上げた。

 

 ……吸血鬼のバトルロワイヤルもの。

 あれはもうあきらめた。

 プロットが未熟だったせいで、もう次に何を書けばいいのか分からなくなったのだ。

 

 ファンの皆さん、ごめんなさい。

 と謝罪したが、ファンの姿を思い浮かべようとしても、誰一人として名前が浮かび上がることはなかった。

 

 どうしてここまで違いができたのか。

 それはプロットという一本の筋が通っているかいないかだろうと、結果から分析してみる。

 

 吸血鬼のときは文章を書いて、設定が本当に正しいのかどうかと悩み、書いては消してを繰り返したものだ。

 具体的には、いったん小説を書き終えて、これやっぱり先の展開につながらないからと没にしたり。

 

 しかし、プロットを学習した今では違う。

 始まりから終わり。

 小説の中に一本の線のようなものが見える。

 今でも推敲時には大きな苦しみがやって来るが、先の展開に悩み、書いたことを修正することはあっても没にするまではいかない。

 

 本当にプロット様様だ。

 もう、プロット無しでの執筆ができない体になってしまった。

 

 

「処女作を執筆していたころの自分に、今の技術を教えてやりたいものだ」

 

 しみじみと、あの頃の自分は未熟だったと思える。

 これは成長の証といってもいいだろう。

 

 元来、成長は水滴で石を穿つように、長くわかりにくい変化の連続だ。

 自分の変化に気がつけるものでもないが、今はしっかりと手ごたえを感じている。

 これは幸福といってもいいだろう。

 

 

 もちろん、変化は執筆速度だけではない。

 執筆方法にも大きな変化が生まれていた。

 

「ここに大逆転の公式を……。えっと、そう、ここには葛藤をと」

 

 思考方法が国語の読解から数学の公式問題を解くときのように変化した。

 

 昔、ネットの動画で国語と数学は本質的には同じものであるという話を聞いたことがある。

 最初にこの話を聞いた時『まさか、そんなことがあるはずがない』

 と、思った。

 その考えが、変わってしまった。

 

 

「作家先生、あなたのおかげで、僕は楽に執筆ができています」

 

 と感謝の言葉を口にして、どうすれば物語になるのかの公式を意識しながら書いていく。

 

 

「これだけ下準備をやったんだ、もう1日1更新も夢じゃないかも」

 

 しかし現実は非常だった。

 

 

 

20XX年10月〇日

「すすまねぇ!」

 

 今の執筆速度1時間に1000字。

 

「慣れか! 文字を書くのに慣れてないからこうなってるのか」

 

 プロットを肉付けしているだけだというのに、成果を確認すればこの程度。

 

 

 

Kore117

新しい長編プロット完成。これから長編小説の執筆に入ります。

 

読み専1

おっ! 待ってた!

 

読み専2

でも、吸血鬼のやつは

 

読み専3

何?それ

 

読み専4

イッチが書いててエタッた小説。

 

読み専5

最初に書いた小説放置してこれかWw

 

読み6

ネット小説や、金貰ってるわけでもないんやし、ええやろ!

 

専読み7

あれ、結構おもろかったで

 

Kore117

まじで

 

専読み専8

まじまじ。あの中二病なのに、それを恥ずかしさから隠しきれてないあの感じ

 

読み専9

ああ、あの子ね

 

読み専10

ワイも昔の血が

 

読み専11

お前の黒歴史なんて聞いてないんだぞ

 

読み専12

うぅ、ワイのこの身に封じられし黒龍が

 

読み専13

俺の邪気眼が火を噴くぜ

 

読み専14

俺の右腕に風jられし力が

 

読み専15

それやってて楽しい

 

読み専16

うん

 

読み専17

童心に返れて楽しいで

 

読み専18

で、次の話ってどんなん(鼻ほじ)

 

Kore117

クトゥルフ系の話

 

読み専19

SUN値が直送される奴

 

読み専読み20

ああ、窓に、窓に!

 

 

 

20XX年10月〇〇日

「1日1更新への道はまだまだ遠いな」

 

 自分はここまでできたんだと、皆に自慢するためにサイトにプロット完成を書き込んだ。

 お猫様のおかげで、物語に対する基礎技術は身についた。

 そのかいあってか、書く速度は飛躍的に上昇した。

 

 

「基礎はできているはずなのに、どうしてここまで進まないんだろう」

 

 悩んだからこそ、掲示板に書いたのだ。

 プロットが出来上がり、執筆すると。

 見栄っ張りな僕はみんなの前で口にしたことをなんだかんだ守ろうとしてしまうから。

 というか……。

 

「ランキングの上位陣ってマジパネェ! 一体どうやったら1日1更新なんてことができるんだ」

 

 書いてて分かる上位陣のすごさ。

 

「変態だ、変態の諸行じゃ」

 

 執筆速度に何か秘密があるのではないかと考え、それを解明しようとして出した答えがこれだった。

 更新頻度が高い連中は変態だから、毎日数千字の文を書けるのだ。

 

 

 

20XX年10月〇日

「兄貴一体何やってるの」

 

「どうすれば自分が変態になれるか真剣に考えている」

 

 毎度恒例のことで、もうあきらめた。

 これまで幾度も、入室時はノックしていたが、それを口に出さなくなってどれくらいの月日が流れただろう。

 

「……? 新しい性癖でも開拓しようとしてる訳」

 

「近からず、遠からず」

 

「うっわ!

 と、涼子がゴキブリでも見るような目で僕を見た。

 

 やっべ!

 ぼーっとしてたせいで適当に返答したから、誤解が!

 

 執筆意欲を引き出そうといじくっていた文房具を机の横に押しのけ、涼子に視線を向ける。

 

「変態といっても、変質者じゃなくて……。

 常識から外れたという意味での変態だから。

 蔑称ではなくて、褒め言葉としての変態にどうすればなれるのかを考えていたんだ」

 

「いや、そもそもの話。変態は誉め言葉じゃないから」

 

「そこは……、そう。小説家であるが故の言葉遊びだぞ」

 

「ならいうけど、変態って言葉にはネガティブな要素が大きすぎるから、使わないほうがいいよ」

 

 ごもっとも。

 小説を書く上での鉄則だ。複数の意味に読み取れる言葉を使わないというのは。

 言葉の使い方って難しいね。

 

「確かにそうだ。

 でもね、変態以外の言葉が見つからないんだ。

 1日1更新は頭のネジが一本か二本か外れていないとできないしね」

 

 ざっと、脳内の類語辞典で検索してみても変態以上の言葉が出てくることはない。

 

 変態って言葉はなかなかに的を射てると思うよ。

 

「似た状況なら知ってる。週間投稿の漫画みたいなもの。

 あれって、仕事量が人間にできるものじゃなくなるっていうし」

 

「そうそう、実際におかしくなるほどに大変な作業なんだよ。

 毎日更新している動画投稿者、小説の執筆。

 それらすべてが正気を削るほどの忙しさだしね」

 

 ここまで長くだらだらと話していたおかげで、ゆったりとした時間の中で緊張がほぐれたのか、涼子の視線からは険しさが消えた。

 

「そこまで忙しいなんてね。

 で、気が狂いそうなほどに執筆に打ち込んだ結果はいったいどれほどのものなの」

 

「……、それなりには進んでいるよ」

 

 感情をこめない平坦な声。

 視線はあらぬほうへ。

 嘘に慣れていないせいか、ごまかすにしてもあまりにも過剰に動いてしまった。

 

「どれどれ、私が審査してあげるから見せて見なさいよ」

 

 きっと、嘘をついたのが見破られたのだろう。

 涼子はひょいと跳ね、画面をのぞき込んだ。

 

「……? 何これ?」

 

 好奇心のおかげできらきらした瞳が、目に映る膨大な文字列のせいでぐるぐる回る。

 

「これは小説の切り抜き。

 お気に入りの場面をパターン化すれば執筆時間が短縮できるかもって考えたたんだ」

 

「でも、それって努力の方向性を間違えてるんじゃないの?

 というか、テンプレートの創作に時間を使いすぎてオリジナルの創作に時間を削ってない?」

 

 図星だから、心を落ち着かせるために自分服の裾をぎゅっと握りしめながら、

 

「時間を湯水のごとく使っているのは認めるよ。

 でもさ、文章力は確かに向上したんだ。

 見て見ろよ」

 

 と、出来上がった作品を開いてやる。

 

「これはすごい!

 兄貴の駄文が、どうにか面白いレベルまで……。作家先生ってすげぇ!」

 

 いや、そこは僕をほめろよ。

 

 ……いや、まて。

 

「今、面白いっていったのか?」

 

「え! うん。

 まだまだオリジナルの作家先生の足元にも及んでいないけど、読んでて十分面白いよ」

 

 ――小説を書いてて、初めて生で賞賛されたかもしれない。

 

 どうしよう、素直にうれしい。

 でも、素直に言ったら涼子が調子に乗りそうなので何も言わない。

 

 

「それで、コピペのほうに戻るけど。

 本当にこれだけの量を一人で」

 

「友達がいないからな。あり余る時間を使わせてもらった。これこそが作家である僕が生み出した必殺技、ボッチタイムとでも名付けようか」

 

「いや、何友達いないことを自慢げに語ってるのよ!」

 

「……」

 

 言われてみれば!

 

「それにこれ、単なるコピぺじゃないよね。

 この番号みたいなのなに?」

 

「これは文の区切りだよ。

 自分ルールと言い換えてもいいけど。

 文章を分解して、同じパターンのものに名前を付けてる」

 

「それで、その法則は何パターン?」

 

「今作っている最中だけど、20パターンくらい」

 

「変態、変態の諸行じゃないの」

 

 その発言を聞いて、改めて血がつながっているんだなと認識した。

 涼子が口にした言葉は、僕がランキング上位陣に向けた罵倒とおんなじだった。

 

「でもさ、もう作る時間を置いといてもこれマイナスじゃない」

 

「何?」

 

「目当ての文章を探すのに時間を取られて時間をロスしてるって、これ」

 

「そのロスを差し引いてもプラスだよ。

 前は1時間に800字がせいぜいだったが、今では1400文字まで執筆ができるようになったんだ」

 

「ごめん、具体的に何がすごいのか分からない」

 

「だったら、大学のレポートを考えてみろ。授業でしっかりと事前情報が頭の中に入っている。限られた範囲、テーマも向こうが与えている。それでも1時間にそれだけ書くのきついだろ」

 

「ごめん兄貴、こっちが間違ってた。

 すげえよ、兄貴は」

 

 分かればよろしい。

 

 

「でもさ、もっと単純なルールにしたほうがいいよ。もっと早く書くためにはさ」

 

「やっぱりこのルールだとだめか?」

 

「だめだよ。

 ルールが多すぎて、瞑想してるよね」

 

「それはまぁ」

 

 それについては自覚しているので言い返せない。

 探すときに戸惑うしね。

 

「でも、これだって十分単純化したルールなんだよ」

 

 これ以上簡略化しろと言われても、困ってしまう。

 

「でも、本気で小説家を目指しているんでしょ」

 

「やってやる、ああやってやるとも」

 

 我ながら単純だと思う。

 何せ、こんな挑発に真っ向から受けて立つのだから。

 でも、妹の激励を受けて僕の名でやる気という焔が燃え上がるのを感じた。

 

「ただやるのも面白くないし、賭けない。

 一週間でルール作れればコーヒーおごるね」

 

「出来なければ僕がコーヒーをおごる」

 

「砂糖とミルクは一つずつお願いね」

 

 と涼子が言えば、僕は

 

「こっちのはミルクふたつをいれろ」

 

 と要求した。

 

 

 

20XX年10月〇〇日

そしてついに、

 

「できたぁ」

 

 やったぁ!

 と興奮のあまり叫びそうになったのを周囲の迷惑になるかもしれないとどうにか押しとどめる。

 

 結論として僕は涼子との賭けに勝ったのだ。

 新しく生まれた理論。

 名づけて、QREC理論である。

 

 

Q=Question

 これは疑問。

 文の先頭、衝撃や不思議に感じたこと。

 

R=Reation

 これは反応。

 疑問に対しての自分なりの答え。

 

E=Example

 これは具体例。

 ここは客観的な事実でもいいし、自分なりの決断でもいい。

 

C=Conlution

 これは結論。

 自分なりの解釈、答えがここである。

 

 この理論を構築したことで、これまでは一時間に『1,200』文字だったのが『2,000』字くらいまで執筆できるようになった。

 

 

 

「文章の基本っていうのは、いかにして同じことを繰り返して、それを人に悟らせないことなんだよ」

 

 結果発表の日。

 この理論の本質を涼子に話してやった。

 

 手抜きと糾弾されるかもしれないが、そこは許してほしい。

 

 というよりも、この理論もほぼ思いつき。

 本当に重要なのは同じパターンの文の並びで10回以上繰り返しても違和感が出ないことだ。

 

「それができたら、どんな書き方であろうとも文体になる」

 

 と、小説を書き始めて今の今まで意味が分からずに困惑していた言葉を説明でき、胸をほっと撫でおろす。

 

 

 戦利品であるコーヒーをしみじみと味わいながら、この黒く苦い飲み物で気合を維持してきたであろう過去の文学者に思いをはせた。

 

「意味わかんないんだけど、そもそも文体って何?」

 

「こっちにもよくわからない」

 

 本やネットで検索しても漠然とした情報しか載ってないしね。

 

 

「出てくる情報が文章の個性だよ。

 もう少し言葉を足してほしいよね。でもさ、今回この理論を作ったことで文字の並びや、その組み合わせ、これを決まったパターンで並べること、それが文体ではないかって自分なりの答えが出たんだ」

 

「まぁ、小説家を目指しているわけでもないしどうでもいいわよ、そこは」

 

 あ、こいつ理解できなかったな。

 ところで、妹よ、その手に持っている紙はいったい何なんだい。

 

 

「大学の課題、この本に関するレポートを書けって話なんだけど、なんか書いているうちに詰まっちゃってね」

 

「もしかしてだけど、発破をかけたのってこれのため……」

 

「そんな訳ないじゃん、ところでさ、本の要約方法について困っていない。

 実はこの本、創作に役立つと思うけど」

 

 確か、大学のレポートについての話題を出していたけど。

 

 その課題を少しでも楽にするために発破をかけたのか……。

 恐ろしい奴。

 




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