元魔王は平和に暮らしたい -俺が殺したい程に必要ないなら勝手にしろ ただしスローライフを邪魔するなら絶対に許さん―   作:ヨシMAX

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第61話 俺と80年後の贖罪

 

 はい、おはよう。

 俺はユーリートという将校だ。

 

 今、俺は帝都の城の地下にある牢屋に入れられている。

 あの後、ベレルメーゼン帝国皇帝率いる軍に捕まったのだ。

 

 とは言え、部屋は清潔感があり必要最低限の物は揃えられている。

 トイレやシャワーも備わっておりプライバシーを保護すべき場所にはきちんと壁があり守られている。

 

 俺は帝都の牢屋という物が他のそれとは全く異なる目的で作られていると収監後に思い知った。

 神聖国も含めて他の国々の牢屋と言うのは囚人や捕虜を閉じ込めて逃がさないというのが主たる目的である。

 

 だが、帝都の牢屋は囚人や捕虜が健康を保ち元気に過ごせる様にと言うコンセプトで作られている様に感じた。

 囚人や捕虜が健康で元気で、なんて一見おかしな話だと思うが俺にはとても合理的で共感できる話に感じた。

 囚人ならば安定した能力を発揮してより高い質の労働が出来る様になり捕虜が元気なら相手国にも好印象を与える事が出来そうだ。

 

 

 ……不意に俺の牢屋が灯りで照らされる。

 

 

 「ユーリート将校殿、皇帝がお呼びだ。出たまえ」

 

 

 門番が俺を呼び出した。

 こんな真夜中に一介の捕虜相手と一体、……何の用だろうか。

 もちろん逆らう事も出来ず俺は3人の門番に囲まれる形で歩いていく。

 

 俺の腕には魔力を封じる強力な腕枷がはめられていた。

 囚人の場合は更に身体能力を低下させる効果も加えられているとの事だが捕虜はそこまでの制限はかけられないそうだ。

 

 

 「おやっ? 尋問室はこちらではなかったかな?」

 

 「本日は皇帝の私室でと聞いている。こちらだ」

 

 「なんだとっ?!」

 

 

 どういう事だ?

 こんな真夜中に一国の皇帝が一兵卒の俺を私室に呼びつけるなんて。

 万一、俺が逃げおおせたら敵国に皇帝の私室の位置情報が流れてしまうんだぞ。

 

 俺は凄まじい心の動揺を抑えて様々な可能性を頭の中に浮かべつつ門番の後ろを歩いて行った。

 自分では気づかなかったが、この時の俺の顔は酷い有様だっただろう。

 

 

 「皇帝の私室に着いたぞ。少し待て」

 

 

 部屋についた門番が思案に更ける俺を追いて皇帝の扉を叩き到着を報告する。

 

 

 「将校殿、お入りください」

 

 

 ……仕方ない、覚悟を決めるか。

 

 

 「あ、将校殿、待たれよ」

 

 「えっ?」

 

 

 俺は門番に呼び止められ、なんと封印の腕枷を外された。

 何が起こったのか分からずにボーッとしていると門番にせかされた。

 

 

 「さあ、入られよ、将校殿」

 

 「あ、あの、何も制約が無い状態で皇帝に会ってもよろしいのか?」

 

 「皇帝が構わぬと仰せだ。さあ!」

 

 

 何か不審な感覚が拭えぬまま俺は扉をくぐる。

 部屋の中はさぞかし豪華なのだろう……と思ったが思いのほか質素であった。

 

 部屋の中央にはテーブルに椅子、奥にはベットが配置されているが何れも一般的なレベルのものだ。

 他の家具も悪くはないが皇帝が使うにしては普通すぎた。

 下手をしたら俺が国で使ってた物の方が高級品なのではないかと思う位にだ。

 

 と、窓辺に立っていた少年が振り向いた。

 間違いなくアルビー皇帝その人だ。

 

 

 「驚きましたか? 皇帝の私室に呼ばれるだけでも異例なのにその部屋があまりに粗末なのですからね」

 

 「――っ! い、いや、そんな事は……」

 

 「構いませんよ。実際、俺もこの部屋にはあまり居ないので最低限で揃えたものばかりですし……、超高級品とか落ち着かんのですよ」

 

 「は、はぁ……」

 

 

 部屋の様子もそうだがあまりに気さくな皇帝の口調にも俺は戸惑ってしまった。

 一体、この方は何のつもりで俺を呼んだのか。

 全く得体の知れない様子が返って不気味である。

 

 

 「皇帝がわざわざ他国の一兵卒、しかも捕虜を拘束もせず自室に呼び寄せたのです。さぞかし困惑されてる事でしょう。まあ、あなたを呼んだのは……そうですね、八つ当たりです」

 

 「……はっ?」

 

 「ですよね、その反応、当然です。俺もあなたの立場ならそんな反応になるでしょう。実はね、あなたは俺の大切な人を殺したのですよ。……まあ、お互い軍属ですから殺し殺されは戦場の理、覚悟の上です、覚悟の上なのですが俺は周囲から攻め立てられ続け弱った所を奇襲で追い詰められた。少し位、恨みを晴らしても良いでしょう」

 

 

 さ、さっきから何を言ってるんだ、この人は?!

 俺は……皇帝とはこれが初対面だ!

 きっと、誤解があるに違いない!

 

 何とかして生きて国に帰る為にもここは……。

 

 

 「お、お待ちください、皇帝陛下! 私は陛下とは今回の戦場が初対面です! 何か、何か誤解があると思うのです! お、恐れながら、ひ、人違いでは?!」

 

 

 俺が動揺した様子の縺れる舌で何とか、そう話すと俯き加減だった皇帝が顔を上げてニヤリと笑った。

 

 

 ゾクリッ!

 

 

 俺はその瞳をみるなり凍りついた様に動けなくなってしまった。

 まるで意識と身体を切断されてしまったかの如く、ハッキリと回りの出来事は関知できるのに身体だけが動かない、そんな感じだった。

 皇帝の瞳は空虚そのもの、怒りも悲しみも全く読み取れないのだが見ていると闇に吸い込まれてしまう様な、そんな嫌な予感しかない感覚に陥ってしまった。

 

 この皇帝はまだ若いと聞いていた。

 どれだけの経験をしたらこんな瞳になるのだろうか?

 

 

 「人違い……?」

 

 「そ、そうです! 繰り返しますが私は陛下とまみえるのが今回の戦場が初めてです! 私には心当たりがありません! きっと、きっと別に犯人が居るはずです。宜しければ私にその犯人探しを協力……」

 

 

 「そんなはずあるかぁ――――っ!!!」

 

 

 俺は生き延びる為に必死で誤解を解こうとしたのだがその企みは皇帝の信じられない迫力でいとも簡単に掻き消された。

 こ、これが皇帝になるものの覇気というやつなのか……。

 

 

 「……で、ではそれはいつごろのお話なのでしょうか?」

 

 

 若き皇帝の覇気に圧されてはしまったが俺も自らの命を最後まで諦める訳にはいかない。

 きっと勘違いしている皇帝を何とかして説得しようと情報の聞き出しを試みた。

 すると皇帝は再び怒気を消しニヤリと笑った。

 

 

 「80年後だ」

 

 

 俺はまたもや思考停止してしまった。

 敵国の皇帝を目の前にして致命的な失策であるが もはや俺には少年《こうてい》が何を言ってるのか理解できなかった。

 

 

 「ここに魔道具がある。これは記憶の追体験が出来る俺のお気に入りアイテムだ。そして今、80年後のマリアの記憶に調整してある」

 

 「ま、待ってくれ! い、いや、お待ちください、私には陛下が何を仰られているのか、皆目見当がつきません!」

 

 

 「だから言ったろ……八つ当たりだとね」

 

 

 皇帝から表情がきえた。

 そして俺は思った。

 

 

 あ、だめだ、俺は死ぬのだ。

 

 

 




ここまで読んでくださり有難うございました。
宜しければ評価頂けると大変嬉しいです(^ー^)
いつも明るいアルビー君の闇が伝われば良いなと思い書きました♪
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