元魔王は平和に暮らしたい -俺が殺したい程に必要ないなら勝手にしろ ただしスローライフを邪魔するなら絶対に許さん―   作:ヨシMAX

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第62話 俺は未来の敵を討とうと思う

 

 

 はい、おはよう。

 前回に引き続き俺はユーリートだ。

 

 俺は帝国の捕虜となりまさにこれから拷問? を受けようとしている。

 一介の捕虜である俺がまさか皇帝に面会の機会が与えられ直接刑の執行を命じられた。

 

 よく分からないのが俺の罪状が80年後の殺人罪だそうだ。

 しかも皇帝の相棒とも言うべき女性を殺したそうだ。

 一体彼は何を言っているのか?

 もちろん皇帝本人にそんな事は直接言えず俺はこうして刑の執行を待っている。

 

 

 「将校殿。準備はよろしいか?」

 

 

 俺を皇帝の私室まで連れて行った門番の一人、桃色の髪、茶色の瞳の美しい女性兵士だ。

 こういった見掛けではあるがあの皇帝が側に置くのだ、優秀なのだろう。

 準備と言われたが俺の側に何を準備する事があるというのか。

 

 

 「それは心の準備と言う事か?」

 

 「そうですね。あなたが今から追体験する記憶は事前に皇帝より許可を受け、私も見ている。これを見てあなたがどの様に考えるのか、……私は非常に興味があるのです」

 

 「……80年後の出来事と言うのはどういう事なのだろう。君は何かしっているか?」

 

 「私はなにも……。ただ我が皇帝は未来より参られた……と言うのが専ら我が国に伝わっている噂話だ」

 

 「……未来から、だと?!」

 

 

 皇帝も皇帝なら家臣も家臣なのか。

 なぜ私が80年も未来の事で断罪されなければならないのか。

 そんな話を信じ……、られなくもないのがあの皇帝の不思議な所なのだが。

 

 80年後の世界で皇帝が何を見て何を体験して来たのか……正直、興味がないかと言われたら嘘になる。

 ……まあ、抵抗しようがすまいが今から俺の頭には件の魔道具が被せられようとしていた。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 俺は今、今回の作戦を成功させるべく絶好の機会を得ている。

 悪名高い魔王が地方の紛争になんと自ら軍を率いて出てきたのだ。

 そして先の戦いで我が軍は一世一代の奇襲を成功させ、あの魔王軍を敗走させる事に成功した。

 ところが魔王軍の逃げ足は思いの外に速く領地にまで戻られてしまった。

 

 俺達は計画外の事態に多少浮足立ったのだが気を取り直し、事前に立てていた綿密な計画を逐一完璧に実行させ強固な包囲網を作り上げていった。

 

 

 「ユーリート様! 魔王軍の主力の最後尾を捉えました!」

 

 

 きたっ!

 捉えたぞ、悪の魔王め、目に物を見せてやる。

 俺は自ら側近の部隊を率いて急ぎ出陣した。

 

 

 

 「……間もなく、この峡谷に魔王軍の主力が入ってくる。我らは一度それを素通りさせこの先に伏せている伏兵を共に魔王軍を挟撃する。いいか」

 

 「はっ!」

 

 

 俺達は易々と魔王軍を先回りして魔王領内の境界に部隊を伏せていた。

 しばらくして情報通りに魔王軍が到着する。

 何も知らずに暢気なものだな、魔王よ。

 

 俺は息を潜めて魔王が行き過ぎるのを待った。

 1秒が1時間にも感じられる長い時間だったが魔王の背中に狙いを定めて矢をつがえる。

 

 これで、……取った!!

 俺が魔王を討ち取ったと確信した瞬間、隣で騎乗していた騎士が魔王に騎馬を体当たりさせて身代わりとして庇った。

 

 くっそ!

 魔王を庇った騎士には致命傷を与えたのは間違いないが……。

 夥しい出血をしているのがここからでも目視で確認できる。

 

 だがそんな有象無象の騎士をどれだけ討ち取った所で関係ないのだ。

 他の騎士達が魔王軍に追撃の弓矢掃射を浴びせかける。

 庇われてしまったが魔王に放った矢にもこの掃射にも致死性の毒が塗布してある。

 

 弓矢が刺さり、ほんの微量でも毒が体内に入れば一瞬で死ぬ。

 そんな毒なのだ……そのはずなのだが、魔王が先ほど自分を庇った騎士を灰色の大型の騎馬に乗せ逃走を試みたのが見えた。

 

 馬鹿な……、あの毒を受けてまだ生きているとでも言うのか。

 ここで逃してしまっては元の木阿弥だ。

 俺は周りの騎士達に号令を出す。

 

 

 「魔王が離脱するぞ――っ! 絶対に逃がすな! 後詰の部隊を残して俺の部隊は魔王を追う! 私に付いてこい!」

 

 

 魔王軍の騎士が我が部隊の一斉掃射でバタバタと倒れていく中、俺は一心不乱に魔王の騎乗する馬を追いかけていく。

 我が神聖国でも選りすぐりの筈の俺の騎馬がさっきから全く魔王の騎馬に追いつけないでいた。

 

 ヨロイを身に着けた騎士を2名乗せた上であの速度で走る馬なんているのか。

 全く、あいつらのやる事、成す事は想像をいつも超えてくるな。

 必ず、必ず、ここで魔王を討たねばこの先に絶対に禍根を残す。

 俺は諦めずに魔王達の後を追いかけた。

 

 すると魔王の騎馬から魔力の発動を感じたと思ったら毒の矢を受けたはずの騎士が騎馬から飛び降りこちらに走ってきた。

 

 冗談だろう。

 あいつ、致死性の毒を喰らってなぜあんなにアクティブに動けるんだ。

 全く、魔王軍の奴等はどいつもこいつも常軌を逸しているな。

 

 俺がそんな事を考えていると後方の部下から苦しそうな息遣いが聞こえてきた。

 

 

 「はあ、はあ、あの騎士を絶対に倒さなければ……」

 

 「ふざけるな! あいつを討ち取るのは俺だ!」

 

 「うるさい! ――っ」

 

 

 どういう事だ?!

 神に導かれし神聖国の誇り高き騎士達がこんなにいきり立つなんて……。

 何かがおかしい……、もしかして意識に直接影響を仕掛けてくる魔法なのか!

 

 駆けてきた騎士が剣を構えて俺達の前に立ち塞がるが明らかに体調は悪そうだ。

 あの猛毒が全く効いてないという事ではなさそうで内心ホッとしている。

 

 

 「みんな! こいつは気にしなくていい! 魔王を追うぞ!」

 

 

 俺はそう指示を出したはずなのだが部下達は全く反応しない。

 再び違和感を感じた俺は部下を振り返るとその姿に驚愕した。

 

 眼を血走らせ呼吸を見出しよだれを垂らしている。

 やはり……何らかの精神魔法の影響を受けている。

 

 野犬の様な状態の部下達を呆然と見ていると騎士が叫んだ。

 

 

 「魔王を追わせる事は出来ん! どうしても追うのなら私を討ってからにせよ!」

 

 

 若い女性の声だ。

 毒に侵され心身ともに弱っているはずなのに周りを奮い立たせる事の出来る凛々しく心地よい声質だ。

 

 だが、その声も魔法の影響を受けている野獣と化した部下達には逆効果だ。

 

 ふっと見ると前に立ちはだかる女性騎士の口元が緩んだ気がした。

 

 まさかっ?!

 俺は彼女の思考を読み余りの気分の悪さにキツイ眩暈がした。

 

 

 ぐぉっ!!

 俺は野獣と化した元部下に弾き飛ばされ崖の岩壁に叩きつけられた。

 

 俺は朦朧とする意識の中で奇声を上げて女性騎士に躍りかかる部下達の姿をぼんやり眺めていた。

 あの女性騎士は自分を餌にする為に部下達の正気を失わせ襲わせている間に魔王を逃がすつもりなのだ。

 

 この後、散々に……言葉にするのも反吐の出る行為を繰り返された後に彼女は体内の魔力を暴走させて自爆し俺の部下を巻き込んで死んだ。

 ここで未来の俺も死んだようだ。

 

 

 そうか……。

 これは、俺が恨まれるわけだ。

 俺が直接殺したかなんて関係ない。

 俺が同時に同じ場所で死んでいる事も関係ない。

 魔王にとっては憎いのは我が神聖国全て。

 

 そして……

 彼女を殺したのは紛れもなく魔王を奇襲した俺だ。

 

 




ここまで読んでくださり有難うございます。
ハッキリ言って0では無いですがユーリート一人に100%過失があると言う訳ではありません。魔王の記憶は全てが正しいわけでもありません。
ただ魔王には怒りをぶつける対象が必要なのでした。
宜しければ評価いただけると嬉しいです(*´▽`*)
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