第一話で撃破されるミラーモンスターと契約した私は、戦わなくては生き残れない!! 作:雪エナガ
皆さんはディスパイダーというミラーモンスターを知っているだろうか。
そもそもミラーモンスターとは何か、というところから説明しなくてはならないと思うが、私も詳しくは分からない。
シンプルに言えば、仮面ライダー龍騎における怪人枠の敵であり、この作品における仮面ライダー達と契約する事で、力の源になる存在だ。
因みに私は第一話くらいしかマトモに見ていない。
というのも、父親がヒーロー同士が戦うのは、勘違いか黒幕による工作でなければ御法度という、ヒーローは絶対正義主義であったからだ。
龍騎以前に放映されていた仮面ライダーアギトまでは見ていた私だったが、ヒーロー同士が殺し合うという今ではありきたりなそれを赦せないヒーロー原理主義である父親によって、ほぼ最初以外は見ることが出来なかった。
その父親曰く、株や仮想通貨はギャンブルと一緒であり真っ当な報酬ではなく、現場で汗水流して物を作る事こそが尊く、金融業界に入った私に対しては虚業に就かせる為に育てた訳ではないと激怒して、事実上の絶縁状態にあったが、つい最近友人の連帯保証人になって、その友人に逃げられて借金取りに追われた結果、遺産は借金しか残さずに自殺してしまった。
私からすればそこまで無理でもない額だったが、父親には返済不可能な額だった。
私が母や弟妹達に相続放棄のやり方を教えなければ、家族をも追い詰めていたという、善人でありながら無自覚に悪を為す最期であったと彼の人生は総括出来る。
無関係な他人なら、ビジネスパートナーにはなりたくないし、部下にもしたくない。
まあ、それでも嫌いにはなれなかったが…。
私はある振興ネット証券の役員にまで登り詰めたのだが、最近は不審な連中に付けられる事が増えた。
私の会社とライバル関係にある企業のものかと思い探偵を雇った結果、父親の元友人と借金取りである事までは分かった。
後日裁判をする旨を伝える様に秘書に告げて安心していたのだが、それが…良くなかった。
ビルが変わって新しいオフィスに入った時、役員室の前にある巨大な鏡が倒れて来た。
ああ、死んだな。
私はそう理解した。
僅かに声が聴こえる。
「役員にまでなったのに、お前の親父が持つことになった借金を放棄するとはな!! おかげでお袋と姉貴は!!
……くそっ!!
お前を殺すこの日をどれだけ待ち望んだことか!!
あの時の借金取りと手を組んでまで、親父とこの日を準備して来た!!
しかも出所後には大金が待っている!!
ははははは、ざまぁみろ!!」
…なるほど。
逆恨みだった訳か。
彼の素性は分かった上で雇い引き上げてやったのだが、まあこういう事もあるのか。
どの道、今から死ぬ私には関係ない。
この日、とあるネットニュースが発刊された。
若き証券会社やり手役員、早朝の新オフィスで謎の失踪かっ!?/2002年OREジャーナル2月記事より
…助かった、のか?
周りには鏡の破片も無ければ、私を殺そうとした秘書もいない。
これは夢なのだろうか。
それとも、先程までが夢だったのだろうか。
…それもどうでも良い。
スマートフォンは、…………どうやら電波は入るがマップは使えないようだ。
近くに居た青年に聞いてみよう。
まずは、此処が何処かだ。
「すまない。ATASHI証券会社が入っているZIGAビルを知らないだろうか」
「ZIGAビルってこの辺りで一番大きなやつだろ?」
そのZIGAビルで間違いなかった。
何ならATASHI証券の更に背後にいるスポンサーがビルのオーナーだ。
…私の記憶が正しいのなら。
「そうなんだ。そこに用事があってね。どのあたりにあるだろうか」
「ZIGAビルはアッチだけど、──未だ工事中だよ。突然関係者が消えたんだ。それも、一人じゃない」
…なるほど?
もしかしたらその行方不明者を知っている可能性がある。
その行方不明の内一人が、
「…もしかして、何か知っているのか」
ふむ、感が鋭い。
極めて顔が良いだけでなく、直感も良いとは歌劇の主人公のようだ。
…主人公?
何か、思い出せそうで思い出せない。
確か彼を何処かで…。
「いや、知りたいと思っているだけで何も知らないよ。その行方不明者には是非会ってみたいとさえ思っているのだが」
鏡を見るかドッペルゲンガーにでも遭えばその願いは叶いそうではあるのだが、それは敢えて言う必要もない。
「実は俺、ジャーナリストでさ、少し話を聞きたいんだけど良いかな」
名刺を渡された。
…どうやら疑われてしまったようだ。
まあ、確かに怪しかった。
怪人とまでは言わなくても、怪しい人ではあった。
「私は
言外に、せめて自己紹介はしてくれと告げた。
怪しい人であっても、それなりの矜持はある。
「あっ、ごめん。俺は────────城戸真司」
思い出した。
私が僅かに覚えている記憶が正しければ、彼の又の名は、仮面ライダー龍騎。
彼が主人公だとすれば、このビジュアルにも納得がいく。
自分を主役として信じる事は自由だが、人々に主役として認識される為には美しさが条件となる。
人間の女性にさえ愛されない男性では、女神の愛は与えられない。
優れた遺伝子を持って生まれなければ、いきなりアウトという事だ。
幸いにして、私も美しい側として生まれることが出来た。
母は言っていた。
祖母も言っていた。
優しくなければ愛する事が出来ず、美しくなければ恋される事がないと。
生まれ持っての性質は、本人の努力ではどうにもならないことが多いからこそ、大切なのは先天的な部分であると。
先天的に良質でさえあれば努力した後の上限も高くなるし、そもそも努力し始めた段階での初動で他者に勝る成功体験を積める。
例えるのなら、弱い手札ではプレイングを上手くやらないと勝てないが、強い手札でプレイングも上手ければ、至れる頂上はより高くより確実になる────と。
ふと、世界が金属の様に響いた感覚がした。
私は、この感覚を知っているのかも知れない。
城戸真司は突如慌て始めた。
主人公は戦いに赴くのだろう。
ただの一般人である私は戦いに巻き込まれたくはない。
仮面ライダー龍騎は仮面ライダー同士の殺し合いという話なので尚更だ。
…ものの例えだが、私がバトルロイヤルを行う仮面ライダーの一人であれば、
主人公なのだから、多くの戦闘を行うだろう。
それに巻き込まれたくないのが一つ。
他の参加者が削り合う場に、わざわざ入るリスクを負う必要がない。
もう一つは主人公なのだから最後まで生き残るのは確実なのだから、そうなってから動けば良い。
まさか子供向けの番組の中で、主人公が途中で死ぬ様な事はないだろうから。
「あっ、ごめん。急用が出来た!!」
何処かで誰かに聞いた言葉を彼に贈ろう。
戦士達よ、合わせ鏡の様に永遠に続く戦いを恐れるな、と。
ふと、ポケットに手を入れると、ディファニーのヨーヨーが入っていた事に気が付いた。
ディファニーは世界的なジュエリーアクセサリーのメーカーだが、ヨーヨーまで手掛けていた事を知る者は少ない。
元々は今日会う予定だった知り合いの、といっても本当に知っているだけの相手に対するプレゼントだったのだが、こんな事になるのなら持って来た意味はあまり無かったのだろう。
取り出して眺める。
青色の容器に入った、鏡面磨きのシルバーが美しいヨーヨー。
この銀色とケースの青色はディファニーを象徴する色であり、私の好きな色だ。
……ヨーヨーに映り込む景色に、何かが映った気がした。
しかし、振り向くと其処には何も無かった。
再びヨーヨーを見ると、一瞬だけまた何かが写った。
あぁ、私も運がない。
光を反射しないものだけを周囲において生活する事は、百二十度以下の鋭角がない環境で生活のと同じくらいに難しい。
つまりは、詰んだという事だろう。
今、銀色のヨーヨーには
まるで手を伸ばすように飛来した糸は、私の手を引くように絡み付き、鏡の中に
蒼と銀のカラーリングの蜘蛛。
私の記憶の中の
蜘蛛のミラーモンスター『ディスパイダー』。
人型ではない怪物であり、私が知る数少ない『仮面ライダー龍騎』の登場キャラクターだ。
死ぬのかというより、死ぬのだと思った。
声が聴こえてくるまでは。
「願いを言え」
「どなたですか?」
鏡の中の世界で、仮面ライダーでもない私に話し掛けてくる声の主を確認するまでも無かったが、予想の通り相手はこのライダーバトルの場を提供する主催者であった。
…思い違いをしていたようだ。
私は、被害者ではなく参加者としてこの世界に存在していたらしい。
願いと言われても、誰かに委ねる程の願いはない、…………いや、そうだな…願いが定まったよ。
たった今ね。
「私が望む願いは、────『次に開くこのゲームの参加者を増やしてたい。』
…人は誰もが
だからこそ、
生命を賭けて挑むからには、本気かつ全力で挑むだろう。
ならばこそ、個人においては生き残れたらならばこの上ない経験に、生き残れなくても死力を尽くしたなら満足が出来る。
全体においては
主催者が出来る限り多くの人数を集めた戦いを、出来る限り同時並行的に、出来る限り早いサイクルで、出来る限り何度も行うのは、人類全体としては理想となる。
理想は全人類がこの戦いの参加者となり、全ての
生き残った勝者達が、「私の時のライダーバトルは〜」と想い出を語り合いながら友情を築く様も素敵だと思う。
本気になれない人が多い。
結果が出せない人が多い。
そういった人々にも、戦う機会を与えてあげなければならない。
本気を出せた人か、本気を出さなくても他者の全力を上回った人が謳歌する地上を創られるのなら、きっと世界は何もしないよりは美しくなるだろう。
生きる事が容易…正しくは己の欲望を満たせなくても生きるだけなら余りにも容易なこの現代社会において、人間はみんな
義務という名の権利で勉強が出来て、最低賃金と解雇規制という生きるだけなら余りにも十分な法整備が為されている。
本気でなくても生きていくだけなら簡単であり、そのような社会で本気であり続けられる人は残念ながら少ない。
生きる為に本気であり続けられる者は、本気で無ければ生きていけない程能力が低い人々か、本気を出せば幾らでも何かを変えられる事を楽しめる優れた人々しかいない。
だからこそ
私は基本的には善良であり、社会の良化の為に自分も他者も捧げる事を厭わない。
それが
だがこれらは何もかも主催者任せだ。
取り敢えず私がやれる事は、取り敢えずこの戦いに勝利する事だろう。
「やはりお前ならそう言ってくれると思っていた」
主催者が私の何を知っているのかは知らないが、少なくとも私の答えは彼の満足に適ったらしい。
「そうですか…。運営側の利益も確保出来るたら良いですね」
「──私の願いとお前の願いは相反しない」
…ならば、問題は特に無いだろう。
「コレを受け取れ。契約モンスターはあそこにいるディスパイダーⅡで良いだろう。
他のモンスターを、そしてライダーと戦え。
此れよりお前は────仮面ライダー
そうか、私が仮面ライダー。
ならば、言うべき言葉は一つしか無い。
「変身」
仮面ライダーアラクニド
身長 190cm
体重 70kg
パンチ力 200AP(10t)
キック力 200AP(10t)
ジャンプ力 一跳び45m
走力 100mを4秒
バイザー 網召鎌ディスバイザー