ズルンッ
そんな勢いで倒したはずの魔女の口から飛び出した黒いそれは、きっと魔女の本体だった
本来なら即座に対応すべき出来事だ。けれどその魔女を倒したと思い込んでいた彼女はすぐには動けない
そして魔女本体は見た目に反したその凶悪な口を大きく開いて彼女の頭へ近づきーー
「・・・・なんで」
「詰めが甘いね」
ーー喰らえないまま、吹き飛んだ
いや、実際には"吹き飛ばされた"。が正しいのだろう。彼女を食らおうとしていた魔女の横に突然現れた人物が魔女の本体を単純な力業で蹴り飛ばし、魔女の本体を沈めたのだから
結界の中でを転げまわった魔女により起こった激しい風と煙のなかで、吹き飛ばした本人は短めの溜め息を吐いてから、動けていなかった彼女を睨みつけつつ指差して
「・・借りは、返したから」
「・・え?」
小さな声でそう言った
目の前で言われた彼女がなんとか聞き取れた程度の本当に小さなもの
しかもとても珍しい、彼女の知る限りした事があるのはたった一度だけのとても不機嫌そうな顔で、だ
・・そんな顔をするなら、言わなければいいのに
起こった出来事に驚いていた彼女の頭はほとんどが働いてなんていなかったのに、そんな事だけは意味を持った言葉になっていた
「さて
・・後は君の仕事だ、予定通り任せたよ」
既に彼女を睨むのを止めているその人は上を向いて語りかけた
その声に答えるかの様にして黒髪の少女が結界の中にいくつも存在する細い長い棒に人一人がなんとか乗れる程度の丸い板が乗っただけのそれに、例えるならば瞬間移動でもしてきたかの様に突然現れる
ふわりと靡く長い黒髪を片手ではらい、ようやく動き出した魔女を見下して少女は呟く
「来なさいお菓子の魔女
・・・私はまどかを守るためなら、あの災厄すら利用してみせるわ」
そうして勝負は決着を迎える
有り得ない物だらけだった魔女の結界は崩壊し、周りの風景が現実的な物へと変わっていく
そして事実現実のその場所、見滝原病院前
そこで、五人の少女達は改めて対面したのだった
全員が緊張から抜け出した事で力を抜いた数秒の沈黙の直後、力を抜きすぎた一人が口を開いた
「くぁ・・・・あーあ、疲れた」
欠伸と伸びは少し場違いなもので、残りの四人はついその人物に目を向ける
その人物は視線を気にすることなく欠伸で出た涙を拭って
早々に立ち去ろうとするが、当然の様に引き止められた
「待ちなさい」
「何?暁美さん。まだ私に何か?」
「さっきの話よ
貴女、本当は何がしたかったの?」
黒髪の少女、暁美 ほむらは顔をしかめてそう聞く
立ち去ろうとしていた彼女、柚木 輪はその質問に目を丸くさせた少し後くすくすと笑いだした
「・・・私を馬鹿にしているの?」
「え?あぁ違う違う
むしろ馬鹿にしているのは自分だよ。いやぁ、まさかここまで信用されてないなんて」
十秒程笑ったところで一旦落ち着いたらしく、言葉を続ける
「一応さっきの言葉・・というか、君に協力した理由について嘘はないよ
まぁ信じられないと思うけど」
「当然よ」
ほむらの返答はとても早かった
それもまた面白いらしく、また輪はくすくすと笑いだす
そしてそれが気に入らないほむらは顔をますますしかめる
どうしても、ほむらには輪の真意が分からなかった
今まで見てきた輪のせいか、元々相容れる事が出来ない相手なのか、もしくはどちらも正解なのかもしれない
どれにせよほむらにとって柚木 輪という人物は鬼門な事であり、信用出来ない相手なのであった
「あー笑った笑った
じゃあ私そろそろ帰らせてもらうから」
「っ、まだ話は・・・!」
今度の呼び掛けはもう聞く気がないらしい
制服のスカート翻し彼女達から離れようとその足を動かし始める
止まる気の無さそうな歩みは数メートル進んだ所で一度だけ止まり、顔だけ後ろに向けた
その視線を受けたのは金髪の少女、巴 マミだ
「あ、」
視線を受けた本人は何か言おうとするがその前に輪は再び歩きだした。自分で視線を向けておいて会話をするつもりはないらしい
今度こそ、その足を止めることなく柚木 輪はその場から去っていった
去っていった背中が見えなくなってから、マミは口を開く
「・・・まさか、貴女達に助けられるなんてね」
「助けたのは彼女よ」
「えぇ。けど暁美さんが居なかったら多分間に合ってなかったわ
だから、これは貴女の物よ」
そう言って投げたのは魔女の卵、グリーフシード
反射的にそれを受け取ったほむらは少し驚いた顔をした
「どうして・・」
「柚木さんの魔法じゃ突然現れるなんて事出来ないもの、貴女しか居ないじゃない」
どういう魔法かは知らないけど便利ね、とマミは微笑んだ
そこでほむらは今日一番驚いたかもしれない
自分の命が助かったからといって魔法少女の誰もが欲しがるグリーフシードを渡すのも驚くが、これは巴さんだからと考えると納得出来てしまう自分が居る
だからそこはいい。問題はそこではなくて
「貴女、柚木 輪の魔法を知っているの?」
「え?えぇ、そうだけど」
そう、そこだ
゙巴 マミが柚木 輪の魔法を知っている゙
その事実が問題だった
ほむらが知る限り、今までのループの中で゙そんな事実はなかっだ
何度かマミと輪が戦闘になる事があったが、そのときマミは輪の魔法を知らなかった。もしくは戦って初めて知る事になっていた
勿論二人が戦う事になるはいつもお菓子の魔女より後の事だった
ーつまり、私が気付かないうちに今まで起きた事がない出来事が起きた・・・?
ほむらはそう結論を出した
それは間違っていない
ほむらの気付いていないうちに゙それ゙は起こる可能性があり、今回゙それ゙は起きていた
そしでそれ゙が起きたからこそ、柚木 輪はお菓子の魔女戦に参戦し、巴 マミを生かす結果となった
「マミさん、渡してよかったの?」
「私の不注意せいだもの
あのままじゃ私、魔女殺されてたわ」
「殺され・・!?」
「今回は運がよかったけれどね
・・二人共、今日の事をふまえてよく考えて決めなさい」
そんな会話でほむらは意識をマミ達に戻した
「だから魔法少女にはなるな、と言ったの。よく分かったでしょう
だからそんな事止めて普通の生活に戻りなさい」
「うるさい!あんたに言われる筋合いは・・!」
「さ、さやかちゃん落ち着いて!」
「っまどか・・」
さやかと呼ばれた青髪の少女は隣に居た桃髪の少女、まどかに止められて何とか気を落ち着かせた
それを見ていて、ほむらもそろそろ引き際と考えて輪が去っていった方向に足を向ける
「今日の事を忘れないようにしなさい
魔法少女はいつ死んでもおかしくないということを」
「・・ほむらちゃん」
「・・だから、何も願わないでまどか。今を幸せに生きて」
そう言い残してほむらは早足でその場から去っていった
切り時は分からなくなったのでこの辺でザシュッ