✦亡国のフィエリア ─Another_WORLD TRIGGER─(統合中)   作:CABIN.

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「──そこまでだ」

騒然とするユリウス広場。
尚も続く民衆のざわめきを、威厳を宿した声が遮った。

「……わっ……」
「お、とっと」

周囲の空気が一瞬で凍りついたような、規格外の重圧。
靜寂が、その場を支配する。





《第9話》残響する軍靴

 

「──そこまでだ」

 

騒然とするユリウス広場。

尚も続く民衆のざわめきを、威厳を宿した声が遮った。

 

「……わっ……」

「お、とっと」

 

周囲の空気が一瞬で凍りついた様な、規格外の重圧。

靜寂が、その場を支配する。

 

民衆が散り散りに明け渡した道のその先。

軍靴の乾いた響きだけが、渦中に向かって闊歩する。

 

「……ひっ──」

「……これはこれは……」

 

その顔を一目見た瞬間、バストーラとマリナスもまた沈黙に加担する。

重厚な鋼の騎士装束を纏った男が、宮廷騎士の象徴たる紋章を翻し──今、広場の中央に立った。

 

「──エルゼン!」

「団長っ!」

 

アルマとイリーナが、同時に叫んだ。

アイルが、ふたりを交互に眺めて狼狽する。

 

「……そうか、フォニーが呼んでくれたんだな」

 

"騎士団長"エルゼン=ハワードは、アルマの呟きには応えず──一瞥し、大きな溜息を溢した。

 

「……親譲りながら──些か向こう見ずが過ぎるのではないですか、王子」

 

淡々とそう述べたエルゼンが、アルマを見据える。

 

「王家の軽々な独断ひとつが、どれ程の影響を及ぼすことか」

「…………分かってる。覚悟の上だった」

「いいえ、全く分かっておりませんな。──覚悟を語って良いのは、結果としてその責任を取り得た者のみ」

 

余りにも重く、鋭い言葉。

 

「"勇敢"と"浅慮"を、"覚悟"と"自棄"を履き違えなさるな」

 

……皮肉のひとつも出ない。

アルマは、表情を歪めて目を伏せた。

 

「し、しかし、団長。王子殿下は、結果として王女殿下を救い出し──」

「貴様もだ、イリーナ。……バストーラは泳がせておけと命令した筈だ」

「……申し訳ありません」

 

イリーナが唇を噛む。

……緊急の事情だったとは言え──アルマを追い、裏路地に巣食う密売人の情報を与えたのは、他ならぬイリーナだった。

 

「……さて──」

 

振り返ったエルゼンは、広場を取り巻く民衆をひと睨みし、静かに声を響かせた。

 

「王子殿下の独断により混乱を招いた事、深くお詫び申し上げる。……が──本件の首謀者は、以前より騎士団が掌握している」

 

バストーラがびくりと全身を震わせる。

 

「"密売人"バストーラ=アラディンが王女殿下を誘拐。独断専行ながら王子殿下と騎士がこれを制圧、民への被害はなし──これが本件の全容だ」

「……わ、わしは民ではないとっ!? 善良な市民のひとり──」

 

──殺意に程近い威圧。

エルゼンに睨まれたバストーラは、言葉どころか呼吸さえ忘れて押し黙った。

 

「未登録トリガーほか違法武器類の流通、鷹の翼との関与、王女の誘拐教唆及び実働……罪状は数え切らん。──善良な市民だと?」

 

周囲の視線が徐々にバストーラへと重なる。

 

「……今後本件は、騎士団と宮廷五官の連携により正式に調査・報告される。──それまでは不確かな情報で騒ぎ立てず、各人良識を以て行動されたい」

 

エルゼンがそう言い放つと、民衆の一人がばつの悪そうな表情を浮かべてその場を去る。

民衆がぽつりぽつりとそれに追従し、やがて。

 

その場には、騒ぎの張本人達とエルゼン──そして、遅れて辿り着いた迎えの騎士達のみが残された。

 

「……変わりませんな、騎士団長殿」

 

エルゼンは、マリナスの呼び掛けに数瞬目を合わせ──やがて、静かに背を向けた。

 

「……今の貴様に、そう呼ばれる筋合いはない」

「団長殿」

「──連れて行け」

「はっ!」

 

従属の騎士は、機敏な敬礼のみを残し、バストーラとマリナスを縛った縄を握る。

馬車へと向かう騎士団長の背中に、アルマ達も力なく続いた。

 

 

──────────

 

 

──馬車の揺れは、敗戦後の身体にひどく響く。

監獄へと送られる最中のマリナスは、そんなことを思った。

 

「……マリナス、貴様っ……許さんぞ……木っ端の分際でっ!!」

 

馬車が揺れる度、荷台の床に背を打ちつけられながら、バストーラが怨嗟の目を向ける。

縄で縛られ、尚も這い寄らんとするその様に、マリナスは一瞥すらくれず──。

 

ただ、静かに幌の隙間を眺めていた。

 

 "──翼を失い、王家が、騎士団が地に堕ちようと

  ……ピュロンの炎は、俺が絶やさん……!"

 

ふと、統率者の言葉が胸中で木霊する。

隙間から覗く空は、どこまでも澄んでいた。

 

"──今でも騎士なんだよ、お前の振る舞い"

 

……晴れて、重罪人。

しかし、マリナスの胸中は不思議なほど愉快だ。

 

……まだ、王家は、騎士団は──炎を失ってはいないようですよ、ハイルディン殿。

 

「はっはっ、木っ端で結構! ……しかし、騎士への不条理な誹謗は我慢ならんのですよ」

 

 "今のお前に、そう呼ばれる筋合いはない"

……それで構いません、騎士団長殿。

 

淡々とした声色、しかし真っ直ぐな瞳で──。

 

「──"元"、騎士として」

 

 

──マリナスは、遠く聳え立つ王宮を見据えた。

 

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