✦亡国のフィエリア ─Another_WORLD TRIGGER─(統合中)   作:CABIN.

12 / 37


アルマは、"歴史を作る側の者達"の前に立つ。
政務殿の空気は、王宮の何処とも違った。




《第11話》禊

 

「──本議は、アルマ=フィエリアの独断専行、並びに暴動騒ぎに係る是非について信を問うものだ」

 

"国王"クラウスが、アルマをじっと見据えて言う。

……その瞳は、父ではなく王のそれだった。

 

「では──まずは経過と処置の報告を、騎士団長殿」

 

"尚書"カンデラが、掌で促す。

"騎士団長"エルゼンは、小さく頷いて立ち上がった。

 

「王子殿下──アルマ=フィエリアは、妹君である王女殿下の無断離宮の報せを受け、正規の命令系統を経る事なく、自ら追跡を開始」

 

「巡回任務中のイリーナ=ベルベットと合流し、反体制派・"鷹の翼"への武器提供を行っていた"密売人"バストーラ=アラディンの本拠地を襲撃、彼の者による王女誘拐未遂を阻止、保護に成功」

 

──エルゼンが、ひとつ咳払いする。

 

「……連行の最中、密売人の謀略により民衆扇動の惹起に至り、王家及び騎士団への信頼を著しく毀損。──騎士団長、エルゼン=ハワードによりこれを鎮圧」

 

報告を終え、エルゼンが席につく。

 

「相違ないな」

「──はい」

 

クラウスに問われたアルマが、視線を重ねたまま頷いた。

 

「──騎士が、ましてや王家の者が独断で武力を振るったと言う事実。……軽く扱えば、法はその意味を失う」

 

事実確認を受け、"司法卿"ロワールが口火を切る。

──噛みつくのは、やはり"典礼卿"イシアだった。

 

「王女殿下の身を案じたが故の行いでしょう? その法を先に踏み越えたのは"密売人"なのでは?」

「そのような理屈、無辜の民が知るところではないわ。──いずれにせよ何らかの処分を下さねば、王政の不審が加速しかねん!」

 

"歳出卿"ブランが、語気を強めてイシアを否定する。 "使節卿"ニアは、やれやれと大袈裟に肩を竦めた。

 

「処分を下したとて信頼に繋がりますかね、ブランさん。──いっそ、英雄譚に仕立てると言うのも面白い」 「違反行為を美談で飾るなど言語道断だ、使節卿」 「面白みで政を弄ぶな、うつけ者が!」

 

瞬く間に割れる意見、飛び交う怒号。

脳内でそれぞれの意見を纏め終えたカンデラが、それらを諌めるように手を叩いた。

 

「……いずれの処遇にせよ、民心の乖離に伴い、治安と統治に影響を及ぼすことは明らか。──陛下、裁定は如何か?」

 

カンデラの確認に目を細め、クラウスがじっとアルマを見つめる。

クラウスは、黙して語らぬアルマのその瞳に──あらゆる処遇を受け入れる、決意の光を見た。

 

「──アルマ=フィエリア」

「はい」

「本件をもって、何を知り、何を思う」

 

……問うた先は息子か、いずれ王家を継ぐ者か。

境界は曖昧なまま、クラウスがアルマを見つめる。

 

アルマもまた、真っ直ぐな目を王に返した。

 

「──立場には、責任が伴うこと。浅慮の償いを果たすには、力が足りないこと。……禊を願います」

 

一切の弁明も、皮肉もなく。

アルマは、本心をありのまま応える。

自省、矜持、悔恨、そして覚悟──。

それら全てを内包する言葉。

 

押し黙る宮廷五官は、その振る舞いに王家を見た。

クラウスもまた、感慨深く頷くと──騎士団長へと視線を送る。

 

「エルゼン。──どう見る」

 

問われたエルゼンが、アルマを一瞥する。

数秒の逡巡を経て、エルゼンは口を開いた。

 

「当人の意思に依らず、騎士団長として不問とは致しかねる。……が──」

 

エルゼンが、小さく息を吸った。

 

「……私にも、密売人の存在を知りながら泳がせた落ち度がある。──王子が即座に対応しなければ、王女殿下の身に更なる危機が生じ得たことは高配賜りたい」

「……分かった」

 

クラウスが重い腰を上げて立ち上がり、つかつかとアルマに歩み寄る。

 

「ピュロン王子──アルマ=フィエリアに、十日間の騎士資格凍結とトリガー没収を言い渡す。……果たすべき"禊"は、己で課せ」

 

瞼を閉じ、深々と頭を下げるアルマの隣を、クラウスが通り過ぎた。

 

「──宮廷五官並びに騎士団長は、それぞれの所掌でもって治安の再構築に努めよ」

「「はっ!」」

 

遠ざかるクラウスの背中に、それぞれが一礼する。

 

「──その他の"些事"は、全てお前に任せる」

『……心得た』

 

──最後に、静かに浮かんでいた"教官殿"が答えて。

迷いなく扉を開くと、クラウスはその場を後にした。

 

「……ほら、カンデラ殿」

 

ニアに促され、カンデラが慌てて取り繕う。

 

「む……で、では。──これにて、王政評議を閉議とする!」

 

 

──────────

 

 

「しかし──リゾーマの件も解決せぬ内に、王都までもがこの有様とは。由々しき事態ですな」

 

──アルマとフォニーが去った後。

カンデラが、深いため息を零した。

 

「……治安再建を語る上で、貴殿らにはもうひとつ──極めて"由々しい"問題を伝えておく必要がある」

「仕事増やすのやめてくださいよ、エルゼンさん。胸に仕舞っておいて下さい──おっと」

 

じろりと睨まれ、両手を上げたニアが降参の意を示しておどける。

 

「……貴様のことだ。密売人をあえて泳がせていた理由に係るのだろう、騎士団長」

 

ロワールの問いに頷いたエルゼンが、天井を見上げて腕を組む。

 

「密売人の取引先──"鷹の翼"に、大戦時代の騎士が複数名流れ込んでいる。……今回の騒動で王子殿下が捕らえた用心棒は、マリナス=アークレイだった」

「「──!?」」

 

宮廷互官の面々が、一斉に曇る。

 

「……マリナスが反体制組織に? 嘘でしょう」

「何らかの陰謀としか考えられん。……彼奴が王政に背くなど──」

 

どよめきが広がる中、エルゼンがそれぞれに視線を戻す。

 

「……概ね想像はついている、詳細も尋問で明らかにする。が──治安再建にあたり、各々十分警戒されたい」

 

 

……重い、沈黙が続いた。

 

 

──────────

✦"鷹の翼"本拠地──

 

 

「──マリナスがやられただと?」

「"西の業者"に巻き込まれて監獄行きだそうで」

 

報告を受けた"統率者"ハイルディンが、眉間に皺を寄せる。 

 

最高戦力とまではいかずとも、平和に溺れた似非騎士共では到底マリナスに敵うまい。

 

……エルゼンが直々に追ったか、それとも──。

いずれにせよ、王女に手を出す様な真似をするからだ、馬鹿が。

古物商の下卑た笑みが過ぎり、ハイルディンは拳を握り締めた。

 

「……肥え太った豚畜生が。この借りは高くつくぞ」

「──取り返しゃあいいんすよ」

 

興味も無さげに欠伸をした黒髪の少年──カッツェ=シュヴァルツが、ぽんと膝を打ってハイルディンに言う。

 

「ついでですし、おれが行ってきましょうか?」

「何のついでなんだ。座ってろカッツェ」

 

正面に座った赤髪の少年──レオン=ベルガーは、呆れた表情でカッツェの軽率な提案を諌めた。

 

「……貴様ら、くれぐれも余計な真似をするなよ。そもそも──マリナスを破る程の相手、貴様らでは5秒と持たん」

「分っかんねーじゃん」

「そこは分かれよ。喧嘩じゃあるまいし、騎士に勝てる訳──今、貴様"ら"って言いました?」

 

ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる二人の少年に、ハイルディンが溜息をつく。

 

……マリナスを失い、こんな餓鬼共に頼り──行き着く先は、愚かな反逆者風情か。

ハイルディンは、眉間の疼きを指先で抑えながら俯く。

 

──だが、それでも進まねば。

……やがて訪れる、終末の日までに。

 





【登場人物】
✧カッツェ=シュヴァルツ(14)
 "鷹の翼"に協力する黒髪の少年。
 浅学で楽天家気質。

✧レオン=ベルガー(15)
 カッツェの相棒にあたる赤髪の少年。
 現実主義で慎重派。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。