✦亡国のフィエリア ─Another_WORLD TRIGGER─(統合中)   作:CABIN.

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風の冷たさは、想像よりも骨身に染みる。

王政評議を終えた夜、王宮の屋上。
アルマは、ひとり星を見上げていた。



《第12話》星降る夜に

 

 

 "夜になると、ふたりは丘の上に座り、

 星空を見上げて、小さな声で願います"

 

 

今朝方の"読み聞かせ"が、ふと頭を過ぎる。

 

煌めく満天の星々、そのどれもが──人を、国家を、運命を乗せて暗闇を巡る世界。

……この双星の光もまた、彼らに届くのだろうか。

アルマは、そんな事を思った。

 

『眠れないらしいな』

 

聞き慣れた声に、アルマが振り返る。

声の主──フォニーは、定位置を主張するようにアルマの隣で浮かんだ。

 

「……アイルの付き添いを任せた筈だ」

『クラウスからは"全て"私に任せると仰せつかっている』

 

王政評議での王からの一言を引用し、フォニーはアルマからの指示を容易く上書きしてみせる。

苦笑したアルマは、しかしその"フォニーらしさ"に安堵を覚えた。

 

『そもそも、それは私が担うところではない。──アイルには、専属の侍女がいるのだから』

「……まぁ、それはそうだ」

 

 

……しっかりと、仲直り出来ただろうか。

アイルも、ソフィも──。

 

──脳裏を過ぎったのは、涙を流す二人。

アルマの胸が、また少しざわついた。

 

 

「……つくづく、勉強になったよ」

 

 

壁に背を預けて、アルマは本心から呟く。

痛みの"経験"が、実感を伴った教訓をアルマに刻んだ。

 

マリナスが、エルゼンが、宮廷五官が──父が。

彼らがそれぞれに積み上げた、経験の連鎖を"歴史"と呼ぶのなら。

アルマは、紡いだ賢者よりも、積んだ愚者をこそ愛するが──。

 

 "世界は、お前が愚者のままでいることを許さない"

他ならぬフォニーの言葉を、アルマは正しく理解した。

 

 

 "偉そうな奴らだとは思ってたけど。ついに暴力に頼りだしたか"

 "……王家はいいよな。子供なら、王家なら何をしても許されるのか?"

 

 

「王家は──歴史を紡ぐ、賢者でなければならない」

 

 

 "王家の軽々な独断ひとつが、どれ程の影響を及ぼすことか"

 "どれだけ、心配したと思っているんですかっ!!"

 

 

「自ら痛みに晒される、愚者であってもならない」

 

 

"経験"を身に刻んだ故の教訓。

フォニーは、岐路に立つ王子を見つめた。

 

『王家としてはそうだ。だが──』

 

今度は、アルマがフォニーを見つめる。

 

『立場や手段はともかく。他者の為に不利益を厭わず飛び出した精神性は──極めて英雄的な、お前の長所だ』

「……英雄……か。程遠いな」

 

素直に受け止めきらず、アルマは枯れた笑いを浮かべて俯く。

 

ふと、フォニーが言い淀んだ。

……確かな英雄的資質、だからこそ──。

 

 

『──アルマ。母トリガーの講義を覚えているか』

「……? 今朝の話だ、流石に忘れない」

『"読み聞かせ"は、フィエリア王家にとって歴史の序文だとも伝えたな』

「……ああ」

 

要領を得ないフォニーの確認に、アルマが困惑を浮かべる。

伝えるべきか否か、逡巡したフォニーは、意を決した。

 

『──言葉通りの意味だ』

「……何がだ? さっきから何を──」

『全てがだ。……童話、マリルとダリルは──』

 

 

──────────

 

 

 "黒い影が、もう空のすみに 近づいています。

 とめられるのは、マリルとダリルだけ。

 

 「だいじょうぶ」

 

 マリルとダリルは 手を取り合い、

 うなずき合って、それに飛びこみます。

 

 マリルとダリルは 光につつまれて

 黒い影を払いのけました──"

 

 

──────────

 

 

『百五十年前、この双星の為に命を投げ出した──マリル=フィエリアと、ダリル=フィエリアの生涯だ』

 

 

 "軌道を共有する双星など、他に前例がない"

 "人体が生み出すエネルギー、トリオン"

 "そして、それを現象に変換するトリガー”

 

 

記憶の濁流に飲まれ、足元が崩れる感覚。

 

 

 "これが、この大地、この星そのものを形成している──母トリガーだ"

 "……暖炉の炎と、理屈は同じ筈だ"

 

 

「……双子の英雄は……マリルとダリルが」

 

 

 幼い頃の、亡き母の声が──アルマの思考を焼き切った。

 

 

 "マリルとダリルは、大好きな星に生まれ変わり、いつまでもみんなを見守るのでした"

 

 

「──ピュロンと、リゾーマなのか」

『そうだ。故に彼らは英雄として名を遺し、フィエリア家はその日から王家となった』

 

 

浅くなった呼吸の音だけが、世界を覆っている。

フォニーは、何も言わず空を見上げた。

 

『……夜の暗闇に降る、星々全てが──そうやって、歴史を紡いでいる』

 

力なく手摺に腰掛けたアルマも、フォニーの目線の先を追う。

星々は、相も変わらず儚げな煌めきだけを返した。

 

 

……その歴史の終着点が僕ならば──。

 

 

「……僕は、どうすればいい」

 

返ってくる答えは明らかで──それでも。

瞼を閉じたアルマは、その答えをフォニーに委ねた。

 

『それを決めるのが、王家の務めだ』

「……そう、言うと思ったよ」

 

今朝と、同じ答え。

アルマが、運命を受け入れるように大きく息を吸う。

 

「……もしもこの星が危機に陥った時は──僕も、同じようにするべきか? そうあらねばならないのか?」

『……お前は、双星と獅子王を共に継ぐ、この星で最も純粋な英雄の系譜だが──』

 

フォニーは、逡巡を経て、静かに身体を揺した。

 

『"英雄の最低条件は生還"だ。──私が決めることではないが、命を投げ出すような真似はするな』

「……それは、僕がフィエリア王家だからか?」

『違う』

 

自嘲気味なアルマの問いを、フォニーが否定する。

 

『──お前が、アルマだからだ』

 

アルマが、大きく目を見開き、やがて柔らかく笑った。

……その言葉は──。

 

「……はは。──相変わらず、手厳しい」

 

……呪縛さえ、言い訳にはさせないと言うこと。

まだ夜の帳が降りた王都を見下ろし──アルマは、その瞳に炎を灯した。





【登場人物】
✧マリル=フィエリア
 伽話の住人改め、最初の王家。
 命と引き換えにピュロンを生み出した。
 
✧ダリル=フィエリア
 マリルの双子の弟。
 マリルと手を取り合い、リゾーマとなった。
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