✦亡国のフィエリア ─Another_WORLD TRIGGER─(統合中)   作:CABIN.

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──明らかな、天賦の差。

覇気のない目で訓練を眺めていたイリーナは、ふと、レイヴとジョナサンに刮目する。

……まるで見習い当時の自身とシーザーを見るような。
追憶に吸い込まれるように、イリーナは二人の対決を見守っていた。




《第14話》翼持たざる者

 

 

「──なぁ、うだうだ粘るなよ」

 

ジョナサンの声に、反応する余裕もない。

嵐の様に四方八方から降り注ぐ剣撃を、レイヴは小盾と剣を守備に振り切ることで必死に捌いていた。

 

「……ぐっ……!!」

 

──守ってばかりじゃ駄目だ、どうせ崩されるっ……!!

……攻撃の為の防御、防御の為の攻撃を──!

 

「──せやぁあっ!!」

 

ほんの一瞬生まれた剣撃の空白。

レイヴが破れかぶれで袈裟斬りを放つ。

 

……が──。

振り抜いたその軌道に、ジョナサンは既にいなかった。

 

「え。──っ!?」

 

小盾で死角を守ろうとした刹那。

突如こめかみに走った衝撃で、視界が反転する。

派手に吹き飛んだレイヴは、隣で斬り結んでいた別の組の間に勢い良く転がった。

  

「はい、七本目」

 

パシパシと掌を訓練剣で叩いて、ジョナサンが言う。

……直前まで、確かに攻撃動作に入っていたのに。

 

「あと三本だ。早く終わらせようぜ」

 

気の抜けた声。

仰向けのまま、レイヴは荒い息を抑えて瞼を閉じた。

 

相手の予備動作を見逃さない視野の広さ。

即座に回避へと切り替える反応速度。

剣の軌道に姿を隠して死角に回る判断力。

振り上げた小盾の隙間を縫う精密性。

 

──何一つ、レイヴにはないもの。

……どうすれば良い、どうすれば──。

 

 

「──いつまで寝ているつもりだ?」

 

 

困惑する思考に、声が割り込んだ。

レイヴが瞼を開いたその先に、腕を組んだイリーナが立っていた。

 

冷や汗を吹き出したレイヴが跳ね起きる。

 

「し、失礼しましたっ!!」

 

わたわたと訓練剣を構えるレイヴに、イリーナは僅かに目を細め──。

レイヴの左腕に括られた小盾をコツンと叩いた。

 

「"遊撃手(フェリオン)"の領域で競ってどうする」

「──!」

 

一言だけ残して、イリーナが去ってゆく。

レイヴは、眠そうに待ち惚けるジョナサンを視界に収めながら──その言葉を、懸命に咀嚼していた。

 

 

──────────

✦四年前──

 

 

「──大戦以降に整備された騎士教範では、大まかに三つの流派が残されたんだ」

 

その日。

先任騎士を担当していた男──マクセル=イェーガーは、教壇で三本指を立てた。

 

「一つ目が、"守衛手(ガーディン)"。騎士剣と騎士盾を扱う、攻守に隙なしの基本形。──騎士と聞けば誰もが思い浮かべる、最も主流の型だ」

 

最前列で受講するレイヴが、うんうんと頷いた。

彼が目標とする団長の型が叩き台になっていることもあり、レイヴにとっては最も馴染みが深い。

 

「二つ目が、"重装手(レギオン)"。鎧と盾にトリオンを集中し、陣形に重きを置く防衛の要。──ちなみに僕がこれだ」

 

大盾でドンと床を鳴らして、マクセルが誇らしげに笑う。

別の座学でも、大戦でこの星が生き延びられたのは彼らの活躍が大きかったと聞いている。

 

「三つ目が、"遊撃手(フェリオン)"。盾を捨てて火力に特化した機動戦のスペシャリスト。──特殊な例だが、王子殿下もここに分類された」

 

レイヴが、ほんの一年足らずで見習いを駆け抜けていったアルマの背を浮かべる。

……本人の努力を否定する訳ではないが──あまりに残酷な天性の壁を、初めて感じた人だった。

 

「今の君たちは、いわば選定期間。騎士試験を突破すれば、その素養と希望を鑑みていずれかに分類され──専用の戦闘用トリガーが支給される」

 

マクセルが、見習い達を順に見つめて言う。

 

「──各々強みを磨いて、君たちがピュロンの剣に、盾になってくれる日を心待ちにしているよ」

 

 

──────────

✦ピュロン王宮 修練場──

 

 

……そうだ。

レイヴは、訓練剣を握り直して自省する。

 

うだつの上がらない焦燥に飲まれる内、綺羅びやかな才能に打ちのめされる内──方向を見失い、型が乱れていた。

 

翼持たぬ者が、苦悩と努力で編んでゆく型。

──それは、決して不毛ではない。

 

「……お待たせ、ジョニー」

 

立ったまま半ば寝ているジョナサンに、盾を構えたレイヴが告げる。

 

「んぁ」

 

気持ちだけでは届かない世界。

積んできた煉瓦の数だけが、翼へと向かう道。

……あと3本で──君に、一矢報いる!

 

「──見せるよ、"素振りの成果"っ!」

「そうか。まぁ、頑張れ」

 

レイヴの力強い言葉に、欠伸を噛み殺したジョナサンが応えた。

 

 

──────────

 

 

──既にほとんどの見習い達が十本を終え、徐々に雑談を始めた頃。

 

「……粘るなぁ」

「頑張れよー」

 

座り込んだ見習い達の何人かが、その姿に声援を送る。

普段ならイリーナからの喝が飛ぶところだが──イリーナもまた、その奮闘を静かに見守っていた。

 

「今何本?」

「ラストかな。──九対零で」

「……まぁ、ジョニー相手じゃなぁ」

 

圧倒的な力量差を、誰もが知っている。

それでも──目覚めた雛鳥は、懸命に空を目指していた。

 

 

「……いい加減──鬱陶しいんだよレイヴッ!!」

 

 

額の汗を結晶のように煌めかせ、ジョナサンが珍しく叫ぶ。

 

変わらぬ圧倒的な優勢、止まらぬ剣撃の嵐。

歯を食い縛り、致命傷をかろうじて避けながら、レイヴは耐え凌いでいた。

 

……ジョニーみたいに華麗じゃなくていい、守備だって"守衛手"の剣──!!

 

「……このっ……!!」

「──せやぁあっ!!」

 

荒くなった連撃、呼吸の隙間を縫うレイヴの横薙ぎが、ジョナサンの頬を掠める。

 

「……ちっ……!!」

 

かろうじて躱したジョナサンと、振り抜いたレイヴ。

双方の姿勢が崩れた。

 

……ここだっ──!!

 

 "決めとくんだよ。考えなくても動けるように"

 

在りし日の、アルマの言葉が過ぎった。

流麗なアルマの槍を、才能の差と諦めたレイヴへの助言。

 

 "状況が整えば必ず決まる、自分なりの──必殺"

 

「……らあぁああっ!!」

「──っ!?」

 

振り抜いた勢いに自重を加え、レイヴがそのまま一回転する。

 

追撃の横薙ぎが来る、崩れた姿勢では躱し切らない。

咄嗟にそう判断したジョナサンが、軌道に剣を置く。

 

──硬質な剣戟に、火花が散る。

 

遠心力を伴った重みの差で、弾かれたのはジョナサンの剣だった。

 

……お前も崩れてるだろうがっ──!

 

追撃はないと判断したジョナサンが、かろうじて離さなかった訓練剣でそのまま反撃を狙った時──。

 

──ゴッ、と鈍い音がした。

 

流線になった景色、弾け飛んだ空中で、ジョナサンはレイヴを見た。

 

ジョナサンの顔を叩いたのは──剣の軌道をそのまま追従した、左手の小盾。

……ニ連の横薙ぎで相手を崩し、三連撃目の盾殴打(シールドバッシュ)──!!

 

……それは、"守衛手の頂点"エルゼンを目指し、"憧れの遊撃手"アルマの思想を取り入れた──レイヴだけの、必殺の型。

 

 

「──見様見真似、"紫電一閃"……っ!! 」

 

 

よろめいて膝をついたレイヴが、にっと笑う。

空中で華麗に反転して着地したジョナサンが、呆気に取られた表情でぽかんと口を開けた。

 

「……いや、剣で当てないと一本にならんだろ」

「え」

 

──結局。

あえなくジョナサンに十本目を取られたレイヴは、十対零の大敗を喫した。

 

……敗者にこそ送られる拍手。

レイヴが積んできた努力の発芽を、惜しみない称賛の音が包む。

腕を組んで見守っていたイリーナもまた、小さく笑った。

 

……ああ。

私にも、こんな時期があったな。

 

 "騎士としての在り方を、今一度見直されよ"

イリーナが、エルゼンの言葉を胸中で反芻する。

その答えを、レイヴの姿に重ねて。

 

 





【登場人物】
✧マクセル=イェーガー(45)
 重装手の中で最も著名な騎士。
 誰に対しても礼節を忘れない人格者。


【用語解説】
✧騎士教範
 騎士としての様々な基礎事項を定めたもの。
 見習い達はこれを基準に騎士の在り方を学ぶ。

✧守衛手(ガーディン)
 騎士三流派のひとつ。
 騎士剣と騎士盾を扱う攻守兼備の型。

✧重装手(レギオン)
 騎士三流派のひとつ。
 防衛と生存に重きを置く守備特化の型。

✧遊撃手(フェリオン)
 騎士三流派のひとつ。
 盾を捨てて機動に命を預ける攻撃特化の型。

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