✦亡国のフィエリア ─Another_WORLD TRIGGER─(統合中)   作:CABIN.

20 / 37


「──昔──貴様──気に入らな──。仮に団長──だとしても──」

……何言ってんだか、分かんねぇよ。
シーザーは、周囲の雑音と断続的な耳鳴りに襲われながら──敵意を剥き出しにするセイルの姿を眺めていた。





《第19話》副作用

 

 

瞼を閉じる。

より一層、耳鳴りは強くなる。

 

……長く、起きすぎた。

 

うたた寝程度じゃ回復しない、極度の疲労感。

何を言ってもこいつはどうせ納得しない。

 

……早く、終わらせて帰ろう──。

 

「──に認めら──、結局は貴様──」

「──もう、御託は良いよ。……換装しろ、セイル」

「──!? ────」

 

イリーナが何か伝えようとしている。

シーザーは、かろうじてそれだけを理解して──。

 

「……トリガー、起動(キネソン)」

 

──静かに、戦闘体を纏った。

 

 

──────────

✦6年前──

 

「──"副作用(サイドエフェクト)"?」

 

見習い時代。

時の先任騎士──アルバート=フォルマッジオから個別呼び出しを受けたシーザーは、聞き覚えのないその単語を復唱した。

 

「ああ。──優れたトリオン能力を持つ者にのみ、稀に出現する特殊な力をそう呼ぶ」

 

ぼんやりと思考を回したシーザーは──ぽかんとした表情で、アルバートを見つめ直す。

 

「……なんか、おれに関係する話ですか?」

 

気の抜けた表情で言うシーザーに、アルバートは苦笑いを浮かべる。

 

「……まるで頓着がないな。──生活していて、他人と違うと思うことは?」

「……あー……。大体寝不足ですね」

「いやもっと……何かこう、ないのか。──本旨以外でもだいぶ特殊だぞ、君は」

 

普段こそぼんやりとして見えるが──生まれ持つ非凡は明らか。

数回の実技指導だけでも、アルバートは確信していた。

 

幾らか逡巡したシーザーは──ふと、その感覚の一端を口にする。

 

「……時計の音が気になって」

「時計?」

「はい。寝るとき、気になりません?」

「──まぁ、分からないでもないよ」

「一度意識しちゃったらおしまいで、段々大きくなるんですよ──針の音が、心の中で」

「……誰にでもあること、と言いたいけれど──」

 

アルバートが、暫しの間考え込む。

 

……あぁ、まただ。

シーザーが、こめかみの疼きを押さえる。

……修練場で、バカみたいに騒ぐ奴らの声が──。

 

「──それだ、君の"副作用"」

「……はい?」

 

思い至って呟くアルバートに、シーザーの意識が戻る。

 

「──戦闘訓練中、君にはどんな景色が見えてる?」

「どんな、って……普通ですよ」

 

そう応えた直後。

先程のセイルとの模擬戦を振り返ったシーザーは、ふと思い出した。

 

「──急に、周りが静かになる。……いや、違うな……相手から届く音が、大きくなる……気がしますね」

「……うん、辻褄が合うな。普段の君の様子からも」

 

シーザーが首を傾げる。

アルバートは、あまりにも"戦闘向き"なその天賦に──軽い、嫉妬を覚えた。

同時に、その名が示す通りの──大きすぎる、"副作用"を憂いた。

 

「……おそらく、君は──」

 

──その日。

 

シーザーが生まれ持った特異なその感覚に。

──"一極集中体質"、と言う名が付いた。

 

 

──────────

✦ピュロン王宮 修練場──

 

 

──野次馬の雑音が、煩い。

イリーナが、まだ何か叫んでいる。

 

 "その体質は、強力な分だけ──同量の代償が、君自身を蝕んできただろう"

 

疲労と耳鳴りで拡散する意識の中で、シーザーは──あの日のアルバートの言葉を思い出していた。

 

時計の針を、ざわめく木々を、意識しちゃ駄目だ。

そう意識する程に、かえって存在は大きくなる。

そうして寝不足に陥り、"集中の焦点"が拡散すれば──。

 

今度は、不規則に四方から飛び込む情報に襲われる。

……思考は霧散し、何一つ、制御が効かなくなる。

そうなった日の訓練成果は、酷いものだった。

 

……だから、嫌いなんだよ。

夜警も、騒がしい場所も──。

 

「──シーザーッ!!」

「──!」

 

自身の名を呼ぶイリーナの声が、シーザーの"焦点"を引き戻した。

換装し終えるや否や飛び掛かったセイルが、眼前に迫っている。

 

──硬質な音が、雑音を切り裂いた。

 

刺突剣による突進。

シーザーの剣との接点、込められた力任せの圧力が、掌に振動を、脳に警鐘を届けた。

 

「──けしかけておいて呆けるな。……まさにそれだ! ボクは貴様の全てが気に入らないっ!!」

 

……今度は、その声がはっきりと聞こえる。

鍔迫り合いの感触も、正しく体に伝わる。

 

「……夜警明けなもんで。悪いね」

 

 

……ああ、世界から──音が、消えていく。

 

 

──セイルは、途端に背筋が凍るような感覚を覚えて後方へと飛び退く。

 

……ほんの一瞬で、冷や汗が吹き出した。

見習いの頃から、貴様はそうだ。

この感覚を、何度も──。

 

 

 

──無音の、世界。

 

 

 

深い集中の海に落ちたシーザーの瞳は、もう、ただセイルだけを見ていた。

 

 

「……っ……!! ──せやぁああっ!!」

 

叫び声をあげて、セイルが突進する。

五月雨のように突き出される刺突剣が果敢にシーザーへと向けられ──しかし、ことごとく空を切った。

 

……直前まで止めようとしていたイリーナでさえ、その光景に戦慄する。

 

イリーナは、セイルの力量を良く理解していた。

他ならぬ自身が、見習い時代から──彼の刺突剣捌きに、圧倒される側だったのだから。

 

騎士としての経験を経て、セイルの剣捌きはますます研ぎ澄まされている。

 

……それを──ほとんど、"躱してすらいない"。

突き出される刺突剣の軌道を、ほんの僅かな剣先の接触のみで逸らしている。

 

──脱力したまま突き出された騎士剣に尽く邪魔をされ、攻撃が全く届かない。

その事実が、セイルを更に激昂させた。

 

「……貴様ばかりがっ! ──その、与えられただけの天賦でっ!!」

 

刺突。

切り下ろし。

当て身。

 

セイルがあらゆる手段を講じて尚──。

いなし、初動以前に鍔を抑え、容易く払う。

……シーザーは、その場から──一歩も動いていない。

 

その場にいる全員が固まっていた。

ぼんやりと眺めていたジョナサンでさえも、息を飲んだ。

 

──垣間見る、宮廷十騎の片鱗。

 

……格が、違う。

見習い達が、レイヴが、一様に"騎士になった自身の姿"を見失う程の──。

 

「……天賦ね」

 

ぽつりと、シーザーが声を漏らした。

 

「──!?」

 

ほんの一瞬前まで間合いの外にいたシーザーが──瞬きひとつする間で、突如至近距離に現れる。

 

ほとんど怯えに近い反射でセイルが後退ろうとした時──。

セイルの目には、音もなく自身の胸を貫いたシーザーの剣が映った。

 

──セイルの戦闘体が、淡い光を放ちながらヒビ割れ、爆散する。

生身を放り出されたセイルが、ガチガチと歯を鳴らした。

 

……ボクだって、死ぬ気で、努力してきたんだ。

貴様のような昼行灯に負けない為に。

騎士になるまでも。……なってからも──。

 

なのに、貴様ばかりが全てを持っている。

……全てを持っていく──。

 

 

「……ボクと貴様で──一体、何が違うって言うんだ!!」

「……知らんよ、そんなもん」

「ふざけるな! こんな、こんな──!!」

 

騎士剣をどうにか鞘に収めて、シーザーがその場に座り込む。

慌てて駆け寄るイリーナが視界の端に映って、また──セイルの声が遠退いていく。

 

……そんなに欲しけりゃ、くれてやれりゃ良いのに──。

 

「シーザー!? おい、しっかりしろっ!!」

 

肩を揺さぶられる感覚と、どうしてか落ち着く声。

……それだけの、世界。

 

それすらも遠退かせて、限界を迎えたシーザーは、拡散し切った"焦点"を微睡みに溶かした。

 

 





【登場人物】
✧アルバート=フォルマッジオ(当時19)
 シーザー達の先輩騎士。
 見習いの才能を見抜く事に長けた人格者。


【用語解説】
✧副作用(サイドエフェクト)
 優れた才能を持つ者にのみ稀に顕現する特異体質。
 人間が本来持つ能力の延長線にある。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。