✦亡国のフィエリア ─Another_WORLD TRIGGER─(統合中)   作:CABIN.

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──王都の夜。
阿鼻叫喚の政務殿をひとり抜け出したニアは、護衛の騎士を引き連れ、ピュロンとリゾーマを繋ぐ交流艇乗り場へと歩いていた。





《第20話》冷笑

 

「……宮廷十騎の順位付けさぁ、全然納得いかないんだけど? ──上位三席は当然としても……」

 

ニアの護衛任務に宛てられた騎士──ミレディ=エンシェントは、渦中の新制度にぶつぶつと文句を零す。

 

「今日だけで三十回は言ってますけど、武勇だけで選んでませんからね」

「それにしたって、シーザーくんで"九席"は過小評価でしょ。──あの子、瞬間的には団長とすらいい勝負するんじゃない?」

「……瞬間的には、でしょ」

 

急にトーンを落としたニアが、淡々と応える。

 

「一騎討ちなら。真っ向勝負なら。互いに万全なら──それ、意味あります? スポーツじゃないんですから」

 

……確かに、一理ある。

容易く言い負かされたミレディは、過去のシーザーとの任務を振り返る。

 

日常でさえ無限に精神力を消耗し続けている。

意識が向いていない領域からの奇襲に極めて弱い。

緊迫すればする程、味方の声は届かなくなる。

消耗が一線を越えた瞬間、見習い未満の無力になる。

 

彼の"才能"は、詰まるところ。

……継戦にも、集団戦にも、不向きだ。

 

……それを踏まえた上で──。

 

「でもでも、集中力の差って相当大事だよ?」

「三十ずつ割り振るべき場面でも百・零・零になっちゃうんでしょ?──集中の"極端な勾配"は、"純粋な強化"とは違いますから」

「……そうかもしれないけどさぁ……ぽけっとしてるように見えて──結構、苦労しながら頑張ってんのよ、あの子」

「後学までに聞きたいんですが、ミレディさん目線で"頑張ってない騎士"っていたりするんですかね?」

 

…………一理、ある。

ニコニコと笑顔を浮かべながら、冷ややかな理屈と流暢な口で他人の意見を封殺する。

 

……嫌いだわぁ、この人。

それが、言葉を詰まらせたミレディの素直な感想だった。

 

「──勿論、ミレディさんも頑張ってますよ」

「……あなたに褒められてもなんっにも嬉しくない。──でも、まぁ」

 

取ってつけたような笑顔から視線を外して。

ミレディは、騎士盾を静かに揺らす。

 

「──私は、私に託された仕事をしないとね」

 

 

──────────

✦ピュロン王都 北地区──

 

 

市街の闇を駆け抜ける、複数の影。

その内のひとつが、掌の上に浮かぶ地形図に視線を落とし、通信を交わしていた。

 

『……分かった。──いや、尾行はしなくていい』

 

王都に点在する密偵達からの情報。

それらを胸中で整理した後、長髪の男が先頭を駆ける"統率者"に視線を送った。

 

「ハイルディン、騎士の巡察経路は情報通りだが──使節卿が動いたらしい」

「……なに?」

 

"統率者"ハイルディンが、僅かに眉を顰める。

 

「──隣に、護衛らしき若手の女騎士もひとり」

 

長髪の男──ミハエル=バドネスは、地形図を縮小し、点在する光点の挙動を追った。

 

「……報告地点周辺に二人組の反応は見当たらないが」

「奴のトリオン量で戦闘体には換装できん」

 

進行方向を睨みつけたまま、ハイルディンが応える。

トリオン反応をサーチするレーダーシステムは、生身には反応しない。

 

「ああ……なら──単独の反応がひとつ、交流門に向かってる」

「それが護衛だとすれば、奴の目的地もおそらくリゾーマだ」

 

交流艇乗り場の周辺に、他の目ぼしい施設は存在しない。

 

……貴様は何がしたい、何を考えている。

脳裏を過ぎった"にやけ面"にそう吐き捨てて、ハイルディンは尚も目的地を目指した。

 

 

──────────

✦数ヶ月前──

 

 

「おや、ハイルディンさんじゃないですか」

 

王都の雑踏。

その声に振り返ったハイルディンは、ニコニコと笑いながら近付く"使節卿"を睨みつけた。

 

「…………何が目的だ」

「いやいや、たまたまばったり会っただけじゃないですか。そう邪険にしないで下さいよ」

 

険しい表情のまま、ハイルディンは無言だけを返す。

僅かに目を細めたニアは、相変わらずの"にやけ面"で口を開いた。

 

「──積もる話もありますし。少し話しません?」

「俺にはない。消えろ」

 

ハイルディンは、にべもなく切り捨てて踵を返す。

 

「冷たいなぁ。心配してたんですよ? 騎士団を抜けてから、どうされてるのかなって」

 

当たり前のように隣を歩き始めたニアに、ハイルディンは小さく舌打ちした。

 

「ハイルディンさんが騎士団を去ってもう随分経ちますけど──その間、信頼も治安も右肩下がりで大変ですよ」

 

「"星導会(エスハトン)"のほうは相変わらずですし──"鷹の翼"も、最近じゃ随分と規模を拡大してるとか」

 

徹底して無反応を貫くハイルディンの横顔を眺めながら、ニアは尚も淡々と言葉を連ねた。

 

「なんでも、ならず者やら孤児やらを掻き集めて国家転覆を狙ってるそうですよ」

 

「大層に国家の為なんて甘言を掲げて、民の不平不満に便乗して、思い通りにならないことは暴力に任せて」

 

「それで何かが変わる気でいるんなら──」

 

「──滑稽な連中ですよね」

 

──ハイルディンの拳が、ニアの胸倉に捩じ込まれた。

つま先を立てたニアは、不安定な体勢のまま、しかしニコニコと笑っていた。

 

「あれ? 何か気に触りましたかね?」

 

無遠慮に立ち入り、無感情に値踏みし──。

自身は胸中も真意も決して明かさず、笑顔を貼り付けて傍観者を気取る。

 

……この世で最も、不愉快な存在のひとりだ。

 

嫌悪の炎を無理やり抑え込んだハイルディンが、胸倉を絞りあげた手を離す。

 

「もう一度言うが──貴様と話すことは何もない。……消えろ」

「それは残念です。それでは、また近いうちに〜」

 

大袈裟に肩を竦めたニアの"にやけ面"を視界から消し去り、ハイルディンはひとり雑踏へと消えた。

 

 

──────────

 

 

「……止まれ」

 

単独の光点に近付きつつある"鷹の翼"は、影に身を潜め、慎重に歩を進めていた。

静止の指示に従ったミハエルが"此処からは声を出すな"とジェスチャーし、連なる影が頷く。

 

……あの発言は、本心から雑談のつもりだったのか。

それとも、鷹の翼に俺が関与していると確信した上での挑発か。

奴の性格からして圧倒的に後者だが、だとしたら何処まで。

 

思考を散らされている事実そのものに苛立ちながらも、ハイルディンが真意を読み解こうと思考を巡らせていた時──。

 

「──おや、ハイルディンさんじゃないですか」

 

記憶と全く同じ声色で、全く同じ表情で。

"鷹の翼"一行の側方、曲がり角の奥に──"使節卿"が、立っていた。

 

「…………!?」

 

ミハエルが、咄嗟に地形図へと視線を落とす。

……単独の光点は、まだ交流艇乗り場の周辺に──。

 

「……何が、目的だ」

 

ハイルディンが、思わずその答えを本人に訊ねた。

……仮に俺達の動向を完璧に察知していたとして──護衛とわざわざ別行動を取ってまで、生身で目の前に現れる意味が全く分からない。

 

なんなんだ、こいつは──。

ハイルディンでさえもが、頬に冷や汗を垂らす。

 

「"近いうち"に、また会えましたね〜」

 

ハイルディンの問いには応えず。

後ろ手に手を組んだまま、ニアはニコニコと冷たい笑顔を返した。

 

 





【登場人物】
✧ミレディ=エンシェント(22)
 守衛手を担う宮廷騎士。
 シーザー達の先輩で、それぞれを気にかける。

✧ミハエル=バドネス(41)
 "鷹の翼"構成員のひとり。
 王都の無法者を密偵として雇っている。


【用語解説】
✧交流艇
 ピュロンとリゾーマを繋いでいる巡航艇。
 一日数便が相互に星間を行き交う。

✧トリオン反応
 トリガーによって現象化したトリオンが放つ反応。

✧レーダーシステム
 トリオン反応をサーチするシステム。
 星自体が反応する為、特定規模のみ拾う仕様。
 王都のものと流通品では規格がやや異なる。

✧星導会(エスハトン)
 鷹の翼と双璧を為す反体制組織のひとつ。
 六芒星のエンブレムを掲げる。
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