✦亡国のフィエリア ─Another_WORLD TRIGGER─(統合中)   作:CABIN.

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ニアが"鷹の翼"に接触した頃。

「──ほんっとなんなのあの人は!」

交流艇乗り場の玄関に立つミレディ=エンシェントは、靴底で床を叩きながらぶつぶつ文句を零していた。




《第21話》乱星

✦十分前──

 

「あっ! ちょっと用事を思い出しちゃったので、ミレディさんは先に向かっといて貰えますかね?」

 

間もなく交流艇乗り場につこうとした頃。

ニアが、わざとらしく手を叩きながら言った。

 

「……いやいや、離れたら護衛の意味ないでしょ? それなら私も──」

「──それが、離れる意味のある用事でして」

 

言葉を遮られたミレディは、怪訝な表情でその笑顔を見つめる。

……離れる意味のある用事って何よ。

 

「……次の便までそんなに時間ないけど」

「大した時間はかかりません。──二十分で戻りますから!」

 

騎士としての矜持、護衛としての責任。

様々な思考がミレディの中で交錯する。

 

好き嫌いは、一旦脇に置いて。

ミレディが認識する"使節卿の突飛な行動"は、事が済んで振り返ってみれば論理的に正しかった、と言う事が多い。

 

……必要な説明を、面白がって省くけど。

既に遠く離れたニアの背中に、ミレディは大きな溜息を溢した。

 

 

──────────

✦王都北地区 裏路地──

 

 

「──やめた方がいいですよ、ミハエルさん」

 

ニアが、懐のトリガーに手を伸ばしたミハエルに呼び掛ける。

 

「……お前を始末するのに数秒もかからない」

「その数秒のトリオン反応に気付かないほど、今の騎士も落ちぶれてはいませんよ」

「気付いたとして、私達に勝てる気でいるのか」

 

裏路地のじめじめとした湿気が、掌に汗を纏わせる。

──ふと、ミハエルの前にハイルディンの腕が伸びた。

 

「挑発に乗るな」

 

ミハエルの言葉通り、生身のニアを始末することは容易  い。

仮に周辺の騎士が駆け付けたとしても、戦闘になればまず"鷹の翼"が勝つだろう。

 

……だが。

 

仮にニアが"鷹の翼"の計画を察知していたなら、それをそのまま王宮に伝えればそこで終わっている。

殺害されるリスクを背負ってまで、わざわざ直接接触してきた理由は──。

 

ハイルディンは、ニアを睨みつけたまま口を開いた。

 

「説得にでも来たのか? それとも宣戦布告か?」

「──順を追って話しましょう」

 

後ろ手を解いたニアが、人差し指を立てて言う。

表情に反して冷ややかな目が、僅かに細まった。

 

「第一に、ハイルディンさん。貴方が"鷹の翼"を率いていること、実は発足当初から知っていました」

 

ハイルディンがぴくりと眉を動かす。

……何処から情報を──。

 

「乱星国家とのパイプを持っているのは、貴方がただけではありませんからね」

 

内心の問いに、ニアが応えた。

ハイルディンは、目の前の"にやけ面"が、外交を司る"使節卿"であることを思い出す。

 

「第二に、こちらの目的ですが──耳寄りな情報がございまして」

「……情報?」

「はい。──まずは、こちらを」

 

ニアが徐に腕輪を撫でると、呼応するようにひとつの映像が投影された。

 

戦場の記録。

裏路地が、阿鼻叫喚の叫び声と血に染まった。

 

「……数日前、傭兵国家ノティアスは"神の国"に大敗を喫しました」

「──!?」

 

ハイルディンが、連なる影達が、大きく目を見開く。

 

「彼らは故郷を放棄し、巡航艇の大群で一斉にこちらへ向かっています」

 

 

沈黙が、場を支配する。

 

 

「……勿論──彼らの目的は、貴方がたへの協力ではありません」

 

映像の出力を停止したニアは、ハイルディンと視線を合わせた。

その表情に、もう笑みは浮かべていない。

 

 

「終末は、神の国によってではなく──彼らによって訪れます」

 

 

ハイルディンの右手が、無意識に額の汗を拭った。

 

 

──────────

✦一年前──

 

 

「──どうにもお気楽が過ぎるな、この国は」

 

リゾーマの観光街、民宿の一室。

窓から観光客を眺めていた旅客──ノア=ローランドは、何処か苛立ちを含んだ声で言った。

 

「防衛設備も、トリオン兵も見当たらない。……あんたら、侵攻を受けたことがないのか?」

 

窓枠で頬杖をつきながら、ノアは呆れたようにハイルディンを見る。

 

「……ある。二十年近く前には、この一帯も焼け野原になった」

 

……業火の記憶を辿る度、古傷が疼いてならない。

椅子に腰掛けたまま、ハイルディンは小さく俯いた。

 

「だったら尚更、痛みを忘れるには早すぎるな」

「……忘れていない。──ただ、目を背けている」

 

ハイルディンが、一際大きな溜息を溢す。

 

……かつて、大戦の最前線に立った"獅子王"は──。

王子が、王女が誕生し、王妃に先立たれ。

その度に平和主義へと傾倒していった。

 

「滅びるまで目を背け続けるつもりか? 羽休めで翼を折るようじゃ本末転倒だ」

「全面的に同意する。──故に、ノティアスと手を組みたい」

 

立ち上がったハイルディンが、ノア──ノティアスの依頼窓口に強い視線を送る。

 

ノアは、その瞳の奥に燻り続ける炎を見た。

……俺達としちゃ、報酬が貰えりゃそれで良いんだが。

 

「取り次ぎはするよ。とは言え──」

 

幾らか逡巡したノアは、また窓の外へ視線を戻す。

 

危機意識も、備えもない、それでも安穏な日常。

戦火にしか生きられないノティアスの傭兵達にとって、それはいっそ眩い光のようにも思えた。

……平和施策で盲目になった彼らにとってみれば、ハイルディンの行動は──。

 

「……独断で国家の方針に背けば、別の軋轢を生むぞ。そりゃ反逆者のやり方だ」

 

ハイルディンが、静かに瞼を閉じる。

 

「反逆者で構わん。……仮に現体制を破壊してでも──俺が、この国を立て直す」

 

 "……今のままでは、この国は悲惨な終末を迎えるわ"

 

今は亡き王妃の涙が、ハイルディンの脳裏に過ぎった。

 

 

 





【登場人物】
✧ノア=ローランド(当時25)
 リゾーマに滞在する旅客。
 ノティアスの民で、傭兵業の窓口を担当する。


【用語解説】
✧乱星国家
 固定の軌道を取る"惑星国家"と対になる存在。
 星そのものが船のように自由な軌道を取る。
 ノティアスもこの内のひとつ。
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