✦亡国のフィエリア ─Another_WORLD TRIGGER─(統合中)   作:CABIN.

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ニアの情報提供を受けたハイルディン率いる"鷹の翼"一行には、困惑が広がっていた。

「……ハイルディン」

ミハエルが、指示を乞うように呟く。
ハイルディンは、ニアを睨みつけたまま拳を握った。





《第22話》開戦号令

 

 

「──その情報が事実だとして、何が言いたい」

 

ハイルディンの問い。

ニアは、また笑顔を貼り付けて口を開いた。

 

「貴方がたの目的は"戦犯囚の解放"でしょう? 少しばかり協力しようかと」

 

当たり前のように目的を言い当てられたミハエルが小さく肩を揺らす。

……つくづく、なんなんだこいつは。

 

「ふざけるな! 王宮側のお前を信用できる訳が無い」

 

沈黙を貫いていた影の内のひとつ──ガルシア=エヴァンスが、ふいに声を荒げる。

 

「あなたに話してませんけどね、ガルシアさん」

 

視線でそれを咎めたニアが、唇に当てた人差し指を静かに立てた。

 

「猶予は残り数日。"内輪揉め"で騎士の戦力を削ぎたくありません」

 

「貴方たちの"努力"の甲斐あって、リゾーマは防衛力不足を糾弾しつつあります。無駄に争ってこれ以上信用を失うのも使節卿としては御免です。なにより──」

 

人差し指、中指。

そして薬指を立てたニアが、ゆっくりと口を開く。

 

「……王宮側としても、個人としても──戦犯囚、ディスト=ハドリーが牢獄で遊んで貰っていては困るんです。……対等な取引でしょう?」

 

視線が交錯する。

困惑の中で、ハイルディンが結論に至った時──。

 

「──ハイルディン、さがれっ!!」

 

ミハエルが不意に叫ぶ。

……交流艇に留まっていた筈の光点が──。

 

──流星の如く、上空から降り注いだ。

わずかに仰け反って不意打ちの剣閃を躱したハイルディンが、半ば条件反射でトリガーに手を掛ける。

 

「……やはり罠か、貴様っ──!!」

「──何してるんですかあなたはっ!!」

 

 

即座に交戦体勢に映ったハイルディンと、石畳に突き刺さった騎士剣を抜いた流星──ミレディが、同時にニアへと叫ぶ。

 

「……あらら。優秀過ぎるのも困りものですね」

 

大袈裟な身振りで、ニアが肩を竦めた。

 

 

──────────

✦王都北地区 ディモフィル街道──

 

 

「……実際、イリーナも選ばれておかしくなかったと思うけどな」

 

巡察中の騎士──ロレンス=テレジアは、ふと昼下がりを回想して呟く。

 

「──直近でやらかしてるからなぁ。巡察任務も解かれたんだろ?」

 

相方のマービン=ティモシーが、騎士剣の鍔を弄りながら応える。

 

「それも王子殿下の暴走に巻き込まれたって話だ。あいつも昔から間が悪いと言うか──」

 

『──ミレディ=エンシェントより応援要請っ! "鷹の翼"複数名と接敵! 北地区、交流艇乗り場周辺っ!!』

 

──端的な、しかし緊迫した応援要請の通信。

ロレンスとマービンが、顔を見合わせる。

 

「……マジ?」

「そりゃマジでしょ。──急ごう」

 

踵を返し、二人の騎士が街道を駆けた。 

 

 

──────────

✦王都北地区 裏路地──

 

 

──私じゃ、勝てない。

 

ミレディは、まるで悪びれていないニアと、即座に戦闘体へと換装した"鷹の翼"の間に陣取って思考を巡らせる。

 

「……どうしてあなた達が、"鷹の翼"に加担してるんですか!」

 

悲痛な叫び。

身の丈程もある斧を持ち上げたハイルディンが、凄まじい威圧感を伴ってミレディを睨み付ける。

 

「加担? ──違うな、俺達が'鷹の翼"の中枢だ」

   ──"鷹の翼"統率者 元三英傑

     ハイルディン=ベイカー

「ミレディ。状況が分からん程の馬鹿じゃないだろう」

   ──"鷹の翼"諜報官 元騎士 

     ミハエル=バドネス

 

「"護衛の女騎士"はミレディか……。愛弟子だけに心が痛む」

   ──"鷹の翼"戦闘員 元騎士 

     ガルシア=エヴァンス

 

ミレディが半歩後退る。

……街に被害を出させる訳にはいかない。

この人達を見逃す訳にも。

 

──生身の使節卿を護衛しながら? どうやって?

 

 

「……誰?」

   ──"鷹の翼"協力者 コソ泥

     カッツェ=シュヴァルツ

 

「俺が知ってる訳ないだろ。とりあえず逃げようぜ」

   ──"鷹の翼"協力者 コソ泥

     レオン=ベルガー

 

 

ミレディは、緊張感のない二人組がコソコソと去っていくのを横目に見ながら深呼吸する。

頬を伝った汗を袖で拭ったミレディは──騎士剣を、真っ直ぐに突き出した。

 

 

──────────

✦七年前──

 

 

「……ガルシアさんまで、行っちゃうんですか?」

 

跳ね橋が、音を立てて降りてゆく。

見習い騎士──ミレディは、消え入りそうな声を漏らした。

 

──宮廷騎士団の縮小。

 

当時はそれぞれ百人規模の三部隊を擁していたピュロン王宮では、国王の命を受けて大規模な騎士の解雇と自主退官が相次いでいた。

 

「……最近は腰が痛くてなぁ。──元々潮時だと感じてたとこだ」

 

努めて明るい声で言ったガルシアは、ミレディの頭をぽんぽんと叩いた。

 

「ミレディ、お前には才能がある。立派な騎士になるだろうが──これからも、発揮する機会がなけりゃ良いなぁ」

 

瞳に涙を溜めたまま、ミレディはただ俯いている。

少しだけ目を細めたガルシアは、背を向けて馬車に乗り込んだ。

 

「……これから、どうするんですか」

 

荷台から顔を出したガルシアは、満点の笑顔をミレディに向けた。

 

「──農業でもやろうかね! ああ、それも腰に来そうだな」

「ぜんぜん似合わない」

「やかましいわ!」

 

──別れの時。

馬車の車輪がカラカラと音を立てて、"元"騎士達が離れてゆく。

小さく首を振ってから顔を上げたミレディは、大きく手を振って笑顔を見せた。

 

「──また、会いましょうね!」

 

ガルシアが、荷台の幌から投げ出した手を振り返す。

ミレディは、視界から彼らが消えるまで──ずっと、手を振り続けていた。

 

 

──────────

 

 

「なぁ、大人しく退いてくれ、ミレディ」

 

懐かしい声が、ミレディの鼓膜を叩く。

それは、昔と変わらず──自身を暖かく包む、優しい声だった。

 

……こんな形で、会いたかった訳じゃない。

構えを取ったミレディは、"鷹の翼"を睨み付けた。

 

「──宮廷騎士として 貴方たちを見過ごす訳にはいかない!!」

「そうか。──ならば此処で死ね、ミレディ=エンシェント」

 

ハイルディンの冷たい声に、明確な殺意が宿る。

ミレディの瞳は、過去に揺らいで尚も"敵"を見据える。

 

 

──大斧と騎士剣の衝突音が、北地区の夜に響き渡った。

 

 

 





【登場人物】
✧ロレンス=テレジア(20)
 シーザーをからかった後、夜間巡察へ。
 本人は宮廷十騎に興味なしの遊撃手。

✧マービン=ティモシー(21)
 ロレンスと行動を共にする騎士。
 悪ふざけに便乗しがちな重装手。

✧ガルシア=エヴァンス(45)
 "鷹の翼"戦闘員を務める元騎士。
 ミレディの師であり、敵対に心を痛める。

✧ディスト=ハドリー(37)
 "戦犯囚"のうちひとり。
 リゾーマの監獄に捕らえられている。


【用語解説】
✧戦犯囚
 大戦前後の戦争犯罪により投獄された元騎士達。
 リゾーマの片隅で刑期を全うしている。
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