✦亡国のフィエリア ─Another_WORLD TRIGGER─(統合中)   作:CABIN.

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騒然とする修練場。
シーザーとセイルの決闘騒ぎを聞きつけた"副団長"マクセルは、静かに頷きながらイリーナからの報告を聞いていた。





《第23話》緊急警報

 

 

「──状況は分かった。エルゼンには、見習い達へのデモンストレーションの一環で模擬戦を行ったと報告しておく」

「……申し訳ありません……副団長」

 

自身の膝で寝息を立てるシーザーに視線を落としながら、イリーナは拳を握り締める。

マクセルは、呆れるように小さく微笑んだ。

 

「……君が謝ることじゃない」

 

優しい瞳が、隣で尚もカタカタと震えるセイルに移った。

 

「……ボクは……ボクはこんな昼行灯の下にいる存在じゃない……」

「──気持ちは分かる。だが、騎士として規律は守らなきゃいけないな、セイル」

 

項垂れた肩を掴んで、マクセルはまだ発展途上の騎士を窘める。

 

……僅か半日でこれ程の影響を。

制度の吉凶を測りかねたマクセルは、静かに立ち上がって周囲の見習い達を見渡した。

 

「──君たちも、帰って休みなさい。明日も早いだろう?」

 

その声で我に帰った見習い達が、とぼとぼと帰路につく。

流れに押されながら、レイヴとジョナサンもまた扉へと向かった。

 

……騎士になるってことは、あんな人達と肩を並べるってこと。

努力や経験でどうこうなる問題なのか──。

 

完全に自信を喪失して沈黙するレイヴの肩に、ジョナサンの腕が乗せられる。

 

「俺も明日から素振りしようかな。朝は無理だけど」

 

……彼は彼なりに思うところがあったらしい。

劣等感と親近感を同時に覚えながら、レイヴが苦笑いした。

 

「……はは……素振りで届く気がしない」

「そんときはなんか別の訓練考えりゃいいだろ」

 

そんな事を話しながら、レイヴ達が扉に手をかけた時。

 

『……ミレディ=エンシェントより応援要請っ! "鷹の翼"複数名……』

「「──!?」」

 

──未だ、見習い達が犇めく修練場。

戦闘体に換装していたマクセルとイリーナだけが、ミレディからの通信に反応を示した。

 

 

──────────

✦ピュロン王宮 寝室──

 

 

『──勤務計画では、エルゼンはイリーナと共に西地区を巡回していた筈だ』

 

昨日の昼間、エルゼンに通信が繋がらなかった事。

にも係わらず、広場にエルゼンが現れた事。

 

フォニーの言葉を受け、上体を起こしたアルマは顎に手を当てて俯いた。

 

「……ユリウス広場で会った時、イリーナは単独だったな」

 

騎士達の巡察任務は、通常ならニ名一組で行動する。

……たまたまイリーナの傍を離れており、騒ぎを聞きつけて戻ってきた、とも考えられなくはないが──。

 

『私が連絡を試みたのも同時期だろう。──エルゼンは、その時点で王都を離れていたか、もしくは戦闘体を解除していたことになる』

「エルゼンだぞ? 無断で任務地を離れる事も、公務中に換装を解く事も有り得ない」

『事実としてイリーナは単独で巡回し、通信回線も接続出来なかった』

 

腕を組んだアルマが、眉間に皺を寄せる。

 

「……考えてみれば、あの時──イリーナとは何度か一般回線で交信してる」

 

一般回線は、混信を防ぐ為に交信範囲を絞られてはいるが──西地区周辺なら問題なく届く。

 

 "王子殿下。黒幕らしき豚を一匹捕まえました"

 "殺してないよな?"

 

アルマが、イリーナとの会話を振り返る。

明らかに異常な交信だったが、エルゼンが反応しなかったことは確かだ。

 

……広場に現れるまで──。

 

「エルゼンは、何をしてたんだ?」

『気にするならば、イリーナに訊ねてみても良いだろう』

「それもそうだ」

 

……僅かな違和感は片隅に残るが──。

なんなら、直接本人にでも訊ねればいい。

頭を切り替えたアルマが、再びベッドに寝転がった。

──同時に、フォニーがぴくりと体を震わせる。

 

「……どうした?」

『──なんでもない』

 

数秒の間を置いて。

寝室の天井に備え付けられた警報装置が、突如けたたましく鳴り響いた。

 

『緊急警報 緊急警報 王都北地区にて大規模な交戦発生 待機中の騎士は直ちに現場へ急行せよ。繰り返す──』

 

「……なんでもないって?」

 

……何か通信拾ってたな、こいつ。

再び飛び起きたアルマが、疎ましげな目でフォニーを見つめる。

 

『……お前には関係がないと言うことだ。──騎士資格は凍結中だろう、アルマ』

「緊急でもか?」

『緊急でもだ。他の騎士達に任せておけ』

 

……そもそもトリガーがない、か。

掌をしばらく眺めたアルマが、がっくりと項垂れた。

 

 

──────────

✦王都北地区 裏路地──

 

 

「──威勢だけか? ミレディ」

「……っ……!!」

 

振り下ろされた大斧を受けた騎士剣が、一撃で叩き折られた。

咄嗟に騎士剣を投げ捨て、盾で受け流して戦闘体への損傷は避けたが──。

 

……なんて剛腕。

騎士団長エルゼンに並ぶ"三英傑"の一角──まともにやりあって勝てる道理がない。

 

加えて──。

ミレディは、周辺視野でミハエルとガルシアを捉えながら、じりじりと後退りする。

 

大斧の一振りに生じる"隙"を、後方の二人が常に支援できる位置を保っている。

騎士剣を再生成したミレディは、研ぎ澄まされた集中力で相手の初動を見計らっていた。

 

……交流艇乗り場で地形図を確認した限り、巡察の騎士達はディモフィル街道を東進していた筈。

すぐにこちらへ向かってくれていれば、数分で──。

 

──轟音。

 

風を巻き込んで唸りをあげた大斧が、跳び上がったミレディの太腿を掠める。

勢いのまま振り切られた大斧は、爆発のような衝撃波を伴って側方の外壁を吹き飛ばした。

 

──飛散した瓦礫に紛れ、ミハエルからの追撃の剣閃。

空中で壁を蹴って反転したミレディは、刃の脇をすり抜けてミハエルの頭に蹴りを放つ。

 

……が、後方から不意に突き出されたガルシアの腕が足首を掴んだ。

ほんの一瞬背後に気を取られたミレディの視界が、強烈な慣性で流線に切り替わった。

 

「……ぐぅっ……!!」

 

空中からそのまま壁に叩きつけられながらも受け身を取ったミレディは、呼吸の間もなく剣と盾を上方に構えて衝撃に備える。

 

……いくらなんでも──。

 

──再び振り下ろされる、大斧。

 

唐竹割りの要領で剣も盾も纏めて叩き切られ、ミレディの右腕が撥ね飛ばされた。

 

……無法が過ぎるでしょ──!!

 

漏出するトリオンを左手で押さえながら、一足飛びで三人の間合いから離れる。

戦場を生き抜いた三人の冷徹な瞳が、ミレディを追った。

 

……そもそもが、勝ち目のない戦い。

今、私が いちばん優先すべき任務は──。

 

「──あなたの護衛っ!!」

「──おや」

 

──ドッ、と鈍い音がして。

他人事のように眺めていた使節卿をタックルに近い勢いで抱えたミレディは、そのまま自身の最高速で街道を目指し始めた。

 

……せめて、人数差だけでも──。

 

「──今更逃がすと思うのか?」

 

耳元で、声がする。

容易く逃走に追従したハイルディンは、既に斧を振りかぶっていた。

 

……まだ、盾の再生成が──。

 

咄嗟にニアを放り投げたミレディが目前に迫った斧に左腕を振り上げた時。

 

──轟音。

 

「……!?」

 

鋭い音の波が耳元で何度も反響し、ミレディが薄目を開くと──。

ミレディの間に突如割って入った"重盾"が、大斧を食い止めていた。

 

「──失礼」

「──!!」

 

──重低音を伴って、全体重を乗せた重盾越しの体当たりが炸裂する。

斧ごと後方に弾かれたハイルディンは、体勢を立て直しながら乱入者を睨みつけた。

 

「──やぁ。久しいね、ハイルディン」

   宮廷十騎 "第ニ席" 重装手

   副団長  マクセル=イェーガー

 

「……マクセルッ……!!」

「……いたた……もうちょっと丁重にお願いしますよ、ミレディさん」

「言ってる場合じゃないでしょ! そもそもあなたのせいなんですけど!?」

 

場違いな雰囲気で軽口を叩くニアを、ミレディが咎める。

……よく生身で戦場に顔を出すものだ。

マクセルは、ニアの胆力に感嘆しながらもミレディを一瞥する。

 

「……よく耐え凌いた、ミレディ。──ニアを頼むよ」

「──はい!」

「あいたたた」

 

抱えられて消えていくニアの様子を見送ったマクセルの瞳が、再びハイルディンを捉える。

 

「……その後は如何かな」

「──この通り、五体満足だ」

「それはなによりだ」

 

交錯する視線に、互いが大戦の記憶を想う。

──かつて背中を預けあった筈の二人は、静かに互いへと刃を構えた。

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