✦亡国のフィエリア ─Another_WORLD TRIGGER─(統合中) 作:CABIN.
逃げ惑う民衆の阿鼻叫喚も知らぬ気に、マクセルとハイルディンは互いに構えを取る。
マクセル=イェーガー。
"三英傑"などと言う華美な飾り文句こそ持たないが──大戦の折には、無数のトリオン兵による波状攻撃を凌ぎ切り、趨勢を決定付けた重装手最強の騎士。
……しかし──。
ハイルディンは、マクセルの後方と側方にそれぞれ位置取った二人と視線を交わす。
「せめてミレディをこの場に残すべきだったな。──俺達三人を一人で相手するつもりか?」
マクセルの背後に立ったミハエルが静かに問う。
ミハエルとガルシアもまた、大戦を生き伸びた元騎士。
片手間扱い出来るような雑兵ではない。
「そこまで自信過剰じゃないさ」
マクセルが、ハイルディンを見据えて応えた。
──軍靴の足音。
最初にそれを認識したミハエルが、一瞬だけ地形図に視線を落とした。
……次から次へと──。
「──元三英傑と言えど」
民衆の流れに逆らって、優雅に歩み寄る少女の声。
警戒はマクセルに残したまま、ガルシアとハイルディンがぴくりと反応した。
薄桃の長髪をたなびかせて、少女は無警戒にガルシアの隣を通り過ぎる。
「王都で暴動など起こされては──」
言葉の途中、少女の後ろ髪に僅かな影が差した。
──半歩、少女の身体が側方へと流れる。
ほぼ同時に、死角からの一閃がその空間を切り裂いた。
「あら、こんばんは」
軽く地を蹴って反転した少女が、ふわりと舞うように着地する。
剣を振り抜いて体勢を崩したガルシアは、微笑みを向ける少女に驚愕を返した。
……この女──今、どうやって察知した?
「──合わせろ、ガルシアッ!!」
言い知れぬ危機感を覚えたミハエルが叫ぶ。
前後ニ方向から同時に追撃の剣を振るうガルシアとミハエルを流し見た少女の瞳が、ふとハイルディンを捉える。
──石畳を踏み抜く、軍靴の音。
疾風を纏って追撃の剣閃を縫った、サーベルによる刺突。
手甲で強引にそれを弾いたハイルディンが、片手で大斧を振りかぶった。
弾かれた勢いのままくるりと回転して跳躍した少女は、ハイルディンの胸に靴底を添える。
ハイルディンを蹴りつけた反動で三度宙を舞った少女の身体は、大斧の振り下ろしを軽々と飛び越え、マクセルの隣に着地した。
──直後、轟音を伴って石畳を叩き壊した大斧が砂埃を巻き上げる。
ハイルディンが、ガルシアが、ミハエルが。
一斉に、少女へと視線を向けた。
……見覚えはないが、騎士の戦闘体。
何者だこいつは──。
「──暴動など起こされては、"ぶちのめし"もやむ無しですわ」
──宮廷十騎 "第四席"
クラリス=フランソワ
──────────
✦王都北地区 ディモフィル街道──
──衝突音とその余波が、何度も響いてくる。
「なにやってんだ、早く逃げろっ!!」
「でも、息子がまだ向こうに──!!」
駆け付けた騎士達すら目に入らず、民衆は一目散に逃げ惑っていた。
……これは、ただ事じゃないぞ。
再び顔を見合わせたロレンスとマービンが、騒ぎへの発信源へと急ごうとした時──。
「──ロレンスッ! マービンッ!」
民衆とその叫び声を掻き分けて、見知った顔が駆け寄ってくる。
「ミレディさん! 無事だったんすね!」
ロレンスが安堵を滲ませて応える。
……失われた右腕、残った左手で雑に引き摺られる使節卿──。
マービンは、怪訝な顔でそれらを眺めた。
「……何から聞けば?」
「何も聞かなくていいから、"これ"、お願い!」
「いだだだ」
雑に放り投げられた"使節卿"を、マービンが受け取る。
「……ミレディさん? 荷物じゃないんですから」
「十分お荷物でしょ。──ロレンス、マービン、護衛の引き継ぎお願い!」
「──あ、いやいや、待ってミレディさん!」
言い残して即座に踵を返したミレディの背中に、ロレンスが叫ぶ。
「戻ってもその腕じゃ貴女がお荷物になりますよ!」
「それでも良い! ガルシアさんを止めないと──!」
振り返らず発されたミレディの叫びに、二人が肩を揺らす。
……争ってるのは、"鷹の翼"なんだろ?
「一体全体、何が起こってんだ……」
「……どうする?」
ロレンスとマービンが、投げ渡されたニアに視線を送った。
途端、はっと思いついたような表情を浮かべたニアは、マービンの腕から飛び降りる。
「──お気になさらず、加勢どうぞ」
埃まみれになった儀礼服、しかし優雅な手付きで──ニアは、二人に戦地の方角を指し示した。
──────────
✦ピュロン王宮 政務殿──
『マクセル、クラリス両名現着。ハイルディン=ベイカー、ミハエル=バドネス、ガルシア=エヴァンスら三名と交戦中──』
──マクセルからの一斉通信。
政務殿に戻ったエルゼンは、鬼気迫る通信に視線を伏せた。
……マリナスに飽き足らず、貴様等までも。
エルゼンが拳を握り締める。
『──副団長、ミレディは無事ですか?』
マクセルを追って現場へ急行中の騎士が訊ねる。
──が、その問いに返答はなかった。
……いずれも一流の"元"騎士。
悠長にお喋りをする余裕など与えまい。
「貴殿は向かわんのか、騎士団長?」
"司法卿"ロワール=カランビックが訊ねる。
一瞬だけ逡巡したエルゼンは、小さく首を振った。
「……戦力の逐次投入は愚策ながら、継戦を考慮せぬ一斉投入もまた同様。──本件は現場周辺の騎士を除き、待機の騎士のみで対応に当たる」
……現場は任せるぞ、マクセル。
起動した王都全域地形図を睨みながら、エルゼンは内心で呟いた。