✦亡国のフィエリア ─Another_WORLD TRIGGER─(統合中)   作:CABIN.

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戦線が拡大しつつある王都北地区。
その一角、ピュロンとリゾーマを結ぶ交流艇乗り場では、市民の混乱が拡大しつつあった。





✦第3章 ──解放戦線──
《第25話》交流艇


 

 

『現在、ディモフィル街道周辺で"鷹の翼"と思われる暴徒数名の内乱が発生しております。来場のお客様は、周囲の係員の誘導に従い──』

 

緊急アナウンスが響き渡る交流艇内。

市民のひとりが、係員に掴みかかっていた。

 

「さっさと交流艇を出発させろ! こっちまで巻き込まれたらどう責任を取るつもりだ!?」

「落ち着いて下さい! まだ乗り込み中のお客様が──」

 

出発時刻まであと十七分弱。

避難民の流入は止まらない。

係員の狼狽も知らぬ気に、ひっそりと交流艇に乗り込むふたつの影があった。

 

「大騒ぎだな。大丈夫かあの人ら」

 

影のうち一つ、レオン=ベルガーが相方に耳打ちする。

 

「知ったこっちゃないよ。おれらは頼まれたことだけやりゃいい」

 

相方──カッツェ=シュヴァルツが、ぼんやりと騒ぎを眺めながら淡々と応えた。

レオンは肩を竦めて溜息を零す。

 

「……それにしたってどうするよ。監獄の場所知らないぞ」

「その辺のひと捕まえて聞きゃいいんじゃないの」

「お気楽過ぎるだろ……」

 

──ふと、ぼそぼそと話す二人の背後に影が差した。

 

「ご案内しましょうか?」

 

二人が、同時に振り返る。

背後には、ニコニコと笑顔を振り撒く使節卿の姿があった。

 

「あれ、さっきの人じゃん」

 

カッツェがぼんやりと呟く隣で、レオンが怪訝な表情を浮かべる。

 

「……あんた、王宮側だろ」

「はい。"宮廷五官"使節卿のニア=ハドリーと申します」

 

依然続く喧騒の中、レオンが目を細める。

 

『乗船中の皆様にお知らせします。当交流艇は、定刻を前倒して只今より出発します。お立ちのお客様は──』

「──だそうですよ」

 

出発を報せる放送装置を指差したニアが、そのまま吊り革に捕まる。

 

「……"宮廷五官"って何?」

「俺が知ってる訳ないだろ。……多分あの人らの敵だよ」

 

動き始めた交流艇の、浮遊感と機動音。

腕を組んだカッツェとレオンが、ぼそぼそと言葉を交わした。

 

 

──────────

✦ピュロン王宮 寝室──

 

 

「……アイルの件にせよ、この騒ぎにせよ……"鷹の翼"は何がしたいんだ?」

 

出撃を諦めて寝転がったアルマの問いに、フォニーが沈黙する。

 

……先程のマクセルからの通信内容を鑑みれば、"鷹の翼"を主導しているのはおそらく騎士団を離れた元騎士達だろう。

彼らが離れた後の経緯を、フォニーは知る由もないが──。

 

『……尋問記録によれば、密売人はアイルの誘拐未遂を"鷹の翼"からの指示だったと答えている。──が、おそらく事実は異なるだろう』

 

フォニーは、騎士団長エルゼンが記録した尋問内容にアクセスしながら慎重に言葉を選ぶ。

アルマが、それを受けて頷いた。

 

「そこは同意見だな。あのタヌキは独断でそう言う事をするし──不利と見れば身内も平気で売る類の奴だ」

 

民衆を扇動するバストーラの姿を思い出し、アルマが眉間に皺を寄せて瞼を閉じる。

 

……そもそも、"鷹の翼"が組織として直接王家に敵対するつもりなら──あの場にいた護衛の質が悪すぎる。

マリナスはともかく、それ以外の連中は完全に素人の集まりだった。

 

「……アイルの件はタヌキの独断として……少なくとも今、騎士団と争ってるのは"鷹の翼"本体なんだろ?」

 

現状を知り得ないアルマが、おそらく今も通信を傍受しているであろうフォニーに向き直る。

 

『そのようだ』

「……僕らと直接争って、何の得がある?」

『……昨日の講義でも伝えたが──争いとは、目的を達成するための手段だ』

 

フォニーもまた、アルマに向き直った。

 

『彼らの大目的を平和主義体制の崩壊と軍拡とした時、騎士団との抗争はそれに寄与しない。──裏に真の目的があり、結果的に抗争に至ったと見るのが妥当だ』

「……その、"真の目的"とやらの目処は?」

 

アルマの問いに、フォニーが小さく俯く。

……ミレディは、ニアの護衛で交流艇に向かっていた筈。

秘密裏に移動していた彼らがそこに居合わせ、やむを得ず戦闘を開始したならば──彼らもまた、交流艇を目指していた公算が高い。

 

『……断言は出来ないが──その答えは、おそらくリゾーマにあるだろう』

 

 

──────────

✦ピュロン王宮 政務殿──

 

 

「なぜ、彼らの目的がリゾーマだと言う話に?」

 

"典礼卿"イシアが、王都の地形図を見つめたままの騎士団長に訊ねる。

 

「……会敵に至った位置、交戦経緯からして、当初の目的地が交流艇であった可能性が高いこと」

 

騎士達からの通信に時折耳を傾けながら、エルゼンはイシアを一瞥した。

 

「事実はどうあれ、ハイルディンがあのような信念の欠片もない密売人と手を組んでまで戦力増強を急いでいたこと。……強いて言うならば──」

 

小さく、息を吸う音。

 

「──ニア=ハドリーが、"リゾーマへの視察"を理由に王宮を離れていたこと」

 

宮廷五官それぞれの脳裏に、同じ笑顔が過ぎった。

 

……使節卿が裏で情報を握っていたと言う筋は、確かに十分有り得る。

同意しながら、しかしイシアは二つ目の論拠を気に留めた。

 

「……ニアの視察目的は分かりませんけれど──"鷹の翼"が戦力増強を急ぐことと、リゾーマへ移動することに何の因果が?」

 

その問いに、エルゼンは僅かに目を伏せ──代わりに、状況を静観していた"国王"クラウスが口を開いた。

 

「──戦犯囚を引き込む狙いだろうな」

「……左様に。ならばニアの行動にも合点がいきましょう」

 

宮廷五官それぞれが表情を歪める。

……監獄と戦犯囚の存在そのものが、リゾーマの、ピュロンの暗部。

いずれも国家体制への敵愾心と、大戦を生き伸びる力を併せ持つ元騎士達──。

 

「……しかし、騎士団長。彼らを解放したとて、丸腰ではどうにも出来まい?」

「──密売人の情報によれば、"鷹の翼"の手には既に相当量の未登録トリガーが渡っている」

 

"司法卿"ロワールに対するエルゼンの回答が、微かな希望を打ち砕く。

 

「……本気で国家と争うつもりか、ハイルディン……」

 

クラウスが項垂れる。

それを一瞥したエルゼンが、静かに拳を握り締めた。

 

 

 

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