✦亡国のフィエリア ─Another_WORLD TRIGGER─(統合中)   作:CABIN.

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政務殿に重苦しい空気が流れる頃。
ほとんどの住民が逃亡し終えた北地区の路上では、騎士達と"鷹の翼"が火花を散らせていた。




《第26話》凶弾

✦王都北地区 ディモフィル街道──

 

 

──大斧が、力任せに空間を斬り裂く。

 

マクセルの重盾がそれを受け止める度、金属音を纏った衝撃波が背後に立つクラリスの髪を巻き上げた。

ミハエルとガルシア両方を警戒しながら、クラリスは髪先を指に絡める。

 

「……随分と大人しいじゃないか、ハイルディン」

 

横薙ぎから振り下ろしに移った大斧を一瞥して、マクセルが口を開いた。

不意に重盾を手放したマクセルが、ハイルディンの手首を掴んで強引に振り下ろしを制止する。

 

──ハイルディンが目を細めた、その直後。

 

倒れてゆく重盾ごとハイルディンを蹴りつけて強引に間合いを広げたマクセルが、腰に提げた騎士剣を一気に引き抜いた。

 

居合抜きによる、首狙いの一撃。

硬質な音を立てた剣閃は、即座に首を守ったハイルディンの手甲を叩いていた。

 

……流石は三英傑、これを防ぐか。

今度はマクセルが目を細める。

 

「一気に決めましょう、副団長」

 

トン、と軽い音がする。

弾かれた剣の先を、数瞬前には背後にいた筈のクラリスの横顔が通り過ぎた。

 

──直後、クラリスの剣閃が乱れ咲く。

細やかな剣捌きの幾つかが、ハイルディンの戦闘体を掠めた。

 

……鬱陶しい。

 

舌打ちしたハイルディンが、振り払うように大斧を薙ぐ。

猫のように身体を捻ったクラリスは、大斧の軌道を躱して即座に飛び退いた。

 

着地の瞬間を狙ったガルシアとミハエルが、背後からクラリスを狙う。

交差した剣は、着地と同時に高く跳び上がったクラリスの髪を撫でた。

 

「良い連携ですこと」

 

……また、こちらを見もせずに……この小娘──。

ガルシアが空中で器用に姿勢を整えるクラリスを視線で追う。

 

「──ガルシア!」

 

ミハエルの叫びに反応し、ガルシアが咄嗟に飛び退く。

直後、マクセルの袈裟斬りがその空間を裂いた。

 

「……マクセル相手だぞ」

「すまん、気が散った」

 

構え直すガルシアと即座にカバーに入ったミハエルの動きを一瞥して、マクセルは剣を鞘に収めた。

 

……深追いすべきではないな。

重い音を立てて、重盾が石畳に降ろされる。

その隣に、再びクラリスが舞い降りた。

 

──二人と三人が、それぞれに間合外で対峙したまま膠着する。

 

『……動きが妙ですわね』

『ああ、僕もそう思う』

 

クラリスからの内部通信に、マクセルが肯定する。

手合わせの感触からして、ハイルディンらは明らかに一歩退いた安全策の構え。

 

現状の数的優劣も、増援が到着すれば容易く覆る。

彼らがリゾーマを目指すにせよ、こちらの撃破を優先するにせよ──戦闘を長引かせるべきではない筈。

 

……では何故、彼らは待ちの姿勢を崩さない?

マクセルは、言い知れぬ違和感に思考を巡らせていた。

 

 

──────────

✦昨日 "鷹の翼"本拠地──

 

 

「……作戦の概要は分かった。もう寝るぞ」

 

"戦犯囚解放作戦"前夜。

ガルシアが、静かに立ち上がって言う。

隣に座るミハエルは、ガルシアのその表情に迷いを感じ取った。

 

……かつて見習い達の成長を熱心に見守っていたガルシアにしてみれば、教え子に刃を向けるようなもの。

僅かに目を伏せたミハエルが、小さく首を振った。

 

「──待てガルシア。まだオプションを話してない」

「……オプション?」

 

部屋に向かう足を止めたガルシアが、ミハエルに視線を送る。

ミハエルは、窓枠に立つハイルディンに向き直った。

 

「我々がピュロンを離れる前に捕捉された場合のプランだ。不安の種は根こそぎ潰しておく必要がある」

 

ハイルディンが、王都の夜景を見下ろして小さく俯く。

……決して望ましい展開ではないが──。

 

「既にリゾーマ側には伝えてある」

 

窓枠を、ハイルディンの指が叩いた。

 

「騎士の抵抗、交流艇の故障。どんな理由にせよ、定刻までに俺達が合流出来なければ──こちら側を分離し、リゾーマ側の戦力のみで作戦を遂行させる」

 

ミハエルとガルシアが、同時に目を細める。

 

「その場合、我々は陽動部隊か」

「そうだ。王都側で可能な限り騎士を引き付け、リゾーマを手薄にする」

「……なぁ、"その場合"でも、別に市民や騎士を殺す必要はないだろう?」

 

ガルシアが、暗い表情で訊ねる。

小さく息を吐いたハイルディンは、鋭い目でガルシアを睨みつけた。

 

「──状況次第だ」

 

 

──────────

✦王都北地区 ディモフィル街道──

 

 

風が、王都を吹き抜ける。

依然膠着が続く中、ガルシアは明らかに動揺を隠せずにいた。

……市民はほとんど逃げてくれたが、このまま戦闘が続けば本当に騎士と殺し合いに──。

 

「ガルシアさんっ!! 戦闘をやめてっ!!」

 

──思考を、良く知る声が遮った。

声の方向を横目で追ったガルシアは、駆け寄ってくる愛弟子の姿に目を見開き、明らかな"隙"を見せた。

 

……ミレディ……どうして戻ってきた……!!

 

「ガルシアッ!」

「──っ!!」

 

ミハエルの警告。

視線を戻した時には、既に──警戒していた相手の一人が、その場にいなかった。

 

「──随分気が散ってらっしゃいますね」

 

耳元の声。

咄嗟に急所を守ったガルシアだったが──。

一瞬で詰め寄ったクラリスのサーベルが、ガルシアの右足を断った。

 

支えを失って傾く景色の中、ガルシアは──ミレディの悲痛な表情を焼き付けていた。

 

「──ちっ!!」

 

ミハエルが咄嗟にガルシアに飛びつき、クラリスの連撃をかろうじて騎士剣で逸らす。

反撃の予感に再び距離を取ったクラリスは、ふわりとミレディの傍に着地した。

 

「せっかく隙を作って頂いたのに、仕留め損ないましたわ」

「……クラリス……! お願い、もうやめて!」

「やめる? ──異な事を申しますね、ミレディさん」

 

掴まれた腕を振り払って、クラリスが再び鷹の翼を見据える。

 

「彼らの目的が突破でも陽動でも──いずれにせよ、短期決戦が最善に決まっていますわ」

「……でも……!」

「──ミレディ。気持ちは分かるが、クラリスの判断が正しい」

 

冷静に全体を俯瞰しながら、マクセルがミレディを諌めた。

 

ガルシアの足では、もはや交流艇には向かえない。

彼らが作戦を陽動に切り替えたと仮定するなら──早期無力化が、取り得る最善。

……しかし──。

 

「……これ以上の小競り合いは互いに利がないだろう」

 

停戦を求めるマクセルの呼び掛けに、ハイルディンは静かに瞼を閉じる。

ミレディもまた、失った右腕を押さえたまま俯いた。

 

「……そうだな」

 

……このままでは、陽動すらも──。

俯いたハイルディンに、ガルシアとミハエルが同時に振り向く。

 

「……ハイルディン!? 待ってくれ!」

「状況次第だと伝えた筈だ」

 

ハイルディンが大斧を降ろし、両手をあげたその直後。

クラリスは、一見降参を示すその所作に、"言語化不可能な危機"の予兆を感じた。

 

……何かの、合図──。

この嫌な予感は何!?

 

「──伏せて下さいっ!!」

 

 

──────────

✦王都北地区 鐘楼塔──

 

 

鐘の下、交戦地の遥か遠方。

スコープ越しに戦況を眺めるひとつの影があった。

"合図"を受け取った青年が、小さく頷く。

 

「……了解」

 

浅い呼吸に合わせて上下していた景色が、止まった。

 

 

──────────

✦王都北地区 ディモフィル街道──

 

 

──乾いた音が、戦場を貫く。

 

視界外の遠距離から突如飛来した弾丸は、咄嗟にミレディを庇おうとしたクラリスの戦闘体に風穴を開けた。

 

「──!?」

「……っ……!!」

 

……供給器官、直撃──。

クラリスの戦闘体に亀裂が走り、閃光と砂煙を伴って爆散する。

 

「「──クラリスッ!!」」

 

駆け寄るマクセル、咄嗟に抱き抱えるミレディ。

戦場に生身を放り出されたクラリスは、驚愕の表情で残響する銃声の方向を見た。

 

……トリオン製の狙撃弾──!?

 

──再び、銃声。

クラリスを庇ったマクセルの重盾に、甲高い着弾音が響いた。

 

「……っ……! 無事か、クラリス!!」

「ええ、生身は。──完全に、してやられましたけれど」

 

呆気に取られた様子で、クラリスが首を振る。

……生身で一撃でも貰えば即死──さて、どうしましょう。

 

マクセルもまた、"双星には存在しない"武器の介入に表情を歪める。

……伏兵……それも狙撃銃だと!?

 

「お前の言う通り──小競り合いは無意味だな」

 

ハイルディンが、ぽつりと呟く。

 

「此処からは殲滅戦に切り替える事にする」

「……ハイルディン……!!」

 

再び、かつての英雄達が睨み合う。

マクセルは、ハイルディンの瞳に燃え盛る業火を見た。

 

 

 





【用語解説】
✧狙撃銃
 簡易トリオン銃に続く、星外の戦闘用トリガー。
 騎士文化を堅持する双星には、元来銃が存在しない。
 
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