✦亡国のフィエリア ─Another_WORLD TRIGGER─(統合中)   作:CABIN.

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『──クラリスがやられた。一時撤退戦に入る』

マクセルからの、クラリス撃破の一斉通信。
報せを受けた王都中の騎士達が、一様に驚愕する。

……あの、クラリスが──。





《第27話》超直感

✦3年半前 修練場──

 

 

「──そこまで! 八対ニ、勝者クラリス!」

 

試合終了を報せる、審判の声。

 

「……流石は正騎士。初めて二本も取られましたわ」

 

ヒュン、と細剣を振って、当時まだ十ニ歳だったクラリスが敗者を見下ろす。

修練場に、どよめきが広がっていた。

 

……見習い期間、僅か三ヶ月。

才能で言えば騎士の中でも──。

 

愕然とした表情でその姿を見上げた敗者──オリバー=ローゼスは、諦観の交じる笑顔を浮かべて立ち上がった。

 

「……騎士試験突破、おめでとう。素晴らしい才能だ」

「恐縮です。良い試合でした、先輩」

 

オリバーとクラリスが、健闘を称え合い握手を交わす。

……その華奢で幼い掌からは、想像もつかない戦力。

物見遊山で騎士試験を見学に来ていた騎士達も、驚愕にあんぐりと口を開いていた。

 

「……王子で一年だったっけ?」

 

その様子を眺めていた騎士──シーザーが、隣に立つロレンスに訊ねる。

半年ほど前、アルマと同時期に騎士試験を突破したロレンスは、その当時を思い出して口を開いた。

 

「八ヶ月くらいじゃなかったっけな」

 

隣に立つシーザーと、超新星の少女。

それらを交互に眺めた後、ロレンスは虚空に視線を送る。

 

シーザーですら、騎士試験を超えるまでに二年。

……俺に至っては、四年近くかかった道を──。

軽々と踏み越えてゆく、眩い光。

 

「──勝ち越しで突破か」

 

背後からの声。

振り返ったシーザーとロレンスは、声の主──イリーナに視線を合わせた。

 

「お、サボりか?」

「お主も悪よのぉ」

「お前らと一緒にするな」

 

二人の背中をパシンと叩いて、イリーナもまた喧騒を眺める。

選抜騎士との一騎打ちとなる最終試験の合格基準は、十本先取制で三本以上。

 

イリーナが知る限り。

ここ数年で最終試験を勝ち越したのは、シーザーと、アルマの二人のみ。

……選抜騎士の運と噛み合わせにも依るが、僅か数ヶ月で正騎士相手に八対ニとは──。

 

「……彼女も、お前と同類か」

「多分な」

 

華やかな所作で観衆に笑顔を振りまくクラリスを眺めながら、シーザーとイリーナが言葉を交わした。

 

 

──────────

 

 

──"超直感"。

 

クラリス=フランソワの持つ副作用は、後にそう名付けられた。

 

潜在意識が認識したあらゆる情報を思考さえ介さず処理し、"直感"として出力する。

取り込んだ情報が増える度、彼女の直感は冴え渡ってゆく。

 

天性の戦闘体操縦技術も相まって、それから一年と経たず──彼女に触れられる騎士は、次第にいなくなっていった。

 

 

──────────

✦王都北地区 ディモフィル街道──

 

 

……やってしまいましたわ。

ミレディに抱えられたクラリスが、無力さに歯を食い縛る。

 

「ミレディ! 先に行け!」

 

襲い来る狙撃と剣斧をかろうじて凌ぎながら、マクセル達が裏路地を目指す。

ミレディが、小さく頷いて走った。

 

……この位置なら、狙撃はない。

射線と"鷹の翼"三人の位置を確認したマクセルが、振り向きざまに重盾を構える。

 

「──必ずまた会おう、ハイルディン」

 

言葉と共に、マクセルは構えた重盾を蹴り飛ばした。

ハイルディンが大斧でそれを弾いた次の瞬間、視界の先には──もう、マクセルはいなかった。

 

「……追うか?」

「いや、まだ増援が来る。──此処で迎え撃つ」

 

ミハエルの確認に、大斧で石畳を叩いたハイルディンが応える。 

片足のガルシアが、ようやく二人に追い付いた。

 

 

──────────

✦王都北地区 裏路地──

 

 

「……ごめんね。私のせいで──」

 

 "貴女がお荷物になりますよ"

 

"鷹の翼"が追って来ないことを確認しながら、ロレンスの発言を胸中で繰り返したミレディが俯く。

 

「いえいえ、そのような」

 

日常の如く、クラリスはミレディに笑い掛けた。

 

「……ミレディさんのお陰で御三方を崩せましたし──伏兵の件は、私が迂闊でした」

「──いや、その責は僕にある」

 

重盾を再生成したマクセルが、静かに自責を零す。

……まさか、ここまでの戦力を騎士に向けてくるとは──考えが甘かった。

 

『……ひとまず、難は逃れた。ハイルディン達は街道に留まっているが──全騎士、伏兵に警戒。狙撃手もいる』

『……狙撃手……!?』

『──ミレディは無事ですか、副団長』

『無事だ。クラリスも怪我はない』

 

騎士達の通信を聞きながら、ミレディがクラリスに視線を落とす。

 

……彼女の"超直感"は、予定調和の世界では無敵に等しいが──副作用は、理外の超能力ではない。

 

知り得ない情報、有り得ない状況に対しては直感が全く作用しない。

何らかの不確実な危機を察しても──言語化不可能故に、自身でさえその予兆を分析出来ない。

物心ついて以来、その直感に深く依存してきたクラリスは──"直感の外側"に対処する術を持たなかった。

 

「……私は心配には及びませんわ。──副団長の補佐を宜しく頼みます、ミレディさん」

 

明らかな気遣いの言葉に、ミレディが瞼を閉じ──小さく、しかし力強く頷いた。

 

「任せて。貴女も無事に帰すから──絶対に!」

 

 

──────────

✦ピュロン王宮 政務殿──

 

 

その頃、政務殿では。

刻一刻と変化する戦況を、全員が注視していた。

 

「──弾道を解析しろ」

「はいな」

 

政務殿に呼び出された案内嬢──ペネロペ=パンナコッタが、エルゼンの指示で入力装置を叩いた。

クラリスが撃たれた地点から逆順に伸びた直線が、王都北地区の鐘楼塔に重なってマーカーを落とす。

 

「狙撃手は鐘楼台かしらね」

「着弾点からの距離は」

「──九百八十。凄腕みたいね」

 

……狙撃銃そのものが脅威だが──。

エルゼンが、眉間に皺を寄せた。

 

「トリオン反応は?」

「待ってね」

 

──地形図に、過去の反応が時系列順で映されてゆく。

撃発の瞬間以外、レーダーは全くの無反応。

……トリオン反応を遮断する隠密装備か、あるいは──。

 

エルゼンは、最後の反応に最も近かった青色の光点──最寄りの騎士に、個別通信を繋いだ。

 

『──アルバート。そのまま鐘楼塔に向かえ、狙撃手はその近辺にいる』

『え!? しかし、ミレディが──』

『無事だとマクセルが応えた筈だ。──行け』

『……えぇ……まぁ……アルバート、了解』

 

もごもごと難色を示しつつ、アルバート=フォルマッジオが通信を切った。

 

……戦線が拡大し過ぎる。

眉間を指で押さえながら、小さく息を吸ったエルゼンは──続けて、別の騎士に個別通信を繋いだ。

 

『状況は聞いているだろう。……緊急故、出撃を許可する。──街道の鎮圧に向かえ』

 

通信越しの、沈黙。

浅い呼吸の音がして、それから。

 

『…………イリーナ、了解』

 

──消え入るような声が返った。

 

 





【登場人物】
✧オリバー=ローゼス(当時21)
 クラリスの最終試験を担当した選抜騎士。
 模範的守衛手として当時から定評がある。

✧アルバート=フォルマッジオ(25)
 シーザーの先輩騎士。
 戦況よりミレディの安否を心配し続けている。

✧イリーナ=ベルベット(20)
 独断専行により巡察任務を解かれた女騎士。
 寝落ちしたシーザーを介抱中。


【用語解説】
✧騎士試験
 見習いが騎士に至る登竜門。
 幾つか項目があり、最終試験では選抜騎士と対決する。

✧選抜騎士
 様々な条件で騎士の中から選ばれる最終試験の番人。
 十本先取で選抜騎士から三本以上取れば騎士試験合格。
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