✦亡国のフィエリア ─Another_WORLD TRIGGER─(統合中)   作:CABIN.

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「……行ってくる」

ぽつりと、イリーナがセイルの背中に言葉を投げた。
しかし返事はない。

「不本意なのは分かってる。でも──シーザーを見ててやって欲しい」

──静かに、扉の閉まる音がした。




《第28話》継承

✦ピュロン王宮 騎士集会所──

 

 

戦闘体は破壊され、この非常時に出撃すら出来ない。

隣で寝息をたてるシーザーの顔を眺めながら、セイルはひとり自責の念に押し潰されていた。

 

……何をしてるんだ、ボクは。

 

私闘で戦う術を放棄し、そうまでして得たのは──完膚無きまでの敗北のみ。

 

何の為に騎士を志したのか。

……少なくとも、こんな想いをする為では無かった。

 

 

──────────

✦八年前 修練場──

 

 

セイルが、騎士見習いとなってすぐの頃。

先任騎士と見習い達の、模擬戦闘訓練。

 

「──ぬるいっ!!」

「ぐえっ!!」

 

 

時の先任騎士──ガルシア=エヴァンスの当て身に吹き飛ばされた見習いのひとりが、勢い良く転げた。

 

「訓練で及び腰じゃ話にもならんぞ! 次!」

 

見習い達が体を震わせ、おろおろと互いに目線を送り合う。

 

「……いや、勝てる訳ないじゃん……」

「イジメだよこれ……」

 

力の差は歴然。

その場の誰もが二の足を踏む。

 

「どうした! 骨のある奴はおらんのか!」

 

ガルシアが声を張り上げても、どよめきだけが広がる。

そんな中──。

 

「──セイル=ランページ、行きます!」

 

ふと、セイルが手をあげて叫んだ。

 

「……ランページ?」

 

ガルシアが眉を動かす。

初めて見かける、まだ幼い新米見習い。

ただ、その名に、顔つきに、良く知る面影があった。

 

「──ジェイクの倅か!」

「はい! 顔も知らないですけど!」

 

力一杯叫ぶ少年に、ガルシアが顔を綻ばせる。

大戦で惜しくも散ったジェイク=ランページは、かつてガルシアの好敵手だった。

 

「よし、ならば手加減せん! 全力で来い!!」

「はいっ!」

「……いや、手加減はしろ。殺す気か」

 

腕を組んで眺めていたミハエルが、呆れながら諌める。

 

──剣戟が交差する。

まだ拙い立ち回りで、何度となく転げ回りながら、それでもセイルは果敢にガルシアへと挑んだ。

 

……それから、しばらくして。

 

「──鍛錬して出直してこい、セイル!」

「……あ、ありがとう……ございました……」

 

投げ飛ばされたセイルが、大の字になる。

 

自身が生まれる前に亡くなった父を、顔も知らない。

それでも──父は、騎士として勇敢に戦ったのだと。

命を賭けてこの星を守ったのだと、母から何度も聞かされてきた。

 

……ボクも、そうありたい、そうなりたい。

今はまだ遠く霞んでいても、いつかその背中に並び立って──。

 

「──次!」

「……ミレディ=エンシェント、行きますっ!!」

「ようやく覚悟が決まったか! 全力で来い!」

 

また、剣戟の音が修練場に響く。

──セイルの霞む視界に、ふと同期生の顔が割り込んだ。

 

「……大丈夫?」

 

心配そうに水を差し出す少女──イリーナに、セイルが慌てて上体を起こす。

 

「──へ、平気さ、このくらいは。ありがとう」

「どう致しまして。……加減って言葉を知らないのよ、あの人は……」

 

ガルシアに視線を移したイリーナが、呆れたように溜息を零す。

水を受け取りながら、セイルはその横顔をただ眺めていた。

 

 

──────────

✦ピュロン王宮 騎士集会所──

 

 

「……ボクは何の為に騎士になったんだろうな。──なぁ、シーザー」

 

イリーナが去った扉を一瞥して、セイルが項垂れる。

……戦闘体の再生成まで、あと何時間かかるだろう。

有事に動けない騎士に、何の意味があるのだろう──。

 

「知らんよ、そんなもん」

 

ふと、そんな声が返った。

はっとしたセイルは、目を開いたシーザーに視線を戻す。

 

「……起きてたのか」

「今起きた。──通信がうるさい」

 

上体を起こしたシーザーが、大きく背伸びする。

 

「おれが寝てる間に何があった?」

「……ボクが知る訳ないだろう。貴様に戦闘体を破壊されたせいで通信が聞こえないんだから」

「そう言えばそうか」

 

憎まれ口を叩きながら、セイルはまた自己嫌悪に囚われた。

……自分で蒔いた種だって事は分かっていて、それでも──。

 

あの日。

遅れてやってきたシーザーの、ガルシアとの熱戦も。

それを眺める、イリーナの眼差しも──。

いつだって、セイルの劣等感を刺激して止まない。

 

……だから、ボクは貴様が嫌いだ。

 

「……詳しくは知らないが──ガルシアさん達が、王都で暴れているらしい」

「なんだそれ。イリーナは?」

「もう、出撃したよ」

 

シーザーが、項垂れるセイルに視線を送る。

……通信に意識を傾ける限り──戦況は、混沌を極めていた。

 

「──じゃあ、おれも行くか」

「夜警明けじゃなかったのか」

「熟睡したらマシになった」

 

騎士剣を生成しながら、シーザーがあっけらかんと言う。

 

「……半端なコンディションで戦場に出るな。死ぬぞ」

「だからだよ」

 

シーザーが肩を回す。

 

「相手がガルシアさん達で、イリーナが本気出せる訳ないだろ。──あいつ、なんだかんだで甘いから」

 

横をすり抜けようとする肩を、セイルが掴む。

食い込んだ指に、シーザーは目を細めた。

 

「なんだよ。離せ」

「……貴様が、気に入らない」

「そんな事言ってる場合か?」

「──分かってる!」

 

セイルが叫んで、それから──指先の力を緩める。

……自身の無力に、セイルは胸が締め付けられた。

 

「……イリーナを必ず連れ帰れ、昼行灯。……頼む」

「任せろ」

 

今度は、シーザーがセイルの肩を叩く。

扉を見据えた目は、もう"昼行灯"のそれではなかった。

 

『団長、おれも出ます』

『シーザーか。分かった、油断するな』

『はい』

 

──また、扉の閉まる音がする。

項垂れたまま、セイルは歯を食い縛っていた。

 

 





【登場人物】
✧ジェイク=ランページ
 息子の顔を見る事なく大戦で散った騎士のひとり。
 ガルシアやミハエルと肩を並べる豪傑だった。

✧セイル=ランページ(20)
 シーザーとの私闘に敗北したジェイクの一人息子。
 宮廷十騎にこそ選ばれなかったが、彼もまた有力な騎士。
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