✦亡国のフィエリア ─Another_WORLD TRIGGER─(統合中)   作:CABIN.

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──狙撃が、止まった。
物陰に身を潜めていたロレンスとマービンは、互いに視線を合わせた。





《第30話》終戦世代

✦王都北地区 ディモフィル街道──

 

 

『全隊員に一斉、アルバートが狙撃手を抑えた。……が、潜伏中の狙撃手が一人とも限らん、伏兵に十分警戒しろ』

 

「……どうする?」

 

団長からの通信を受けたロレンスは、街道中央に堂々と陣取る"鷹の翼"三人を警戒しながらマービンに問う。

 

「どの道、俺らじゃ手負いのガルシアさん一人相手でも無理だ」

 

……まして三英傑とミハエルさんも一緒なんて──。

首を振ったマービンが、耳に指先を重ねて通信を開いた。

 

『団長。ガルシアさん達、いや──"鷹の翼"は、今のとこ動きないです。様子見で良いですか?』

『動き始めるまではそれでいい。戦力が揃うまで無意味な消耗戦には付き合うな』

 

ロレンスとマービンが視線を送り合い、小さく頷く。

 

『マービン、了解』

『ロレンス了解』

 

 

──────────

✦王都北地区 ディモフィル街道、中央──

 

 

『……隠れておけと言っただろう。死ぬぞ』

 

狙撃手──キースからの報告に、ミハエルが呆れて言う。

 

『生きてるし、当てた。──俺の勝ちだ』

 

荒い息遣いで、尚もキースは勝ち誇った。

……大義もない無頼漢に、大局を見れよう筈もないが──。

 

『的当てしてるんじゃない。狙撃地点を抑えられた時点で目的を達成したのは向こうだ』

『あいつらやお前らの目的がなんでも、俺には関係ない』

『……もう良い、お前は拠点に戻って傷の手当をしろ』

 

返事はない。

ミハエルが、大きな溜息をついた。

 

「……隠し玉は早速抑えられたが──どう動く、ハイルディン?」

 

ミハエルが地形図に視線を落とす。

曲がり角に身を潜める二つの光点はこちらの様子を伺っているようだが、幾つかの光点が新たにこちらへ──。

 

「交流艇出発までは寄ってくる騎士共の相手をしていれば良い」

 

大斧を肩に担いだハイルディンが、長い息を吐いた。

ミハエルは、地形図に視線を落としたまま静かに口を開く。

 

「……定刻まで数分だが──どうやら、既に前倒しで出発したようだ」

「何だと?」

 

マクセル達と小競り合いしている内に、交流艇のトリオン反応が消えている。

 

報告を受けたハイルディンが、交流艇乗り場方向へと視線を送った。

……あの餓鬼共は計画通り乗り込んだのか?

どちらにせよ、大勢に影響はないが──。

 

──ふと、ハイルディンが物陰に鋭い殺意を向ける。

ロレンスが、慌てて顔を引っ込めた。

 

「なら、道中の騎士を蹴散らしつつ移動だ。"予備機"を叩くぞ」

「ああ、それが良いな」

「──ハイルディン、ミハエル」

 

動き始めた二人を、沈黙していたガルシアが呼び止める。

それぞれが、ガルシアに視線を向けた。

 

「……俺は、此処に残って良いか? この足で移動はままならんよ」

 

……何処までも、甘い奴だ。

目を細めたハイルディンが、静かに口を開く。

 

「……戦闘も同様にままならんだろう」

「ガルシア。──既に戦場だ、孤立すれば死ぬぞ」

 

冷たい声で諌めるミハエルに、ガルシアが俯いて笑った。

 

「エルゼンやマクセルが向かってくるようなら撤退するさ。──"終戦世代"相手なら、まだまだ遅れは取らんよ」

「……移動についてこれない奴が、エルゼン相手に撤退? 詭弁はよせ、ガルシア」

「いや、それで良い」

 

ミハエルの声を、ハイルディンが遮る。

顔を上げたガルシアが、ハイルディンを見つめた。

 

「手負い相手に王宮が戦力を割くなら、それはそれで好都合だ」

「……しかし、ハイルディン──」

「黙れ」

 

食い下がるミハエルを一括したハイルディンは、ガルシアを睨みつけた。

 

「二つ、肝に銘じておけ」

 

ハイルディンが歩み寄る。

ガルシアは、その威圧感に僅か身を退いた。

 

「随分と愛弟子共がかわいいようだが──此処に残る以上、責任を持って貴様が息の根を止めろ」

 

 "此処からは殲滅戦に切り替える事にする"

ハイルディンの言葉を反芻したガルシアが、顔を歪める。

 

「手を抜いて囚われる位なら、責任を果たして此処で死ね」

「──ハイルディン!」

「黙れと言ったのが聞こえなかったのか」

 

ミハエルが歯を食い縛る。

……大義に殉じるとは言え──。

 

「……むざむざ、見殺しにするようなものだ」

「そう言っている。──貴様は愛弟子共と戯れておけ」

 

ガルシアをひと睨みしたハイルディンは、交流艇乗り場に向けて歩き始めた。

 

「……私達まで使い捨ての駒なのか、ハイルディン!」

「良いんだ、ミハエル」

 

ハイルディンは歩みを止めない。

葛藤に曇るミハエルは──最後に小さく首を振って、その背中を追った。

 

「……ありがとう、ハイルディン」

 

項垂れたまま、ガルシアがぽつりと零す。

……お前達と争うならば、せめて、俺の手で──。

 

「……手負い一人相手に、二人がかりでこそこそするんじゃない。──いい加減覚悟を決めろ、小童共っ!!」

 

ガルシアが、物陰に、自身に向かって叫ぶ。

ロレンスとマービンが、また顔を見合わせた。

 

 

──────────

✦八年前 修練場──

 

 

「……いい加減起きろよ、ロレンス」

「いーや、まだ無理。──あのおっさん、マジで手加減ってもんを知らねぇ……」

 

肩で息をしながら、ロレンスはマービンに応えた。

──ロレンスの顔に、影が落ちる。

 

「誰がおっさんだ、この小童が!」

「うえっ」

 

先輩騎士──ガルシアに片手で軽々と引き起こされたロレンスがえずく。

 

「──"終戦世代"はすぐ音を上げる! さっさと構えんか!」

「あんた今日先任騎士じゃないでしょ!? なんなんすかもー!」

「ご愁傷さま」

 

手を合わせるマービンを、ガルシアがじろりと睨む。

 

「こいつが済んだら次はお前だぞ、ロレンス」

「……あー……遠慮しときます」

「なに他人事ぶってんだてめー! やっちゃって下さいよガルシアさん!」

「おうとも。──纏めてたっぷりとな!」

「ぐええっ──」

 

……在りし日の、記憶。

ことあるごとに現れて見習い達を締め上げるガルシアは、当時の彼らにとって最も印象深い騎士だった。

 

「──お前たちは知らんだろう。戦争がどれ程飛散で、痛々しいものか」

 

ガルシアは、よく大戦時の記憶を話した。

どうやって、この星は守られたか。

その為に、どれだけの騎士が戦場で散ったか──。

 

……正直、実感は湧いてこない。

それでも、終戦世代の彼らは──その話をする、ガルシアの悲しい瞳を胸に刻んだ。

 

「お前たちが、いつまでも"終戦世代"であって欲しい。戦いには身を投じて欲しくない。……だが──」

 

見習い達を見渡したガルシアが、小さく息を吸う。

 

「騎士たる者、万が一実戦になってもお前たちが生き残れるように! ──俺が、今締め上げる!!」

「だぁーっ! 結局こうなるんだよ、このおっさんはさぁ!!」

「マービン!! ボクを盾扱いするな!!」

「くわばらくわばら」

「逃げ回るな! いい加減覚悟を決めろ!!」

「……すんません、遅れましたー……何これ」

「──遅れすぎだシーザー! まずお前の粛清からだ!!」

「えええ」

 

ロレンスも、マービンも。

ガルシア達が離れた後も、その頃の記憶を糧に──やがて、それぞれ騎士の道を歩んでいった。

 

 

──────────

✦王都北地区 ディモフィル街道、物陰──

 

 

「……嫌なこと、思い出しちまった」

「俺もだよ」

 

 "ガルシアさんを止めないと──!"

ミレディの悲痛な叫びを反芻して、二人は覚悟を固めた。

 

『──二人、交流艇に向かいました。片足のガルシアさんだけなんで、俺らでやります』

『少し待て、増援が向かっている』

『……待ってくれないでしょ、このおっさんは』

 

物陰からようやく姿を見せた、見覚えのある顔付き。

ガルシアは、静かに鞘から騎士剣を抜いた。

 

……いや……男子、三日会わざれば、か。

騎士団を離れて、はや七年。

当時の雛鳥も、随分と騎士らしい顔付きになった。

 

「……昔っから、あんたのこと嫌いだったんだよなぁ」

「なんせ散々"可愛がられた"しな」

 

ロレンスが、マービンが。

ガルシアから視線は外さないまま、剣を抜いた。

 

「……何やってんだよ、おっさん。こうなったらもう──」

「──斬るしか、ないんですよ。俺らも騎士なので」

 

……既に、覚悟が決まっている。

構えに入るかつての雛鳥達に、もう甘えはなかった。

 

「……構えで分かるぞ。ロレンス、マービン──強くなったんだなぁ」

 

記憶を過ぎらせた二人が、同時に顔を歪める。

それでも、構えは緩めない。

 

 "戦いには身を投じて欲しくない"

 

……あんたが──自分で、そう言ったんだろうがっ!!

 

『──ロレンス、マービン 交戦する!!』 

 

通信を終えた二人が、同時に駆け出した。

 

 





【用語解説】
✧終戦世代
 二十年前の大戦以降に生まれ、戦争を知らぬ世代。
 終戦年に生まれた満二十歳組が象徴的な立ち位置。

✧予備機
 二隻ある交流艇の内、運航されていない側の機体。
 整備や増便の為、双星の両側に一機ずつ格納。
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