✦亡国のフィエリア ─Another_WORLD TRIGGER─(統合中)   作:CABIN.

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ロレンス達が、"鷹の翼"と交戦し始めた。

暗闇の鐘楼塔内部。
交錯する通信を聞きながら、アルバートはひとり自問する。

……俺が、今すべき事は。
最優先は、狙撃手を見失わないこと。
次点で、この鐘楼塔を抑えること。

それでも──。






《第31話》分岐点

✦ピュロン王宮 政務殿──

 

 

『……団長。俺を、ミレディの所へ向かわせて下さい』

 

騎士団長──エルゼンが、アルバートからの通信に眉を顰める。

 

『お前の相手は狙撃手だ。──実戦に私情を持ち込むな』

『分かってます。分かってますけど──心が、持ちません』

 

動揺を隠さないアルバートの懇願に、エルゼンは瞼を閉じた。

 

……戦闘体の損傷は比較的軽いが──。

完全に、戦意を失っている。

自他双方の機微に聡いアルバート自身が宣う以上、実際に持たないだろう。

 

『……ミレディは、生身のクラリスを抱えて王宮を目指している。──ミレディからクラリスを引き継ぎ、貴様も王宮に戻れ』

『……ありがとうございます。──行きます』

 

ぷつりと、通信が途切れた。

 

生身で戦場を駆ける狙撃手。

交流艇に向かいつつあるハイルディン達。

若手騎士と衝突するガルシア。

既に戦闘体を破壊されたクラリス。

……伏兵も、まさかひとりではあるまい。

 

いずれを放置しても──死人が出かねんな。

意を決したエルゼンが、一斉通信回線を開いた。

 

『──各員、そのまま聞け。戦況整理と指示伝達だ』

 

頷いたペネロペが、手元の操作盤に触れる。

全地区の騎士達に、王都の地形図が届けられた。

 

 

──────────

✦王都北地区 裏路地──

 

 

『"鷹の翼"の目的は、おそらくリゾーマでの内乱。交流艇に乗り込む以前に我々と会敵した事で、奴らは隠密作戦から交戦へと手段を切り替えた』

 

北地区の会敵点が、視界の端で煌めく。

死角からの奇襲を警戒しながら裏路地を駆けるマクセルが、無言で通信に頷いた。

 

『"鷹の翼"を指揮するハイルディンは、目的の為には手段を選ばないが──手段と目的を混同するような男ではない』

 

……同意見だ。

彼らが"強行突破"や"撤退"ではなく、交流艇を逃してでも"徹底交戦"を選択したと言う事は──。

 

『──交戦の目的は、こちらの戦力分散。奴らはリゾーマ側にも目的達成の手段があり、自身らは陽動に徹する方向に切り替えたと推測する』

 

通信を聞きながら、ミレディが視線を伏せる。

……だとすれば──この戦闘は、私が、彼らに斬り掛かったせいで始まった。

 

その様子を一瞥して、マクセルがミレディの背中を優しく叩いた。

 

『こちらが把握する限り、"鷹の翼"の最大戦力は六十名前後、大多数が戦争孤児や破落戸だが──ミハエル、ガルシアらが組みしていた事実から、相当数の元騎士が流れている可能性もある』

 

マクセルの瞳にも、僅か影が宿る。

ハイルディンも、ミハエルも、ガルシアも──かつては命を預けあった、誇り高き同胞。

……君達は、一体何の大義に突き動かされている。

 

『また、奴らには複数の未登録トリガーが流入している。鐘楼塔の狙撃手は既に撤退したが、破落戸でさえ騎士団の精鋭を落とし得る事実には十分留意されたい』

「──今、私の話をされてる気がしますわ」

「……え、なんで?」

 

生身で、戦闘体経由の通信は聞こえない筈。

クラリスの唐突な発言に、ミレディは苦笑いを浮かべた。

 

『……それらを踏まえ──こちら側も戦力配置を整理する』

 

──ふと、マクセルが物陰の物音に反応する。

条件反射でミレディを庇う重盾が、唐突に放たれたトリオン弾を弾いた。

 

「──!?」

「……先に行け、ミレディ。クラリスを頼む」

「はい!」

「ごめんあそばせ」

 

急停止するマクセルの隣を、頷いたミレディと、ミレディに抱えられたクラリスが駆け抜ける。

……何故、こんな所に伏兵を。

 

「あら、行っちゃった。……じゃあ、おじさんでいいや。悪いんだけどさぁ」

 

薄汚れた衣服を纏う少女が、物陰からふらりと現れた。

小さな手に握られた銃の先端、トリオンの残滓が静かに煌めいている。

 

「──ちょっと、死んで貰って良い?」

「承り兼ねるな」

 

マクセルが、騎士剣の柄に手をかけた。

 

 

──────────

✦ピュロン王宮 寝室──

 

一方、その頃。

寝室のアルマは、フォニーの拡張機能を介してエルゼンの一斉通信に耳を傾けていた。

 

……リゾーマ狙いの読みまでは、エルゼンもフォニーと同意見か。

腕を組んで瞼を閉じたアルマもまた、その真意に思考を巡らせる。

 

『北地区を除く巡察中の各騎士は、各地区の巡察を継続しろ。──陽動目的と仮定する以上、撹乱狙いで各地区の伏兵を市民に向ける可能性も捨て切れん』

 

……その手は、おそらく使わない。

アルマは、アイルを庇おうとしていたマリナスの振る舞いを浮かべながら通信に反論する。

 

「……"なんでもあり"で陽動を仕掛けるつもりなら、最初から市民を狙って暴れてるだろ」

 

ふと、フォニーがアルマに身体を向けた。

 

『可能性の高低はともかく、"騎士団長"の立場で切り捨てるには読み違えた場合のリスクが大きいだろう』

 

「……市民狙いで先にリスクを抱えるのは"鷹の翼"の方だろ? 騎士団が総力戦に傾けば一瞬で終わりだぞ」

 

『彼らにしてみれば、交戦したその時点で既に過剰戦力を向けられるリスクはあった。──それでも交戦を選択した、と言う事実が先にある』

 

……言われてみればそうか。

アルマもフォニーに向き直って、しかし反論を続ける。

 

「……相手は腐っても元騎士だろ? 流石に無辜の民に刃を向けたりはしない筈だ」

 

『……真に追い詰められれば、人は倫理、論理、合理を容易く手放す。──私は多角的に備えておくエルゼンの判断に賛成だ』

 

「……まぁ、それはそうか」

 

……立場ってものは、何にせよ大変だな。

アルマがそう納得しかけた時──。

 

『──の騎士は、極力体力を温存しつつ出撃に備えておけ』

「あ」

 

頭切れで再度再生されたエルゼンの通信に、アルマがフォニーをじろりと睨む。

 

「黙ってろフォニー。……お前が喋ったら通信聞こえなくなるだろ」

 

フォニーが、無言のまま小さな身体を振るう。

抗議の意図をそこに感じ取ったが、アルマはそれを無視した。

 

『──各員、奮励努力されたい。以上、通信終わり』

 

通信が途切れる。

……ぽかんと口を開けた後、アルマは再びフォニーを見た。

 

『……先に言っておくが、私のせいにするなよ』

「違う違う。──お前は聞こえてたんだろ? 要約してくれ」

 

再び身体を揺すったフォニーが、途切れた通信の内容を解析する。

 

『……ハイルディンらが交流艇乗り場に向かったのは予備機狙いと見て、出撃済の四名を向かわせる』

 

『既にガルシアと交戦中の街道には、こちらも出撃済のニ名を増員』

 

『アルバートは狙撃手の追跡を中断し、撤退中のマクセルらに合流』

 

『クラリスの身柄を引き継ぎ次第、アルバートは帰還、マクセルは交流艇、ミレディは街道にそれぞれ加勢』

 

『──だそうだ』

 

脳内で地形図を回しながら、アルマが俯く。

 

「……撤退した狙撃手は? 放置するのか?」

『言及は無かったが──狙撃手は生身、それもアルバートが斬撃を浴びせている。即座の復帰は難しいだろう』

「──生身?」

 

……なるほど、狙撃型の簡易トリオン銃か。

アルマが、商店から逃げ出すゴロツキの背中を思い出す。

扱い次第では、戦闘体の優位性が根底から覆る装備だ。

 

「……厄介だな。伏兵の扱いは?」

『あくまで出撃中の騎士に任せる、との事だ』

「対応しなくて良いのか? 奇襲され放題だぞ」

『──したくとも、その手段がない』

 

アルマが小さく眉を顰める。

 

『レーダーには映らず、民を装われれば判別も出来ない。……万が一、誤って市民を攻撃すれば──そこで騎士団は崩落する』

 

フォニーの言葉で、アルマの脳裏には昨日の忌まわしい映像が過ぎる。

自身に、王家に、騎士団に向けられた──猜疑と、嫌悪の目。

 

ある意味、薄氷に立たされているのはこちら側か。

……つくづく、厄介だな。

 

「……僕に、今出来る事は?」

『強いて言うなら、こうして考えることだ』

 

 "……俺は、どうすれば良かったんだ……フォニー"

窓際に移動したフォニーの中枢に、在りし日の、国王の声が過ぎる。

 

『……いずれ、解無き決断の瀬に立つ事もあるだろう。──今はそれに備えておけ、アルマ』

 

……備えておけ、か。

アルマは、トリガーさえ持たぬ空虚な掌に視線を落とした。

 

 

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