✦亡国のフィエリア ─Another_WORLD TRIGGER─(統合中)   作:CABIN.

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騒然とする交流艇内部。
──ふと、乗客のひとりが、窓の外へと視線を送る。

夜の暗闇を駆ける交流艇。
主星が放つ蒼白色の光。
淡く照らされる、翡翠色の伴星──。

双星を覆う"欠けた星輪"が、静かにそれらを見守っていた。






《第32話》真意

✦夜の暗闇 交流艇──

 

 

「──リゾーマへの渡航は初めてですか?」

 

微かな機械音と、ざわめきの中。

相変わらず真意の読めない笑顔で、"使節卿"ニアは二人の少年に言葉を投げる。

 

「そりゃ、おれらには金も用もねぇもん」

「まぁ、でしょうね」

「……だからこの人敵だって。何普通に喋ってんだよ」

 

淡々と答える"鷹の翼"の協力者──カッツェの肩を、相方のレオンが小突いた。

 

「いやいや、協力するって言ってるじゃないですか」

 

……絶対なんか裏があるだろ。

レオンは、ニアに猜疑の目を向けながら腕を組む。

 

「王宮側がなんで俺らに協力するんだよ」

「裏路地で話しましたよ、と言うのは置いておくとして──立場を言うなら、君達も別に"鷹の翼"じゃないでしょ」

 

ニアの指摘に、レオンが言葉を詰まらせる。

 

──彼らは、鷹の翼が語る思想に興味がない。

政治にも防衛にも、信念にも謀略にも同様に。

生きる為に必要か、単純にそうしたいか。

彼らの行動指針は、いつだってそこにしかなかった。

 

「あんたが信用出来るかとは別の話だ。すり替えんな」

 

ビシッと指を指して、レオンが言う。

カッツェの視線を追って窓の外を眺めたニアの笑顔に、僅かな影が差した。

 

「……君たちが生まれる五年くらい前ですかね。──昔、この双星を巻き込んだ、大きな戦争がありました」

 

不意に。

ニアが突拍子もない話を始める。

 

「戦争がようやく終わった頃、ワタシはまだ今の君たちより幼い位の歳で──当時は、君たちと似たようなことをしてました」

 

ひらひらと視界の端で振るわれた財布に、カッツェがあっと声をあげた。

 

「──おれの財布! 返せよ!」

「君のじゃないでしょ」

 

掲げられた財布を取り返そうと、背伸びしたカッツェが騒ぐ。

ひらひらと躱しながら、ニアは言葉を続けた。

 

「あれから二十年、混乱も、復興も──この双星には、色々とありましたが」

「おい、投げんなよマジで。フリじゃねーからな」

 

スナップを効かせて投げられた財布を追って、カッツェが乗客の中に飛び込む。

それを一瞥して、ニアがレオンの目を見つめた。

 

「……今尚、戦災が生み出した歪みは続いていて、王宮から救いの手は届きません。──恨まれても仕方ありません」

 

 "……禊を願います"

王政評議に立つアルマの言葉が、ふとニアの胸中を過ぎった。

 

「……だから──裏はともかく、協力したいのは本当です」

 

大騒ぎする乗客と、その元凶になっている相方を一瞥したレオンは──小さく首を振って、ニアを見つめ返した。

 

「あんたらを恨んではない。……恨めるほども知らないし」

「では、今回で色々と知って貰うことにしましょう。それでいいですか?」

 

ニアの手が、レオンの前に差し出される。

レオンが、未だ疑いの残る、揺らぐ視線をその掌に落とした。

 

……カッツェは迂闊な奴だけど──あいつから物を掠め取るなんて、相当の"経験"がなきゃ無理だ。

 

少なくとも、さっきの話は嘘じゃない、筈。

レオンは、再びニアの笑顔をじろりと睨んだ。

 

「……騙してたら痛い目に合わせるからな」

「あはは、信用ないですね〜」

 

手を取り合う二人の身体を、振動が伝う。

──交流艇が、リゾーマの重力圏に差し掛かった。

 

 

──────────

✦王都北地区 市街地──

 

 

『こちらマクセル、裏路地で伏兵と会敵した。……説得の後、要すれば無力化する』

 

鐘楼塔を抜け、一目散にミレディの下へと駆けていたアルバートは、マクセルからの一斉通信に歯を食い縛った。

 

『副団長! ミレディは──!』

『先に行かせた。ストルク公園方向だ』

『すぐに行きます』

 

アルバートが上空で地形図を開く。

裏路地で留まったマクセルらしき光点。

その傍を離れたもうひとつの光点が、王宮方向へと南下していた。

 

『──ミレディ! そちらも伏兵に気をつけろ!』

 

アルバートの呼び掛けに、返事はない。

 

……無事でいてくれ──!

屋根を力強く蹴りつけて、アルバートが王都上空を駆けた。

 

 

──────────

✦王都北地区 ストルク公園──

 

 

「……あんなところに伏兵を置いた真意は、何だろ」

 

伏兵の対処をマクセルに任せ、裏路地を抜け。

王都へと続く道中──ストルク公園へと差し掛かったミレディは、先程の少女を思い出して独り言ちた。

 

団長の推測が正しければ、そもそも彼らは戦闘をする気が無かった。

……結果、私のせいで──戦闘は始まり、陽動に切り替えたのだとして。

 

騎士を狙うのなら、クラリスを撃った狙撃手がそうであったように、鐘楼塔のような戦闘の要衝を。

市民を攻撃して撹乱を狙うなら、もっと人通りの多い場所を押さえたい筈。

 

……逃走に対する、追撃?

戦闘になるかどうかも、逃走を選択するかどうかも、この道を選ぶかどうかも分からないのに──。

 

「──真意など、ないのでは?」

 

あっけらかんとした様子で、クラリスが独り言に応えた。

 

「……ない?」

「先程は不覚を取りましたけれど──鐘楼塔の狙撃手」

 

クラリスのしなやかな指が、進行方向と反対側、北端に聳える鐘楼塔を指差す。

 

「既にこともなく対処が済んだのでしょう?」

 

その先を視線で追ったミレディは、図らずもアルバートの顔を過ぎらせた。

 

「──う、うん。通信ではそう言ってた」

「それ、おかしくありません?」

「……何が?」

 

鐘楼塔を指していた指が、静かにクラリス自身に当てられる。

 

「"四席"を落とす程の脅威、こちらは放置出来ないでしょう? 殲滅にせよ陽動にせよ──切り札の扱いが杜撰過ぎましてよ」

 

ミレディが、はっとした表情を浮かべた。

……確かに、元騎士以外の全戦力を鐘楼塔に集結させられていれば──。

 

きっと、狙撃は今も続いていて。

こちらは、その対応に戦力を分散せざるを得なかった筈。

 

「大戦経験者が、そんなことに思い至らない筈がありませんのに。そうしなかったのはきっと──伏兵達が、それぞれ好き勝手に動いているからですわ」

 

 "……誰?"

 "俺が知ってる訳ないだろ。とりあえず逃げようぜ"

 

──開戦、直前。

そそくさと逃げていった二人組の少年達を、ミレディは思い出した。

 

……好き勝手に動いているから、かどうかはともかく。

統制に欠けると言う指摘は論理に導かれたもので、そう言う時──彼女の"直感"は、大抵当たる。

 

「……確かに、有り得る線かもね」

「でしょう。──あら?」

 

ふと。

クラリスが、再び鐘楼塔方向を見上げた。

リゾーマの光に輪郭を浮かべる鐘楼塔の影、その隣に、高速で接近する小さな影。 

 

「──ミレディーッ!!」

「……げ」

 

夜の王都に響き渡る、自身の名を呼ぶ声。

ミレディは、思わず声の方向から顔を背けた。

 

 





【用語解説】
✧星輪
 主星ピュロンと伴星リゾーマを覆う光の円環。
 欠けた部分が、リゾーマの軌道を追って回る。

✧ストルク公園
 王都北地区に存在する小さな公園。
 昼間は子ども達とその親で賑わう。 
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