✦亡国のフィエリア ─Another_WORLD TRIGGER─(統合中)   作:CABIN.

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俄に困惑が広がる、王宮の一角。
その騒ぎも知らぬ気に、黙々と作業を続ける技師達。

"宮廷技術局"の工房で、ひとりの男が鼻歌を歌う。

「──そうだ、局長。"あれ"、うまく機能したんですよ」

騎士達の通信を聞きながら。
上機嫌な男が、老年の"局長"に声をかけた。





《第33話》技術局

 

✦ピュロン王宮 技術局工房──

 

 

「──くだらんもんばかり作りよってからに」

 

機嫌の悪い技術局長──ソロモン=バミューダは、男の鼻歌に苛つきながら応える。

 

……全く、此奴は──。

技術局を、遊び場かなにかと勘違いしとる。

宮廷五官は、何故このような男を副局長に。

 

「発展は、いつだって自由な発想から始まるもんです。──実際役に立ちましたし!」

 

自身の開発した"新作"が、想定通り機能した。

それも、極めて珍しい実戦の場で──。

 

副局長──ラチェット=クランカは、満面の笑みで尚も鼻歌を歌った。

 

 

──────────

✦数十分前 ピュロン王宮 回廊──

 

 

「──お急ぎみたいですね、副団長」

 

応援要請直後。

修練場から飛び出したマクセルを、ラチェットが呼び止める。

 

「ラチェット。悪いが、お喋りしている時間は無さそうだ」

「そんな副団長に、ちょうどお誂え向きの新作が完成したんですよ」

 

マクセルが、怪訝な表情を浮かべる。

……また、妙なトリガーの実験台にする気か。

 

「後にしてくれ」

「──戦闘体とは言え、今から走って間に合いますか? 遊撃手ならまだしも、重装手の速度で」

 

マクセルがぴくりと眉を動かす。

 

……既に、ミレディは交戦を開始している。

──彼女ほどの腕の持ち主が、応援を要請する状況。

おそらく、生半可な相手では無い筈。

 

「だから急いでるんだ」

「北地区ですよね? ──運良く、そちらに向けて仮設置してたとこです」

 

ラチェットの親指が、すぐ傍の中庭を示した。

 

「──試作・"戦闘体発射台(カタパルト)"。ひとっ飛びですよ」

 

……発射台?

マクセルは、その突飛なアイディアに怪訝な表情を浮かべたが──。

 

──結局。

時間に圧されてラチェットの才能に賭けたマクセルは、中庭の怪しげな装置に乗り込み──。

 

直後、北地区へと"射出"された。

 

「──大成功!」

 

超高速で離れる副団長の影に、ラチェットは満足げに呟く。

そのすぐ後ろ、マクセルを追って走ってきたクラリスが、その光景に目を輝かせた。

 

「あら、あらあらなんですのそれ。楽しそうですわ」

「あー、ごめんクラリス。試作品だから色々制約あるんだよね。──まぁ、君なら自分で走っても間に合うでしょ」

「残念。──戻ってから私も試しますから、それ!」

 

名残惜しげに発射台の横を通り抜けて、クラリスもまた王都へ飛び立ったのだった。

 

 

──────────

✦ピュロン王宮 技術局工房──

 

 

「再使用に時間が掛かり過ぎるのは量産すれば良いとして──今のとこ、重盾を噛ませないと戦闘体が破損しちゃうんですよね」

 

ラチェットは、埃まみれの机に設計図を広げる。

 

「なんちゅう危ないもんを。空中で換装が解けたら即死じゃろうが」

 

忙しなく手を動かしながら、ソロモンがラチェットを睨み付ける。

 

「その点も踏まえて改良していきますよ。──技術局の威信に賭けて!」

「技術局は関わっとらんわ。お前個人の暴走じゃ!」

 

──工房の作業は、夜通し続く。

 

 

──────────

✦王都北地区 ストルク公園──

 

 

……なんか、見覚えのある光景ですわ。

 

クラリスは、遠景のリゾーマを背に高速で向かってくるアルバートに、中庭から"射出"された出発前のマクセルを重ねた。

 

──直後、アルバートが公園に着地する。

 

「……無事で良かった……ミレディ!」

「何度も叫ばないで下さいよ! 恥ずかしいから!」

 

安堵で力が抜けたアルバートの呼び掛けに、ミレディは顔を背ける。

 

「心配したんだぞ! どうして返事をしてくれないんだ!」

 

ミレディは、ぎくりと肩を震わせる。

……アルバートの過保護が、あまりにも煩いので──。

 

「……アルバートさんの通信、ミュートしてますから」

 

──ミレディは、技術局に頼んで戦闘体の通信機能を拡張して貰っていた。

……まさか、実戦で合流する事になるなんて思ってなかったし。

 

「なんて事をするんだミレディ! 俺はこんなに君を心配してるのに!」

「ああもう、触らないで下さい!」

「あらあら」

 

肩に乗せられた手を身体で振り払ったミレディは──ふと、その姿に目を見開く。

アルバートの脇腹から、淡く光り輝くトリオンが漏れ出していた。

 

「……それ──」

「──ああ。大丈夫だ、戦闘体は」

 

一瞬、アルバートが悲痛な表情を浮かべる。

ミレディは、今まで自身に見せた事のないその表情に、僅かばかり狼狽した。

 

「……長く持ちませんよね。早く王宮に帰って下さい」

 

片腕で静かにクラリスを下ろして、ミレディが顔を背ける。

クラリスが、両者を交互に見比べて口を開いた。

 

「なんか、人間バケツリレーの気分ですわ」

「──ミレディ」

 

素っ頓狂な発言は無視して、アルバートがまたミレディの肩に手を乗せる。

 

……今度は、振りほどけなかった。

その手の震えに、気が付いたから。

 

「君は、また戦場に戻るんだろう。──気をつけてくれ、これは実戦だから」

「……あなたに言われなくても分かってます」

 

──痛覚はなくとも、失った右腕が疼く。

これは、訓練とは違う。

 

「クラリスをお願いします」

「不束者ですが」

 

ミレディの左手が、クラリスの背中を押す。

頷いたアルバートは、俯いたまま──。

 

「……俺は、この戦いが終わったら──騎士をやめようと思う」

 

小さく、そう溢した。

 

……本人の通信が聞こえてはいなくても──周りの応答で、事の顛末は理解している。

生身の人間に手を掛ける覚悟なんて、大戦経験者以外、誰にも──。

 

ふと、ガルシアの顔が脳裏に過ぎったミレディは、アルバートに背中を向けた。

 

「……勝手にすればいいじゃないですか。でも──」

 

ミレディが、静かに瞼を閉じる。

 

……思えばこの人は、昔からずっと。

誰にでも甘くて、お節介焼きで──誰より、争いには向かない人だった。

 

「──今はまだ、騎士です。任務を全うしてください」

「……ああ、そのつもりだよ」

 

悲しげに目を伏せるアルバートの隣で。

目を力強く見開いたミレディが、再び北を睨む。

 

アルバートさんだけじゃない。

……誰も、こんな事望んでない──!!

 

『こちらミレディ、アルバートさんと合流し、クラリスを引継ぎました。──街道に向かいます!』

『分かった。……貴様も手負いだろう、決して無理はするな』

『──はい!』

 

通信を終え、ミレディの瞳が背後の二人に戻る。

 

「無事に帰ってね、クラリス。……アルバートさんも」 

「頑張りますわ。──アルバートさんが」

「……俺を心配してくれるのか、ミレディ……!」

 

感激するアルバートを無視したミレディが、元来た道を駆け出す。

 

……ああ、あんなにも幼かったあの子が──。

 

騎士然とした覚悟を纏い、離れてゆく背中。

弱々しく手を伸ばしたアルバートは、遠い記憶をそこに重ねた。

 

 

 





【登場人物】
✧ソロモン=バミューダ(66)
 宮廷技術局の局長。
 気難しいが腕は確かで、大戦の立役者でもある。

✧ラチェット=クランカ(28)
 宮廷技術局の副局長。
 様々なトリガーを開発し、騎士達で試しがち。


【用語解説】
✧宮廷技術局
 ピュロンを支えるトリオン工学技術者達の総本山。
 あらゆる技術が彼らの尽力で成り立っている。

✧戦闘体発射台(カタパルト)
 戦闘体を超高速で射出し、目的地に届ける装置。
 現状では重装手専用で、再使用に時間を要する。

✧ミュート機能
 ミレディの依頼とラチェットの独断で生まれた機能。
 連携に支障をきたすので基本的に駄目。

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