✦亡国のフィエリア ─Another_WORLD TRIGGER─(統合中)   作:CABIN.

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──ディモフィル街道に、剣戟が乱れ飛ぶ。

交戦を開始したロレンスとマービンは、かつての恩師──。
"鷹の翼"、ガルシアの猛攻に、必死で食らいついていた。




《第35話》幻影

✦王都北地区 ディモフィル街道──

 

 

──両腕で振り下ろされる、ガルシアの剣閃。

全体重を込めた唐竹割りが、マービンの重盾を容赦なく軋ませる。

 

……重、すぎる……!!

 

マービンが思わず呻いた。

弾き返そうと踏み込んだ石畳が、圧力に耐え切らず砕ける。

 

繰り出される一撃が、尽く必殺。

小手先では貫けぬ"重装手"の鎧も──この威力を前にしては、薄紙も同然。

 

騎士として積み上げてきたあらゆる経験が、マービンの脳裏で警鐘を鳴らし続けていた。

 

『そのまま耐えてろ!』

 

内部通信で、ロレンスが叫ぶ。

軽快な足捌きで側面を取った"遊撃手"ロレンスが、更に一歩回り込んでガルシアの背に斬撃を伸ばした。

 

──剣から離れたガルシアの左手が、騎士盾を豪快に振り回す。

 

「──ぬるいわっ!!」

 

衝突音を伴って、一撃は容易く弾かれた。

つられて体勢を崩したロレンスは、直後、自身に襲い来る横薙ぎを視界に捉える。

 

「おわっ──」

 

咄嗟に後方へ飛び退いたロレンスの鼻先を掠めて、唸りをあげる剣先が通り過ぎた。

 

……あっぶねぇ──!!

 

肝を冷やしたロレンスと、圧力から解放されたマービンの視線が交差する。

盾を持たぬ遊撃手にとって、両足が浮いたこの一瞬は──即死の間合。

 

『──カバーッ!』

『分かってる!』

 

ロレンスを追う構えに入ったガルシア目掛け、剣を抜こうとしたマービンは──。

──振り向いたガルシアからのひと睨みで、本能的に重盾を構えて飛び退いた。

 

マービンの心臓が、跳ね上がるように脈打つ。

その視線だけで、真っ二つに両断された自身の映像が過ぎった。

 

……攻撃に移ったら、終わってた──。

 

「もう一度言うぞ、小童共」

 

同時に間合いの外まで退いた二人をそれぞれに一瞥して、ガルシアが息を吸い込む。

 

「──いい加減、覚悟を決めろっ!!」

 

響きわたる叫び声が、二人の頬を叩いた。

 

……切断された片足の断面。

尚も漏出するトリオンの残滓、重心の崩れた構え。

それですら迸る、この威圧感。

 

『……片足でこれかよ』

『嫌になるな』

 

……仮に、クラリスがガルシアの足を削っていなければ──。

マービンは重盾ごと一撃で叩き切られ、ロレンスもまた、追撃に両断されていたかもしれない。

 

細く長い息を吐いた二人が、同時に構えを取り直す。

 

ガルシアが、その構えから感じ取った通り。

この七年間、二人はそれぞれに幾多の経験を積んできた。

その力量は、見習い当時とは比べるべくもない。

 

──だからこそ、ロレンスは、マービンは。

今になって、ようやくその思い違いに気が付いた。

 

 

 "あのおっさん、マジで手加減ってもんを知らねぇ"

 

 

当時の彼らを容易く締め上げた、記憶の中のガルシアでさえ。

過去、一度たりとも──。

 

 

……"本気"だった事など、無かったのだと。

 

 

──────────

✦王都北地区 市街地──

 

 

……まだ、この辺りは避難が始まっていない。

 

街道を目指して街並みの屋根を駆けるイリーナは、眼下でざわつく市民達の声に耳を傾ける。

 

「──今日はやたらと騒がしいな」

「なんだろうね、さっきから」

 

遠くから時折響く轟音に、市民達が首を傾げていた。

 

……戦線が此処まで拡大しない根拠はない。

今のうちに、避難を促すべきだろうか?

 

彼らが巻き込まれる可能性と、不必要な混乱を生む可能性。

それらを秤にかけて逡巡したイリーナは、後者をより重く見た。

 

……いや、これは本心を偽っている。

 

"同期達の安否を優先し、彼らの万が一を見過ごす"。

そして、その決断を無意識に正当化している。

自身の本音をそう分析して、イリーナは首を振った。

 

──応援要請の通信を聞いてから。

正体不明の震えが、今も止まらない。

 

……私は、何を恐れているんだろう。

力及ばず死ぬ事か、間に合わず友を死なせる事か。

それとも──恩師を、手に掛ける事か。

 

どれでもないのかもしれない。

あるいは、その全てなのかもしれない。

 

 "騎士としての在り方を、今一度見直されよ"

 

騎士団長の言葉が、心で何度も繰り返されている。

冷静でない事は、自分が、一番分かっている。

 

──それでも。

乱雑に駆け巡る葛藤の渦とは裏腹に、彼女の足は最速で街道を目指していた。

 

 

──────────

✦王都北地区 ディモフィル街道──

 

 

──剣戟が加速する。

その度に、ロレンスとマービンの戦闘体には手傷が増えてゆく。

 

いい加減、覚悟を決めろ。

 

何度も、何度も──。

ガルシアは、自身にそう言い聞かせていた。

 

──剣を交える度、記憶の幻影が視界を覆う。

鼻の奥に、鈍い痛みが走る。

 

 "そうやって考えなしに突っ込むな!!"

 

盾に走る衝撃が、雛鳥の成長を直接伝えてくる。

そうだ。

敗色濃い難敵にも、その目で向かっていけ。

 

 "──重装手だろうが! すぐに退こうとするな!!"

 

鎧に届かなかった刃先が、幻影だけを裂いた。

そこで冷静になれるのが、お前の長所だ。

 

もっと打ち込んでこい。

まだ、剣筋が荒いぞ。

反撃の意志が弱すぎる。

 

そうだ。

それで良いんだ──。

 

「……昔っから──すぐ、顔に出るんだよなぁ。あんたはさぁ!!」

 

力任せの鍔迫り合いに、火花が迸る。

幻影に割り込んで──眉間に皺を寄せたロレンスが、悲痛な声で叫んだ。

 

「だから嫌いなんだ!! そんな顔する位なら、最初から悪役ごっこしてんじゃねぇよっ!!」

 

──ロレンスの前蹴りが、ガルシアの腹に突き刺さる。

 

……この足では、重心が戻せん──!

衝撃で後方に弾け飛んだガルシアは、咄嗟にロレンスの追撃に備える。

 

──背後に、気配がした。

 

「……そろそろ──覚悟、決めて貰っていいすかね」

 

咄嗟に身体を捻ったガルシアの首筋を、守勢一方だったマービンの剣閃が掠める。

どうにか片手をついて身を翻したガルシアは、ロレンスの追撃を剣で制した。

 

「いつまでも格上ぶってんじゃねぇぞ、オッサン!!」

「一応、仕留める気なんで」

 

鼻を擽る痛みが、いつの間にか消えていた。

──代わりに、腹の奥底から、笑いが溢れてくる。

 

目の前に立つのは、幻影などではなく──本物の、実力者達。

死の淵にこそ湧き上がるその高揚感を、ガルシアはよく知っていた。

 

「……くくっ……」

 

格上ぶるな、か。

……戦火の熱さも知らん、"終戦世代"が──。

 

「──一丁前な事を抜かすなっ!!」

「うるせぇ!! ──騎士をナメんじゃねぇっ!!」

 

平和の中で、よくぞ、此処まで育った。

……だが──。

 

「小童二人が、容易く越えられる壁と思うなっ!!」

 

──ガルシアの叫びに混じって。

ロレンスとマービンの背後から、軍靴の着地音がした。

 

決して、ガルシアへの警戒を解きはしない。

視線を"敵"へと預けたまま──二人が、にやりと笑った。

 

「……では──」

 

ロレンスの肩を押し除けて姿を現す、見覚えのある──しかし、見違えた姿。

……ああ、お前もまた、こんなにも──。

 

「三人ならどうでしょうか。……"先生"」

 

騎士剣を静かに引き抜き──ロレンス達の隣に並び立った彼女に、ガルシアは鋭い視線を送る。

 

「……確かめてみろ!! ──イリーナ=ベルベットッ!!」

 

ディモフィル街道に、咆哮が響いた。

 

 

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