✦亡国のフィエリア ─Another_WORLD TRIGGER─(統合中)   作:CABIN.

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三人と、一人が。
かつての弟子達と、その師が──。

同じあの日を、胸裏に抱いている。
刃は、向け合ったまま。





《第36話》剣鳴

✦王都北地区 ディモフィル街道──

 

 

『──先生相手に、良く二人で耐えたな』

 

イリーナからの内部通信。

それは彼女なりの激励だったが、ロレンスは不満げに眉を顰める。

 

『耐えた? ──お前が来なくても実質勝ってたから』

『……いや、圧されてたくね?』

『そこは乗っとけよお前! さっき一発当てただろ!』

『俺がな?』

『二人でだ!!』

 

……なんだ。

いつもの調子だな、この二人は。

俄に活気づく通信に、イリーナが僅かに気を緩めた時──。

 

「……仲良くお喋りか」

 

ぽつりと、発されたガルシアの言葉に──一瞬にして、背筋が凍る程の圧力が街道を覆う。

安堵から来る一瞬の緩みを、三人が同時に引き締めた。

 

……が、それすらも遅すぎた。

 

いつ詰められたのかさえ見逃す程の踏み込みでもって──ガルシアが、不意に三人の至近に現れる。

 

「──!」

 

咄嗟にロレンスの背中を掴んだイリーナが、マービンの方向へと力強く突き飛ばす。

目を丸くしたロレンスに重ねられたイリーナとロレンスの盾が、同時に奇襲の一閃を受け止めた。

 

片足にして、この速度。

身体が浮く程の衝撃──。

 

……流石は、先生。

内心の油断を猛省したイリーナが、歯を食い縛った。

 

『──立て直す!』

『それが良い』

 

再度振り被られた剣を、マービンが受け止める。

──今度は襟を掴まれたロレンスが、後方に投げられた。

 

同時に後方へと飛び退いたイリーナは、一瞬の安全圏を確保して構え直す。

マービンが重盾ごとガルシアを強く押し返し、よろめいたロレンスがその間に体勢を立て直した。

 

『……俺の扱い雑じゃね?』

『嫌なら、ちゃんと集中しなさいよ』

『してるっての。──このオッサン相手だぞ』

 

──剣閃。

半歩退いて紙一重で躱したロレンスが、ガルシアの側頭部に視線を送る。

 

……安いフェイントを。

稲妻を描くように走った切っ先が、残る片足を狙う。

ガルシアの剣が、切っ先ごとその軌道を容易く叩き落とした。

 

──同時に、フェイントの意図に即応したイリーナの剣が側頭部を掠める。

体勢を低くしたガルシアに、再度マービンの重盾が側方から飛び込んだ。

 

一瞬、ガルシアの視界が重盾に覆われる。

盾の縁を掴んで強引に引き剥がしたガルシアが目線を巡らせるが、既にイリーナとロレンスの姿がなかった。

 

──背面。

ほとんど倒れ込む形で振り返って盾を構えたガルシアに、回り込んだ二人の剣が同時に叩きつけられた。

 

……もう一撃──。

ガルシアの視界の端、重盾を手放したマービンが、既に剣の柄を握っている。

 

石畳を転がって居合抜きを避けたガルシアが、三人の間合いを離れて即座に立ち上がった。

 

 

……近接戦闘における連携は、容易いものではない。

大戦経験者でも、此処までの精度で連携を熟す騎士は少ないだろう。

ガルシアが、成長したイリーナの姿を一瞥する。

 

……まだ、表情に迷いこそあれど──。

見習い時代から、男勝りな印象の裏で、よく目端の効く少女だった。

 

常に全体を俯瞰し、局面に必要な攻守の一手を見誤らない。

……"守衛手"の、理想像に近い。

 

自身もまた守衛手の系譜であるガルシアは、内心に湧き上がる歓喜を抑え込んで息を吐く。

 

「認めよう。お前達はもう、一人前の騎士だ」

「あん?」

 

眉を顰めるロレンスの隣。

イリーナの表情が、僅かに曇る。

 

……騎士としての俺で、お前達と戦いたかったが──。

ガルシアが、微かな揺らぎを強靭な信念で断ち切る。

 

「……見過ごせば──"鷹の翼"の障害になり得る」

 

不意に、ガルシアが膝をついて盾を構える。

 

──その場で、ただ一人。

"鷹の翼に組みする密売人"を認知していたイリーナだけが、その不可解な動きを"攻撃"と捉えた。

 

「──!?」

 

ガルシアの盾に刻まれた紋章がトリオン光を放ち、急速に中心へと収束していく。

イリーナの無意識が、ロレンスとマービンを突き飛ばしていた。

 

──収束したトリオンが、突如散弾の様に拡散する。

 

光弾が、急所だけを盾に隠したイリーナの両脚を。

突き飛ばされたロレンスの左半身を、同時に貫いた。

 

「え──」

「ロレンスッ!!」

 

咄嗟に重盾の影へと隠れたマービンが、相方に手を伸ばす。

その手を掴もうとしたロレンスの身体が、脆くひび割れた。

 

──戦闘体が程なく爆散し、ロレンスの生身が戦闘体に放り出される。

 

……なんだよ、それ──。

尻餅をついたまま、ロレンスがわなわなと震える。

 

「反則じゃねぇか! ふざけんなよオッサンッ!!」

「……ルールは、お前を──この星を、護ってはくれん」

 

全てを諦めたような声で、ガルシアが応える。

倒れ込んだイリーナもまた、終わりを悟った。

 

……こんな、搦手一発で──!

 

再び収束してゆく光に、イリーナの目が眩む。

遅くなった時間軸の中で、マービンの重盾が生身のロレンスを庇った。

 

「そうか」

 

──!?

上空から不意に落ちた、影と、声。

即座に反応したガルシアが、盾を上空に向ける。

 

再び放たれた光弾。

"自身に当たるもの"だけを選んで弾き返した剣閃と共に──。

 

「……じゃあ、おれが守るしかないな」

 

──宮廷十騎、"第九席"。

シーザー=クリケットが、遅れて戦場に辿り着いた。

 

「……シーザー……!? お前、なんで──」

「ん? ああ──熟睡したらマシになった」

 

何処かズレた返答を返すシーザーに、イリーナが思わず呆れた笑みを零す。

……なんでそう、"いつも通り"なんだ、お前は──。

 

「──うおぉおっ!! シーザーァァッ!!」

「第九席かっけぇぇ!! ありがたやありがたや」

「だからやめろってそれ」

「……お前らもいつも通りだな」

 

また、俄に活気づく"終戦世代"達。

驚愕の表情を浮かべたまま、ガルシアが静かに立ち上がる。

 

……お前は、いつも遅れてやってくる。

お前だけは、あの頃から──。

余りにも尖り過ぎた、才能の原石だった。

 

「──この七年で何処まで昇り詰めた、シーザー」

「あんま変わってないと思いますけど」

 

シーザーが、自然体で剣を突き出す。

呼吸の音が、小さくなっていく──。

 

「下がってろ、イリーナ」

 

シーザーの呼び掛けに、イリーナが頷く。

 

「おい。心配すんのイリーナだけか?」

「俺生身ぞ」

 

集中の海に沈んだシーザーに、既にその声は届いていない。

耳鳴りが伝播する程の、研ぎ澄まされた集中力。

冷や汗をかくガルシアもまた、最大の警戒を向けた。

 

……変わっていないだと?

正面衝突において、もはや今のこの男は──。

──ハイルディンにさえ届き得る……!

 

「──本気で来い、シーザーッ!!」

 

──直後、剣閃。

ガルシアですらも完全には反応しきらぬ、神速の踏み込み。

かろうじて初撃を食い止めたガルシアの剣を気にする様子もなく、シーザーは再び攻撃モーションに入った。

 

……この足では、どのみち機動戦には付き合えん。

横槍を入れようにも、ついてこれまい。

 

──互いにその場で足を止めたまま。

凄まじい速度で、互いの剣が交差する。

 

一つ一つが的確に急所を襲うが──それ故にガルシアは、積み上げた経験値でその天賦に食らいついてた。

 

 

「……やっぱすげーわこいつ。もはや生身じゃ全く見えん」

「ああ大丈夫、戦闘体でも追えてないから」

 

二人の会話を放置して、へたりと座り込んだイリーナが放心する。

……先生が、シーザーの剣をここまで捌けるのなら。

先程までの交戦さえ、本気じゃなかったのか──。

 

──ふと。

 

撃ち合いながらもガルシアが光弾を準備している事に気付いていたシーザーが、半歩飛び退いて迎撃姿勢に入る。

……当たらんよ、そんな玩具。

 

「俺は先に伝えたぞ、シーザー」

「!」

「──ルールは、お前達を護らんっ!!」

 

ガルシアが、盾を"イリーナに向けて"構えた。

 

「──!?」

 

考えるよりも早く、シーザーの視線がその方向へと流れる。

 

反射的に身体を背けるイリーナ。

重盾の影を奪い合うロレンスとマービン。

そして──視界の端に迫る剣先。

 

何を優先すべきなのか、何に、集中すべきなのか──。

──シーザーの一極集中が、乱れた。

 

……お前だけは、此処で消しておかなければ──!!

 

交差する、それぞれの視線。

 

……ああ。

間に合わんな、これ。

迫る剣への対処を諦めたシーザーは──射出寸前の盾を剣撃で弾いた。

 

──照準を狂わされた光弾が、夜空へ舞い上がる。

 

……見事な瞬間判断、だが。

 

「……終わりだ──!!」

 

振り抜いた剣先は──。

 

「……ねぇ、ガルシアさん」

 

──唐突に割り込んだ盾に、止められた。

シーザーが、呆気に取られて瞬きしている。

 

「こんな事、もう──やめにしませんか?」

 

……震える、声。

最も見たかった、見たくなかった──その"幻影"が、シーザーとガルシアの間にあった。

 

途端。

堰を切った様に、ガルシアの視界を記憶が飛び交う。

 

……まだ幼い、あの日のシーザーが、イリーナが、ロレンスが、マービンが、セイルが、そして──。

 

──揺らいだガルシアが、しかし歯を食い縛る。

 

「……もはや、後戻りは出来ん──っ!!」

 

苦渋の表情で、ガルシアが剣を振り上げる。

同時に、盾を石畳に転がしたその幻影が──。

 

「──また会えて、嬉しかった」

 

 "また、会いましょうね!"

──涙を溜めた瞳で、あの日と同じように、笑った。

 

「……っ──!」

 

振り下ろせない、剣。

滲んだ景色のその奥で──。

 

落とした盾の代わりに、幻影の左手に再生成されてゆく剣を、ガルシアはただ見ていた。 

 

──剣鳴。

 

あの頃とは比べ物にならない鋭さで、幻影が──ガルシアの戦闘体を両断した。

 

 

「……嘘じゃないです」

   ──宮廷十騎 "第六席"

     守衛手 ミレディ=エンシェント

 

 

……幻影、などではない。

こんなにも、強く、なったんだな……ミレディ──。

 

 

戦闘体の炸裂音と、剣鳴の余波。

ただそれだけが、街道に虚しく響いていた。

 

 

 

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