✦亡国のフィエリア ─Another_WORLD TRIGGER─(統合中) 作:CABIN.
箱入りのアイルにとって、全てが未知の世界。
初めて見る王宮の外側。
彼女は、微かな反抗心と無垢な冒険に、胸を踊らせていた。
「──では、次の補給便は明後日で」
「ええ、ええ。お待ちしております」
──喧騒の町並み。
先程までアイルが身を隠していた馬車が、カラカラと音を立てて去ってゆく。
酒樽に隠れてそれを見送ったアイルは、きょろきょろと辺りを見渡した。
……私が王女だってバレたら、きっと大変だわ。
アイルは、自身が帰る手段を失った事に気付かない程度には"お子様" だが、しかし、全くの世間知らずでもなかった。
街が王宮ほど安全な場所ではないことを、朧気ながら知っている。
「どうしよう……まずは、お花屋さんかな?」
幼い手足を懸命に振って、アイルが走り始めた。
通行人達が、時折ぎょっとした目で視線を送る。
──アイルは、身に纏う純白のドレスが、羽織に描かれた王家の紋章が、民衆にとってどれ程奇異に映るかを知らなかった。
──────────
✦ピュロン王宮 書斎──
──尚も、フォニーの講義は続く。
『ピュロンは、この王宮を中心に王都が広がっている』
フォニーが、映像をピュロン王都にフォーカスした。
外縁に広がる自然はともかく──中心街は一見して良く整備されており、美しい景観を保っている。
『騎士団による治安維持活動も活発で、市民感情は比較的良好だ』
「──あのな、僕も騎士のひとりだぞ」
びしっ、と指を指してアルマが言う。
『知っている。──私に言わせれば、王家がわざわざ前線に向かうなど愚かなことだが』
「父さんが王になったのは、大戦の英雄だからだろ?」
『話を横道に逸らすな』
「今回に限っちゃ先にレールを敷いたのはフォニーだ」
『……良く口の回る奴だ』
珍しくフォニーを言い負かし、アルマがふふんと鼻を鳴らす。
『……とにかく。──"比較的"良好だが、懸念点もある』
フォニーは、遮るように映像を切り替えた。
それぞれ"鷹"と"六芒星"を象ったふたつのエンブレムが書斎に浮かぶ。
「──反体制派の連中だな」
アルマが、過去の騎士団出征を思い返す。
『そうだ。彼らは、それぞれ別の信条でもって現体制を敵対視している。──特に、フィエリア王家をだ』
フォニーの言葉に、アルマが小さく眉を動かした。
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✦ピュロン王都 裏路地──
「──そこのお嬢ちゃん」
迷い込んだ裏路地。
不意に声をかけられたアイルは、声のした方へ振り返った。
古物商のような出で立ちの男が、にこにこと笑いながらアイルの羽織をじっと見ている。
「なにかしら?」
「──お嬢ちゃん、絵本は好きかい?」
「絵本? ええ、とっても!」
取り出された絵本に、アイルが目を輝かせた。
綺羅びやかな表紙には、鷹のエンブレムが踊る。
「お店に来れば、もっと沢山の絵本があるよ」
──古物商の瞳に、暗い光が宿った。
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✦ピュロン王宮 回廊──
「──王女様っ! どちらにいらっしゃいますか!」
王宮中を駆け回りながら、ソフィは懸命に叫んでいた。
目を離すなんて、専属侍女として情けないことこの上ない。
いや、そんなことよりも──。
……もしも、王女様の身に何かあったら。
──自責、不安、焦燥。
ソフィは、ぐらつく視界の中でそれでも叫んだ。
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✦ピュロン王宮 厨房──
「──次! それ鍋に入れてっ!」
「は、はいっ!」
給仕係に急かされながら、レイヴは皮を剥いたじゃが芋を鍋に放り込む。
「ぼさっとしない! 自分でやること探して!」
「あ、はい……!」
昼食前の厨房は、さながら戦場だ。
目まぐるい料理準備の最中──レイヴは、廊下で誰かが叫んでいることに気付いた。
……何か、騒ぎがあったのかな?
「──はい、これ持ってって!」
「はいっ!」
投げるように渡されたメインディッシュを間一髪掴みながら、レイヴはその気付きを記憶から消した。
──いや、消そうとした。
騒ぎは、向こうからやってきた。
「──どなたか、王女様を見かけていませんかっ!」
厨房の入り口で、ソフィが力一杯叫ぶ。
普段のソフィであれば、多忙を極める厨房に飛び込むような無遠慮な行いは絶対にしない。
故に、彼女を知るその場の誰もが、作業の手を止めてそちらを見た。
そして──。
故に、彼女は手掛かりを知る人物と巡り合う。
──ソフィの姿を一瞥して、レイヴが思い出す。
廊下で倒れていた綺麗な侍女さんだ。
……そう言えば、王女殿下の専属侍女だったか。
「ああ、さっきの──」
言いかけたレイヴに、ソフィが勢い良く詰め寄る。
"レイヴ"と記された胸の名札が、先程のシルバの言葉と重なったからだ。
「──あの! 王女様を見ませんでしたか!? あとありがとうございます介抱頂いて! もう大丈夫ですから!」
「え、わ、あっ」
バランスを崩したメインディッシュをどうにか支えながら、レイヴは矢継ぎ早なその言葉を咀嚼する。
ソフィを発見する少し前──レイヴは、こそこそと周囲の様子を伺うアイルの姿を見ていた。
「王女殿下でしたらさっき、確か──明日の食材を受け取る定期馬車のほうに」
ソフィの顔から、さっと血の気が引いた。
「……ありがとうございます!」
「あ、あの! ……どう、いたしまして……?」
レイヴは、踵を返して走り出した彼女の背中をぽかんと眺めた。
「……な、なんだぁ……?」
──王女殿下に、何かあったんだろうか。
「──皿ぁッ!!」
「は、はいぃっ!!」
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✦ピュロン王宮 書斎──
『反体制派のうち、軍国主義者──通称"鷹の翼(ヒエラクセ)"は、明確にフィエリア王家の平和主義に疑問を懐き、体制崩壊と軍拡を目論む集団だ』
フォニーの言葉を受けて、アルマがふと疑問を浮かべる。
「そもそも、騎士団以外にまともな出力のトリガーは流通してないよな? ──それでどうやってうちと争う?」
アルマの言葉に、フォニーが身体を揺する。
『武力の問題ではない。【現状を打開する為なら暴力や恐喝も許容される】と言う思想そのものが、"国家"にとって最も恐れるべき危険因子だ』
「まぁ、そりゃそうだ」
──平和の為に力を、までは共感出来なくもない。
アルマが、内心でそんな事を思った時だった。
「──王子様っ!!」
勢い良く、書斎の扉が開かれた。
「……ソフィ?」
『何があった』
ひとりと一体が、同時に視線を送る。
へたり込んだソフィが、ふたりへ視線を返した。
「……申し訳、ありませんっ……! 王女様が、おそらく、馬車に紛れて外にっ……!」
「──!」
『──待て、アルマ!』
即座に立ち上がったアルマを、フォニーが制止する。
アルマは、先程までとまるで異なる鋭い目つきをフォニーに向けた。
「結論から話せ、フォニー。お喋りの時間が惜しい」
『口ぶりから推測の域を出ない。そして──お前も"フィエリア王家"だ』
──そのふたつを瞬時に咀嚼して、アルマは扉に視線を向けた。
「……王家も大変だな。──それ以前にアイルの兄だ」
『──アルマッ!』
制止もむなしく。
ソフィの隣をすり抜けて飛び出したアルマは、風の如くフォニーの視界から消えた。
『……困ったものだ。──心配するな、ソフィ。緊急時に備え、アイルの件はこちらでも手を打っておく』
「でも、このままでは王子様まで──!」
『それこそ、心配は無用だ』
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✦ピュロン王宮 中央階段──
──アイルが定期輸送用の馬車に乗ったなら、おそらく行き先は西地区だろう。
殊の外冷静な判断力を残していたアルマが、アイルの行き先をシミュレートしながら階段を駆け上る。
懐から取り出した小型の機器──"戦闘用トリガー"には、宮廷騎士の紋章が踊った。
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✦ピュロン王宮 書斎前廊下──
「……いくら王子様でも、ひとりで飛び出されては──!」
『……反体制派に理由を与えると言う意味では、賢い選択ではない。だが、仮に衝突したとして──』
呆れた様子で壁際に浮遊したフォニーが、窓際から王都を見下ろす。
『……相手になるまい。──アルマは、この星で最も純粋な"英雄の系譜"だ』
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✦ピュロン王宮 屋上──
一足飛びで屋上の縁から飛び出しながら、アルマが大きく息を吸い込む。
『──トリガー、起動(キネソン)ッ!!』
紫電を纏って"もうひとつの肉体"──戦闘体に換装されたアルマは、同時に生成された槍を空中でくるりと回すと──背に掲げたフィエリア王家の紋章を翻し、城下へと駆った。
【登場人物】
✧古物商(50)
王都で商売を行う中年男性。
にこやかな表情とは裏腹に、妖しい雰囲気を纏う。
【用語解説】
✧"鷹の翼(ヒエラクセ)"
王都に巣食う二大反体制組織の内の一つ。
軍拡を目的と、扇動等の活動を行う。
✧戦闘用トリガー
名の通り、戦闘に供されるトリガー。
所有者のトリオンを"戦闘体"と武器に変換する。
✧戦闘体
戦闘用トリガーで生成される"もう一つの肉体"。
破壊されても生身に損傷がフィードバックしない。