✦亡国のフィエリア ─Another_WORLD TRIGGER─(統合中)   作:CABIN.

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箱入りのアイルにとって、全てが未知の世界。
初めて見る王宮の外側。

彼女は、微かな反抗心と無垢な冒険に、胸を踊らせていた。




《第3話》若獅子、出陣

 

「──では、次の補給便は明後日で」

「ええ、ええ。お待ちしております」

 

──喧騒の町並み。

先程までアイルが身を隠していた馬車が、カラカラと音を立てて去ってゆく。

 

酒樽に隠れてそれを見送ったアイルは、きょろきょろと辺りを見渡した。

 

……私が王女だってバレたら、きっと大変だわ。

 

アイルは、自身が帰る手段を失った事に気付かない程度には"お子様" だが、しかし、全くの世間知らずでもなかった。

街が王宮ほど安全な場所ではないことを、朧気ながら知っている。

 

「どうしよう……まずは、お花屋さんかな?」

 

幼い手足を懸命に振って、アイルが走り始めた。

通行人達が、時折ぎょっとした目で視線を送る。

 

──アイルは、身に纏う純白のドレスが、羽織に描かれた王家の紋章が、民衆にとってどれ程奇異に映るかを知らなかった。

 

 

──────────

✦ピュロン王宮 書斎──

 

 

──尚も、フォニーの講義は続く。

 

『ピュロンは、この王宮を中心に王都が広がっている』

 

 フォニーが、映像をピュロン王都にフォーカスした。

 外縁に広がる自然はともかく──中心街は一見して良く整備されており、美しい景観を保っている。

 

『騎士団による治安維持活動も活発で、市民感情は比較的良好だ』

「──あのな、僕も騎士のひとりだぞ」

 

 びしっ、と指を指してアルマが言う。

 

『知っている。──私に言わせれば、王家がわざわざ前線に向かうなど愚かなことだが』

「父さんが王になったのは、大戦の英雄だからだろ?」

『話を横道に逸らすな』

「今回に限っちゃ先にレールを敷いたのはフォニーだ」

『……良く口の回る奴だ』

 

珍しくフォニーを言い負かし、アルマがふふんと鼻を鳴らす。

 

『……とにかく。──"比較的"良好だが、懸念点もある』

 

フォニーは、遮るように映像を切り替えた。

それぞれ"鷹"と"六芒星"を象ったふたつのエンブレムが書斎に浮かぶ。

 

「──反体制派の連中だな」

 

アルマが、過去の騎士団出征を思い返す。

 

『そうだ。彼らは、それぞれ別の信条でもって現体制を敵対視している。──特に、フィエリア王家をだ』

 

フォニーの言葉に、アルマが小さく眉を動かした。

 

 

──────────

✦ピュロン王都 裏路地──

 

 

「──そこのお嬢ちゃん」

 

迷い込んだ裏路地。

不意に声をかけられたアイルは、声のした方へ振り返った。

古物商のような出で立ちの男が、にこにこと笑いながらアイルの羽織をじっと見ている。

 

「なにかしら?」

「──お嬢ちゃん、絵本は好きかい?」

「絵本? ええ、とっても!」

 

取り出された絵本に、アイルが目を輝かせた。

綺羅びやかな表紙には、鷹のエンブレムが踊る。

 

「お店に来れば、もっと沢山の絵本があるよ」

 

──古物商の瞳に、暗い光が宿った。

 

──────────

✦ピュロン王宮 回廊──

 

 

「──王女様っ! どちらにいらっしゃいますか!」

 

王宮中を駆け回りながら、ソフィは懸命に叫んでいた。

 

目を離すなんて、専属侍女として情けないことこの上ない。

いや、そんなことよりも──。

 

……もしも、王女様の身に何かあったら。

 

──自責、不安、焦燥。

ソフィは、ぐらつく視界の中でそれでも叫んだ。

 

 

────────────────

✦ピュロン王宮 厨房──

 

 

「──次! それ鍋に入れてっ!」

「は、はいっ!」

 

給仕係に急かされながら、レイヴは皮を剥いたじゃが芋を鍋に放り込む。

 

「ぼさっとしない! 自分でやること探して!」

「あ、はい……!」

 

昼食前の厨房は、さながら戦場だ。

目まぐるい料理準備の最中──レイヴは、廊下で誰かが叫んでいることに気付いた。

 

……何か、騒ぎがあったのかな?

 

「──はい、これ持ってって!」

「はいっ!」

 

投げるように渡されたメインディッシュを間一髪掴みながら、レイヴはその気付きを記憶から消した。

 

──いや、消そうとした。

騒ぎは、向こうからやってきた。

 

 

「──どなたか、王女様を見かけていませんかっ!」

 

 

厨房の入り口で、ソフィが力一杯叫ぶ。

 

普段のソフィであれば、多忙を極める厨房に飛び込むような無遠慮な行いは絶対にしない。

 

故に、彼女を知るその場の誰もが、作業の手を止めてそちらを見た。

 

そして──。

故に、彼女は手掛かりを知る人物と巡り合う。

 

──ソフィの姿を一瞥して、レイヴが思い出す。

廊下で倒れていた綺麗な侍女さんだ。

……そう言えば、王女殿下の専属侍女だったか。

 

「ああ、さっきの──」

 

言いかけたレイヴに、ソフィが勢い良く詰め寄る。

"レイヴ"と記された胸の名札が、先程のシルバの言葉と重なったからだ。

 

「──あの! 王女様を見ませんでしたか!? あとありがとうございます介抱頂いて! もう大丈夫ですから!」

「え、わ、あっ」

 

バランスを崩したメインディッシュをどうにか支えながら、レイヴは矢継ぎ早なその言葉を咀嚼する。

 

ソフィを発見する少し前──レイヴは、こそこそと周囲の様子を伺うアイルの姿を見ていた。

 

「王女殿下でしたらさっき、確か──明日の食材を受け取る定期馬車のほうに」

 

ソフィの顔から、さっと血の気が引いた。

 

「……ありがとうございます!」

「あ、あの! ……どう、いたしまして……?」

 

レイヴは、踵を返して走り出した彼女の背中をぽかんと眺めた。

 

「……な、なんだぁ……?」

 

──王女殿下に、何かあったんだろうか。

 

「──皿ぁッ!!」

「は、はいぃっ!!」

 

 

──────────

✦ピュロン王宮 書斎──

 

 

『反体制派のうち、軍国主義者──通称"鷹の翼(ヒエラクセ)"は、明確にフィエリア王家の平和主義に疑問を懐き、体制崩壊と軍拡を目論む集団だ』

 

フォニーの言葉を受けて、アルマがふと疑問を浮かべる。

 

「そもそも、騎士団以外にまともな出力のトリガーは流通してないよな? ──それでどうやってうちと争う?」

 

アルマの言葉に、フォニーが身体を揺する。

 

『武力の問題ではない。【現状を打開する為なら暴力や恐喝も許容される】と言う思想そのものが、"国家"にとって最も恐れるべき危険因子だ』

「まぁ、そりゃそうだ」

 

──平和の為に力を、までは共感出来なくもない。

アルマが、内心でそんな事を思った時だった。

 

「──王子様っ!!」

 

勢い良く、書斎の扉が開かれた。

 

「……ソフィ?」

『何があった』

 

ひとりと一体が、同時に視線を送る。

へたり込んだソフィが、ふたりへ視線を返した。

 

「……申し訳、ありませんっ……! 王女様が、おそらく、馬車に紛れて外にっ……!」

「──!」

『──待て、アルマ!』

 

即座に立ち上がったアルマを、フォニーが制止する。

アルマは、先程までとまるで異なる鋭い目つきをフォニーに向けた。

 

「結論から話せ、フォニー。お喋りの時間が惜しい」

『口ぶりから推測の域を出ない。そして──お前も"フィエリア王家"だ』

 

──そのふたつを瞬時に咀嚼して、アルマは扉に視線を向けた。

 

「……王家も大変だな。──それ以前にアイルの兄だ」

『──アルマッ!』

 

制止もむなしく。

ソフィの隣をすり抜けて飛び出したアルマは、風の如くフォニーの視界から消えた。

 

『……困ったものだ。──心配するな、ソフィ。緊急時に備え、アイルの件はこちらでも手を打っておく』

「でも、このままでは王子様まで──!」

『それこそ、心配は無用だ』

 

 

──────────

✦ピュロン王宮 中央階段──

 

 

──アイルが定期輸送用の馬車に乗ったなら、おそらく行き先は西地区だろう。

 

殊の外冷静な判断力を残していたアルマが、アイルの行き先をシミュレートしながら階段を駆け上る。

 

懐から取り出した小型の機器──"戦闘用トリガー"には、宮廷騎士の紋章が踊った。

 

 

──────────

✦ピュロン王宮 書斎前廊下──

 

 

「……いくら王子様でも、ひとりで飛び出されては──!」

『……反体制派に理由を与えると言う意味では、賢い選択ではない。だが、仮に衝突したとして──』

 

 呆れた様子で壁際に浮遊したフォニーが、窓際から王都を見下ろす。

 

『……相手になるまい。──アルマは、この星で最も純粋な"英雄の系譜"だ』

 

 

──────────

✦ピュロン王宮 屋上──

 

 

一足飛びで屋上の縁から飛び出しながら、アルマが大きく息を吸い込む。

 

 

『──トリガー、起動(キネソン)ッ!!』

 

 

紫電を纏って"もうひとつの肉体"──戦闘体に換装されたアルマは、同時に生成された槍を空中でくるりと回すと──背に掲げたフィエリア王家の紋章を翻し、城下へと駆った。

 

 





【登場人物】
✧古物商(50)
 王都で商売を行う中年男性。
 にこやかな表情とは裏腹に、妖しい雰囲気を纏う。 

【用語解説】
✧"鷹の翼(ヒエラクセ)"
 王都に巣食う二大反体制組織の内の一つ。
 軍拡を目的と、扇動等の活動を行う。

✧戦闘用トリガー
 名の通り、戦闘に供されるトリガー。
 所有者のトリオンを"戦闘体"と武器に変換する。

✧戦闘体
 戦闘用トリガーで生成される"もう一つの肉体"。
 破壊されても生身に損傷がフィードバックしない。
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