✦亡国のフィエリア ─Another_WORLD TRIGGER─(統合中)   作:CABIN.

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──ピュロン王宮、宮廷騎士集会場。
何人かの騎士達が思い思いの時間を過ごすのを横目に見ながら、受付嬢は退屈げに欠伸をひとつ。

今日も、王宮は呆れるほどに平和だった。




《第5話》宮廷五官

 

 

「……あら?」

 

ひとりでに開いた──かのように見えた扉の隙間から、可愛らしい耳がついた小さな球体がひょこりと顔を出す。

 

「ごきげんよう、フォニー。珍しいわね」

 

受付嬢のペネロペ=パンナコッタは、欠伸を噛み殺して言った。

 

『……ペネロペ、エルゼンに繋いでもらいたい。──火急だ』

「団長に? 待ってね」

 

フォニーの耳がパタパタと動くのを見ながら、ペネロペが机に置かれた装置を起動する。

空間に浮かび上がった騎士達のリスト、その最上部に綴られた騎士団長の名は、暗く塗り潰されていた。

 

「生憎だけど、回線が繋がってないみたいね」

 

ふあ、と再び欠伸をして、ペネロペが言った。

 

──繋がっていない?

フォニーの中枢回路が疑問を呈した。

 

戦闘体に換装されてさえいれば、王都中の何処にいたとしても通信回線の構築は可能な筈。

フォニー自身が構築したシステム故に、その点については間違いない。

 

『エルゼンは定期巡回中の筈だろう。公務中に戦闘体を解除していると言うのか?』

「さぁ。それか、お忍びでリゾーマにでも遊びにいってるんじゃない?」

 

興味を失った声でペネロペが言う。

 

『お前と一緒にするな』

「私だってしないわよそんなこと。今だってこうしてちゃんと受付に──ふぁ」

 

呆れたフォニーが身体を揺する。

 

『……まぁ良い。ではイリーナに──』

「──フォニー殿、こちらにおられましたか!」

 

廊下側から、フォニーを呼ぶ声。

振り返ると、執事のひとりが駆け寄ってきた。

 

「陛下が、フォニー殿をお呼びです」

『……クラウスが?』

 

フォニーが、耳を僅かに上下させた。

 

──────────

✦ピュロン王宮中枢 政務殿──

 

 

綺羅びやかな装飾を施された円卓と、高々と掲げられたフィエリア王家の紋章旗。

その円卓を取り囲む華美な椅子に、"国家の中枢"達が腰掛けて言い争っていた。

 

「──騎士団長は不在ですけれど。王妃のお言葉に照らせば、どのみち軍備増強が優先ではなくって?」

     ──典礼卿 イシア=ネメセト

 

「その資金が突然降って湧くとでも? 私は反対だ、これ以上の課税はいらぬ破綻を招く!」

     ──歳出卿 ブラン=エスペラント

 

「民の声より死者の遺言を優先されてはたまりませんな、典礼卿。感情ではなく前例と論理に照らして頂きたい」

     ──司法卿 ロワール=カランビック

 

「その発言は地雷でしょ、ロワールさん……まぁ、一旦落ち着きましょうよ。──ねぇ、カンデラ殿?」

     ──使節卿 ニア=ハドリー

 

「……ううむ、確かに……陛下、まずは争点の整理を」

     ──尚書  カンデラ=パリストン

 

最も華美な椅子に腰掛けた国王──クラウス=フィエリアは、遠い記憶を遡るように天井を仰いで瞼を閉じる。

 

……国家とは、かように脆く不安定なものだろうか。

 

──再び目を開いたクラウスは、言い争いを続ける典礼卿と司法卿を手の動きで制した。

 

「……それぞれの意見は尊重しよう。その上で──お前たちがすべきは、"主張の押し付け合い"か? それとも"意味ある議論"か?」

 

沈黙。

 

国家の中枢たる彼ら──"宮廷五官(ペンタルコン)"の混乱と焦燥は、国家に生じた歪と軋み、その不協和音の現れである。

 

「そりゃあ、すべきは議論でしょう。──彼らがしたいのは押し付け合いなんでしょうけど」

「なんですって?」

「ニア=ハドリー! 陛下に向かってなんだその態度は!」

 

使節卿の発言に、また円卓がざわめき始めた時──。

混沌を極めた空気を遮断するように、扉の開く音が響いた。

 

『すまない、遅くなった。──用件を聞こう、クラウス』

   ──記譜官 フォニー

 

──────────

✦王都西地区 商店──

 

 

ずれた時を刻む古時計が、今になってもう一度正午を告げる。

無機質な鐘の音が、アイルには酷く不気味に響いた。

 

「絵本もあるよぉ。玩具も、花も──なんでも」

「……っ……!」

 

──また、この感覚。

 

後退りながら、アイルはかたかたと震えていた。

景色が、流れ込んでくる。

 

「そんなに怖がらなくても大丈夫だよぉ」

 

古物商が、異様なほど口角をつりあげた。

煩雑な店内のその影に、何人もの、人の気配がする。

 

「……いや……来ないで……」

 

羽織を握りしめたアイルの頬を一筋の涙が這った、その時──。

 

 

──雷轟。

 

 

「──!?」

 

古物商が、アイルが、そう錯覚する程の衝撃音と共に、入り口の扉が突然弾け飛んだ。

飛来した扉が店内の商品を乱雑に薙ぎ倒すと、長年蓄積された埃が一斉に舞い上がる。

 

「……けほっ……!!」

 

──何だ……!?

 

古物商が入り口に向き直ると──。

光で成形された槍の穂先が、眼球間近に迫る。

 

「邪魔だ、どけ」

「ひっ……」

 

視界を遮っていた古物商が尻餅をついたことで、アイルの目に、その"原因"が映った。

 

「……お兄様っ……!!」

 

「悪い、遅くなった。──帰ろう、アイル」

   ──若獅子 アルマ=フィエリア

 

 





【登場人物】
✧ペネロペ=パンナコッタ(27)
 宮廷騎士集会場の受付嬢。
 安穏な空気を好み、やる気はいまいち。

✧クラウス=フィエリア(42)
 双星ピュロンの国王。
 "獅子王"の異名を持つ大戦の英雄。

✧イシア=ネメセト(41)
 国家の儀礼を司る"典礼卿"。
 宮廷五官唯一の女性。

✧ブラン=エスペラント(50)
 国家の財政を司る"歳出卿"。
 王政に携わる者の中でも最古参。

✧ロワール=カランビック(45)
 国家の規律を司る"司法卿"。
 立場上、イシアとの仲がやや険悪。

✧ニア=ハドリー(31)
 国家の外交を司る"使節卿"。
 宮廷五官の最年少者。

✧カンデラ=パリストン(42)
 国家の総務と行政文書を司る"尚書"。
 国王と同年代で旧知の仲。

✧フォニー(??)
 アルマの教官改め、国政を記録する"記譜官"。
 記録のみでなく助言や総括も担当する。

【用語解説】
✧宮廷五官(ペンタルコン)
 国家の中枢を担う五名の総称。
 数名がクラウスの戴冠以前から拝命。

✧政務殿
 宮廷五官の定位置。
 国政に係るあらゆる議論が飛び交う。
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