✦亡国のフィエリア ─Another_WORLD TRIGGER─(統合中)   作:CABIN.

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アイルの姿を見た瞬間、アルマの中で張り詰めていた緊張が一気にほどけた。

長い息を吐いたアルマは、いつもの朗らかな笑顔でアイルに歩み寄る。



《第6話》紫電一閃

「……全く、お前は──」

「お兄様、危ないっ!!」

「──」

 

──発砲音。

 

鼻先すれすれで躱した銃弾が前髪を掠めたアルマは、その発砲元に鋭い視線を送った。

 

男が次撃を放とうとするよりも早く、アルマが一足跳びで目前に迫る。

 

「──うわっ!?」

 

慌てた男が照準を定めようとした時、ヒュンッ、と軽い音がして、穂先が弧の軌道を描いた。

両断された銃の半分が、硬質な音を立てて床を転がる。

 

「……速ぇ……っ!」

「──こいつ、正騎士だ! 一斉にかかれっ!」

 

途端にわらわらと現れたごろつき達を一瞥し、槍の柄で目の前の男を気絶させたアルマは、僅かに目を細める。

 

トリガーによって換装される戦闘体の強み。

伝達脳と神経系の直通による反応速度。

生身では決して到達し得ない身体能力。

そして、何よりも──。

トリオン反応を除く、あらゆる物理現象に対する圧倒的な耐久力。

 

……髪先とは言え、戦闘体が損傷を受けた。

 

一般兵が扱う火薬筒の類ではない。

粗末な出来だが、おそらくは他国の戦争で用いられると伝え聞く"簡易トリオン銃"──。

 

 

──剣閃。

 

 

背後の気配で事前に身を躱したアルマだが、風切り音が耳を撫でた。

崩れた体勢を戻すよりも早く突き出されたアルマの槍を、剣士は容易く刀身で防いで距離を取った。

 

……反応が早い。

 

「──ふぅ、案外できますねぇ……!」

 

剣先を振るいながら笑った壮年の剣士が、再度構える。

その構えに、アルマは見覚えがあった。

 

戦闘体、それも──。

 

「……お前──騎士か」

「"元"、ですよ。──王子殿下」

 

 

──────────

✦裏路地──

 

 

「──ひっ……ひっ……!」

 

伏兵の急襲に乗じて商店から逃げ出した古物商──バストーラ=アラディンは、千鳥足で裏路地を走っていた。

 

「……騎士どもめっ……貴族気取りの分際で……!」

 

降って湧いた"最高の商品"を掠め取られたバストーラは、歯軋りと共に吐き捨てる。

 

──衝撃。

 

「ぎゃっ!?」

 

脈絡もなく脇腹に走った激痛、その直後に、吹き飛んだバストーラの身体が壁に叩きつけられた。

 

「……かはっ……!!」

 

呼吸が出来ない。

肋を持っていかれた。

状況が理解できず、バストーラが悶絶する。

 

「──悪かったわね、貴族気取りで」

 

蹴り上げた脚を組み直して、女騎士がため息を溢す。

 

『──王子殿下。黒幕らしき"豚"を一匹捕まえました』

『助かる。……殺してないよな?』

『まさか』

 

女騎士が、嗚咽するバストーラを冷たい目で見下ろした。

 

『──ほんの四分の三殺しです』

      ──正騎士 イリーナ=ベルベット

 

 

──────────

✦商店──

 

 

──通信に苦笑いを溢したアルマが、気を取り直して周囲を一瞥する。

簡易トリオン銃を携行したごろつきが五名、それから──"元"騎士を名乗る男。

 

……まずはアイルを──。

 

 

「一瞬の油断が──」

「!」

「──命取りでしょうよっ!! 戦場はっ!!」

 

トリオン製の刃が衝突し、硬質な音が鳴り響いた。

力任せに押し付けられる刃を弾き返したアルマが、空中で数回槍を回転させて叩きつける。

 

が、皮一枚で躱され、穂先が商店の床を抉った。

 

──死角に潜られた。

 

咄嗟に突き刺さった槍を踏み台にして空中に飛んだアルマを、複数の方向から発射されたトリオン弾が襲う。

 

その内の一発が肩を、追撃の剣閃が脇を抉った。

意にも介さず空中で身体を捻ったアルマは、跳躍の反動で跳ね返った槍を手元に引き寄せる。

 

「はっはぁ!! 楽しいですねぇっ!!」

「……この戦闘狂が。──アイルッ!!」

 

着地ざまの剣閃と容赦のないトリオン弾の横槍を紙一重で防ぎ、躱しながら、アルマが叫ぶ。

へたり込んだままびくりと肩を震わせたアイルが、それでも兄の顔をじっと見返した。

 

「──来た道を真っ直ぐに戻れっ!!」

 

目を泳がせたアイルは、羽織を握り締めて俯くと──確かに小さく頷いて、走り始めた。

 

──よし。

 

「──行かせるなっ!!」

 

剣士が、走り始めたアイルに意識を向けた。

それはほんの一瞬だったが──。

 

トンッ、と小さい音がして。

剣士は本能的に防御動作を取ったが──それよりも速く、地を這った槍の切り上げが右腕を撥ね飛ばした。

 

「……しまっ──」

 

──"槍"と言う武器の長所。

一般的に使用される近接武器に比した間合いの長さ。

柄を活用した非殺傷攻撃の多彩さ。

 

そして、何よりも──。

刺突、斬撃、あらゆる動きがそのまま次撃の予備動作に繋がる、"型の連続性"。

 

──穂先を切り上げた勢いのまま、アルマの拳を支点にその軌道をなぞった柄が剣士の顎に直撃する。

 

顔を跳ね上げられた剣士は、咄嗟に次撃に備え──右腕を、動かそうとした。

剣を握ったまま宙を舞う右腕が、剣士の瞳に映る。

 

……ああ、もうなかったですか。

 

槍の柄が衝突の反動で軌道を反転させ、今度は穂先が逆手順で柄の軌道をなぞる。

瞬時に持ち手を切り替えたアルマが、ダメ押しに切っ先を加速させた。

間合い外からの切り上げ、柄打ち、切り下ろし。

 

──紫電一閃。

 

弱点である伝達脳と供給器官を瞬時に両断され、剣士の戦闘体にヒビが入る。

 

「……なるほど、獅子王の血だ」

 

戦闘体を完全に破壊された剣士が、衝撃波を伴って生身を戦場に晒した。

 

「……う、うわっ……」

「──ひっ……!」

 

簡易トリオン銃を撃ち尽くしたごろつき達は、剣士の敗北に銃を投げ捨て、散り散りに去る。

 

「……"一瞬の油断が命取り"、か。──勉強になったよ」

 

槍を地面に突き刺したアルマが、剣士を見下ろして言う。

 

「……完敗ですなぁ。王子殿下」

 

生身で戦闘体と交戦したとて、勝敗は明らか。

敗北を認め、大の字になった剣士が言った。

 

「──お前、名前は?」

 

荒れ果てた棚を物色し、手頃な縄を見繕いながら、アルマが淡々と訊ねる。

一瞬驚いた表情を見せた剣士は、しかし素直に応じた。

 

「マリナスと申します」

「そうか。次はサシでやろうか、マリナス」

 

剣士──マリナス=アークレイが、少しだけ目を見開く。

 

「──まぁ、しばらくは獄中だろうけど」

「……私を一旦逃すと言う手は?」

「ナメるなよ、反逆者」

 

縄で締め付けられながら、かつて自身が正式に騎士だった頃の幾つかの記憶を呼び覚ましたマリナスは──静かに、笑みを溢した。

 

『──王子殿下。王女殿下を捕獲しました』

「人の妹を獲物みたいに言うな、イリーナ」

 

イリーナからの通信を即座に切り返しながら、アルマが胸を撫で下ろす。

 

……アイルが無事で良かった。

それだけでいい。

 

──これで、どんな処遇を受けることになろうとも。





【登場人物】
✧バストーラ=アラディン(50)
 古物商を装う密売人。
 アイル誘拐に失敗し、イリーナに伸された。

✧マリナス=アークレイ(44)
 "鷹の翼"構成員らしき元騎士。
 優れた剣の腕と衰えぬ信念を覗かせる。

【用語解説】
✧伝達脳
 戦闘体の"脳"。
 生身を遥かに凌ぐ伝達速度を持つ。

✧供給器官
 戦闘体の"心臓"。
 生身のトリオンを戦闘体に供給する。

✧簡易トリオン銃
 体内のトリオンをそのまま弾丸にする兵器。
 双星ピュロンでは製造も流通も実績は無い。
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