✦亡国のフィエリア ─Another_WORLD TRIGGER─(統合中) 作:CABIN.
──捕縛したマリナスを引き連れたアルマと、イリーナ達が合流した頃。
王宮の一角には、依然重苦しい空気が漂っていた。
✦ピュロン王宮 政務殿──
「──フォニー、お前の意見が聞きたい」
疲弊した様子の"国王"クラウスが、現れたフォニーに視線を向けて言った。
『……意思決定は私の担うところではない。──だが、議題に応じた助力はしよう』
フォニーは、重苦しい空気を纏う宮廷五官を順に一瞥した。
彼らにも、それぞれに背負うものがある。
「──リゾーマの防衛についてだ、フォニー殿」
沈黙の後。
"尚書"カンデラが、ため息交じりに空間演算装置を起動する。
円卓の中央、広がる光線。
幾重にも折り重なったそれが、次第に主星と伴星の姿を描き出した。
投影に照らされたフォニーは、記憶回路からつい先日の会議録を遡る。
『"外交と対話に委ねる"、と言う決断を下した筈だ。──なぜ蒸し返す必要がある?』
フォニーがクラウスを見た。
その視線を拒むように、クラウスは目を伏せる。
「それはただの防衛放棄だ!」
突然の強い語気。
全ての視線が、"使節卿"ニアに集まった。
「……と、批判が殺到してましてね」
ニアが、山積みになった書類のうち一枚をつまむと、ひらひらと振ってみせた。
「批判に怯んだかのような誘導は控えて貰おう。不服申し立ての審議は、そもそも双星憲章に定められた義務だ」
"司法卿"ロワールが、苛ついた様子でトントンと円卓を叩く。
「……それも誘導だわ、ロワール。我々は義務だからではなく、国にとって必要だから話しているのではなくって?」
"典礼卿"イシアが、ロワールを睨みつけて言った。
机を叩くロワールの指が加速する。
「同義だ、典礼卿」
「──民の想いより国の決まりごとを優先されてはたまらないわ」
「貴様っ──」
「……やめよ」
意趣返しに逆上し、立ち上がったロワールをクラウスが制した。
ロワールはもごもごと口を動かしたが、少しして静かに座り直した。
「……貴様らの理念などどうでもよいわ。必要な理解は"問題点"、導出すべきはそれを解決する"手段"だ!」
"歳出卿"ブランが、小競り合いを続ける周囲を一喝する。
「──略奪を切り捨てた以上、流通する資源の大部分はリゾーマの観光業と貿易に依存しておる」
尊大に足を組んだまま、ブランが呆れたように続けた。
「トリオン兵の全廃、騎士団の縮小。ピュロン側も身を削っているが、それでも尚、何一つ足りておらんのだ!」
沈黙。
それぞれの表情が曇る中──投影されたピュロンとリゾーマだけが、虚しく煌めいていた。
おろおろと泳いだ"尚書"カンデラの目が、助けを求めるようにフォニーに留まる。
『──趣旨は理解した』
入力された情報から、フォニーは事の全容を推察する。
そして、それは概ね正しかった。
『資源と税収をリゾーマに依存する立場でありながら、騎士をはじめとする防衛力がピュロンに集中している。──実態として真であり、市民感情の反発も至極当然だ』
ブランが眉を動かす。
「……見放す訳ではない、既に余力がないのだ」
「『国家の事情などどうでもよい』、『必要なのは解決だ』。──と言うのが、リゾーマの意見でしょうね」
「貴様に言われんでも分かっておるわ!」
飄々とした態度で横槍を入れるニアに、ブランが怒号を飛ばす。
「故に、我々にはなんらかの手段が必要なのだ!」
『……あらゆる手段が、別の視点では歪を増長する。──手段を論ずる以前に、必要なのは"方針"だ』
「……む……」
『──何を許容し、何を捨てるのか』
フォニーが、沈黙するクラウスへと向き直った。
『意思決定は、我々が担うところではない。──お前が決めることだ、クラウス』
意を決したクラウスが、重い口を開きかけた時──。
「──陛下っ!!」
勢い良く放たれた扉と、同時に飛んだ叫び声。
その場にいた誰もが振り返る。
「……王子殿下が……王都で暴動を起こしているとの報せありっ!!」
息を切らした騎士の言葉に、クラウスは大きく目を見開いた。
──────────
✦王都西地区 ユリウス広場──
「──どうして! どうしてこのような事をするのですかぁ〜っ!! げほっ!!」
騒ぎ立てるバストーラに、集中する民衆の視線。
「誰か助けてくれぇ!! 騎士が!! 騎士が暴走したぁ!!」
「……っ……! 貴様っ──」
再び蹴りをお見舞いしようとしたイリーナが、視線に気付いて踏み留まる。
その視線は、明らかにイリーナとアルマに対する敵意と嫌悪を孕んでいた。
「偉そうな奴らだとは思ってたけど。ついに暴力に頼りだしたか」
「……王都も落ちたもんだな……」
口々に発される失望の声。
……動揺と猜疑が、広場中に感染してゆく。
「……王子殿下……!」
──やってくれる。
困惑したイリーナの瞳と、イリーナにしがみついて震えるアイルを一瞥したアルマは、尚も騒ぎ立てるバストーラを睨みつけて歯を食い縛る。
「私はっ! 私はただ、いつも通り生活していただけなのにっ!! 店は壊され、暴力までふるわれたっ!!」
「……酷いな……しかもあれ、王子殿下じゃないか」
「特権階級を笠に着てやりたい放題だな」
巧妙に真実を織り交ぜ、民の不満を土俵に引きずり込む"迫真の演技"。
「違う! 私達はっ──!」
……イリーナの声は、もはや民には届かない。
【用語解説】
✧伴星リゾーマ
観光と貿易により、双星の財政を一手に支える。
ピュロンに比して防衛が手薄なことで批難が集中。
✧双星憲章
双星ピュロンの法体系の中で最も重い大原則。
全ての王政が本憲章に基づいて行われる。