✦亡国のフィエリア ─Another_WORLD TRIGGER─(統合中)   作:CABIN.

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──捕縛したマリナスを引き連れたアルマと、イリーナ達が合流した頃。

王宮の一角には、依然重苦しい空気が漂っていた。





《第7話》交錯

 

✦ピュロン王宮 政務殿──

 

 

「──フォニー、お前の意見が聞きたい」

 

疲弊した様子の"国王"クラウスが、現れたフォニーに視線を向けて言った。

 

『……意思決定は私の担うところではない。──だが、議題に応じた助力はしよう』

 

フォニーは、重苦しい空気を纏う宮廷五官を順に一瞥した。

彼らにも、それぞれに背負うものがある。

 

「──リゾーマの防衛についてだ、フォニー殿」

 

沈黙の後。

"尚書"カンデラが、ため息交じりに空間演算装置を起動する。

 

円卓の中央、広がる光線。

幾重にも折り重なったそれが、次第に主星と伴星の姿を描き出した。

 

投影に照らされたフォニーは、記憶回路からつい先日の会議録を遡る。

 

『"外交と対話に委ねる"、と言う決断を下した筈だ。──なぜ蒸し返す必要がある?』

 

フォニーがクラウスを見た。

その視線を拒むように、クラウスは目を伏せる。

 

「それはただの防衛放棄だ!」

 

 突然の強い語気。

 全ての視線が、"使節卿"ニアに集まった。

 

「……と、批判が殺到してましてね」

 

ニアが、山積みになった書類のうち一枚をつまむと、ひらひらと振ってみせた。

 

「批判に怯んだかのような誘導は控えて貰おう。不服申し立ての審議は、そもそも双星憲章に定められた義務だ」

 

"司法卿"ロワールが、苛ついた様子でトントンと円卓を叩く。

 

「……それも誘導だわ、ロワール。我々は義務だからではなく、国にとって必要だから話しているのではなくって?」

 

"典礼卿"イシアが、ロワールを睨みつけて言った。

机を叩くロワールの指が加速する。

 

「同義だ、典礼卿」

「──民の想いより国の決まりごとを優先されてはたまらないわ」

「貴様っ──」

「……やめよ」 

 

意趣返しに逆上し、立ち上がったロワールをクラウスが制した。

ロワールはもごもごと口を動かしたが、少しして静かに座り直した。

 

「……貴様らの理念などどうでもよいわ。必要な理解は"問題点"、導出すべきはそれを解決する"手段"だ!」

 

"歳出卿"ブランが、小競り合いを続ける周囲を一喝する。

 

「──略奪を切り捨てた以上、流通する資源の大部分はリゾーマの観光業と貿易に依存しておる」

 

尊大に足を組んだまま、ブランが呆れたように続けた。

 

「トリオン兵の全廃、騎士団の縮小。ピュロン側も身を削っているが、それでも尚、何一つ足りておらんのだ!」

 

沈黙。

それぞれの表情が曇る中──投影されたピュロンとリゾーマだけが、虚しく煌めいていた。

おろおろと泳いだ"尚書"カンデラの目が、助けを求めるようにフォニーに留まる。

 

『──趣旨は理解した』

 

入力された情報から、フォニーは事の全容を推察する。

そして、それは概ね正しかった。

 

『資源と税収をリゾーマに依存する立場でありながら、騎士をはじめとする防衛力がピュロンに集中している。──実態として真であり、市民感情の反発も至極当然だ』

 

ブランが眉を動かす。

 

「……見放す訳ではない、既に余力がないのだ」

「『国家の事情などどうでもよい』、『必要なのは解決だ』。──と言うのが、リゾーマの意見でしょうね」

「貴様に言われんでも分かっておるわ!」

 

飄々とした態度で横槍を入れるニアに、ブランが怒号を飛ばす。

 

「故に、我々にはなんらかの手段が必要なのだ!」

『……あらゆる手段が、別の視点では歪を増長する。──手段を論ずる以前に、必要なのは"方針"だ』

「……む……」

『──何を許容し、何を捨てるのか』

 

フォニーが、沈黙するクラウスへと向き直った。

 

『意思決定は、我々が担うところではない。──お前が決めることだ、クラウス』

 

意を決したクラウスが、重い口を開きかけた時──。

 

「──陛下っ!!」

 

勢い良く放たれた扉と、同時に飛んだ叫び声。

その場にいた誰もが振り返る。

 

「……王子殿下が……王都で暴動を起こしているとの報せありっ!!」

 

息を切らした騎士の言葉に、クラウスは大きく目を見開いた。

 

 

──────────

✦王都西地区 ユリウス広場──

 

 

「──どうして! どうしてこのような事をするのですかぁ〜っ!! げほっ!!」

 

騒ぎ立てるバストーラに、集中する民衆の視線。

 

「誰か助けてくれぇ!! 騎士が!! 騎士が暴走したぁ!!」

「……っ……! 貴様っ──」

 

再び蹴りをお見舞いしようとしたイリーナが、視線に気付いて踏み留まる。

その視線は、明らかにイリーナとアルマに対する敵意と嫌悪を孕んでいた。

 

「偉そうな奴らだとは思ってたけど。ついに暴力に頼りだしたか」

「……王都も落ちたもんだな……」

 

口々に発される失望の声。

……動揺と猜疑が、広場中に感染してゆく。

 

「……王子殿下……!」

 

──やってくれる。

困惑したイリーナの瞳と、イリーナにしがみついて震えるアイルを一瞥したアルマは、尚も騒ぎ立てるバストーラを睨みつけて歯を食い縛る。 

 

「私はっ! 私はただ、いつも通り生活していただけなのにっ!! 店は壊され、暴力までふるわれたっ!!」

「……酷いな……しかもあれ、王子殿下じゃないか」

「特権階級を笠に着てやりたい放題だな」

 

巧妙に真実を織り交ぜ、民の不満を土俵に引きずり込む"迫真の演技"。

 

 「違う! 私達はっ──!」

 

……イリーナの声は、もはや民には届かない。

 

 






【用語解説】
✧伴星リゾーマ
 観光と貿易により、双星の財政を一手に支える。
 ピュロンに比して防衛が手薄なことで批難が集中。
 
✧双星憲章
 双星ピュロンの法体系の中で最も重い大原則。
 全ての王政が本憲章に基づいて行われる。
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