✦亡国のフィエリア ─Another_WORLD TRIGGER─(統合中)   作:CABIN.

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 "お前もフィエリア王家だ"

アルマは、書斎を飛び出す直前にフォニーから告げられた言葉を思い返す。

意味するところを、理解したつもりだった。
必然下るであろう独断への懲罰にも覚悟はあった。


……だが──。




《第8話》"元"騎士

 

「違うのっ! お兄様も、イリーナも! 私が勝手に飛び出しちゃったから、それで、危ない目にあって──!」

 

アイルが、まだ無垢な妹が、震える身体を必死で抑え、民衆の前に乗り出して叫んでいる。

 

「……王女殿下……」

 

イリーナは力なくアイルに手を伸ばしたが、掌は虚しく虚空を掴んだ。

 

「──危ない目ぇ!? 私はお前に本もくれてやった! 沢山の玩具も見せてやったっ! それなのにお前はっ!  

 王家なら思い込みで民を傷つけていいのかっ!?」

 

どよめき。

幼い王女の叫びは僅かに民衆の呵責を揺さぶったが、それもすぐバストーラの扇動に飲まれた。

 

「……王家はいいよな。子供なら、王家なら何をしても許されるのか?」

「国民がどれだけつらい生活をしてるかなんて知らないんだろう」

 

──理解、出来ていなかった。

 

「……お願い……!! 信じてっ……!!」

 

向けられる侮蔑と失望の視線、それに必死で抗うアイルの姿に、アルマは表情を歪めた。

 

王家と言う特別も。

容易く揺蕩う民衆心理も。

それらを利用してみせる狡猾さも──。

 

「わしはっ! わしはただ、善意でぇっ!!」

 

大仰な演技は更に加速する。

ぼろぼろと大粒の涙を零し、腹が痛むとのたうち回りながら、バストーラは叫んだ。

 

……僕は、何一つ──。

視界は霧掛かり、槍を握るアルマの手が緩んだ時。

 

 

 

「──ええ、そうですとも、バストーラ殿!」

 

 

 

唐突に口を開いたのは──。

アルマの手で縄を握られたマリナスだった。

 

目を見開いたアルマがマリナスを見遣るが、マリナスは真剣な瞳でじっとバストーラを見つめている。

 

「我々は、ただ──王女を誘拐して売りつけようとしただけだと言うのに!」

「──!?」

「………は?」

 

困惑。

あまりにも唐突な発言に、民衆も、バストーラも、アルマ達も、その場の誰もが固まった。

 

「……な、な、何をデタラメな事をっ!?」

「あと少しで目的は果たされたと言うのに、まさかこれほど迅速に対応されようとは! 騎士の力を見誤っておりましたな、バストーラ殿っ!!」

「……マリナス、お前──」

 

言いかけたアルマに、マリナスが目配せする。

 

「……こうなってしまった以上、我々"鷹の翼"も、貴殿との密約は打ち切らざるを得ないでしょうな!」

「──ち、違う! 違うぞっ!」

 

バストーラが滝のような汗をかきながら否定するが──。

 

ほんの少しのきっかけで燃え上がり、正義の美名に酔い、責任や根拠などまるで問わずに延焼する。

民衆心理なるものが、いかに短絡的で脆く、無責任に揺蕩うものか。

 

他ならぬバストーラ自身が、最も良く理解していた。

 

──猜疑の目は、いとも容易く掌を返す。

 

「……誘拐……? でも、言われてみれば怪しい」

「騎士だって、流石に理由なく暴力は振るわんよなぁ」

 

アルマが、イリーナが、アイルが。

三者三様の面持ちで、呆気に取られている。

 

「──マリナスッ!! 貴様ぁっ!! 裏切るのか!!」

「はて、裏切ったのはどちらでしょうな。……鷹の翼は、断じて──」

 

大袈裟に首を振った後、マリナスは鋭い目でバストーラを睨み付けた。

 

「──貴様のような小悪党の道具ではないっ!!」

 

 

──────────

 

 

遡ること、数日──。

"鷹の翼"、集会場。

 

 

「……はてさて、あの様な輩──信じて良いものですかな」

 

マリナスが、肩を竦めながら問う。

鷹の翼"統率者"──ハイルディンは、静かに振り返ると、真っ直ぐにマリナスの目を見た。

 

「俺が、奴を信じたように見えたのか? マリナス」

 

マリナスもまた、その瞳にじっと視線を向ける。

 

……ああ、このお方は。

その鈍色の瞳に、まだあの日の──燃え盛る業火を映している。

 

──"このバストーラ、僭越ながらもっ! "鷹の翼"の崇高な意志に共鳴し、是非是非ご助力したくっ!"

 

……歯の浮くような台詞をぬけぬけと。

マリナスは、その声を掻き消すように首を左右に振った。

 

「──滅相もない」

「金勘定でしか物事を測れん密売人風情が、訳知り顔で共鳴などと。……虫唾が走る」

 

吐き捨てたハイルディンが歩みを進める。

マリナスもそれに続いた。

 

「……だが、背に腹は代えられん。トリガーの調達経路は必要だ」

「では、要求通りに私があの輩の護衛を?」

「監視だ。……目的の為なら──豚畜生にも、幾らか餌はくれてやる」

 

 

──────────

 

マリナスがアルマに敗北した直後──。

ピュロン王都、裏路地。

 

「マリナス。──お前、なんで騎士団を離れた?」

 

縄を掴んだまま前を歩くアルマは、友人とでも話すような口調でマリナスに問いかけた。

 

「……早速尋問ですかな」

「いや。単なる興味だよ」

 

先程の戦闘を思い返しながら。

アルマは、自身の思考を言葉でトレースする。

 

「──夢破れた騎士崩れ、なんて腕じゃなかった」

 

 "一瞬の油断が──命取りでしょうよっ!!"

 

「僕が集中を切らした瞬間、黙って斬り掛かれば終わってた筈だ。……それに──」

 

不意に立ち止まり、アルマがマリナスに向き直る。

 

「──お前が、アイルを庇おうとしてたから」

 

マリナスが目を見開く。

 

「庇う? 何故そう思われたのです?」

「……お前があのタヌキの"用心棒"なら、タヌキが逃げ出した時点で追うべきだし──お前、ゴロツキ共の射線がアイルに被らないように調整してたろ?」

 

……この男、あの多対一の局面でどこまで──。

啞然とするマリナスの表情を、アルマは淡々と眺める。

 

 "──行かせるなっ!!"

 

……マリナスが焦りを見せたあの瞬間。

あの瞳は確かに、アイルを"追うべき獲物"ではなく、"守るべき弱者"として映していた。

 

「──今でも騎士なんだよ、お前の振る舞い。……そんな奴が、なんで騎士団を離れたのかと思ってさ」

「……恐悦至極ですが──いやぁ、買い被りが過ぎますなぁ」

「だんまりかよ。まぁ良い、尋問で吐かせる」

「おお、恐ろしい。どうか御手柔らかに」

 

歩き始めたアルマの背中に、マリナスが続く。

 

……今でも騎士──か。

マリナスは、自嘲気味に笑った。

 

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