【僕のヒーローアカデミア】志村転弧ヒーロールート トロフィー【IF..】獲得チャート 作:ぃぃぃぃん
朝の空気はまだひんやりとしていて、車のボンネットにうっすらと夜露が残っていた。静岡県某所のビル──新しく借りることになったプロヒーロー『テンコ』の事務所に向かう準備として、転弧は荷物をひとつずつ車に詰め込んでいた。
助手席側のドアが開け放たれ、足元に置かれた箱にはファイルやノート、トレーニング用のギアがぎっしりと詰まっている。その隣の段ボールには、グラントリノから譲り受けたサポートアイテムや、鍛錬時の動画が入ったUSB、ヒーロースーツまで詰め込まれていた。
転弧はふと手を止めて、空を見上げた。
──ヒーローを始めて一ヶ月ほど経った頃だろうか。
思い出せば、濃い1ヶ月だった。
パトロールの途中、路地裏に立ち込める血の臭いと、鉄の気配。肌がピリつくような磁場の乱れに、転弧は足を止めた。
「誰か、いるな。」
と同時に、背後から風を割ってきた巨大な棒磁石。
咄嗟に半身を引いた。頬をかすめるように、棒磁石の巨大な鈍器が振り抜かれる。その鉄塊が地面に食い込む瞬間、転弧は掌で触れた。刹那、ザラリと塵になる感触。
崩壊。
敵が跳ねて下がる。厚く塗った口紅が歪み、ド派手な化粧の奥に、なぜか怯えと苛立ちが同居していた。
「……殺れたと思ったんだけど?中々やるわね。確か…テンコ、だったかしら。」
名乗ってもいないのに名を呼ばれた。顔は知られている。それがヒーローという立場だ。
「……お前が、最近話題の個性犯、“マグネ”か。」
磁力を操る。男にはS極、女にはN極。自分には付加できないが、他人に対しては絶対の拘束力を持つ。
その個性で、殺人3件、強盗致傷9件、殺人未遂29件──その数は多い。けれどそれ以上に、転弧には彼女の“目”が引っかかった。
磁力の奔流が地面を歪ませ、転弧の足元にまで響く。
が、そのときだった。
「交代だ、テンコ!」
──秀一の声。ヒーローネーム『スピナー』。背中を任せられる数少ない相棒。
跳び込んできた秀一が、転弧の前を横切るようにマグネへ突撃。そのまま磁場の隙を突いて腹に拳をねじ込む。鈍い音がして、マグネが崩れ落ちる。
捕縛はあっけなかった。
捕縛完了後、転弧はマグネに近づき、声を聞き取る。
「……受け入れてくれる場所が、欲しい……」
──それを、どうしても聞き流せなかった。
「マグネ、お前のやったことは消えない。それは忘れちゃいけねぇ。でも、何かをきっかけに変われるなら……もし出所までに変われたなら……また、話をしたい。」
呆気に取られたように口を開けるマグネ。その表情は敵としてのものではなかった。
「……アンタ、青臭いわね。でも……なんだかすごく楽になった気分。あの時もっと早く……会えてたら……!」
連行されるその瞬間、転弧の方を向いてマグネははっきりと言った。
「私は居場所が欲しかったの……。」
──居場所。
その言葉が、転弧の中に残った。
マグネは、ただ自由に生きようとした。それが結果的に、犯罪になった。許されないことをした。それは事実だ。変えようがない。
だが、もしその生き方に、ほんの少しでも選択肢があったのなら、変われたのかもしれない。
「……秀一。もし、俺たちみたいなやつがさ、居場所を作れたら……どう思う?」
「……そうだなぁ……!ならさ、ヒーロー事務所、やってみようぜ!俺や転弧みてェなはみ出しモン引き入れてさ! “正義”のカタチはひとつじゃねェんだからよ!」
“正義のカタチは、ひとつじゃない”
その言葉が、今も胸の中に根を張っている。
マグネを捕縛した数日後。夜が深まり、街の灯りが一層まばゆく輝いていた。転弧は、夜の買い物を済ませて帰る途中、道の端に蹲っている男性の姿を見かけた。最初は何気なく通り過ぎようとしたが、その姿に不安がよぎった。
「まさか、酔っぱらってるだけか……?」
だが、距離を縮めるにつれて、その男がただの酔っ払いではないことに気付く。顔色が悪く、息も荒い。蹲る姿勢は、何かを訴えかけているようにも見えた。転弧は立ち止まり、少し考えた後、すぐに駆け寄った。
「大丈夫か?」
転弧の声に、男はゆっくりと顔を上げた。目を見開いたその顔は、見るからに疲れ切っていた。転弧はすぐに腕を貸し、男を支えながら、ビルまで連れて行くことに決めた。
ビルに戻ると、グラントリノがソファに座っているのを見かけた。転弧は無言で、男を寝かせると、グラントリノに声をかけた。
「グラントリノ、こいつ、倒れてたんだ。落ち着くまで此処にいさせていいか?」
「倒れてたんなら病院連れてきゃいいだろ…。」と、グラントリノはすぐに答える。
「いや、待て。俺たちゃヒーローだ。訳アリっぽいし、なんかあったら志村が責任取れよ。寝かせてやれ。」
転弧は軽くうなずき、男をそのまま寝かせて部屋の隅に布団を敷いた。彼が目を覚ますまで、しばらくはその場で見守るつもりだった。
数時間後、男が目を覚ましたとき、転弧はぼんやりと天井を見つめていた。疲れを感じつつも、目を覚ました男に目を向けた。
男はしばらく寝返りを打ってから、ゆっくりと起き上がった。その顔にはまだ疲れが残り、気だるそうな表情をしていた。
「おい、大丈夫か?」
転弧は優しく声をかけた。
「……ああ、大丈夫だ。なんで助けたんだ?」
男は反応を示さなかったが、転弧の問いかけに軽くうなずいた。転弧は黙って見守りながら、少しだけ真剣に顔を近づけた。
「そりゃ、倒れてるの見たら気分悪ぃだろが。んで、あんな場所に蹲ってたんだ?」
男は一瞬、言葉を詰まらせた。そして、力なく笑ってから口を開いた。
「お前、いい奴過ぎだろ!!いい奴じゃねぇよ!!」
男は突然大声で叫んだ。その声はどこか感情的で、痛々しい響きがあった。
「俺は分倍河原仁ってんだ。名前教えてくれ!教えんな!」
転弧は少し驚きながらも、男の言葉に頷き、自己紹介をした。
「志村転弧だ。まぁ、悪いけどさ、少し話を聞かせてくれないか?」
男はしばらく黙り込んだ。そんな彼に、転弧は無理に話を続けさせることなく、少し静かな空気を作った。
「……あ、あぁ。分かった…。」
その後、男──分倍河原仁が語り始めた。彼の過去、そしてそれが現在にどれほどの影響を与えているのか、少しずつ明らかになっていった。
分倍河原仁の話は、辛く重かった。
彼は中学生の頃、ヴィランが引き起こした犯罪に巻き込まれ、両親を亡くした。その後、天涯孤独となり、16歳で住み込みで働きながら生活していた。しかしある日、バイクで走行中に突然飛び出してきた相手を撥ねてしまった。その相手は、取引先の会社の役員の親族で、彼が罪を問われることになった。
結果として会社から追い出され、職も住む場所も失った。失意の中、彼は思わず自分自身を複製してみる。そこから、彼の人生は次第に歯車を狂わせていった。
「……自分自身を複製したのは、ある意味、俺にとって逃げ道だったんだ。それで、誰かと話したくて、分身にでも話しかけてた……。分身に犯罪をさせちまったこともある…!」
転弧は静かに彼の話を聞いていた。分倍河原仁は、さらに続けた。
「……でも、分身たちは、俺に反発してきた。最初はうまくいってた。でも、ある日、分身たちが反乱を起こして……それから俺は、ずっと二重人格になったんだ。自分の個性を使えなくなった。それに、マスクを外したら、俺は壊れかけて……」
転弧はその話を静かに受け止め、眉をひそめた。
「……それから、社会に戻れなくなった。」
分倍河原仁の声はだんだん小さくなり、彼の苦しみがひしひしと伝わってきた。
そのとき、ドアが開き、グラントリノが現れた。
「よく話してくれた。後のことは俺に任せろ。」
その言葉を聞いた分倍河原仁は、少しだけ安心したような表情を浮かべた。グラントリノがどこかに行ってしまうと、転弧は改めて彼に言った。
「取り敢えず、メシ食べないか?」
分倍河原仁は目を見開いた。
「ハァ!?飯!?食ってもいいのか!?食わねえよ!」
転弧は笑いながら答えた。
「おう。たくさん食え。」
数日後、グラントリノから社会復帰をさせる責任者として一緒に暮らすことになった転弧たち。転弧は彼に、ヒーローとしてやり直す道を提案する。
「ヒーローにならないか?」
分倍河原仁は少し驚いた表情を浮かべたが、転弧の真剣な眼差しに心を動かされた。
「……俺が、ヒーロー?」
「アンタにはそれをやる力がある。きっと、誰かを救えるものだ。」
分倍河原は、しばらく黙っていた。そして、少しだけ頷く。
「……わかった!やってやるぜ!」
それから2週間後、分倍河原仁はヒーロー免許を取得した。そして、転弧、秀一と共に歩んでいく新たな人生が始まるのだった。
「志村。今から井口、分倍河原を連れて上野公園へ向かえ。指名手配中の怪盗が、国立美術館に収蔵されている日本画を盗むという予告状を寄越してきたらしい。」
グラントリノの一声で、転弧たちは車で上野公園へ向かった。
3人で警戒態勢に入りながら、上野公園を歩き始めた。
緊張感をまといつつも、美術館前の通りには平和な日常が流れていた。2人と別れて散策していると、大道芸人が人垣の中心に立ち、鮮やかなマジックを披露している。
その中でトレンチコートを着た男が手の中のトランプを空へ放ると、風に乗って舞ったカードが一枚ずつ消えていった。
見事な技だ。思わず足を止める。トリックを見破るよりも、芸そのものの魅力に惹かれた。
ショーが終わり、観客が拍手とともに散っていく中、男が転弧に声をかけてきた。
「そこの兄ちゃん!よく最後まで見てたな。もしかして、普段からマジックショー見てんのかい?」
「いや、そんなでもないけど……あんたの腕前、凄かった。」
素直な感想だった。そう言いながら、男の周囲に集まる子どもたちが彼にお礼を告げていくのを見届ける。
そのまま、秀一と仁と合流し、国立美術館の正面玄関をくぐった。
館内に足を踏み入れると、厳かな空気と共に、年配の男性がこちらに歩み寄ってきた。美術館の館長だろう。
「おお……貴方達が酉野さんの言っていた……失礼しました。何分、予告状が来てからというもの、気を張っておりまして。あともう一人、プロヒーローが来られるはずなんですが……。」
グラントリノの代理だと名乗ると、館長は少しほっとしたように肩を緩めた。待っている間に渡された資料に目を通す。
──怪盗の名は「Mr.コンプレス」。その個性『圧縮』は、対象の周囲の空間を球状に切り取り、ビー玉大にまで縮小する能力だ。対象は複数でも可。圧縮されると重さも小さくなり、自分の意思でいつでも解除可能。
器用で危険な個性だった。
すると、入り口からドタドタと力強い足音が響いてきた。
「久しぶりだなァ!覚えてっか!?」
ウサ耳をピンと立てた女性が、勝ち気な笑みを浮かべながら転弧の肩を豪快に叩いた。幼少期に一度会った記憶がある。兎山ルミ──今やラビットヒーロー「ミルコ」として名を馳せるプロヒーローだ。
「……ルミ、か?」
「覚えてたか転弧!あん時のガキが今じゃヒーローだってんだからな!」
ヘッドロックをかけられ、思わず顔をしかめる。スピナーとトゥワイスが何やら視線を向けてきているが、気にしないことにした。
ミルコは連絡先を教えろとしつこく迫ってくる。苦笑しながらも、転弧はスマホを差し出す。
その後、トゥワイスとスピナーにミルコとの関係について問い詰められた。
そして、二日後。
夜の二十二時。静まり返った美術館に、緊張が満ちていた。指定された展示室の中、目を凝らして監視する。秀一も仁も息をひそめ、ミルコはいつでも動けるよう気を張っている。
その時だった。
展示台の中央に飾られていた日本画が、小さな音を立てて突然ビー玉サイズにまで縮んだ。展示台の上には、まるでマジックのように何も残っていない。
「来たか!」
すぐに展示室の裏手から人影が駆け出していく。シルクハットに仮面をつけた男──Mr.コンプレスだ。ミルコが飛び出し、それを事前にミルコのサイズを計測していたトゥワイスが倍化させ二人に。もう一人のミルコが天井を蹴り、屋上へと突き抜けていく。
「スピナー、トゥワイス!頼んだ!」
転弧も後を追う。屋上では、倍化されたミルコが二手に分かれて、Mr.コンプレスを挟み撃ちにしていた。トレンチコートの裾がひらめき、怪盗はビルの縁に足をかける。
「さて、ここからが見せ場といこうか!」
しかしミルコの蹴りが先に入った。重力に逆らって跳び上がり、Mr.コンプレスの腕を取って投げ飛ばす。空中で体勢を立て直そうとするも、その前にもう一人のミルコが頭上から叩きつけるように落ちてきた。
「これで終いだッ!!」
Mr.コンプレスの身体が地面に叩きつけられ、転弧がその上に覆いかぶさるように圧し掛かる。ビー玉を取り上げ、個性を解除させた。
圧縮されていた日本画が、元のサイズに戻り、本物か確かめる転弧。
「これ……間違いねぇ。本物だ。」
ふぅ、と息を吐き、転弧は改めてMr.コンプレスに向き合う。仮面と目出し帽を取ると、2日前トランプのマジックを披露していた男の顔が現れた。
「……アンタ、ショー見てくれた兄ちゃんか。最初からコレ目的で近づいてきたのか……?」
「違う。ただ偶然通りがかっただけだ。腕に惚れた。それだけ。」
しばらく沈黙があった。Mr.コンプレスは真っ直ぐに転弧を見て、言う。
「……本当か?俺は元エンターテイナーだ。嘘は嫌いだぜ」
転弧は彼の言葉を反芻した。
元エンターテイナー。あの個性は応用の幅が広い。もし、ヒーローとしてデビューできれば──
思わず口が開いた。
「出所後、ヒーローとしてデビューしねぇか?」
途端に、Mr.コンプレスが声を上げて笑う。
「……ハァ!?血迷ったか?俺が捕まってヒーローになったって誰も得しねえのさ!」
転弧は、強い声で言い返す。
「誰も得しなくても!俺が!得する!!アンタのマジック、また見てえんだよ!!」
怪盗の瞳に一瞬、驚きが浮かび──やがて、それが優しい笑みに変わった。
「………!……まったく。そんな目されちゃ断れねぇ。分かった。俺の負けだ!」
パトカーのサイレンが近づいてくる。Mr.コンプレスは立ち上がり、手錠を受け入れながら、ふっと呟く。
「名前、聞いてもいいか?ヒーローネームじゃなくて……本名でな。」
転弧は頷いた。
「志村転弧。待ってるぜ、未来のヒーロー!」
Mr.コンプレスは小さく目を見開き、それから真っ直ぐにうなずいた。
「志村か……。顔と名前、覚えたからな。ムショ出たら、すぐ来てくれよ!」
グラントリノは、戻ってきた弟子たちをじっと見つめていた。転弧の報告を聞いており、秀一は壁にもたれて、やや気まずそうに視線を落としている。仁は眠そうな目をこすっていた。
「つまり……そのコンプレスってやつは、怪盗やってたが捕まえた。で、転弧、お前がそいつに“ヒーローやれ”って口説いた、と?」
「ああ、そうだ。」
「……よくやった。だが、度胸があるのか無謀なのか……。」
グラントリノは深く息を吐き、苦笑を浮かべる。だがその目は、どこか誇らしげだった。
「まァ、ヒーローってのは夢を語るもんだ。なら、次の夢は?」
転弧は一瞬黙った後、まっすぐに口を開いた。
「……事務所を立てたい。俺の、俺たちのチームでやれる場所を。」
その言葉に、グラントリノが目を見開いた。
「……事務所って、本気か?」
「
仁は、あくびまじりに言った。
「転弧がやるなら俺もやるぜ!やらねぇよ!」
秀一も、少し悩んだような顔をしてから、口を開いた。
「……俺たちはまだ、プロのひよっこだけどさ。お前らとなら、一緒にやってみてもいいと思う。」
しばらく沈黙が続き、グラントリノがぽつりと呟いた。
「若ェな。いいぜ。雛は巣立つもんだろ。やってみりゃ良い。」
そして、転弧はさっそく計画を立て始めた。立地、予算、設備。秀一はネットワークを駆使して情報を集め、仁はヒーローとしての信用をどう形にするかを考えていた。
勿論ヒーロー活動にも手を抜かず、警察と協力して突然揺れる一軒家の謎を解いたり、それを理由に大きく支持を得る事が出来たりした。
それから、二年後。
静岡県のとある町。ビルの一角に、新しいヒーロー事務所が開設されることとなった。元々はテナントの空き家だったビルを、オーナーの好意もあって格安で借りることができた。
一通り荷物を運び入れた後、転弧は新しい事務所の中を見渡した。まだ空気の中には、新しい環境への期待と少しの不安が入り混じっている。しかし、壁一面の窓から差し込む日差しを受けて、ようやくそれらが薄れていくのが感じられた。これからのスタートが、どうなるのか。それを胸に刻みながら、転弧は手を組み、深く息を吐いた。
すると、そのタイミングで事務所の扉が開き、オールマイトが現れた。彼は大きな背丈を屈め、笑顔を浮かべながらゆっくりと入ってきた。
「久し振りだね志村少年!事務所を設立したとグラントリノから聞いて!私が来た!」
転弧はその姿を見ると、改めてオールマイトとの再会に少し緊張を覚えつつも、笑顔で迎えた。
「オールマイト、ありがとうございます。来ていただいて。」
「HAHAHA、何を言っているんだ。お師匠のお孫さんがヒーロー事務所を立ち上げたんだから。こっちからお祝いに来たようなものさ。」
オールマイトは軽く笑いながら、転弧の後ろに見える新しい事務所の内装を一瞥した。
「さて、せっかく来たんだから少し話しとこうか。」
オールマイトは続ける。
「実は君に話さなきゃいけないことがあってね。内容は機密事項だから、他人に聞かれたらまずくてね。」
転弧は少し驚きながらも、その言葉に応じて頷いた。
「了解。じゃあ、あいつらにはスーパーをハシゴしててもらう。」
転弧は二人にスーパーをはしごさせ、誰もいない状態にしてから、オールマイトと改めて向き合った。
「それじゃあ、改めて話すよ。まず、雄英の教員になったこと。彼から聞いてるだろうけど、オール・フォー・ワンとの因縁が深い。5年前に倒したんだが、如何せんどちらも後遺症があってね。」
オールマイトから煙が上がり、痩せた骸骨のような姿になった。
「この通り、今の身体を維持するのが難しくなってきてしまった。だから後継者を探していたんだが、無事受け継がれたんだ。私の個性『OFA』が、ね。この力は代々受け継がれていく個性なんだ。私も、君の祖母、お師匠である志村菜奈から受け継いだんだよ。」
転弧はそれを受けて、少し沈黙した。
「おばあちゃんのこと、知ってたんですか。」
「騙してしまってすまない。志村家での顛末は、私も聞いた。
言い訳に聞こえてしまうかもしれないが、お師匠から言われていたんだ、『家族に関わるな』とね。最も、我々が速く君を見つけていれば…」
オールマイトは咳払いをして、続けた。
「それに、君の連絡先も交換しておきたい。すぐに連携を取り合えるように。」
「もちろんです。」
そして、二人は携帯電話を取り出し、連絡先を交換した。ついでに、秀一と仁の分のサインも頼んでおいた。オールマイトは少し照れたように笑いながら、それを快く引き受けてくれた。
「これで何かあった時に、すぐに連絡が取れる。君が何をするにしても、私は応援するよ。」
その言葉に、転弧は感謝の気持ちを込めて微笑んだ。
「ありがとう、オールマイト。アンタの助けがある限り、俺も頑張れる。」
そしてオールマイトは立ち上がると、少し考え込んだ顔をして言った。
「では、私はこれで帰るよ。君たちの事務所は私にとっても頼もしい仲間だ。いつでも支援を惜しまないからね。」
「分かった、待ってる。」
オールマイトは手を振り、事務所を後にした。その後、スピナーとトゥワイスが戻ってきた。
「おーい、戻ったぜ。」
「お疲れさん。」
転弧は二人に軽く挨拶を返し、外に出る準備をしていた。
「じゃあ、俺はパトロールに行く。特に問題なさそうだし、今日はのんびり過ごせるかもしれないな。」
2人はそれぞれ頷き、転弧が出かけるのを見送った。
暗くなる前に戻るつもりで外を歩いていた転弧は、歩道を進んでいると、ふと足を止めた。目の前に、足元がぐらついている小さな女の子がいたからだ。彼女は6歳くらいに見え、足や手には包帯が巻かれている。その姿は、どこか不安げで、顔を俯かせていた。
転弧はすぐに危険を感じ、彼女に近づいて声をかけた。
「大丈夫か?何かあったのか?」
女の子は小声で呟いた。
「捕まっちゃう…!」
転弧はすぐに彼女を抱え込むようにして、心配そうに尋ねた。
「何があったんだ?怖くねぇから、安心してくれ。危ない目に合わせたりしない。」
女の子は転弧の言葉に少しだけ顔を上げ、泣きそうな顔で言った。
「…
転弧はその名前を心の中で繰り返し、手を伸ばして崩壊させないように彼女の頭を優しく撫でた。
「エリ、か。大丈夫だ。少し休んで行こう。ここからすぐ近くに、ヒーローたちがいる場所があるから、そこで少し休もう。」
転弧はそう言って、不器用に微笑んだ。壊理は少し戸惑いながらも、転弧の腕に身を寄せるようにして、しばらく黙って歩き続けた。