【僕のヒーローアカデミア】志村転弧ヒーロールート トロフィー【IF..】獲得チャート   作:ぃぃぃぃん

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タイトルどうするか悩みました。


八話 裏①

 

 7月の終わり、じっとりとした空気をまといながらも、蝉の声が活気をくれる夕暮れ間近。転弧は、スマホに届いたメッセージを見ていた。

 

『暇なら来い。場所送ったぞ。』

 

発信者はルミ。文面だけなら誘いというより命令に近い。だが転弧は、すでに上着に腕を通していた。

 

「……行くか。」

 

 指先で位置情報をタップし、目的地を地図に表示させる。場所は繁華街から一本外れた、古びた商店街の裏通りだった。

 

 暖簾をくぐると、そこには和の趣を残した小さな甘味処。中には着物を着た年配の女性店員が1人、涼やかな笑みを浮かべて迎えてくれた。転弧が座ると、声を掛けてきた。

 

「おや、いらっしゃい。暑かったでしょう。冷たいお茶でもどうぞ。」

 

手際よく淹れられた煎茶が、転弧の前に置かれる。器もまた涼しげで、見た目からしてほっとする。

 

「……いただきます。」

 

店の奥から、「おーい」と手を振るルミの声。今日はヒーロー活動ではないのか、ラフなTシャツにデニムだった。

 

「遅ェよ。もう一杯目、飲み終わるとこだった。」

 

「五分前には着いてるからいいだろ。」

 

「私が一番に来てただけだっつーの。」

 

 ルミが椅子に腰を下ろすと、ふたりの間に自然と静かな時間が流れる。転弧は何気なく店内を見回した。レトロな内装に、甘味の甘い香り。どこか懐かしい空間だった。

 

「最近オープンした店なんだと。」

 

そう切り出す彼女に、転弧は頷くだけだった。

 

「……なんだよ、その目は。私だってこういう店、行くぞ?」

 

「別に。似合わないとは言ってねェ。」

 

「でも思ってただろ。どうせゲーセンとか、ラーメン屋だって。」

 

「思ってねェよ。」

 

ムッとした表情を浮かべるルミに笑いがこみ上げる。こうしていると、やっぱり彼女との距離感は心地いい。

 

先程の店員が声をかけてきた。

 

「お飲み物はどうなさいますか?」

 

「このままでお願いします。」

 

「はい、分かりましたよ。メニューも置いとくね。」

 

ルミが噴き出すように笑った。

 

「渋いな〜。女と来てんのに、追加注文ナシ?」

 

「甘いもんには渋いもんだろ、普通。」

 

「……言うじゃねぇの。」

 

小さく笑いながら、ルミは抹茶のパフェに手を付けた。

 

それからの時間は、自然と会話が弾んだ。共通の知り合いの話、最近の情勢への愚痴、そしてどうでもいいようなニュースの話題まで。

 

気がつけば、空は茜色に染まり始めていた。

 

 

「じゃ、そろそろ……。」

 

店を出た転弧が背を向けようとした、その瞬間。

 

ぐい、と腕を引かれた。

 

「まだ付き合えよ。話し足りねえぞ!」

 

「……どこだ?」

 

「うち。近ェからな!ほら、行くぞ!」

 

選択肢はなかった。強引な手に引かれ、そのままルミの自宅へ向かう。

途中、特に会話はなかった。だが沈黙が気まずいとは思わなかった。静かな街の灯りと、ルミの歩調。それだけでよかった。

 

 

 

「おう、上がれ。」

 

ルミの部屋は意外にも整っていた。転弧が座ったソファの横に、飲みかけの缶コーヒーが置かれているくらい。

 

「んで。続きな。」

 

「話ってなんだ?……待て、なんか近くねぇか?」

 

「なんでもいーだろ?別に困んねえだろ。」

 

ルミが、ふと近づいてきた。いつの間にか彼女に押し倒されていた。

 

「なあ、転弧。お前、私のことどう思ってんだ?」

 

その声には、どこか迷いが混じっていた。

 

「まさか、またすっとぼけるつもりじゃねぇだろうな……?ただの付き合いでこんなこと許すのか?」

 

数秒間沈黙した後、転弧が口を開く。

 

「……………お前が好きだ。こんな奴でも良いなら、恋人になって、ほしい…。」

 

声に出した瞬間、ルミの目が驚きに見開かれ、頬がみるみる赤く染まっていく。

 

「……っへへ、そーかよ!いいぜ!」

 

照れ笑いを浮かべながら、ルミは勢いよく身を寄せた。

 

「なら……今日だけは、良いよな?」

 

肩越しに囁かれる声は、さっきまでの彼女とは違っていた。

 

転弧は何も言わず、ただその存在を受け入れた。

 

しばらくの間、ふたりきりの夜が静かに流れていった。

 

 

 

翌朝、転弧が事務所に顔を出すと、出迎えたのは秀一の怪訝な視線だった。

 

「おいおいおいおい、転弧お前……!!」

 

「……何だ。」

 

()()、なんだよ、その首……!」

 

「……何かついてるか?」

 

「んなレベルじゃねぇ!!キスマーク!ついてんぞ!」

 

さらに仁が横から割り込む。

 

コイツら…プルスウルトラしたんだ!!そうだよ!」

 

「意味わからん。」

 

「超えちまったんだ!()()ってヤツをよぉ〜〜!」

 

秀一が肩を震わせて笑う。

 

「は〜〜、やりやがったなぁ転弧ォ……!」

 

「……うるせぇ、崩壊させんぞ。」

 

そう言って、転弧はデスクに向かう。だが、耳まで赤く染まっているのはごまかせなかった。

 

そして、スマホに一通のメッセージが届く。

 

──『私に黙って死ぬなよ』

 

転弧はそれに、短く返信を打った。

 

──『ああ』

 

送信を終えると、どこか背筋がすうっと伸びるような気がした。

 

 

 


 

 

 八月の強い陽射しが地面を焦がす中、転弧は事務所の電話の音に顔を上げた。スピナーが応対し、すぐに険しい表情を見せた。

 

「雄英高校の林間合宿での案件、だとよ。」

 

 その一言に、事務所にいた面々──コンプレス、トゥワイス、そして転弧自身の空気が変わった。冷房の効いた部屋が一気に冷え込んだようだった。エリはこてんと首を傾げている。

 

「警察からか?」

 

転弧の問いにスピナーはうなずく。

 

「そうだ。……全員で来いってさ。」

 

 目的地は警察署。制服姿の警官たちの視線を一身に浴びながら、4人は重苦しい沈黙のまま会議室に通された。すでにオールマイト、グラントリノ、シンリンカムイなど名の知れたヒーローたちが集まり、テーブルの上には作戦図と衛星写真が並べられていた。さらにはミルコまでもが何故か加わっていた。

 

「ヴィラン連合のアジトと思われる場所を特定した。林間合宿での奇襲、並びに拉致された生徒を奪還するため、連合幹部の一斉確保を行う。」

 

 警察官の言葉に、ヒーロー達は無言でうなずいた。全員が一枚岩というわけではない。だが、この任務だけは、失敗するわけにはいかない。

 

 数日後の夜、突入部隊は集結した。バーを冠した連合のアジトに。雄英高校の記者会見の終了と同時に突入する算段だ。

首魁の死柄木弔、ワープゲートの個性を持つ黒霧、蒼炎を操る荼毘という男、他2人のメンバーが中にいることが予想された。

 

だが、こちらには切り札がある。

 

「トゥワイス、行けるか?お前とMr.(ミスター)が頼りだ。期待してるぜ。」

 

リーダーの声に、トゥワイスは二つの親指を掲げて応える。コンプレスも微笑して頷く。

 

「問題ナシ!任せろ、リーダー!」

 

 その瞬間、シンリンカムイが二人に分裂する。木の蔓が天井から地面から無数に伸び、オールマイトの登場に動揺したヴィランたちを一斉に拘束していく。コンプレスが動き、圧縮するべく近づいたときだった。

 

「オマエが!!嫌いだ!!!!」

 

 甲高い絶叫とともに、バーの奥で何かが爆ぜた。泥のような黒い物質が死柄木弔の口から吐き出され、部屋を這いずるように広がっていく。

 

「…こりゃヤベェぞ!トゥワイス、シンリンカムイ!絶対ソイツ離すなよ!!」

 

 コンプレスが叫ぶ中、転弧の視界が揺れた。ぐにゃりと空間が歪み、足元が沈んだかと思うと、次の瞬間、景色が一変していた。

 

 廃墟だった。瓦礫の山、朽ちた鉄骨、割れた窓ガラス。バーではない。ここはどこだ? スピナーたちの気配もない。

 

転移の個性。そう直感した。誰の、何のために?

 

 耳を澄ますと、すぐ近くで爆音が鳴った。何かが激しくぶつかり合う音に彼は駆け出した。建物の隙間をすり抜け、崩れかけた階段を駆け下りる。

 

瓦礫を押しのけたその先で、2人の人物が火花を散らしていた。

 

片や、鋼のような筋肉を誇る金髪の男──オールマイト。

 

片や、マスクをつけた異様な気配の大男。

 

「あれが……オール・フォー・ワン……!」

 

 喉が乾いた。グラントリノ曰く、自分の祖母を殺した仇、全ての始まりの元凶。

 

オールマイトが叫ぶ。

 

「オール・フォー・ワン!!今日こそ貴様の全てに決着を付ける!!」

 

男は笑うように言い返した。

 

「寂しん坊だなぁ!5年ぶりなんだぜ!?オールマイト!!」

 

転弧は迷わずに全速力で彼らの後を追った。

 

 


 

 

 オールマイトが痩せ細った姿(トゥルーフォーム)で膝をついた瞬間、その背に走った風は決してただの風ではなかった。

 

「オールマイト……?」

 

民衆の問いかけに応える余裕すらなく、オールマイトは血を吐きながらも、それでも敵から目を逸らさなかった。

 

(今しかねェ!)

 

 転弧は地面に手をついた。五指で接した瞬間、爆発的に地面が崩壊する。崩れたアスファルトがオール・フォー・ワンを包むように飲み込み、煙と瓦礫が空中に舞い上がった。

 

だが、その中心で男は笑っていた。

 

「おいおい、空気を読んでくれよ!せっかく平和の象徴の秘密が世間にバレたんだ!もっと浸らせてもいいんじゃないのかい?」

 

余裕たっぷりに立ち上がる男の姿。転弧の五指で砕かれたはずの地面が、まるで無傷だったかのように再生していく。個性の応酬、それ以上の恐怖がそこにはあった。

 

転弧は即座に間合いを取り、構える。男の次の動きを予測するために。

 

「君には目をつけてたんだぜ? 志村転弧くん。何せ志村菜奈の孫だ!利用しない手はないだろう?」

 

 祖母の名を口にされたとき、彼の中の何かがざわついた。祖母の名を知っている。いや、それだけではない。オール・フォー・ワンの声音には確かな確信と、残酷な期待が滲んでいた。

 

だが転弧は、冷静に目の前の脅威だけを見ていた。耳を傾ける必要はない。言葉など──

 

「ナガンに保護されたと聞いて諦めていたんだが、丁度良い!耳寄りな情報を教えてあげよう!」

 

その言葉が、意識に杭を打った。

 

「君が産まれたのはオールマイトに嫌がらせをするためだ。大変だったんだよ? 長女は育ちすぎていたし、目立つ行動は取れなかった!そこで君が産まれたんだ!」

 

(何を──言っている……?)

 

テンコの意識が急速にノイズを帯び始める。遠くで音がしていた。戦闘の音か、自分の鼓動か。

 

「産まれた時に君の個性因子を抜き取り、ヒーローは悪いものだと父親の抑圧を増進させた。…ああ、そうだ。みっくんとともちゃんだったね!」

 

(……まさか……!)

 

「彼らにも指示しておいたのさ。君がトラックに轢かれかけた二人を助けるように動け、とね。」

 

トラック。覚えている。あの後、一緒にヒーローごっこをして、みっくんに『転ちゃんはオールマイトみたいだ』って言われたっけ──

 

「頃合いを見て、ドクターの施設に合った個性から、可逆性を取り払い、破滅に向かう粗悪なコピーを君に与えた!!」

 

理解が追いつかない。世界がぐらりと傾く。あの時発現した個性が、与えられたもの? 破滅に向かうコピー?

 

自分の個性、みっくん、ともちゃん、父さん……全部この男の手の内だったというのか? 自分の人生は……最初から……全部?

 

転弧の身体が止まった。攻撃の手が、足が、思考が止まる。

 

(動け…動け動け!……動けよ、志村転弧……!)

 

 心が叫んでも、肉体は従わなかった。吐き気が込み上げ、膝が崩れる。意識が寸断されるような錯覚。

 

その時──転弧の動きがピタリと止まった。

 

 スピナーたちが捕らえた死柄木弔──改め、動木 留夫(うごき とめお)の個性【硬直】。

()()()()()()()()()()()()()()()()()、相手を1分間硬直させられる。その都合上、生物にしか効果が発揮できない。

 

 立ち尽くす彼の頭上で、オール・フォー・ワンの巨大な腕が振り上げられる。

 

「そうさ! あの家の悲劇も! 苦痛も! 全部僕が与えたんだ!! 君は産まれるべきではなかった! ヒーローを目指す道理もないんだ!! 志村転弧!君は何も選んじゃいない!!」

 

轟音が鳴り響いた瞬間、頭に衝撃が走り、視界が真っ赤に染まる。

全身が空を舞い、背中から崩れたビルに叩きつけられる。骨が軋み、指の関節が砕ける音が聞こえた。

 

(指が……動かねェ……クソッ!)

 

 個性が発動できない。血が滲む瞳の先で、オールマイトが立ち上がろうとしていた。誰かの大声が遠くから響いてくる。

 

(なんだ……誰か……いるのか?)

 

世界がぐにゃりと歪む。頭が重い。視界が霞む。同時に急激な眠気が襲ってくる。

 

(眠い…………。)

 

「………!Mr.!ミルコ!全身の骨がイかれてる!心音も微弱だ!」

 

誰かの声が聞こえる。次第に彼の身体から力が抜けていく。

 

(なにもわからない。もう、どうでもいい。疲れた……。)

 

そして

 

志村転弧は、目を閉じた。

 

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