【僕のヒーローアカデミア】志村転弧ヒーロールート トロフィー【IF..】獲得チャート   作:ぃぃぃぃん

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八話 裏②

 

 

 空は重たく曇り、報道ヘリのプロペラ音だけが虚空に響いていた。電波を通じて全国へと映し出されるのは、もはや瓦礫と化した市街地と、膝を付く幾人ものプロヒーローの姿だった。

 

「速報です!!……現在、戦闘区域は未曾有の混乱状態に陥っています!平和の象徴オールマイトの痩せ細った姿が……!」

 

 レポーターの声が震え、カメラの映像が激しく揺れる。だが視聴者の目を捉えて離さなかったのは、血を流しながら倒れているテンコの姿だった。

 

 テレビの画面越しに、それを見ていた者たちがいた。

 

 レディ・ナガン──かつて公安の手先だった狙撃ヒーロー、今はその肩書を捨てた火伊那は、目を見開いてテレビ画面を見つめていた。彼女の隣には、まだ幼い少女・エリが不安そうにしがみついている。

 

「お、お兄ちゃん……?お兄ちゃんッ!!やだぁッ!」

 

 エリの震える声に、火伊那は歯を食いしばった。

 

「くそ……なんたって……あんな場面映した…!」

 

 オール・フォー・ワンの口元が、卑劣な笑みを湛えて動いた。

 

『君は産まれるべきではなかった!』

 

 その言葉が、画面越しに、世界中へと広がっていった。

 

 ──だが。

 

「うるせえ!!!」

 

轟音のような声が戦場の一角から響いた。

 

「世界の誰も望まなくても、転弧(アイツ)は……俺たちに必要だ!!」

 

 叫んだのはスピナーだった。倒れている転弧を見て、血走った目で叫んでいた。足元を震わせながら、一歩、また一歩と、倒れた彼の元へ向かおうとする。

 

「アイツだから……アイツだったから、俺たちはここまで来られたんだ!!テメェの都合で物言ってんじゃねぇよ!!!」

 

 憤りと悲しみと、焦燥が混ざった声だった。スピナーの叫びに反応するように、トゥワイスとコンプレスが走り出す。

 

「行こうぜ!!あいつを見捨てるわけにいかねぇ!!速くしろ!!」

 

「たりめぇだ!……アイツにゃまだ、マジック全部見せてねぇのよ!!

 

 瓦礫を飛び越え、地面を蹴り、三人が転弧のもとへ向かう。しかし、距離は遠く、遮るものは多い。

途中、ミルコが合流するも、立ち止まり、苦々しく唇を噛んだ。

 

「くそッ……!遠いっ!」

 

 その時──

 

「お困りのようね!」

 

 野太い声とともに、崩れたビルの影から現れたのは、巨大な磁石の鈍器を背負い、サングラスをかけたオカマの敵・マグネだった。

 

「お前…!マグネか!?」

 

 スピナーが驚愕とともに名を呼ぶ。かつて彼と転弧が捕らえたはずのヴィラン。だが、彼女はにっこりと笑った。

 

「恩返しに来たのよ。私の個性なら届くわ!誰か、壁になってちょうだい!」

 

「俺がやる!やってやるぜ!」

 

 叫んだのは、トゥワイスだった。彼の表情は真剣そのものだった。

 

「……あいつには拾ってもらった恩がある!今ここで返さねえで、いつ返すんだ!!」

 

 腕を広げたトゥワイスが、自身を次々と複製する。その姿が増え続け、まるで黒い波のように地面を覆っていく。

 

無限増殖 幸福な男の行進(グラッドマンズパレード)!!!

 

「やるぜ!!俺たち!!壁は任せろ!!」

 

「「「「そうだぜ!!」」」」

 

 無数のトゥワイスが連なって巨大な壁となる。その先に、マグネが狙いを定める。

 

「いくわよ……!反発破局夜逃げ砲!!!」

 

 磁力の奔流がスピナーの体を包み込み、一気に空中へと射出した。まるで彗星のような勢いで、彼は転弧の元へと飛翔する。

 

 地上で見守るトゥワイスとコンプレスが、その背に叫ぶ。

 

「頼んだぞ、スピナー!!!」

 

「……アイツのことは任せた!!すぐに向かう!」

 

 飛翔の途中、スピナーは思った。

 

(俺たちは、ただの駒じゃねえ。誰かの都合で生まれて、消えてくもんかよ。転弧……お前がどんなに傷ついても、俺は──)

 

「俺は、お前を見捨てねぇ!!!」

 

 瓦礫の中、血を流し意識を失った志村転弧のすぐ上に、スピナーの影が差し込んだ──。

 

 

 


 

 

 大型スクリーンに映し出される、今まさに光に包まれている青年の姿。

 

 血に染まったシャツ。傷だらけの顔に、安らかな表情をしたテンコ。

 

 その姿を、大通りに集まった群衆が無言で見つめていた。誰もが、息を呑んで。

その沈黙をふいに破ったのは、背の高い一人の男性だった。

 

「……俺、アイツ知ってる!!」

 

 振り返った男は、興奮したように両手を広げて叫んだ。

 

「テンコだ!!2年くらい前、怪盗捕まえてた!!上野で、たまたま見てたんだよ!!そっからずっとファンなんだ!!」

 

 その声に、周囲がざわついた。

 

「マジで!?」

 

「テンコ…?誰だソイツ。……でも、今それどころじゃねぇか。」

 

男は目を潤ませて叫んだ。声が掠れている。

 

「なぁ、起きろよ!!オールマイトがやべぇんだ!!やれそうなのお前しかいねぇ!頼むよ!頑張れって!!なぁ、オイ!!」

 

その声に呼応するように、別の若い女性が叫ぶ。

 

「そうよ……!」

 

 さらに続く。

 

「頑張れ!!ヒーロー!!」

 

「テンコー!!頼んだぞ!!」

 

 都市の雑踏に、次々と彼を呼ぶ声が響き始める。誰もが画面を見上げ、無意識に拳を握っていた。人々はもう「ただの視聴者」ではなかった。彼の“目撃者”になった。

 

 

 

 ──同時刻、山梨県の某警察署。

 

 休憩室の片隅に設置された小さなテレビ。けれど、署員たちは誰もがその前に集まり、食い入るように画面を見ていた。

 

 そこに映るのは、自分たちがかつて共に戦った青年。志村転弧。

 

 2年前のマグネ捕獲や、モール内での人質救出。無差別脅迫犯への対応。彼は、グラントリノを通じて、幾度も彼らと連携し、命懸けで現場に立っていた。

 

「志村ァ!頑張れぇ!」

 

「死ぬには早えだろぉが!!」

 

「頼む!一泡吹かせてやれ!!」

 

「テンコォ!起きろやぁ!!」

 

 拳を握り、唇を噛み、男たちは叫んだ。

 

 この年若き青年こそ──“本物のヒーロー”だと、誰よりも現場で知っていたから。

 

 

 

 ──そのまた別の場所。プロヒーロー『テンコ』事務所の一室。

 

テレビの中の喧騒を見つめていたのは、小さな少女・エリ。

隣には、彼女を見守ってくれている火伊那。

 けれど、いま彼女の視線は、傷だらけの“兄”から離れなかった。

 

 震える手で、テレビに向かって手を伸ばす。

 

「……がんばれ……。」

 

 その声はとても小さかった。けれど、次第に涙を溜めながら、声を強めていく。

 

「がんばれっ……お兄ちゃん……!がんばってぇ!!」

 

 火伊那がそっと背中に手を当てる。

 

(……この子は、お前を応援してるぞ、転弧。)

 

「……お兄ちゃん!!私の……わたしのヒーロー!!起きてよぉ!!」

 

 その叫びが、画面を通じて、まるで彼に届くかのように──

 

人々の声が、都市に、山間に、そして空にまで響いていた。

誰もが、ただ一人の名を呼んでいた。

 

 志村転弧──崩壊ヒーロー・テンコ。

 

 彼を、皆が待っている。彼の再起を、日本中が願っていた。

 

 


 

 

 瓦礫の匂いが消えた。轟音も、焼け焦げた鉄の軋みも、血の味もない。

 

 ──気がつけば、転弧は、一軒家に立っていた。忘れようとしても忘れられなかった、あの家。志村家だった。

 

「……ここは……?」

 

 転弧は呟く。瓦礫の下にいたはずの体が軽い。傷もない。服も破れていない。心だけがここにある。そんな感覚だった。

 

 その時──

 

「いたぁッ!」

 

 無邪気な声が響いた。振り返ると、あの姿が目に入った。よく知る顔──いや、忘れようとしていた、笑顔。

 

「華ちゃん……?」

 

 幼い頃の姉が走ってきて、転弧の腰にしがみつく。

 

「やっと来た!ずぅーっと待ってたんだよ!」

 

「……なんで……?」

 

 呆然としたまま立ち尽くす転弧の前に、4人の人影が現れた。

 

 母の志村直、静かな祖母・祖父、そして──父・志村弧太郎。

 

 誰もが、あの時のままだ。母は髪を下ろして、優しく微笑んでいた。祖母と祖父は少し不安そうな表情をしていた。そして、父は……相変わらず固い顔で、腕を組んでいた。

 

 転弧は、眉をひそめる。

 

「なんだよ……ずいぶん賑やかなお出迎えだな。ここ、地獄か?」

 

 そう皮肉を飛ばすが、心は妙に静かだった。

父がゆっくりと前に出てくる。

 

「違う。ここはあの世とこの世の、境目だ。お前はまだこっちに来るべきじゃない。」

 

「は……?」

 

厳格に言い返したその横で、華が口を尖らせる。

 

「もー、お父さんったら!転弧のこと、こっちに来てからずーっと気にしてたくせに!!」

 

「華!」

 

 慌てたように叱る父だったが、その顔はどこか、いつもの険しさを崩していた。

転弧は、信じられないようにそのやり取りを見ていた。家族の中で、憧れのヒーローを否定した父のそんな姿。生前は見たことがなかった。

 

 ──そのとき、ふと、耳に何かが届く。

 

 声だ。

 

『……転弧!おい!!聞こえるか!起きろバカヤロー!!』

 

『……起きろ!目ぇ覚ませ!!』

 

『……まだ終わってねェぞ!』

 

『私との約束、破るんじゃねえよ!』

 

 聞こえた気がした。声は小さいが、確かに届いていた。あれは……秀一、圧紘、仁…ルミ…頼れる仲間の声だ。

 

直が近づき、そっと手を取る。

 

「聞こえた?」

 

 優しい笑みで、母が言う。

 

「一つだけじゃ小さいけどね。たくさん集まれば、ちゃんと届くのよ。……『あなたは、生まれてきてよかった』って。」

 

「…………ッ!」

 

 言葉が出なかった。そう言われたのは、いつだったろうか。

 

「お母さんも、そう思ってる。……ありがとう、生まれてきてくれて。あの男の人が言ってたことなんか、信じてちゃ駄目よ?」

 

そう言って、母が手を握る。途端、体が温まったように感じた。

 

「だから、行きなさい。転弧。あなたの声を、あなたの命を、待ってる人がいるの。あなたを愛してくれる人もいる。」

 

 転弧は、迷うように家族を見渡した。祖父母は涙を浮かべて微笑み、華は両手を振っている。

 

 そして、父に向き直った。

 

「……アンタが嫌いだったよ。多分、これからも変わんねぇ。」

 

 父は表情を動かさない。ただ、黙って聞いている。

 

「でも……少しだけ、考えが変わった気がする。俺は……唯、肯定されたかったんだ。自分の夢を。」

 

「そうか……転弧。………ごめんなぁ……!……許してほしいなんて思わない……本当に済まない…!!」

 

 言葉を探すより先に、全身が光に包まれていく。光の粒が皮膚から立ち上り、次第に意識が戻っていく。

 

母の声が最後に聞こえた。

 

『行きなさい、転弧。あなたは、もう一人じゃない。』

 

 

次の瞬間、志村転弧の瞼が、ゆっくりと開かれた。

 

 

 


 

 

 ──まばゆい光がすっと引いて、代わりに肌を撫でる生ぬるい風の感触があった。

 

 志村転弧はゆっくりと目を開けた。

 

 視界にまず飛び込んできたのは、薄曇りの空と、瓦礫の山。その先に、見覚えのある輪郭。

 

「……秀一。」

 

 呼びかけると、目の前にいた彼は目を大きく見開き、その後すぐに目尻を潤ませた。

 

「転弧……お前、起きたのか……!」

 

「状況はどうなった?」

 

 まだぼんやりとする頭でそう尋ねると、スピナーは肩を上下させながら言葉を吐き出した。

 

「オールマイトがヤベェ!押されてる!ってか、転弧、お前……!」

 

彼は思わず口を押さえた。

 

「なんか……傷、塞がってねぇか……!?」

 

 転弧は自分の身体を見る。確かに、さっきまで貫かれていた傷は、塞がっていた。血の跡はある。だが、致命傷は存在していない。

 

「マジか……マジだ!どうなってんだ!?なぁ、Mr.(ミスター)、トゥワイス!!」

 

 スピナーの叫びに、近くで見守っていたコンプレスとトゥワイスが反応する。

 

「え、ウソだろ!?」

 

「ホントに生き返ったの!?え、これ夢?夢じゃないよね!?俺たち現実見てるよな!?」

 

 トゥワイスがわけのわからないテンションで騒ぎ出し、コンプレスも近寄ってくる。

 

「……どうやら、本当に奇跡は起こるらしいな。」

 

 けれどその中で、転弧だけは静かだった。そのまま、音もなく駆け出した。

 

「転弧!?おい、どこ行くんだよ!」

 

アイツ(AFO)を止める。

 

 短く返し、彼は走る。視線は遥か向こう、戦場の中心へと向けられていた。

 

その時だった。

 

 空から崩れ落ちてきた巨大な瓦礫。それはまっすぐ、彼の頭上に迫る。

 

 誰かが叫ぼうとしたその瞬間──

転弧は足を止めずに、右手をかざした。

()()()()()()()()()()()()()、中指の指先だけが軽く瓦礫の底面に触れる。0.2秒後、瓦礫は無音で塵となって崩壊した。

 

細かい粒子が舞い、消えていく。

 

「なっ……!?」

 

それを見て、スピナーたちは絶句した。

 

「今……触れてもなかった、よな……?」

 

「おいおい!この土壇場で個性が進化した!?ええ!?」

 

「……あれは多分、覚醒だ。」

 

コンプレスがぼそりと呟いた。ミルコが続けて口を開く。

 

「崩壊が……五指で触れずに発動してる。しかも、任意で。意識的に抑制も、拡張もしてやがる。」

 

「じ、じゃあさっきの傷が治ったのは…?」

 

「私は知らね!マジック野郎!お前分かるか?」

 

「ごめん、おじさんもアレは知らねェ。」

 

 彼らの背後で風が吹き抜ける。

崩壊の粒子を引き連れて、志村転弧は一直線に戦場へと駆けていった。

 

 その姿は、誰の目にもはっきりと、“ヒーロー”に映っていた。

 

 

 

 

 暗雲が垂れ込める戦場。

オールマイトを圧倒するオール・フォー・ワン(AFO)の前に、再び転弧が現れる。

 

地面に立ち、傷ひとつない姿の転弧を見た彼は、瞬時に判断する。

 

「自分から来るとはね、志村転弧。」

 

その声には皮肉が混じっていた。

 

「でも、君はすぐに死ぬ。」

 

右手を掲げ、複数の個性を同時に発動する。

 

「『切断』+『鋲突』。」

 

刹那、見えない刃が転弧の右手の指を断ち切り、同時に無数の鋭い杭が体を貫く。血が散り、転弧の体が仰け反る。

 

「これで終わりだよ。君は──」

 

 そこまで言った時、オール・フォー・ワンは異変を感知した。彼は視覚が機能していない。

それを補うため音を拾う個性などを集めていた故に、彼は赤外線感知で穴が空いた身体が塞がっていく事に気が付いた。

 

「…!?ば、馬鹿な…!!傷が…消えていく…!?一体何故!?」

 

 先ほど切断されたはずの指が、僅か数秒で元通りに戻る。

全身に空いたはずの穴も、蒸発するように塞がっていく。

 

「どういうことだ……?そんなはずは──君のソレは……!」

 

 オール・フォー・ワンの声に困惑と恐怖が混じる。

転弧は言葉を返さない。ただ、一歩、裸足のまま地面に足を踏み出す。

 

「……!」

 

その瞬間、音もなく、地面に細かなヒビが走った。

 

「しまっ……!」

 

 オール・フォー・ワンが反応するより早く、転弧の右手の指が地面に触れた。

崩壊が始まる。指一本だけで触れたにも関わらず、その影響は瞬時に周囲数十メートルにまで及んだ。

 

 アスファルトが砕け、ビルの基礎が軋む。ヒビはまるで生き物のように、選択された経路を進み、的確にオール・フォー・ワンの足元へと迫ってくる。

 

「ッ……何故だ!?『崩壊』の制御範囲が……広すぎる!!」

 

志村転弧──彼の1つ目の個性『崩壊』。以前は五本の指で接触しなければ発動しなかったが、今は一本で十分。しかも、範囲も任意にコントロール可能になっていた。

 

──そして、転弧の肉体が、完全に再生している。

 

 彼の2つ目の個性──『再生』。

かつてAFOに奪われた個性が、彼の元へ帰ってきたのだ。

 

その原因は、エリの巻き戻し。

彼女の力によって、転弧の体は“個性を奪われる前”の状態にまで戻されていた。

 

ただし『再生』には、()()()()()()()()()()()()()()()、自動的に発動する──そういう条件があった。

 

つまり、転弧の“死に瀕した”状況が、個性を完全に彼に戻したのだ。

その存在は、崩壊のコピー元の治崎廻──オーバーホールのように完全な“破壊と再生”の二面性を持っていた。

それに気づいた時、AFOは背中に汗が伝うのを感じた。

 

「このままでは……!」

 

全身の筋肉を強化し、跳躍しようとした瞬間──

 

「遅い。」

 

低く、しかし明瞭な声。

 

転弧の右手が地面から離れた瞬間、ヒビの網が地面を駆け抜け、オール・フォー・ワンの真下へ到達した。

 

地面が盛大に隆起し、爆発的な粉塵と共にAFOの足場が崩壊する。

 

「ぐっ……!」

 

身体能力強化で一気に後退するが、瓦礫の破片が彼の肩を裂く。

 

「まさか……ここまでの脅威になるとはね……!」

 

苦悶するAFOをよそに、転弧はすでに次の一歩を踏み出していた。

 

「俺は……もう壊すだけじゃねぇ。」

 

その声には、確かな意志があった。

 

 

 

 焦げた風が吹きすさぶ瓦礫の戦場。そこに立つ志村転弧の身体には、数え切れぬほどの傷が刻まれていた。しかしその全てが、瞬く間にふさがっていく。

 

「馬鹿な……!なぜだ……!『切断』に『鋲突』……確実に致命傷を与えたはず……!」

 

AFOの口元が引きつる。だが、転弧の瞳にはもはや迷いはなかった。裸足の足先からは、『崩壊』が音もなく伝播していく。

 

地面が波打ち、空気が揺らぎ、空中に跳ねる砂塵。AFOは即座に飛び退く。だがその時、背後から近づいていたミルコが跳びかかる。

 

「取ったぁッ!!」

 

転弧の身体を脇に抱え、着地の瞬間、逆方向からコンプレスが現れる。その右手には圧縮されたスピナー、トゥワイスの姿があった。

 

「遅れて悪かったなァ!持ってきたぜぇ、仲間たちをよォ!!」

 

「クソ……ッ!」

 

AFOが叫ぶ。だが、彼が個性を組み合わせて放とうとしたまさにその瞬間──

 

「悪ィ!オールマイト!後頼んだ!!」

 

その声が、転弧の口から飛び出した。

 

ミルコが跳躍し、コンプレスが煙幕のように砂塵を撒き、転弧たちを連れ去る。そのわずかな一瞬。

 

AFOが前を向くと、そこには。

 

──(オールマイト)がいた。

 

ボロボロになったスーツ。

震える拳。

それでもなお立ち続ける、あの象徴。

 

「ここで……止める!!」

 

オールマイト。

 

(彼が稼いでくれたこの時間を……無駄にはしない!!)

 

AFOは動けなかった。それは恐怖ではない。理解が追いつかないのだ。

 

「UNITED・STATES・OF・SMAAAASH!!!!」

 

拳が炸裂する。空気が砕け、空が割れ、地面が吹き飛ぶ。

 

AFOの身体が、風を起こし、地面に叩きつけられる。

 

瞬間、静寂。

 

煙の向こうに立ち尽くすオールマイトが右手を掲げる。

そして、立ち上がれぬAFO。

 

やがて──その戦闘は、多くの市民の記憶に刻まれ、後にこう呼ばれることになる。

 

『神野の決戦』

 

 1人のヒーローが、光に手を伸ばし、1人のヒーローが、命を懸けて拳を振るった。

それは、全ての未来を懸けた、一撃だった。

 

 

 

 




次回、エンディング
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