【僕のヒーローアカデミア】志村転弧ヒーロールート トロフィー【IF..】獲得チャート   作:ぃぃぃぃん

8 / 18
四話 裏

 

 

春の陽射しがまだ肌寒さを含んでいる昼下がり。

 

雄英高校の入学式を終えたばかりの志村転弧は、人混みの中をひとり歩いていた。入学式の喧騒、周囲の期待、眩しすぎる未来への視線。何もかもが自分とは合わないような気がして、彼は校門を早々に離れていた。

 

そんな折だった。

 

角を曲がった瞬間、転弧は勢いよく歩いてきた大柄な男とぶつかった。

 

「っと、失礼した、少年。大丈夫かい?」

 

その声は聞き覚えのあるものだった。いや、聞き覚えがあるなどという言葉では表せない。

 

あの髪、あの背、あの笑顔――テレビの中で何度も見た。

 

「オールマイト……!」

 

転弧の目が驚きに見開かれる。

オールマイトは、いつもテレビで見ている通りのヒーローの姿だった。しかし、その姿勢から、どこか人間的な温かさを感じさせる。

現実味がなかった。日本中の誰もが知っている、平和の象徴。そんな存在が、今まさに目の前で、自分に笑いかけている。

 

 

「君、大丈夫かい?」

 

オールマイトはにっこりと笑いながら転弧に手を差し伸べる。その微笑みは、まるで陽だまりのような温かさを感じさせた。だが、転弧はその手を取らず、何かを思い出したように口を開いた。

 

「……オールマイト。」

 

「ん?サインが欲しいのかい?少年も気を付けなさい。最近は突然一般人が敵化する……なんてことも起きているんだから。」

 

「それも後で欲しいんですけど。あの……おばあちゃん、探してくれませんか?」

 

オールマイトは一瞬、その言葉に驚いた顔を見せたが、すぐに優しく頷いた。

 

「もちろんだとも。余計なお世話はヒーローの本質だからね!!」

 

その言葉に少し安心した転弧だが、すぐに心に湧き上がった疑問を口にした。

 

「ヒーローだったんですよ、おばあちゃん。知ってますか?」

 

「うーん……ヒーローをやっていたと言うと、どうかな。君のおばあちゃんか……。」

 

オールマイトは少し思案し、眉をひそめた。

 

「……君の頼みはヒーローとしてできる範囲だけど、私が知っている情報は少ないかもしれない。すまないな。」

 

転弧の顔には、わずかな期待が消えていくのが分かる。

しかし、すぐにそれを自分の中で飲み込んだ。

 

「それでも構いません。少しだけでも、お願いします。」

 

転弧の声に力が込められていた。

オールマイトは深く頷いた。

 

「わかった。君のお願いは受けよう。でも、その前に、君の名前を教えてもらえるかい?」

 

「……志村転弧です。」

 

転弧は少し間をおいてから答えた。

すると、オールマイトの表情が一瞬固まった。転弧はその変化に気づき、微かに違和感を覚える。

 

(え?なんだ、今の……。)

 

オールマイトは笑顔のまま、何かを気にしたように目を逸らしたが、その目にはほんの少しの動揺が見え隠れしていた。

 

「……志村少年。」

 

彼の声はどこか、低く、深く響いた。

転弧はその微細な変化を見逃さなかった。

 

「どうかしましたか?」

 

オールマイトは一瞬、何かを言いかけては黙り込んだ。その後、苦笑を浮かべると、ゆっくりと口を開いた。

 

「すまない、転弧少年……君の名前、まさかとは思ったが……。」

オールマイトの目がしばらく空を見つめた後、再び転弧に向き直る。

 

「君のおばあさんのこと、私は知っているわけではない。ただ、君の名前が出てきたことで……ちょっと驚いたんだ。」

 

「え?」転弧は目を見開く。

 

「だが、申し訳ない、私はそのおばあさんについては知らない。だから、頼みを聞くことができても、答えられる情報が少ないと思う。」

 

オールマイトは再び微笑み、転弧に向かって深く礼をした。

 

「それでも、君のことは全力で助けたい。これからも何かあれば、遠慮せずに頼んでほしい。」

 

転弧はその言葉を胸に受け止め、しばらく黙っていた。

 

(知らない……知らないんだ……)

 

オールマイトが自分の目を見つめる中、転弧はその優しさに少しだけ胸が締め付けられる思いを抱いた。それでも、自分が求めていたものは、確かな形でそこにあった。

 

「ありがとう、オールマイト。」

 

転弧はその一言を告げる。オールマイトの笑顔が、背中を押してくれるような気がした。

オールマイトは黙って頷くと、その場にしゃがみ込んで、ノートの端に丁寧にペンを走らせた。

 

“ALL MIGHT!”

 

渡されたサイン色紙は、心なしか温かく感じた。

 

 

 


 

 

夕暮れの空はすでに夜の帳に飲まれ、街はネオンの光に包まれていた。雄英高校の入学式から数時間。喧騒は収まり、ヒーローの街も静けさを取り戻しつつある。

 

高層ビルの屋上に一人立つ影があった。

オールマイト――いや、今は痩せこけた姿の八木俊典。

あの少年と別れた後、彼の胸にはどうしても拭いきれない違和感が残っていた。

 

(志村転弧……。)

 

自分の中でずっと封じてきた名前が、今日、あまりにも自然に目の前に現れた。

 

彼の名前を聞いたとき、胸の奥にしまっていた過去が一気に顔を覗かせた。

志村菜奈。自分の師匠であり、ヒーローとしての「象徴」を授けてくれた人。彼女の記憶と、決して触れてはならぬ“喪失”が同時に甦ってくる。

 

(あの子……本当に、お師匠の……?)

 

信じられない思いだった。もしも、本当にーー

その答えを得るために、俊典は携帯を取り出し、ある男の番号を呼び出す。

 

Prrrr... Prrrr...

 

呼び出し音が数回鳴ったのち、ざらついた低い声が聞こえた。グラントリノこと、酉野空彦だった。

 

『なんだ俊典。こんな時間に。』

 

「グラントリノ……すみません。どうしても、今、伝えなければならないことがありまして。」

 

『珍しいな。お前がそんな口調になるなんざ、よっぽどのことか。』

 

俊典は深く息を吐く。喉が乾いていた。だが、それでも言わずにはいられない。

 

「今日…一人の少年と会いました。名は――志村転弧です。」

 

一瞬、受話口の向こうの空気が止まったように感じた。

グラントリノはすぐに反応を返さなかった。だが、その沈黙が全てを物語っていた。

 

「彼は、自分の“おばあちゃん”を探していると言っていました。おそらく……彼は、“お師匠”のご家族です。」

 

『…………』

 

「……グラントリノ?」

 

『……志村の孫、だと?』

 

俊典の喉がごくりと鳴る。

 

「……はい。彼は雄英高校の生徒でした。偶然街で会って…名前を聞いて、私は……!」

 

『動揺したか?』

 

「……はい。」

 

俊典は正直に答えた。その動揺は、自分でも制御できるものではなかった。

 

『……志村が、生きてりゃな……。』

 

グラントリノはぽつりと呟いた。

 

『志村が、お前に何を託したか、今さら言う必要もねェが……あいつは、家族を徹底的に巻き込まねェようにって、それこそ命を懸けてた。孫なんて話、俺も初耳だ。』

 

「……そうですか。」

 

『おそらく、誰にも知らせねェまま、何かしらの形で残されてたんだろうな。あいつの意志が。』

 

グラントリノの声には、かすかに苦みが滲んでいた。あの「志村菜奈」という女の人生が、どれほど過酷なものだったか、彼は最もよく知っていた。

 

『転弧って言ったか。……その名前に聞き覚えはねェ。だが、志村の血を継ぐ者がいるってんなら――』

 

俊典は唇を噛んだ。

 

「彼は……何も知らない様子でした。ただ、おばあちゃんを“ヒーローをしていた人”だと、漠然と語っていました。具体的な情報はなくて、ただ……誰かに会いたいという思いだけが残っていたような。」

 

『……なるほどな。』

 

沈黙が数秒続く。

そして、グラントリノはようやく言った。

 

『分かった。その志村の孫っつー奴にゃ俺が調べて、話をつけておく。』

 

俊典の目が少しだけ見開かれた。

 

「……本当ですか?」

 

『あぁ。お前が関わるには……まだ時期が早ェ。あいつが望んでなかったとしても、だ。中途半端な好奇心で刺激するべきじゃねェ。何かあれば、まずは俺が対応する。』

 

俊典は、胸に抱えていたものが、ほんの少しだけ軽くなった気がした。

 

『ただし、時間がかかるかもしれねェがな』

 

「……構いません。それでも、ありがとう、グラントリノ」

 

『礼はいい。それよりもお前……しばらくは慎重になれ。志村という名前が世に出りゃ、AFO(アイツ)の残党が嗅ぎつけるかもしれねェ。って、奴ぁすでにくたばったか。』

 

「……了解です。」

 

『じゃあな、俊典。……志村のこと、背負って生きてんだろ? だったら、ブレるなよ。』

 

「はい!」

 

通話が切れると同時に、夜風が俊典の痩せた体を吹き抜けていく。

空には月が浮かび、淡い光をビルの隙間から投げかけていた。

 

(お師匠……。)

 

その名前が、風に乗って彼の耳元で囁くように響いた。

 

(志村少年……君は……一体、どんな過去を抱えているんだ?)

 

俊典は夜の空を見上げた。かつて師匠が目指した「平和の象徴」――それを引き継いだ者として、今、自分にできることは何かを、もう一度心に問い直していた。

 

 

 


 

 

志村転弧は、雄英高校を卒業したその日、ヒーロー免許証を受け取り、帰宅の足を速めた。心には様々な感情が渦巻いていた。緊張、安堵、誇らしさ、そして少しの不安。

 

 玄関を開けてリビングに足を踏み入れると、見慣れない老人がそこに座っていた。目つきは鋭く、どこか飄々とした雰囲気を漂わせている。

 

「志村転弧、だな。」

 

 突如として名指しされ、転弧は本能的に構えた。

 

(なんだコイツ……誰だ?)

 

 戸惑いの色を隠さず睨む転弧を前に、老人は一方的に話し始める。

 

「体育祭、三年連続で上位に食い込んだらしいな。三年目には堂々の一位。インターンじゃエンデヴァーんとこ選んだって? ヒーローネームは『テンコ』か。……随分まっとうに育ったじゃねェか。」

 

 情報の正確さに転弧は言葉を失う。何者かもわからぬ老人の口から、自分の経歴が次々と暴かれていく。

 

「俺ぁ隠遁して1年と少しだが……志村の孫と聞きゃ話は別だ。俺の名は酉野空彦。ま、通り名はグラントリノって呼ばれてたな。テメェのことは調べさせてもらったぜ。個性事故で家族を失って、レディ・ナガンに引き取られたんだったな。」

 

「……あんた、志村って……。」

 

「ああ。志村とは昔、顔見知りでな。志村は俊典――オールマイトを庇って、ある男に殺された。個性を奪う化け物……オール・フォー・ワンって奴に、だ」

 

 グラントリノの声音には、憎しみと悔しさ、そして僅かな哀しみが滲んでいた。

 

「オールマイトの個性……ワン・フォー・オールってのはな、世代を超えて継承されてきた力だ。そして志村からオールマイトに受け継がれた…。」

 

 ぽとりと、机の上に一枚の紙が落ちる。

 

「……山梨県甲府市、なんだこれ?」

 

「住所だ。そこに行きゃ、少しはヒーローとしての自覚ってやつが育つかもしれねェ。志村転弧、プロヒーローになったばかりのひよっこなお前を、敵が狙ってくる可能性はある。気が向いたらでいい。来たけりゃ、来い。」

 

 転弧はしばし黙ったあと、小さく呟いた。

 

「……ヒーロー目指してる友達も誘っていいか?」

 

「はァ? ったく……好きにしな。」

 

 そのやり取りの最中、リビングの入り口に顔を出した筒美火伊那が、転弧とグラントリノを交互に見て小さく目を見開いた。

 

 数日後、転弧は中学からの腐れ縁、井口秀一と連絡を取り、二人は甲府市の指定された住所へとやってきた。

 

「ここ……なんだよな?」

 

 古びたビルの前で、転弧が首を傾げる。

 

「多分な。住所も合ってるし。」

 

「んじゃ、行くか。」

 

 引き戸をガラリと開けたその瞬間――

 

「うお!」

 

 転弧が思わず叫ぶ。

 

 目の前に広がったのは、薄暗い廊下。そしてその中央に、うつ伏せで倒れている老人――グラントリノ。

 

「ま、まさか……!」

 

「おい、志村!」

 

 転弧と秀一が駆け寄るや否や、グラントリノがふっと顔を上げた。

 

「……ったく、ひよっこどもは素直に扉を開けちまうんだな。もうちょい警戒心ってもんを持て」

 

「……演技かよ!」

 

 転弧が呆れたように叫ぶ。

 

「ったりめェだろ。ヒーローになるってのは、そういう冗談も見抜ける力が要るってこった。」

 

 グラントリノはにやりと笑った。

 

 こうして、志村転弧と井口秀一の、少し風変わりな特訓の日々が幕を開けるのだった。

 

 

 一ヶ月後、ぱしん、と乾いた音が古びたビルに響いた。木製の床に靴音はなく、ただ激しく踏み込む足音と風を裂く拳の音だけが空気を裂いていた。

 

「そらよ、遅ェぞ志村ァ!」

 

「……ッ! だったら避けんなよ!」

 

 転弧が低く踏み込み、胴を狙って左のジャブを繰り出す。だがグラントリノはその場からすっと風のように姿を消し、次の瞬間には背後から転弧の肩を軽く突いた。

 

「まだまだ甘ェな。油断するとおっ死ぬぞ、現場じゃあな。」

 

「っくそ……!」

 

 悔しさをにじませる声が、息とともに漏れた。並んで稽古に臨んでいた井口秀一――スピナーも、既に額から汗を滴らせながら、木刀を構えている。

 

「交代だ転弧、今度は俺がやる。」

 

「……頼む、少しでも時間稼いでくれ。あのじいさんマジで容赦ねぇ。」

 

「言われなくてもわかってるって……!」

 

 その間にもグラントリノは口元を歪めて笑っていた。口では軽口を叩きつつも、その目には一瞬たりとも油断の色がない。かつての名うてのヒーロー、その力は老いてなお衰えず、むしろ転弧たちを本気で仕込む熱を増しているようだった。

 

「だがまぁ……成長しちゃいる。最初の頃なんざ、お前ら立ってるだけで精一杯だったんだからな。今じゃ殴りにくるくらいにはなった。」

 

「そりゃ、じいさんにぶん殴られる日々だったら、誰でも反射的に腕くらい上がるって……!」

 

「それだけじゃねェだろ?」

 

 そう言われた時、転弧と秀一はちらりと視線を交わした。頭の片隅に浮かぶのは、訓練以上に疲れると評判の「日常」だ。

 

「……そういえば、今日って安売りの日だったっけ?」

 

「火曜市だろ? たしかトマトが1パック98円だったはず。」

 

「まじか、あそこのスーパー肉の切り落としも安かったし、行っとくか?」

 

「はしごかよ……。」

 

 グラントリノがため息をついた。「お前ら、ヒーローになりてェのか主婦になりてェのかどっちなんだ」とでも言いたげな顔だったが、それを口に出す前に、秀一の木刀が絶妙な角度でグラントリノの足元を狙った。

 

「おぉっと、意外とやるじゃねェか!」

 

 その一言に、転弧も再び身構える。肩で息をしながら、思わず笑いがこぼれた。

 

「なぁ、じいさん。免許取らせてくれたの、やっぱありがとな。正直、生活能力って大事だなって思うわ。」

 

「それはナガンにも感謝しとけ。生活力がねェと、現場で“日常”を守る力も育たねェってな。あいつの持論だ。」

 

 そう言ってグラントリノは背筋を伸ばし、指をポキポキと鳴らした。

 

「さーて、もう一回いくか。組み手の後はスーパーだろ? その前に体力根こそぎ奪ってやるよ。」

 

「……鬼かよ。」

 

「ヒーローの教師に優しさを求めんな、志村。」

 

 ふっと笑って、転弧と秀一は同時に構えを取った。

 

 こうして、稽古と鍛錬、そして日常が交錯する「ヒーロー見習い」の日々は、ゆっくりだが確実に、彼らを強くしていった。

 

数日後、彼ら3人はマグネというオカマ敵に遭遇し、捕縛に成功する。そんな中、彼女の居場所が欲しいという発言を期に2年後、転弧と秀一はヒーロー事務所を立ち上げることとなる。




お気に入りが凄い数で増えている……!とても励みになります!このような作品をお気に入りに登録してもらって感謝しかありません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。