「今日から俺の…新しい生活が始まるんだな……!」
朝日が反射して輝く真新しいトレーナーバッチを眺める。ここまで長かった。
学力なんて死んでいる状態だったからトレーナー試験の模試を初めて受けた時なんて先生に…
「お前トレーナーってマジで言ってる?」
なんて言われてしまった。続く二回目の模試でも…
「悪いことは言わねぇからよぉ…考え直さねぇ?」
これである。苦しい勉強の日々だったけど今思い返すとやっててよかったと思える。一日三十時間の勉強は裏切らなかった!
…何か変な事を言った気がするがまぁ気のせいか。とにかく、新任式がそろそろ始まってしまう。そろそろ出発しないと初日遅刻をやらかしてしまう。さぁ急ぐぞ!
……………一か月後
「安西先生…担当が……欲しいです!」
スカウト5連敗…いや原因は分かってる。俺が新人だから。…それでもなぁ、精神的に…くるものあるよ。
「まぁやっぱりそうなってるよな」
「沖野さぁ~~ん。どうにかなりませんかぁ~?」
「新人なんてそんなもんだろ。どうだ?いっその事三十分追い回してみるのは」
「そんな化け物みたいなこと出来ませんよ。第一ウマ娘相手に三十分なんて追いかけまわせるわけないじゃないですか」
「いたんだこれが」
「マジっすか」
いたんだそんな人。だったら俺も…いやそんなことをすればただでさえソシャゲのガチャ並の成功率が天文学的数字になってしまう。それだけは何としても避けなければならない。
「こんな所で落ち込んでられませんよね。俺の物語はまだ始まったばっかなんですから、ゆっくりとやってきたいと思いま…ハッ!」
時計を見ると四時半を示していた。するってぇとよ……。
「ん…どうした?」
「こんな所で落ち込んでたおかげでよぉ~!相撲が始まっちまったじゃあねぇか!今日は好取組が何番もあるってぇのによぉ~!…それじゃ沖野さん、俺はこの辺で失礼しますね」
「あ…うん」
「よっしゃ、ぎりぎり間に合った。後ほんの少し遅れてたら配信されるのに三十分は掛かるからな」
カフェテリアでコーヒーを貰ってスマホで相撲を見る。こうしている時間がなんやかんや一番落ち着く。こうして静かに心の中で声援を送りながら優雅にコーヒーを口に流しこ
『はっけよい!』
「押せッ!押せッ!!押すんだよッ!!!ああ組まれちゃったらダメだよねぇそうだよなぁ!」
のど輪で上体を浮かせていたと思ったらそれがすっぽ抜けて内に入られてそのまま寄り切られてしまった。この力士はのど輪で相手を寄せ付けなければ強いんだけど四つ相撲だったり組んだりするとどうにも弱くなってしまう。
型が押し相撲だからしょうがないと言えばそうかもしれないけど。
「あぁー負けちゃいましたかー」
「そうなんだよ、途中までは良かったんだけど少し緩んだところで入られちゃったからねぇ…君は?」
「突然すいません。サクラチヨノオーです。私も相撲が好きでよく見るんです。…あ、次も好取組ですよ!」
「押し相撲の力士同士の取組かぁ…先に引かせた方が有利だけどなんか変化しそうで怖いんだよなぁ」
「いえ!この二人は変化はしないと思います!頭でぶつかって起こしていくのが得意ですからね。立ち合いで決まると思います!」
『待ったなし!』
…ゴクッ
『はっけよーい!』
「いやー久しぶりに楽しく相撲が見れた気がするよ。やっぱり誰かと見る相撲はいいね。その場で感想言い合えるし単純に相撲談義が楽しいし」
「そうですね、私もこんなに相撲の話をしたのは久しぶりかもしれません。明日もこの時間くらいに来て一緒に見てもいいですか?」
「いいねー楽しみにしてるよ」
「…あ!」
突然チヨノオーちゃんが大声を上げる。何か急用を思い出したかのような感じだけど…相撲見てて忘れてたのか?
「明日はトレーニングが入ってるんでした…なのでまた時間があったら見ましょうね!」
「じゃあしょうがないね。頑張って。応援してるよ」
「ありがとうございます!それでは!」
こうして楽しい時間は終わりを告げた。…いや、大丈夫。相撲仲間が出来ただけ物凄い進歩だ。今までそもそも取り合ってすらくれなかったんだから。だけど…そろそろ四星球探しを本格的に検討した方がよさそうだ。その決意が固まるまではニュースでも見ながらコーヒーを飲んで心を落ち着けよう。
「続いてのニュースです。政府は今月に予定していたガソリンの暫定税率廃止を延期すると発表しました」
「お疲れ様ですトレーナーさん。スカウトの方は順調ですか?」
「ッざけんなてめぇらいい加減にしねぇとぶちのめすぞ!!」
俺は持っていたコーヒーを目の前に居たたづなさん目掛けてぶん投げる。…否、ぶん投げてしまった。
「…へぇ。へぇー。そうですかぁそう来ましたかぁ」
「いや…わざとじゃないんですよ?」
そう、わざとではない。怒りに任せて投げたこと自体はわざとだけどたづなさんにコーヒーをぶっかけようなんて思っている訳もない。当たり前だ。むしろかけてやろうなんて思ってる奴がいたらそいつはただのバカだ。
「その…ニュースにブチ切れてしまいまして!本当に他意は無いんです!」
「あらあら、うふふ」
必死こいて言い訳する。だが反応は芳しくない。むしろ悪い方向に行こうとしているのかもしれない。どうする?たづなさんは既に臨戦態勢に入っている。指をボキボキと鳴らして一撃で沈める気満々だ。…もうこうなったら開き直ってやるか。
「そ…」
「そ?」
「そもそもよぉ!俺の射線上にアンタがいるのが悪いんだろうがよぉ!俺にあたんのはよぉ!お門違いってもんだろうがよぉ!」
「前が見えねぇ」
目が覚めると、寮の自室に寝かされていた。ただ顔が腫れぼったい感じがする。触るとあり得ん痛む。こういうのって場面が切り替わったら治ってるもんじゃないの?まぁいいや、次回には治ってることだろうことを祈っておくか。さて、二度寝する前にもう何回言ったか分からない言葉を言ってから寝るとしようか。
「安西先生…担当が……欲しいです…」