新人トレーナーの日常   作:サラダ味

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11話

「あいつめ…どこへ隠れた?」

 

大急ぎで逃げたおかげでマックちゃんのように追い付かれることはなかったけど…追跡者のようにどこまでも追いかけてくる気がする。今は物陰に隠れながらどうにかやり過ごしているが…いつまで持つか分からない。移動しながらエアグルーブの機嫌を直せそうなものを見繕ってくるしかない。

 

「あ、トレーナーさん!あれからスカウトの方はどうですか?」

 

「あ、バカ!今俺のことを呼ぶんじゃあねぇぜ!」

 

あの子は俺がスカウトした子だ!なんやかんや友達みたいな関係になってしまったせいで今こんな悲劇を生むことになるとは!

 

「そこか!」

 

「うおッ!」

 

声を発してくれたおかげで屈んで何とか反応出来たが、槍が頭の五ミリ上を掠める。あと少し遅れていたら頭を刈られていた。

 

「殺す気かお前!」

 

「貴様は殺しても死なんだろう?私のストレス発散の為の一度死んでくれ!」

 

「俺に残機は設定されてないんだよ!」

 

大急ぎで逃走を図る。直線なら誇張抜きに三秒で追い付かれるだろうがここは学園の中。直角に曲がれる場所なんて無数にある。ならば俺にも逃げ切れる可能性は出てくる。だが逃げ回るにも作戦を立てないと逃げ切れない。ここはいったん俺の部屋に逃げ込もう。まずはここの階段を下るか!

 

ビシュンッ!! ドズン!

 

っと耳の後ろ辺りから風を裂く音、そのコンマ何秒か後に刺さるような音が聞こえた。音の方向を見ると壁に槍が突き刺さっていた。

 

「チッ…次は外さん」

 

あ、あの人本気で俺を殺そうとしてる。命の危機を本当の意味で感じたのはこれが初めてだ。…などと思っている場合じゃあない!速く逃げ切らねば!幸いにも俺の部屋まであと少しだ、あそこに逃げ込めれば作戦を立てる時間を確保できるはずだ!

 

「なにぃ、あの人?」

 

廊下を、教室の前を、そして生徒の痛い視線をかいくぐり、何とか部屋の前までたどり着いた。さっきまで追ってきていたエアグルーヴがとんと追いかけてこなくなったのが気がかりだが、とりあえず部屋に入るためにドアノブに手を掛ける。…ととッ疲れからか少しよろめいてしま

 

ドグシャ

 

突然ドアから槍が生える。どうにも俺の部屋のドアっていうのは色々生える仕様が追加されたらしい。後でパッチ当てて修正しないといけないなぁ。

 

「ほう、完全な不意打ちだったはずだが…どうやって避けた」

 

そしてエアグルーヴさんが降臨なされる。さて問題です。距離がほとんどゼロの状態で人間がウマ娘から逃げる方法を答えなさい。ただし相手はブチギレており、殺気を隠せていないものとする。回答時間を今締め切りました。では答え合わせです。

 

ガシッ

 

「大人しくしていれば死にはしないぞ」

 

「ぐえぇ…さっきと言ってること違う…」

 

答えは首根っこを掴まれる…です。さて、どうするか。ここから推定されるルートは二つ。このまま首をへし折られるか槍で心の臓を一突きにされるかだ。デッドエンドを避けるためにはどうにか拘束を解かないといけないが、流石ウマ娘の握力、どうやればはがせるのか分からない。

 

「え、エアグルーヴ?今日は随分と…攻撃的なんだな」

 

「ああ、会長。お目汚しを失礼します。すぐに始末いたしますので」

 

緩んだ!会話の瞬間に力がほんの少し緩んだ!その一瞬で振りほどくしかない!

 

「彼は…ああ、件のトレーナー君か。確かに言いたいことはあるが、学園内が賑やかになっていいじゃないか」

 

「そう悠長な事を言ってられないでしょう…」

 

「おらあぁ!」

 

「ぐっ貴様!」

 

掴んでいる腕の上に左足を乗せ、それを軸に回転を付け右足でエアグルーヴの顔面に蹴りを見舞う!その一撃が効いているようにまるで見えないが、首を離させる事は出来た。

 

「あ~ばよ~!」

 

「待て、貴様ァァァァ!」

 

大急ぎで部屋に入り換気の為にあけっぱにしていた窓から飛び降りる!場所は二階だが、着地法には心得がある。見ておけ、ヒーロー着地だ!

 

ドン!

 

「…あーくそくそくそ…」

 

ヒーロー着地なんて碌なもんじゃない。衝撃を逃がすことを考えてない着地なんだから痛いのは当たり前だ。五点着地の方を採用した方が良かったなぁ。

 

「良いだろう、そうやって逃げ回っていると良い。すぐに捕まえてやるぞ」

 

窓から俺を見下ろしながらそういうエアグルーヴ。ラスボス感が凄い。だがこれで時間が出来た。機嫌を直してくれそうなものを買って来よう。いつまでもこのままだと死の恐怖に怯えながら生活することになる。…あいつ何あげれば機嫌直してくれるんだ?…信頼できる筋に聞いてみるか?

 

 

 

「という訳で、何欲しい?」

 

「何しにきやがった腐れ外道が!私をイラつかせた奴は全員殺すことにした!」

 

「うわああぁあァあキャラが違ううぅぅぅぅ!!」

 

本人に直接聞いた方が正確に欲しいものが分かると思ったが虎穴どころか鬼ヶ島に来てしまったようだ。

 

「待ってくれ待ってくれ!ちゃんと詫び入れに来たんだよ?話し合いに来たんだよ?だからもうちょっと落ち着いてくれたら助かるなぁ」

 

俺を殺したくてたまらなくても本人は話しても分からない類の人間じゃない。それに後ろにはルドルフが構えている。さて、どう出る?

 

「…良いだろう。だが貴様には私の要求を一方的に吞んでもらう。覚悟はいいな?」

 

「ああ、悪い事しちまったからな。無理難題以外は何でも引き受けるよ」

 

「さり気なく保険をかけおって…では…」

 

そういうとエアグルーヴがソファから立ち上がり棚へ向かう。そこから山になった紙…恐らく書類を持って机に置く。

 

「やれ」

 

「はい?」

 

「やれ」

 

「やり方分かりませんけど?」

 

「殺るぞ?」

 

「はい」

 

という訳で生徒会の書類仕事を肩代わりすることになった。エアグルーヴはその間に花壇の様子を見に行くついでに後輩の指導に行くそうだ。生徒会って新人トレーナーの俺より仕事多いんじゃあないの?そもそも生徒会長の辺りは社会で言う中間管理職みたいなものってどこかで聞いたような気がするが…ああ成程、だから仕事が多いのか。

 

「すまないな。業務外の事をやってもらって」

 

「いや、元はと言えば俺のせいだし。お前らの多忙ぶりには負ける。それに比べれば俺なんて暇みたいなもんだ」

 

「そう言ってくれると助かる。節目になったら言ってくれ。茶の一つでも入れよう」

 

会長殿からねぎらいの言葉を頂く。それにしても…この書類、中々にゴチャついている。種別ごとに分けるだけでも少しばかり難儀する。上下も逆だったりするので分かりやすくするだけでも時間が掛かってしまう。少なくともエアグルーヴやルドルフの仕事じゃない。

 

「なぁ、聞くんだけどこの書類群って誰がやる予定だったの?」

 

「ブライアンなんだが、元々書類仕事を嫌がる節はあったが、ここ一週間は彼女自身が私用で外すとの事でこうやって残ってしまったんだ。昨日には帰ると連絡が来ていたんだが…道中で何かあったのだろうか?」

 

「なーるほど。そこに俺が来たからこうなったのか。…良し、缶詰めになりますか」

 

頬を叩き気合を入れる。受けたからにはやり切るのが俺の信条だ。いざ、気焔万丈!

 

コンコン

 

…したところでドアがノックされる。

 

「どうぞー」

 

「順調か?」

 

「あれ、行ってた要件の割には帰りが早いな。何か忘れものか?」

 

「いや、そういう訳じゃない。人手を増やしてやろうと思ってな」

 

そう言いながら部屋に入ってくるエアグルーブはウマ娘を引きずっていた。多分流れからしてブライアンなんだろう。不思議なくらいボコボコにされている。そして心なしかエアグルーヴの表情がすっきりしたような表情になっている。これは…恐らく突っ込んではいけないんだろうな。

 

「ブライアン、一体何があったんだ?」

 

「どうしたもこうしたもない。木の上で昼寝をしていたらこいつが槍で枝を切り落として私ごと落としたんだ」

 

「そしてボコボコにして連れてきました。…おい、お前がやるはずだった仕事だ。今度はサボるなよ」

 

「打ち負かされたんだ。今日は観念するさ」

 

「会長、それではもう暫く外します」

 

そうして三人になった生徒会室はペンの音のみが響きながら時間が過ぎる。…これ本当に終わるのか?そんなことを考えていては終わるものも終わらない。必死こくとしよう。…ん?何だこれ。…どうすんのこれ

 

「どうした、何を固まってる?」

 

「…………賞味期限切れってお前らどうしてる?」

 

「どういう事かな?」

 

書類一枚を二人に見せながら言葉を続ける。

 

「これ、期限五日前なんだけど」

 

「「…………」」

 

なんか喋れよ。おい、そんな『終わった』みたいな顔するんじゃねぇよ。…おい、安心させてよ。…………あ、ダメな奴なのね。

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