新人トレーナーの日常   作:サラダ味

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12話

「あ~…この歳で湿布のお世話になるとはな…」

 

最近、デスクワークが重なったからなのか腰が痛くてたまらない。まぁ湿布を貼ったからと言ってすぐに治るわけではないので気長に治すしかない。とは言え、デスクワークも一区切りがついたので本格的に暇になった。

 

カー

 

…どうするかなぁ。夕方時だしどこか行こうにもそういう時間ではない。…よし、鍛えよう。トレセンにはそこら辺のジム顔負けの設備がある。というより、充実しすぎている。欠点と言えば機材が大概ウマ娘用だからそんなものを使おうものなら一撃で体が破壊される。人間用のものがあるのか怪しい位だ。

 

「さて…来たはいいけど使い方の一端も分からない」

 

デッドリフトとかバーベル上げとかはまだギリ分かるが他はまるっきり分からない。というより、鍛えたことが無い。じゃあなぜここに来たかって?気分だよ。

 

「あ、奥沢さん!」

 

「お疲れ様です、奥沢殿。貴方も鍛錬を?」

 

振り向くとチヨちゃんとヤエノ師匠がいた。その横には水色の髪が映えるザ・お清楚なウマ娘がいた

 

「お、チヨちゃんじゃあねぇか。ヤエノ師匠も一緒か。まぁそんなところだ…そっちの子は?」

 

「メジロアルダンと申します。以後お見知りおきを」

 

「…メジロ?」

 

その単語で背筋がぞくりとする。そして忘れられない光景が脳裏によぎる。だがそれを顔には出さず挨拶をする。

 

「ああ、よろしくな。所で聞きたいんだが…お前モーニングスター隠し持ってないよな?」

 

「も、モーニングスター?」

 

チヨちゃんが疑問を口にする。まあそりゃそうだ。それ自体マイナー武器だし、そんなもの隠し持ってるか聞く時点で若干ヤバい奴だ。でも確認しないといられない。

 

「一応こちらに御座いますが…」

 

「あんのかい」

 

そしてどこからともなく取り出して見せる。怖ぇよ。

 

「うん、分かった。分かったから仕舞ってくれ。まぁそんな事より、トレーニングに来たんだろ?怪我すんなよ?」

 

「ええ、怪我をしてしまっては元も子もありませんから。それでは」

 

軽く挨拶を済ませると三人がそれぞれ違う器具を使い始める。さて、俺はこのダンベルでも使いますか。重さは…どれにするかな。一キロとか三キロじゃ少し軽いかも知れないから十キロでいこうか。えーっと、十キロはどれだ?

 

「…………?どこだ?……マジでどこだ?」

 

見当たらない。というより、五十キロより下が見当たらない。このトレーニングルームを使うのは初めてだから何があるのかも分からない。これは聞くのが一番だ。一番近くにいるアルダンに聞いてみようか

 

「なあアルダン。ちょいと聞きたいんだが、ここのダンベルの最低重量は何キロかな?」

 

「五十キロだったはずです。男性の方でしたら少し重いかも知れませんが、そこから始められるのがよろしいかと」

 

来たことを後悔する。アルダンよ、始められるのがよろしいじゃないんだよ。俺にはそれすら持てないんだよ。…案外何とかなるかもしれない。やるだけやってみよう。

 

「…フンッ!フギギギギギギギ…!」

 

やっぱりね。浮きすらしない。うん、ダンベルは諦めよう。何か違うやつをやろう。…お、これなんていいんじゃあないか?ランニングマシン。古くは罪人の刑罰だったか拷問だったかがもとになっているらしいが、今は健康の為になってるとはな。そんな雑学は置いておいて…早速使ってみるか。電源を入れて段々とスピードを上げていこうか。

 

「…良い感じだ」

 

軽いジョギング程度で難なくこなせる。それなら少しずつ速度を上げていけるだろう。今のスピードが…。

 

「…時速四十キロ?」

 

そんなバカな。そんなスピードに設定していない。それに今俺はジョギング程度のペースだ。これがそんなスピードになる訳が無い。そう思ったら、ベルトが速度を上げ始める。そして察した。まだ四十キロに到達していないだけだと。

 

「まずい、またスピードが上がって…!」

 

ジョギングでは追い付かなくなってきた。百メートル走と同じように走らないと吹っ飛ばされてしまう。マシンを止めようにもそんな余裕はない!体感で時速三十五キロに到達している!

 

「あ」

 

瞬間、俺の体はベルトに乗って勢いそのまま後ろに吹き飛ばされる。そして後ろの機材にごっつんこする。そんな表現をしたが、実際にはめちゃくちゃ痛い。泣きたい。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

チヨちゃんが駆け寄って心配してくれる。ありがとう、その心だけでも凄い嬉しいよ。

 

「大丈夫、ちょっと人類最速に挑戦しようとしちゃっただけだから」

 

「顔が擦り傷まみれですよ!?」

 

「それも大丈夫。シーンが切り替わりさえすれば何事も無かったかのように治ってるだから」

 

「そ、そういうものなんですかね?」

 

そういうものなんだよ。心配してくれてるチヨちゃんを頑張って安心させて違う器具を使ってみることにする。するとサンドバックが目に留まる。ここまででほんのりと鬱憤が溜まっていたところだ。ぶん殴って発散させてもらおうか。

 

「壊れないといいなぁ…」

 

グローブを付けて左腕を大きく振りかぶる。そして一気に放つ!

 

ガンッ!!

 

「………?????」

 

サンドバックが重いのは重々承知していた。だが…重いなんてものじゃない。本気で打ってサンドバックが揺れすらしなかった。感触がおかしい。岩を殴ったような感じだ。腹筋を本気で固めたヤエノ師匠くらい固い。反作用で腕が悲鳴を上げる。…いや、今のは左腕だ。利き腕じゃないんだ!もいっぱぁつ!

 

ガシンッ!

 

少しばかり揺れた。…でも同じく腕が終わった。マジで意味が分からない。これを殴るのと岩盤を殴るのと何が違うのかご説明頂きたい。…ヤエノ師匠、ヘルプ。

 

「なぁヤエノ師匠。このサンドバックって何入ってるの?」

 

「屋内なので砂ではなく片栗粉を溶かした水を入れていると聞きます。ダイラタンシーで打ち応えは抜群ですよ。それに芯の部分には真鍮を入れて強度と重さを確保しているんだとか。私も先日試しましたが、いい鍛錬が出来ました」

 

どうりで。これもウマ娘用だったようだ。ヤエノ師匠でちょうどいいとなると人間じゃあ一撃でオーバーワークになること間違いなしだ。もう帰りたいけど折角来たんだから少しは体を動かしたい。

 

「ここって人間用の器具ってどこにあるの?」

 

「……ここには無いですね」

 

「ゑ」

 

「すみません、共に鍛錬をする中で奥沢殿が人間だという事を忘れてました。近くにシルバージムがあったのでそちらを利用した方が良いのかも知れません…」

 

流石トレセン。案の定というかなんというか、何でもウマ娘専用設計だ。そしてトレセン側もここで人間がトレーニングすることを想定していないのだろう。そしてサラッととんでもない事実が発覚した。何と俺は人間だと思われていなかったようだ。ヤエノ師匠、アンタは俺のことを何だと思ってるんだ。

 

「…成程、俺はこの辺りで退散するかな」

 

「そうですか。では、また道場でお会いしましょう」

 

という訳でジムを後にする。腕すっげぇ痛いなぁ…。よし、トレーニング失敗したから保健室いくか。

 

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