「おいお前ら全員乗ったかー?乗ってないなら返事しろよー」
やあみんな、トレーナーからバスの運ちゃんに転職…したわけじゃないけど今日の俺は運ちゃんにジョブチェンジしている。こうなった事情はもちろんある。そう、あれは昨日の事…
「生きてるって素晴らしい」
あの勢いで飛んできておいて骨まで到達していなかった。皮膚が少しばかり裂けたくらいで大事に至っていなかった。というより、その後の方がヤバかった。
「すすすすみませんすみません!!」ブンブン
「いいって。生きてるから問題ナッシングだ」
「いえ本当に、お怪我を負わせてしまってすみません~~!」ブン!ブン!ガン!
「いっって!!」
ドトウの頭突きは死ぬほど痛かった。人生で三番目に入るくらいの痛みだろう。マジで泣いた。あり得ない。という昨日の出来事を思い出しながらおでこを指で撫でているとプルルッと電話が鳴る。
「はいもしもし暇人ですけども」
『療養中の所すみません。トレーナーさんって中型免許を持ってましたよね?』
「持ってますけど…なんかあったんすか?」
藪から棒な質問をされた。今までこんなこと聞かれたこと無かったし取っておいてまあ使わないだろうと思っていたから少しばかり驚く。
『実は…明日の夏合宿のバス運転手さんが急病で出られなくなってしまったそうなのです。なのでトレーナーさんに代役をお願いしたいのですが』
「いいっすよ。これからも多分暇なんで」
という訳でバスを運転している訳だ。ルート云々は事前に確認したしなんならナビを設定している。これで迷子になるなんてことは無いだろう。……さて、俺はおもむろに車内のマイクに手を伸ばす。
「暇です」
「知らんわ」
ナァイスツッコミ。でも本当に暇なんだ。都会の信号の多い事多い事。郊外に出るまでははっきり言って退屈だ。眠くもなってくる。
「だぁって暇なんだもん。今だって信号待ちなんだし暇つぶしに付き合ってくれよ。…という訳でこの前カセットテープ聞いてたら中でテープがビロビロになった話する?」
「いつの時代やねん。今どき聞かんでそないな話。…言いたいことは分かるねんで?ウチも昔そうなった記憶あるわ」
「だろ?何か急に音おかしくなったと思って大急ぎでテープ引っ張り出したらレコーダーに食われてて鉛筆かなんかでグルグルグルーってさぁ!」
「懐かしいなぁ。チビたちが泣きついてきたのがこないだのようやわぁ」
話しをしていると信号が青になったので発進する。ナビは何にも言わないから…直進でいいだろ。
『今の信号を左でした』
「「早よいえー!」」
なんだこのナビ、ぶっ壊れてんのか?こんな音声があること自体に驚きだけど、手遅れな事を言ってくれても困る。
「まぁ安心しろみんな。ちょいと迷子になるくらい誤差だよ誤差。大体の時間くらいには着くだろ」
「そのナビ信用できるんか?」
「地図見れば無問題。気を取り直してレッツゴー」
という訳で、その後は特に何もなく無事に合宿舎に着いた。案外中々遠かった。というか眠かった。
「忘れ物するなよー。ほら寝てないで早く降りろー」
「うっぷ…アンタ何回事故りかけてんねん…」
降りてくる子を眺めていると顔面蒼白の葦毛が出てくる。…よく見たら三割の顔色が悪い。車酔いか?
「んなこと無かったろうが。ちゃんと無事故無違反安全運転だったろ?」
「せやったら教えたるわ。センターライン割り三回、対向車と正面衝突未遂五回、居眠り∞回他エトセトラ…どないして免許取ったん?」
「じゃあ俺からもいいこと教えてやるよ。テストの時だけ真面目にやりゃあいいんだよ」
「うーわアウトローな思考やな。チビたちに見せたないわ」
「まぁ教育によろしくない人間だって自覚はしてるよ。じゃあ合宿頑張ってくれ」
そんなこんなで葦毛にちっちゃいのと別れる。さて、やることが無くなったな。たづなさんからはこっちに残って勉強してていいって言われてたしな、そのつもりで荷物もまとめたから部屋に持っていくか。
…まずいな、このままじゃ落ちが無いぞ?この回をどうやって落とす?このままでは終わるに終われない。
「トレーナー!突っ立っとったらアカン!早よ避けぇや!」
「え?」
振り向くとそこには奇跡のアホ、ダチョウがアホみたいに爆走していた。こっちに向かって。
「いや嘘だろ嘘だろ!?…とうっ!」
だが声を掛けてくれたおかげでギリギリで避けられた。そしてアホの背中に乗る。………だがこれがいけなかった。
「どこ行くねーん!」
時速七十キロで爆走されたらそりゃあもちろん降りる手立てを失う。そしてこいつは止まる気配がない。そして来た道を戻るようにアホは走る。メロスくらい走る。あぁこりゃ終わったわ。なぁ神様よ、俺が何したって言うんだい。子供のころにやったころならもういいじゃあねぇか。引きずってはいるけどよぉ、あんまりじゃあねえのかい?
じゃ、俺が悲劇に合ったからまた次回だ。皆、俺が無事に帰れることを祈っててくれ。