新人トレーナーの日常   作:サラダ味

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24話

「止めてくれ、俺を殺す気か!?」

 

「言ったじゃあねえか、手荒なことするってよぉ!」

 

立て続けにドスを振りかざす。避けやすいように体の中心を外し、尚且つ遅めに振りぬく。

 

「うわあぁあ!!」

 

対して先輩はギリギリで危なっかしく避ける。この人も相当に演技派だな。俺の方はオペラがこんな所で活きるとは思わなかった。そのまま振りぬくこと三度…そろそろ来いよ…!

 

「これ以上の狼藉、見逃せません!暴行及び威力業務妨害で逮捕します!!」

 

「デケェ声出さなくても聞こえてるよぉ!フェノーメノぉ!」

 

振り向く動きをそのままに右かかとで回し蹴りを打つ。しかしフェノーメノはそこに左のエルボーを合わせる!…かかとすっげぇ痛いなぁ。

 

「大人しくするであります!校務執行妨害を付けざるを得なくなりますよ!」

 

「字面じゃねぇと分からないこと言うんじゃあねぇ!」

 

ドスを逆手に持ち替えながら右ストレートをかます。フェノーメノが流すので左ジャブ、右フックと次々と連打する。しかしその全てを流される。空手か…それも守りに重きを置いているタイプ。崩すにはそれなりの事をしないとか。仕方ねぇ、斬るか!

 

「風通しよくしてやるよ!」

 

「甘い!」

 

俺のドスを左に避ける!それとほぼ同時、左手で俺の右手を掴む!まずい、砕かれる!

 

「動きを封じさせていただきます!」

 

「うおッ!?」

 

だが、予想に反して繰り出されたのは合気だった!成すすべなく俺は宙を舞い床に叩きつけられる!

 

「ぐええぇ!」

 

「確保!」カチャリカチャリ

 

謎の金属音が聞こえる。フェノーメノの手元を見るとその正体は…何と手錠!しかも既に左手に掛けていやがった!

 

「そのワッパを放しやがれ!」

 

ウインドミルのように足を大きく回して強引に起き上がる。だが奴はまだ手錠を放していない。それなら利用させてもらう!

 

「腕の可動域を増やしてみねぇか!?」

 

「何ッ!?」

 

退く動きに言わせて前に出る。手錠を掴んだままの左手を掴んで肘の関節を壊す…予定だった。

 

「ハッ!」

 

フェノーメノが気合を入れたと同時、手錠は放れたが左手がびくともしなくなった。うん、分かってたじゃん。力で強引に解決しようとしても種族値が違い過ぎて土台無理だと言う事を。…だがこうなったことで別の選択肢が生まれた。

 

「仲良くなろうか!」ガチャン

 

手錠のもう片方を奴の左手に掛ける。これで近接戦に持ち込める…あれ?これ不味くね?

 

「このまま戦うのであれば、有利なのは本官の方ですが…まだやりますか?」

 

「…ちょっとやってみてもいい?」

 

フェノーメノを引き寄せようとする…ダメ。左手を起点とした行動は全てダメっぽいな。後は…これどうにならないっぽいな。

 

「取ってもらっていい?」

 

「ええ、本官もこのままでは動きにくいので」

 

お願いすると快く取ってくれた。自由になった左手首を触ってその解放感に安堵する。やはり手首は自由な方が良い。

 

「では…そちらの武器を私に」

 

「じゃあ続きと行こうか!」

 

バックステップで距離を取りながらシャーペンを投げる。それをフェノーメノが警棒で弾く…おめぇも武器持ってんじゃねぇか!

 

「いい加減にしなさい!」

 

負けじと奴も懐に手をやる。ウマ娘の膂力で投げられたら豆腐だろうが致命傷になりかねない。投げられる前に射線を外す!すると亜音速の勢いで頭上を何かが通る。やはり避けて正解だ。

 

ベチャリ!

 

そんな音が部屋中に響く。あいつ何投げた?着弾点を見てみると黒…いや紫っぽい感じだ。豆っぽいもの、パンのようなものが散らばっている。…コイツあんぱん投げやがった。投擲武器として採用されているのを初めて見てしまった。

 

「隙アリです!」

 

「ッ! まずい!」

 

苦し紛れにドスで斬りにかかる。しかしそれをドスごと避けたフェノーメノは一気の俺の懐に入る。…これはまずい!

 

「少し眠ってもらいます!」

 

流れる動作で人差し指を俺の腹にとんと当てる。それを認識する前に奴はワンインチパンチを繰り出していた!

 

「フンッ!」

 

「グフッ!」

 

俺はそれをもろに食らって後ろに吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。

 

「フェ、フェノーメノ!?いきなりどうしたんだっていうか、今までどこ行ってたんだ!?」

 

「ボス、しばし離れてください。オルフェさん達もです」

 

「何故だ?あ奴は既に伸びておるではないか」

 

「手応えがまるで無かったんです。風船や羽毛を殴ったような感覚でした」

 

…ちぇっ。仕方ねぇ、起きるか。

 

「流石に分かっちまうかぁ。そのまま吞気に止めを刺しに来たところをブスリといくつもりだったのになぁ。…あー背中いてぇ」

 

跳ね起きして埃を払う。すっげぇ視線を感じる。まるでなんでコイツ生きてんのって感じだ。その視線を一瞥するようにドスを拾う。

 

「なぜ生きているのですか?人間がウマ娘の一撃を受けて死ぬまではいかずとも確実に重症になるはずですが」

 

ほら聞かれた。よりにもよって一撃を見舞った奴がだ。

 

「そうならないように受けたんだから生きてるに決まってんだろ。まぁ簡単に言えば消力だ。あの威力まともに食らったら内臓破裂で即死だ」

 

みんなに納得したようなしてないような顔をされる。そんな中でフェノーメノがまだ噛みついてくる。

 

「そうですか。貴方のおかげで本官は殺人犯にならずに済んだようです。ですが、まだ見逃せないことがあります。その刃物は没収します」

 

「あいよ、じゃあ掴めよ」

 

没収と言われたので刃の部分を持ち、面白半分で投げてみる。

 

「フッ」

 

しかしフェノーメノは特に意に介することも無く、人差し指と中指で挟んで止めて見せた…っえ、怖ぁ。

 

「…これは…おもちゃ?」

 

フェノーメノが不思議な顔をしながら掴んだドスの刃の先を指先でいじりながら引っ込めたりしてる。

 

「当たり前だろ。本物持ってて職質喰らったらそれこそ終わりだ。それに得物の扱いは得意じゃないんだ」

 

「そうですか…じゃないです!貴方はゴルシさん以上に問題を起こしているんです!大人として節度を持った行動を!」

 

「分かった分かった!分かったからそう怒らないでくれ!反省すっからよ、見逃してくれよぉ。それにこの一件は先輩に頼まれてやったんだぜ?」

 

「そ、そうなのですか?」

 

「先輩、説明オナシャス」

 

先輩に間に入ってもらって事の顛末を説明してもらう。その間に叩きつけられた背中を軽くストレッチしてほぐす。

 

「そうだったんですか…。皆さん、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」

 

「困らせてもいいけど、心配させるようなことするなよー。…さて先輩、メノも召喚しましたし、俺はこれにてさいならと致します。オルフェ…じゃねぇ錯乱坊、ジャーニー、行こうぜー」

 

「わざわざ直すでない」

 

「それじゃあオル、案内しよう。きっとお前を満足させてくれるはずだ…。そういえば奥沢さん、かかとは大丈夫なのですか?」

 

「死ぬほど痛いけど?」

 

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