「ふー…コーヒーもそろそろ飽きたな」
息抜きにもはや定位置になってきている中庭のベンチでぽろっと独り言をこぼす。おいしいことは美味しいんだよ?多分コンビニのコーヒーよりは美味しいんだろうけど如何せん毎日飲めば流石に飽きる。…尤も、喫茶店の八百円もするお高いコーヒーとコンビニコーヒーの違いが分からん奴が言える贅沢ではないのかもしれない。
よし。心機一転、紅茶でも行ってみようか。微糖タイプは飲むと若干ムカつくが虎穴に入らずんば何とやらだ早速カフェテリアに行って飲んでみよう。
「紅茶下さい」
「承知した、しばし待て」
顔面が濃い人だったな。まぁそんなことはどうでもいいや。ほんの少し待っただけで紅茶が出てきたので貰って手頃な席に着く。相撲までまだ時間あるしなぁ。どうすっかなぁ…適当に俺セレクションのウマ娘データ帳でも精査してようかな。
ズズッ
…ああ、俺はどうもそういう運命らしい。無糖のはずだけどやっぱり若干ムカつく。何故ムカつくかは真面目に考えても本人が理解できないんだから仕方がない。だが問題は残った紅茶をどう始末するか…だ。そこら辺にぶちまけるのは簡単だけど何かヤダ。ただそれだけ。…やっぱ飲み切るしかないか。
「タキオンさん……いい加減そのふざけた量の砂糖を入れるのは止めませんか?」
「なんだいカフェ、健康面の心配をしてくれてるのかい?それなら心配いらないよ。今まで飲んでて体調不良になった事は一度も無いからねぇ。健康診断でも異常ナシさ!」
タキオンとやら…健康面は多分ちょっとしか心配されてないぞ。絵面だ、絵面が問題なんだ。本体が入れ替わってるんだよ。お前は角砂糖を飲む気か。さっきまでムカついてた紅茶が可哀そうになってきた。謝れ、全国の紅茶愛好家の方々に謝れ。
「…なんだい君は。そんなに見つめて、私の顔に何かついているのかい?」
「バレりゃあしょうがねぇやね。一応聞くけどお前何呑んでんだ?」
「見ての通り紅茶だが?」
「俺には角砂糖にしか見えねえんだよこのマヌケが!」
やべ、ついうっかり元来の口の悪さが出てしまった。だが言わずにはいられなかった。
「マヌケとは何だい!これは合理性に基づく摂取方法なのだよ!いいかい、私は常日頃から実験やレポートのまとめやらでなにかと頭を使うんだよ。故にこうやって脳の働きを助ける為にこうして糖分としてこの角砂糖をだね!」
「てめぇはその角砂糖が見えてねえのか!もはや溶け切らねぇほどに溢れているじゃあねえか!コップに水汲んでそれに溶かすなり、いっその事そのまま食っちまえ!」
「何を言うんだい!私の休息時間の楽しみである紅茶を奪うというのかい!?このティータイムを紅茶無しで過ごせと言うのか!?」
「英国人みたいなこと言いたいんならスコーンも追加してから言うんだな、やったところで無駄だがな!それどころかそのゲテモノをまだ紅茶と言い張るところに感動すら覚えてるわ!」
「君こそさっきから手元の紅茶が進んでないようだが?まさか口に合わないのかい?そしてこともあろうにそれを捨てようとしているんじゃないだろうねぇ?これはいけない!君こそ英国の方々に謝罪してはどうかな?」
「ギックゥッ!!」
こいつ、的確に心理を突きやがる!だがこいつの言葉の通りになるのは癇に障る…。良いだろう!
「そんな事ありませんけどぉ!?今からイッキしようとしてたんですけどぉ!?」
「そうかい。じゃあすぐに流し込みたまえ」
「いったるわぁ!」
天井を見ながらもっきゅもっきゅと胃に流し込む。あーやっぱ若干ムカつく。だが飲み干してやったぞ!
「どぉだ!捨てるなんて言ったことを撤回してもらおうかぁ!」
タキオンに視線を戻すとどこからか紙を取り出してなにかメモを取っている。さっきと様子が違い過ぎてひるむように困惑してしまう。
「…ああ、そうだね、撤回しよう。そしてしばらくそのままでいてくれないかい?もう少し経過を見たいのでね」
何言ってるんだコイツ。まるで実験してるみたいな言い回ししやがって。まさかコイツ、何かしやがったのか?
「トレーナーさん。…今は出歩かない方が良いと思います。その……言いにくいんですが…」
カフェと呼ばれていた子が忠告するように話す。ゴメン、話してくるまで存在を忘れてたよ。
「そのって…なんだよ。はっきり言ってよ、怖いじゃん」
「発光しているんですよ…蛍光色にはっきりと……」
「……鏡くれん?」
カフェがどこからともなく鏡を取り出して手渡してくれる。そして恐る恐る自分に向けてみる。
「ブッハハハハハハハ!!wナニコレ!?wwフハハ!ww」
思わず笑ってしまった、大爆笑だ。いや、笑っちゃいけないんだけど、笑わない方が無理だろこれは。だってどっかの落語家みたいになってるんだもの。しかも顔だけでなく全身が。もう笑うしかない。
「ああ、そろそろ後ろを向いてくれるかい?そちらの経過も観察したいのでね」
「おっけおっけこうだな」
……は?人体が発光している?意味わかんなくないか?だって人間の体で光を発する器官というのは存在しない。ならどうやって発行させているんだ?俺死ぬの?
「タキオンさぁ、レポート書きながらでいいから答えてくれん?どういう原理で光らせてんの?」
「あまり深くは考えたことは何だがねぇ。新薬を作ると中確率で発光するようなんだよ。私のモルモット君は大概発光してるからそれが平常運転だったが…確かに不思議だねぇ」
「お前の平常運転に疑問しか浮かばないけど、そこはいったん置いとくよ」
にしてもどういうこった?人間が光るなんて話聞いたこと無いぞ?ホタルとか光るキノコとかの生物発光を人間も出来るのか?
「こういうことか?人体のある成分…例えばアドレナリンとかに反応して発光する成分が入ってるとか。それかエネルギーを消費する過程で熱とか出るだろ?で、その時光ももちろん微量に出てるからそこを増幅してるとか」
「後者はあり得ないねぇ。光るほどのエネルギーが人体で消費するほどに増幅したなら今まで私の薬を飲んで光った人間は例外なく即死するからね。となると前者の線で考える方が良いか」
「まぁ、そこら辺改良してくれよ。光っちまうと日常生活に支障が出る」
「可能な限り善処するよ。私としても少々頭を抱えてたんだ」
「じゃ、そういう訳でそろそろお暇するぜ。タキオンもまぁ頑張ってくれよ」
「ああ、新薬が出来たらモルモット君共々研究に協力してくれたまえよ」
手を振りながらカフェテリアを後にする。スゲェ奴がいたもんだ。この年で医学部みたいなことが出来るんだからな。そして様子を見るに順調に言っているようだ。俺もスカウトできないとかうだうだ言ってる場合じゃあ無さそうだな。
「トレーナーさん……光ったままですけど……大丈夫ですか?」
…………………………
「おい、発光はいつになったら収まるんだ?」
「数時間といった所かな。まぁ君は新人みたいだし、その様子だと担当もいないだろうからしばらく我慢してくれよ」
「なんてことしてくれたんだてめぇはよぉッ!!」