新人トレーナーの日常   作:サラダ味

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30話

「昨日の事がまるっきり思い出せねぇ…」

 

フクキタルと会った時くらいから記憶が飛んでいる。俺の後を付けていたメノがエアグルーヴを呼んで事を収拾したらしい。どうやらあそこにいた奴全員が倒れていたらしい。しかし不思議な事に、フクキタルは1人しかいなかったらしい。それが普通なんだけどさ。それよりも不思議なのは、あの中で俺だけが記憶が飛んでいるらしい。

 

『未だ未解決のあの事件、虐待の末に起こった悲劇。19年前のあの日、あの家族に何があったのか。今夜8時』

 

あー、あの特番またやるのか。世間様もう覚えてないだろ。まあ多分俺は見ない。隣でお笑い番組やるし。…さて、とっとと出勤しますか。

 

 

 

 

 

「アンタやっぱり煽り耐性も煽り性能もゼロだって。うるさいからバカにされるんだよ」

 

「タイシン酷いよ~!そんなに言わなくても良いじゃん~!」

 

「しかしなんだ、声のボリュームが大きいのは些か問題だろう。声を抑える練習でもしてみたらどうかな?」

 

「分かった、やってみる!」

 

なんかやってるわ。まぁ死ぬほどうるさいのは勘弁だが聞き取れないレベルで静かなのも問題だ。俺としては少しばかりうるさい方が楽しくていいんだけど。

 

「どうかな?出来てるかな?」(少し小声)

 

「…アーホ」

 

「アーッ!タイシンがアホって言った!!アタシまだ何にもしてないのに!!!」

 

「うるせええぇぇぇぇぇ!!」

 

そう言いながらそいつのアタマを引っ叩く。耳がキーンってなった。マジに劈かれた。鼓膜が逝ったかと思った。取り敢えず苦情だ。

 

「少しの事で声を荒げるんじゃあねぇ!今度それやってみろ!ぶん殴るぞ!」

 

「もう既に叩かれた後だよ!」

 

「また煽り耐性低そうなやつが来た…」

 

「声もまた一段と…」

 

「で?井戸端会議してどうしたんだよ?こいつの口塞ごうってか?」

 

「縫っても無理なのに?メイトリクスみたいなことしないとコイツは黙らないよ」

 

うっわスゲェ説得力。それって息の根止めないといけないってことじゃねぇか。

 

「ていうか、なんでこんなこと話し合ってんだ?」

 

「タイシンがいつもアタシの事バカだのアホだのあんなうるせぇ奴はいねぇって言ってくるんだよ!酷くない!?」

 

「そこまで言って無いでしょ!?…そういう訳だからハヤヒデと煽り耐性底上げの為に色々やってるって訳」

 

「それで少し悩んでいたんだが、そんな時に君が来た。ちょうどいい、何かいい案は無いか?」

 

「無理だろ」

 

本音が先に出てしまった。しっかしまぁ煽り耐性を上げる方法か。こればかりは環境だからなぁ。俺なんてひっでぇ環境だったからそんじょそこらの罵詈雑言で声を荒げることは無い…はず。…じゃあこれでやってみるか。

 

「よし、じゃあタイシンとやら、適当に罵詈雑言をコイツに浴びせろ。慣れてしまえばどうってことは無いって奴だ」

 

「アタシじゃもう効かないよ。チケットに対してはもう言いまくってるから」

 

「マジか。…じゃあ俺から行くか。おいチケット」

 

「なに?」

 

「お前のその頭、脳みそ詰まってんのか?」

 

「ひどっ!?」

 

「記憶容量増やすために知識でも蓄えてみたらどうだ?胸にばかり脂肪を溜め込みやがってよぉ!」

 

「うわあぁぁぁぁぁああん!」

 

やっべ泣いちゃった。

 

「あーあ、チケット泣かしたー」

 

「どうするつもりかな?」

 

「煽り耐性上げるためになんかやれって言ったのはおめぇらだぜ!?俺は悪くねぇ!俺は悪くねぇ!」

 

「まぁともかく、チケットの煽り耐性は既に改善の余地が無いのかもしれないな」

 

「気付くの遅いぞ。…じゃあ次はタイシン、お前の煽り耐性はどうかな?」

 

「は?何でアタシまで?」

 

「憂さ晴らし」

 

巻き込まれに行ったのは俺だが何故か悪者にされてしまったのでこうなったらこいつら罵倒してからトレーナー室に行くとしよう。

 

「じゃあ行くぞー。…小4で成長期終わったか?」

 

「フン!」

 

「うげぇ!」

 

腹に後ろ回し蹴りをかまされた。コイツ沸点低すぎだろ…。一言でキレたぞコイツ…。

 

「お前の方が煽り耐性低いんじゃねぇのか?」

 

「…別に?キレてるわけじゃないし」

 

「それキレてる人の言い方…じゃあ次はハヤヒデだな…ちょっと待ってろよぉ、今考えるから」

 

「いつでも来たまえ。言っておくが、タイシンやチケットのようにはいかないぞ?私を荒ぶらせることが出来るかな?」

 

ほほう、面構えが違う。これは普通の罵倒じゃ眉間にしわを寄せさせる事すら出来なさそうだ。ハヤヒデ…あぁそういえば、コンプレックスがあると聞いたことがあるな。…そしていい文言も思い出した!これだ!

 

「お前のそのアタマぁ、笑っちまうぞハヤヒデぇ!使い古したモップでも乗せてるのかよぉ!可愛いと思ってんのかよぉ!」

 

「…ッッッッ!!」

 

「ちょっとアンタ…!」

 

「それだけはやめた方が良いよ!」

 

さあどうかな?どう反応するかな?

 

「今…なんて言った!!」

 

良い反応だぁ。思い描いた通りの反応だ。露伴先生がノリノリで罵倒するわけだ。

 

「聞こえなかったか?その髪型、自分では可愛いとか思ってるかも知れないけど、整えるのが面倒になってるだけなんじゃあないのかぁ!?それにそのアタマ、通常サイズだとか言ってるみたいだけど、ぜぇ~んぜんそんなこと無いぜ!デカい!」

 

「ッッッ!!」

 

「垂れ下がってる髪の毛、刈り取れば羊毛フェルトにでも使えるんじゃないか?…ひょっとしてだけど」

 

そう言いながらハヤヒデの前髪を指で梳く。かなり効いたんじゃないか?そしてハヤヒデが黙る事約6秒、遂に口を開いた。

 

「殺す」

 

…あ

 

「もうこれで終わってもいい」

 

どこかで聞いたとこがある。アンガーマネジメントには限界があると。6秒ののちに残るのは純粋な、一点の曇りのない殺意だけだと。

 

「タイシン、チケット、俺の雄姿、しっかりと見てくれたよな」

 

「アンタほどの勇者はいないんじゃない?」

 

「こんな所でお別れなんて嫌だよぉおおお!!」

 

「そう心配するな。また会えるさ。…またな」

 

それだけ言い残し、俺は一目散にトレーナー室へ逃げ出す。捕まれば間違いなく次回の更新が無くなる。作者曰く評価なんざどうでもいいから続けるらしい。それもあと20話くらい。それを考えると今捕まるわけにはいかない。

 

「殺す」

 

その単語と同時に肩を掴まれる。恐ろしい、振り向くのが恐ろしい。だが俺の好奇心がなぜか勝ってしまう。

 

「殺す」

 

その日、その場にいたウマ娘達は見た。ハヤヒデの拳から発せられる黒い閃光を。

 

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