新人トレーナーの日常   作:サラダ味

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33話

「中々派手にいきましたなぁ」

 

「いやーあはは、面目ない」

 

「まぁ車に轢かれて次の日にそれだけ回復すればいい方ですなぁ。ただまぁ、しばらくは安静にしてください」

 

「はーい」

 

とほほー。安静って言われちゃったよぉ。今やらないといけないことがあるんだけどなぁ。

 

 

 

 

 

「奥沢さん大丈夫かなぁ?」

 

「分からないけれど…無事であることを祈りたいわね」

 

「でも下手したら僕たちより頑丈らしいし……」

 

「何はともあれ、見てみないことには始まりませんわね」

 

助けていただいた次の日、昨日のお世話になったメンバーで奥沢さんのお見舞いに来ている。お礼が、まだ済んでいないもの。しばらく歩いていると、看護婦さんに教えていただいた奥沢さんの病室にたどり着く。開けようとしたその時、先に扉が開かれる。

 

「あれ…もしかして、康くんのお友だち!?」

 

出てきたのは、一人のウマ娘。話し方からして、奥沢さんのお知り合いの方なのだろう。しかし…耳は右側しかない。パッと見た感じ尻尾も無かった。でも耳の動き方はどう見ても本物。何かしらの悲劇があったのかしら。…初対面で言及するのは失礼ね。

 

「え、ええ。そんなところです。私、ヴィルシ」

 

「分かってるよ!ヴィルシーナちゃんにヴィブロスちゃん!シュヴァルちゃんにジェンティルちゃんでしょ!有名だもん、よく知ってるよ!」

 

「わぁ~お、私達、超有名人じゃん!ねぇねぇ、貴方の名前は何ていうの?」

 

「私?私は桜上吉花!康くんの~~…自称恋人だよ!」

 

「恋人…!でも自称というのは…どういうことですか?」

 

「シュヴァルちゃんいい質問!康くん恥ずかしがりやでさ~好きだって言っても『すりおろすぞてめぇ』って言って全然取り合ってくれないんだよぉ…。皆からもなんか言ってやってよ!…今呑気に寝てるけど」

 

「あら、寝ていらしてるの。その言い方からして、容体は特に心配いらないようね」

 

「うん、モーニングスターで全身粉砕骨折の時に比べればこけた程度だって言ってた」

 

桜上さんのお話からすれば、本当に大したこと無さそうね。…車に轢かれておいてそれで済むっていうのも恐ろしいけれど…。

 

「そうですか。お見舞いに来たけれど、寝ているならまたの機会にした方がいいかしら?」

 

「多分その方が良いと思う。康くん『起こした奴はぶっ飛ばす』って言ってたし。…ささ!立ち話もなんだし何か飲みながらお話ししようよ!皆が康くんの事をどう思ってるとか知りたいし!」

 

そう言うと桜上さんは私達4人を押しながら来た道を戻るように進んでいく。お見舞いとお礼は…また明日にしましょうか。

 

 

 

 

 

「そういう訳で、私たちと奥沢さんが知り合ったのはつい昨日の事なんです」

 

「だけど凄い優しい人だったよ!遊んでくれるしご飯も食べさせてくれるし!」

 

「うんうん♪やっぱり康くんは誰にでも優しいなぁ。私にも優しくしてくれてもいいのに…」

 

「でも…烈火のごとく怒ってるところも見たことあります。内容は…凄く下らないことが多いですけど」

 

「でも、かなり慕われているのね。良くも悪くも、友人のような関係を築いていらっしゃるのね」

 

「そっかぁ、何だか安心するなぁ。康くんがトレセンでもうまくやれてるって再認識出来て嬉しいよ」

 

康くんを通じてどんな子がいるかはほとんど把握してるけどこの子たちが康くんをどう思っているかは確認のしようがない。だからこうして直接聞けて本当に嬉しい。

 

「奥沢さんはかなり頑丈と聞くけれど…一度、手合わせしてみたいものね」

 

「あーダメダメ!康くんいじめたら私が許さないんだから!ベーっだ!」

 

「あれ~?桜上さん、左目の中にほくろあるんだ~!かわいい!」

 

「でしょでしょ?逆三角形みたいな形のが2つあるんだよ。結構気に入ってるんだ~」

 

他愛のない話をしているとヴィルシーナちゃんが時計を確認する。

 

「あら、もうこんな時間。桜上さん、ごめんなさい。今日はこれにて失礼させていただきます」

 

「トレーニングでしょ?気にしないで。3人もそうでしょ?康くんにはよろしく言っておくから」

 

「ではお願いいたしますわ。それではごきげんよう」

 

 

 

 

 

 

「ヴィルシーナさん、少しよろしいかしら?」

 

「どうかされました?」

 

ヴィブロスとシュヴァルの3歩後ろ位をジェンティルさんと並んで歩いているとふいに話しかけられる。

 

「あの方、桜上さんに私たちのスケジュールを教えたとこがあるかしら?」

 

「…いいえ。ですが奥沢さんが教えたという可能性はありませんか?」

 

「あり得ませんわ。告白しても罵詈雑言を浴びせるくらいですもの。そんな人と頻繁に連絡を取るかしら?」

 

「…私なら取りません。じゃあなんで?」

 

「耳や尻尾の事も疑問ね。彼女、なにか不気味ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病院を後にする4人を見送る。ゴメンね、でもこれでいい。これであの4人は明日以降に来ることになる。時間は稼いだ。でも時間が無い。ナンバーも顔も割れている。これで十分。私には…

 

 

 

         殺ることがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

都会の喧騒、ネオンの眩しさ。東京の都心部では神室町程とは言わないが町が眠ることは滅多に無い。帰宅途中のサラリーマン。夜遊びをする中高生。居酒屋で騒ぐ人々など、見渡すだけでで飽きることは無いだろう。そんな中に一人、少しばかり挙動不審な男が一人。

 

(くそ、なんでこんなことに!たった一瞬スマホ見てただけじゃあねえか!普段はなんてこと無いのに何で昨日に限って人がいるんだ!)

 

あの時信号無視した男、なんてこと無いどこにでもいそうな身なりで街の風景に溶け込んでいる。その挙動不審さも町の喧騒が掻き消していて一瞥した程度では人間を轢いた者とは分からない

 

(ただ轢いたのが一般人で良かった。近くにいたウマ娘を轢いてたらどうなってたか分からねぇ。今はとにかく逃げねえと。もったいねえが車も捨ててきた。死んじゃいねぇだろうし時効まで)

 

だがしかし彼にとっての不幸はすぐそこまで。

 

「アハッ♪」

 

そこまで。

 

「…誰だお前」

 

 

 

 

 

 

 

    み  

  イ

      

     つ

 

   け

        タ

 

 

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