新人トレーナーの日常   作:サラダ味

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34話

「…んん…んぁ…?」

 

知らない天じょ…いや知ってるわ。思いっきり知ってるわ。モーニングスターとかエルにやられた時とかいろんなときにお世話になってるあの病院だわ。えーっと?何でこうなったんだっけ?…あっそうだ。ヴィルシーナをかばった結果轢かれたんだった。まぁ普段のケガに比べれば打撲みたいなもんだ。

 

「おはようございます、奥沢さん」

 

「おぉ、ヴィルシーナじゃあねぇか。妹2人もいるのか。なんだ、見舞いに来てくれたのか?今日はトレーニングじゃなかったか?」

 

「いえ、トレーニングは予定通り終わっていますわ。それに、助けていただいた手前、お見舞いに行かないわけにはいきませんもの」

 

「“一昨日”は助けてくれてありがとう!」

 

「僕からも、ありがとうございます。それに昨日でほぼ治ってたから今日退院出来そうって先生が言ってましたよ」

 

こうやってお礼を言われると自然とやった事でもいい事をした気分になって悪い気はしない。それもそうだし助けた人が無事だと助けられてよかったと思える。…あれ、なんかおかしいな?

 

「なぁヴィブロス、お前今なんつった?」

 

「…?助けてくれてありがとう?」

 

「その前」

 

「一昨日は?」

 

「………一昨日?昨日じゃねぇのか?」

 

俺がヴィルシーナを助けたのは昨日のはず。これでヴィブロスの言葉が正しいなら俺は丸一日おねんねしてたことになるんだが。

 

「あら、桜上さんから聞いて無かったんですか?昨日も来たんですけど起こしたらすりおろすと言われたので出直してきたんです」

 

「…はぁあぁ!!?」

 

「ど、どうかしましたか?そんなに驚いて…」

 

「…いや、何でもない。特に何も聞いてない。寝てたから何にも言わないで帰ったんだろ」

 

平静を装うが、俺の脳内には異様な情報量が叩きつけられる。何がどうなってるんだ?なんでその名前を今更?

 

「奥沢さん?」

 

それに一昨日と言ってたのは正しいらしい。だが俺は丸一日分の記憶が完全に飛んでいる。事故った衝撃と言えば納得できるが…話からして昨日の診察には問題なく行っているらしい。俺そんなのに行ってねぇよ。

 

「奥沢さん、大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ。大丈夫だ。さっき起きたばっかだから寝ぼけてるのかも知れねぇな。…シュヴァルが言うにはもう退院出来そうなんだろ?この一件は俺の中じゃ終わった事だ。お前らも気にすんな。…まぁひき逃げの阿呆だけはぶん殴りたいが」

 

…情報を整理するのは後だな。会話に集中できねぇ。

 

「…気になるんですけど、本当に体は大丈夫なんですか?」

 

「ん、どうしたシュヴァル急に」

 

「だって、車に轢かれてる訳ですから…普通の人だったら死んでてもおかしくないというか…」

 

「気にすんなって言ったろ?それに俺もよく分かってない。多分先生が不思議なことしてるに違いない。先生は頑なに俺の事をファンタジーだと言ってくるけどな」

 

「そう言えば、ウマ娘同士の喧嘩を素手で止めたって話聞いたけど、あれ本当なの?」

 

「ああ、ホント。あれ何でどうにかなったんだろうな。不思議。…まぁ今日退院するだろうし、後の事は学園で話そうぜ。見舞いありがとうな」

 

3姉妹をちょっと強引に帰らせて、情報処理の続きをする。もうこの際、1日寝てたことはどうでもいい。重要なのは…ヴィルシーナが言った奴の名前だ。桜上…なんでアイツがその名前を?様子からして2人も知っていそうな感じだ。しかしなんで…俺の知り合いに確かに桜上は一人いるが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死んだはずだぜ…19年前に…。

 

 

 

 

 

「あ、奥沢さん久しぶりです!ケガって大丈夫なんですか?」

 

「おう、見ての通りピンピンしてるよ。見たとこ忙しそうだ。さあ行った行った」

 

タクシーで以てトレセンに帰ってきてもはや恒例行事の疾くカフェテリアでコーヒーを嗜む。この光景をいつも見させられている読者諸君の飽きというものを考えたことは無いのだろうか。…さて、普段の日課の朝のニュースを昨日は見ていないので昼のニュースで補充しよう。カフェテリアに常設のテレビに顔を向けるとちょうどニュースになっていた。

 

「速報です。先程都内某所の路地裏で男性の遺体が見つかりました」

 

あーらら、殺人事件ですか。

 

「警察によりますと、遺体の損壊が激しく犯人は明確な殺意を持っていたとみられています。さらに男性の身元は、付近の遺留品から一昨日のひき逃げ犯であることが分かり、警察はその辺りを含めて調査しているとの事です。続いてのニュースです」

 

………え。

 

「死んだーーーーッ!!?」

 

ぶん殴ってやろうと思ってた相手が速攻で死んでいた。まあ身元も何もわからねぇからどうやったって殴れなかったけど。けどさぁ、殺したかったけど死んでほしい訳じゃなかったんだよ。んー…まぁいいや。五体満足だし。

 

「やぁやぁ奥ちゃん。退院おめでと~」

 

「ようトラン。退院出来ておいてなんだけどさ…よく考えたら轢かれたんだから普通2日で出てきたらダメじゃね?」

 

「奥ちゃん吸血鬼なんじゃね?」

 

「じゃもう死んでるわ」

 

「確かにw。…でねでね、さっきひき逃げ犯が死んだってニュース出てたじゃん。あれね、現場の写真がSNSに上がってたんだよ。しかも殺されたての」

 

「マジかよ…。犯人なのか?」

 

「上げたのはそうだろうけどアカウントはひき逃げ犯にモノなんだよ。魚拓は一応取ってあるんだけど…奥ちゃんは被害者だし…見る?」

 

何故見たいと思った?死体はもう見たくないんだが…どんな末路を迎えたかだけサラッと見ておこう。

 

「じゃあ見せてくれ」

 

「はいよ。じゃあスマホ貸すから写真の所に行って非表示の所に入ってるから。あと見たら消しといて。…ウチはもう見たくない」

 

どうなってんだ?何か様子がおかしい。トランがそこまで言うとは。どう考えても写真が原因だろう。見れば分かるだろう。非表示…これか………

 

「…まじかよ……“開き”にされてる」

 

開きとは、開きである。誇張でもなんでもない。マジにアジの開きみたいにされてやがる。前面を開かれて骨は全てむき出しにされていて掌と肩、頭と心臓に杭を打たれて磔にされている。しかも腸も引きずり出されてハワイのレイのように首にかけられている。残虐なんてもんじゃあない。圧倒的な、どす黒い殺意が無きゃあこんな事は出来ない。トランが見たくないと言った訳が分かった。速攻で消してスマホを返す。

 

「この犯人が捕まってない方が問題だろこれ」

 

「そ。じゃ。要件済んだからこれで~。奥ちゃんも狙われないように気を付けて~」

 

「そしたら今度こそ死ぬよ。んじゃー」

 

消したはいいが…アレを忘れるって無理だろ。…ダメだダメだ。すぐ忘れよう。あんなもの覚える容量があるあら他の事に使うわ。あー嫌なもん見た。気分転換に落語聞きに行こ。

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