新人トレーナーの日常   作:サラダ味

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39話

「へー、こんな所に市田柿売ってらぁ」

 

街中を歩いていると通りがかりの青果店で聞き馴染んでてよく見たことがあるものが売っていた。地元のものが都会に来て売っていると地元民としてなんだか嬉しい気持ちになる。…っとと、買うのは帰りにしよう。数もあるし売り切れるということも無いだろう。先に郵便局に行こう。

 

「いらっしゃいませー」

 

着くや否や、欠伸をしながら歳入金・公金納付依頼書に手を伸ばし名前と18000と書いて受付に持っていく。最近若干寝不足なんだよ。

 

「これお願いしたいんですけど」

 

「あースピード違反ですか。しばらくお待ちくださいねー」

 

そう、やらかしたのである。25キロ以上30キロ未満で点数3点、罰金18000円也。つるんでた奴らからは「お前はいつかやらかす」と言われてきたし俺自身もいつかやらかすと思っていた。そのいつかがまた来たのである。ふざけやがって。

 

「お待たせしました。こちらご確認ください」

 

「はい大丈夫でーす」

 

「ところで何キロ出したんですか?」

 

不意にこんなことを聞かれる。人がやらかしたという話題は何故か首を突っ込みたくなるんだよな。

 

「67キロっすね」

 

「何キロ制限で?」

 

「40キロ」

 

「そりゃあダメですよ。ちゃんと制限速度は守らないと」

 

「おっしゃる通りで」

 

うるせぇなぁ~~~都会民風情がよぉ~~~!結構前に同じような事をして地元の郵便局でやってもらった時のおばちゃんは。

 

「40キロで60何キロは普通だよね~」

 

「ね~」

 

これである。長野県民なめんなよ。40キロ道路でほんとに40キロで走ってる奴がいたら普通煽られるに決まってんだろ。俺は煽りはしないだろうけどクルマの中でブチギレること間違いなしだ。夜中に30キロで走ってる奴っていったい何なんだ。煽られたいんだろうか。…って、愚痴博覧会になってしまうところだった。話に戻ろう。

 

「まぁ、次から気を付けてくださいね」

 

「ええ、見つからないようにしますよ」

 

「ご利用ありがとうございまーす」

 

という訳で罰金を払い終えて地下鉄を使って少しばかり都内を散策する。最近地下鉄を利用してみているのだが、結構な距離乗っても200円代で済むことが多くてびっくりする。しかも10分に1本は電車が来るから待ち時間も少ない。交通系ICカードを作ろうか本気で検討し始めている今日この頃である。だがしかし便利ではあるが同時にこんなことも起こってしまう。

 

「どこここ」

 

ちょいとした腹いせに同僚数名とかに迷子なうとLANEをぶん投げる。何番線とか多すぎんだよ。田舎出身の人間が地下鉄なんか使いこなせる訳ねぇだろ。兎にも角にも、帰宅しよう。路線図ぐっちゃぐちゃだから分かりにくいんだよなぁ。…忘れてた、その前に柿買ってかないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なん…だと…?」

 

通りがかった時にはそこそこの量あった柿が一切合切姿を消していた。なんで?

 

「あぁさっきの姉ちゃん。悪いねぇ、さっき一気に買ってった子がいるんだよ。つい5分前にね」

 

「マジかよ、タッチの差かよ。…後俺男です」

 

「あらそうなのかい?だとしたら髪も長いし随分かわいいねぇ。ちょっと待ってな、裏に残ってないか見てくるからよ」

 

おいちゃんが倉庫の方に入っていく。女なんて思われたこと一度も…ない訳じゃないけど。むしろ男相手の初対面だと基本そうなる。なんで?

 

「見てみたけどやっぱなかったわ。諦めてくんな」

 

「へーい」

 

意気消沈でトレセンに帰る。はーくそ。お茶のつまみに何食えばいいんだよ。今日の献立を考えながらトレーナー寮に差し掛かった時、見てしまった。

 

「ギムレット…それは…干し柿か?」

 

「ああ。八百屋(ペルセポネの使いが開きし店)にあるのを購入した。案ずるな、お前の分はもちろん、皆の分ある」

 

ギムレット…お前かよ買い占めたの。買い占めたっつっても5袋か。普通か。クリスが柿を受け取って美浦寮へ入っていく。その後にギムレットも栗東寮へ。にしてもお前がそれに興味を持つとは、意外だ。さて、どうするか。ウマ娘寮はトレーナーの侵入を禁ずる帳がおりている。貫通するためには寮長…あいつは栗東寮だからフジに許可をもらう。だが基本的に許可は下りない。ならどうするべきか。

 

「これで良し」

 

変装である。縛っていた髪を解いてウマ耳のカチューシャを付ける。ほんでちょっと腹をへこませる。…別に太ってねぇし。ちょっとでも細身の印象与えたいだけだし。後は声色を変えて人柄は…ジャーニーみたいな感じで行くか。

 

「ギムレット先輩、少しよろしいですか?」

 

「……何かな、マドモアゼル」

 

「私、実は市田柿が大変に好物でして。…もしよろしければ、一袋頂いてもよろしいですか?代金はお支払いしますので」

 

「いや、気にしなくていい。元々分けるつもりで買ったからな。持っていけ」

 

「ありがとうございます。では、私はこれで失礼いたします。お礼のほどは後程」

 

ミッションコンプリート。残るタスクは帰宅のみ。

 

「待て。お前、見ない顔だな。名前も聞かせてくれ」

 

「無理もありません。私の方から一方的に憧れいたものですから」

 

適当な事を言って時間を稼ぐ。名前を聞かれるとは思わなかった。さてどうする。適当に偽名を言うのは簡単だ。だが今はウマ娘に変装してしまっている。鈴木とか田中とか遠藤とか言えないじゃん。終わった。

 

「名前は…いえ、私の名前で先輩の記憶容量を割かせるわけにはいきません」

 

「そう卑下するな。俺という美酒を味わわせる時にお前の名前が分からなければそれも出来なくなる。さぁ、アルターエゴよ!お前の名を聞かせてくれ!」

 

困った、ちょっと思いつかない。…もう適当に言ってしまうか。

 

「サクラブロッサムです。では、失礼します」

 

こうして俺は栗東寮から脱出することに成功した。何だサクラブロッサムって。何勝手に咲き誇ってんだ。独唱じゃねぇんだぞ。刹那に散りゆく定めじゃねぇよ。何はともあれ、ササッと帰って味わうとしよう。…お礼何がいいかな。

 

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