新人トレーナーの日常   作:サラダ味

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42話

「おいっす先輩。大丈夫っすか?」

 

「ああ、君のおかげで助かったよ」

 

あの後結局見失ったのでその日は一時帰宅して、翌日の見舞いとなった。

 

「にしても手酷くやられましたねぇ。治らないって不便ですねぇ」

 

「治る君の方がおかしいんだ。そういえば、腕にケガしたんだって?アレももう治ってるんだろう?」

 

「あぁ~、あれですか」

 

左手に巻かれた包帯を解いて先輩に見せる。

 

「ほとんど塞がりましたけど、ほんの少しだけ治り切ってない感じっすね。まぁこの通りなんでほぼ完治っす」

 

ブンブンと振って何ともないとアピールする。マジでどうなってんだ?波紋か?反転術式か?なんて疑問を浮かべてるとスマホが震える。取り出して確認すると師匠からのLANEだった。…えぇ。

 

「何があったんだ?」

 

「いやちょっと…いやかなり面倒事です。昨日の事絡みっすね。正門で俺を出せ(意訳)って言ってるっぽいっす。ちょいと対処してきます」

 

「そうか、気を付けてくれよ」

 

「分かってますよ。学園で待ってますよ~」

 

なるはやでトレセンへ戻り、遠目で確認すると正門で何やらもめている。うわーあれかー。めんどくせー。現場に近づくと学園生も集まってしまっていた。野次馬魂に火が付いたか。ほぼ間違いなくいるたづなさんがいないのは対処に追われてるからか。

 

「師匠いるか~?召喚に応じ参上したぞ~」

 

「奥沢殿!?なぜ来てしまったのですか!?」

 

何故か驚かれる。お前が呼んだんじゃねぇか。ついでに群がってた男4人がこっちを向くとその内の一人が俺の胸ぐらを掴みかかる。

 

「お前だろ!ヒデちゃんをあんな風にしたのは!」

 

「ヒデちゃんって誰だよ!あと師匠!来てしまったってなんだ!」

 

「私は来ないで下さいと言う意味で連絡したんです!それなのになんで来てしまったのですか!」

 

「お前の言葉不足だ!…っで?お前らの用事は大体わかったが無駄骨だったな。俺は何にも知らん」

 

「嘘つくんじゃねぇ!お前がヒデちゃんを…!うぅ…うっぷ!」

 

「あぁ、大丈夫か!?」

 

吐きそうになったリーダー格の奴を取り巻きが心配する。なんだ?この反応は…トラウマ級の何かを見た類だ。あんな風にって言っていたが…何があったんだ?

 

「気が変わった。話だけでも聞いてやる」

 

「今日の朝、お前らにお礼参りしようとヒデちゃんの家に行ったら…こうなってたんだよ!」

 

取り巻きがスマホで写真を見せてくる。こりゃ…ひでぇな。

 

「奥沢さん、戻ってたんですね!この人たちが」

 

「大体わかってます。スマホ借りるぞ。こいつらの言い分はこうしたことへの復讐らしいです」

 

ひったくると同時にたづなさんへスマホを投げる。それを受け取るたづなさん。…まずった、あんなもの見せない方が良かったな。忠告しようか

 

「あぁいや、見ない方が良いっす」

 

「こうしたこ…ヒッ!」

 

一手遅かった。画像を見た衝撃でスマホを落とし、その場にへたり込んでしまった。アレを見たらそうもなる。

 

「なに、どうなってるのかな?」

 

「お前ら!見るんじゃあねぇ!」

 

しかし好奇心は強かった。スマホを見ては皆へたり込んだり顔面蒼白になる。彼女たちが見たものは、簡単に言えば『人豚』だ。手足は切り落とされ、その傷は焼かれ、目も抉り出されていて、恐らく声も出せないようにされてるだろう。

 

「…アレを俺がやったって?」

 

「お前しかいねぇだろ!理由だってあるしヒデちゃん追ってったんだろ!?」

 

「確かに追ったがすぐに見失った。それに言わせてもらうが、俺はこんなメンドクセェ事しねぇ。やるんだったらハナから命取るよ」

 

「ふざけんな!そんな言い訳が通用するか!返せよ、俺たちのヒデちゃんを返せよ!」

 

泣きながら俺の足もとで懇願してくる。辛い思いをしたんだな。仲間を失ったんだ、当然だ。だから俺の回答は。

 

「そうか。じゃあ俺はこれで。話だけは聞いてやったからな」

 

「…は?」

 

トレーナー室へ直行である。俺だって暇じゃないんだよ。書類仕事溜め込みすぎてもうそれどころじゃないんだよ。

 

「待てよ、それだけかよ!なんか言う事があるんじゃねぇのかよ!何も思わねぇのかよ!」

 

「いや?かわいそうだなぁとは思うけど特に何かしてあげようとは思わないな。そもそも…」

 

踵を返して男たちと相対する。そして、

 

「お前らはなんで被害者ヅラ出来るんだ?」

 

まっとうな疑問をぶつける。何故こいつらは泣きわめいているのか正直最初から意味が分からなかった。

 

「なんでって…仲間を死んだも同然にされてんだ、奪われたんだ!実際被害者じゃねぇか!」

 

「ふーん。じゃあお前らは奪ったことが無いのか?」

 

「それは…」

 

「あるよな。それが財布にしろゲームにしろ食べ物にしろ、お前らは沢山奪ってきたはずだ。それこそ、誰かの幸せも」

 

「だからってウゲッ!」

 

頭を踏んづけ言葉を遮って話を続ける。

 

「なんだ?それとこれとは話が別だって言いてぇのか?違わないね。お前らは常日頃から誰かを傷つけ、そして奪って快楽に浸りながら生きてきたんだろ?俺も昔は荒れてたからな。だから分かるんだよ。お前ら奪う側の人間は罪の意識なんかない。奪われるくらい弱いのがいけないんだって考える。なのに奪われた途端に被害者ヅラして返してくれと叫ぶ。当の自分はそんな願いを聞きいれた事が無いのにだ。しかも懇願した人間をあざ笑い、また傷つける。そんな人間の返してくれなんて、薄っぺらくて俺の耳に入る前にどっか飛んで行っちまったよ」

 

一通り言いたいことを言ったすっきりしたので足をどける。…あぁ、まだ言っておきたいことがあったんだ。折角なので顔の近くにしゃがんでやる。

 

「それにまだ生きてんだろ?じゃあこう言ってやれよ。『生きてればいい事あるかもよ?ほぅら、頑張れ頑張れ』ってな。尤も、聞こえてるかも分からねぇが?」

 

反論もなさそうなので改めてトレーナー室へ向かう。あーあ、時間食っちまった。仕事溜まってんのに…。

 

「奥沢さん…」

 

「ありゃ、たづなさん。もう起きて大丈夫なんすか?」

 

「いくら彼らが非行に走ってるとはいえ、未成年なんですよ。更生の余地もあるはずです。仮にも教育者が、あの発言をしてはいけないと思います」

 

結構前から起きてたんだなこの人。あの長話を聞いてたんだから。しかもあのガキどもに対してもこの聖人的対応、流石はたづなさんだ。でもね、たづなさん。

 

「マジで言ってます?逆に聞きますけど、あのクソガキどもに更生の余地があるとでも?」

 

「はい。たとえどんな方でも、罪の重さを認識出来れば、必ず更生できるはずで」

 

「んなわけねぇだろ!!」

 

一気に怒気を放ち、それ以上の言葉を発させない。ふざけやがって。平和ボケもいい所だ。こんなアマちゃんがよく今まで生きてたもんだ。

 

「更生の余地?ああそうだろうよ!ちゃんと罪を悔いることが出来りゃぁ更生も出来るだろうさ!それが出来りゃあな!だが悔いることが出来る人間なんざごく一握りだ、俺はあのカス共がその一握りに入るとはとは到底思えねぇ!そもそも更生できる人間はやった瞬間に悔いるもんだ!それを何十回何百回とやってる人間が今更更生!?そんなこと出来る訳ねぇだろうが!」

 

周りは押し黙る。一息の内に発したせいで肩で息をする。…チッ、少し熱くなり過ぎた。そんな中、警察のサイレンの音が聞こえ始める。誰かが呼んだんだろう。

 

「すんません、でもこれは俺の本音です。アイツらがどうなろうが知ったこっちゃねぇですけど、たづなさんの希望通り更生してくれりゃあいいですね」

 

ポッケに手を突っ込みながら学園に入っていく。なんか疲れた。昼寝タイムとしゃれこもう。

 

「そうですね。…すみませんでした」

 

「何ですか急に」

 

「奥沢さんは何か…違うものが見えていると思いまして。私の言葉がうわべだけのモノだったと思えます。ですから」

 

「勘弁してください。俺はそんなに高尚な人間じゃあないです。人に説教立てるのも柄じゃ」

 

喋りながら振り向いたらさっきのリーダーっぽい男がナイフ片手に突撃してきていやがった。クッソメンドクセェ、折角ゆったりまったりのんびりしようと思ってたのによぉ!

 

「ケガしても文句言わんでください!」

 

「死ねぇ!」

 

たづなさんを横へ突き飛ばして男の腕を掴んで関節を逆にする。痛みの反射で離したナイフをつかみ取り…。

 

「少しは反省しろ」

 

ザシュ

 

「あがあぁぁぁぁ!!」

 

その腕を切り落としてやった。周りを見ると再びの顔面蒼白。まぁ教育上は良くないわな。…まずったな。これじゃ暴力トレーナー街道をまっすぐ突き進んでしまっている。もろもろのことは後で考えよう。

 

「ほらよ、返すよ。医者に見せりゃあくっつけてもらえるだろ」

 

「ふざけんなよ…なんで俺がこんな目に…」

 

「当然だ、今お前は人を殺そうとしたんだ。腕一本で済んだだけありがたいと思え。いいか、先輩としてアドバイスだ。殺しだけはするな。その後の人生をまっとうに生きたいんだったらな」

 

さて、ポリ公にはどう説明するか。何としてでも正当防衛に抑えたいなぁ。

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