新人トレーナーの日常   作:サラダ味

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45話

「まぁ、皆には初めましてだもんね。康くんがいつもお世話になってるね」

 

周りのざわめきが一層強くなる。奥沢君がエアグルーヴに追われていった途端に何の前触れもなく現れ、こうして話しているのだから、当然だ。そして…謎の違和感が漂っている。

 

「やぁ、初めましてだな桜上君。私はシンボリル」

 

「あぁ大丈夫だよ!貴方の事も分かってるよ!お弁当の中身が茶色い人だよね!」

 

「んえぐ」

 

知っているなら、何故そんな言い方をしてくれる。せめて生徒会長の…とか何かあっただろう。…ってそうじゃない。

 

「君にそのことを教えた覚えは無いんだがな。誰から聞いたのかな」

 

「康くんが教えてくれたよ?…あ、さっき貴方達には私は死んでるって教えられてたっけ。それで康くんがクズを殺した事まで」

 

さっきの会話の内容まで把握しているのか?どこから聞いていた?カフェテリアの外?聞き耳を立てても喧騒で聞こえにくいはずだが。

 

「ここにいる子たちは全員知ってるよ。みんな、康くんに優しくしてくれてありがとうね。暗い過去があるけど、今まで通り仲良くしてあげてくれないかな?」

 

その様子は友人の心配をする一人のウマ娘。言葉の裏や思惑などは一切感じられない。純粋に心配しているんだろう。

 

「任せて欲しい。彼は誰とでも心を通わせられる。まだ担当契約は出来ていないが、優秀なトレーナーになるだろう。それに彼は、過去を引きずる男じゃないだろう?」

 

「それもそうだね。それじゃあね、康くんのことお願いね。…あ、康くんの恋人の座は誰にも上げないからね!」

 

そういうと彼女は席を立ち、正門方面へと歩いていく。その後ろ姿に疑問が浮かぶ。

 

「待って欲しい。奥沢君に会っていかないのか?もうすぐしたら戻ってくると思うが」

 

「あぁ~……。諸事情があって出来ないんだよねぇ。会いたいのはやまやまなんだけどね。それでも私はいつでも康くんを見守ってる。今はそれで充分かな」

 

「そうか。引き留めてすまない。奥沢君の事は任せてくれ」

 

「うん、任せたよ!…あ、そうだ!カ~フェちゃん!ちょっといいかな?」

 

「はい……なんでしょうか?」

 

桜上君がマンハッタンカフェに歩み寄る。それにしても、さっきから感じる違和感は何だろうか。彼女から発せられていることは間違いない。

 

「何か…御用でしょうか?」

 

改めて彼女を見れば、容姿や体格が奥沢君に似ているように見える。着ているものも奥沢君と同じだ。そもそも、彼女はどうやって現れた?

 

「うん、ひとつだけ言っておきたいんだ」

 

奥沢君がいなくなってから彼女が現れるまで1分と経っていない。よく考えなくても鉢合わせになるはず。だがそんな事にはなっていない。

 

「あ、ルドちゃんにも言っておこうかな」

 

「…私もか?」

 

「うん!ちょっとこっちに来てくれない?」

 

手招きされて近くに寄る。その間にも思考を継続す「賢明な判断を期待するよ」

 

同時に目を見開く。彼女は…何を言っているんだ?

 

「それ以上考えるようなら…貴方たちの大好きな人から人豚にしてあげてもいいんだよ?」

 

「会長!奥沢は来ていませんか!?何故か曲がり角一つで見失ってしまい……会長、彼女はまさか…」

 

エアグルーヴが奥沢君を見失った?人間がウマ娘を振り切るのはほぼ不可能のはずだが……。

 

しかも人豚だと?あれは彼女がやった事なのか?であるなら、当然見過ごす事は出来ない。だがしかし、その判断すら彼女の判定に触れてしまうだろう。第三者に危害が及ぶ可能性がある以上、私達に打つ手はない。

 

「おっと、グルーヴちゃんが来ちゃった。もう時間かな?それじゃあね!」

 

「待つんだ!まだこちらの話は半分だぞ!」

 

「一身上の都合があるんだよ!今度会う時も友達として会おうね!」

 

そう言うと彼女は走り去っていく。追うにしても既に間に合わないだろう。しかし…彼女があの一件に関わっているとは。

 

「お~い…エアグルーヴ来てたりする?」

 

「お、奥沢君!?いつからそこに!?」

 

「さっき来たばかりだよ。それより鬼瓦は来てねぇか?半分殺されかけた」

 

「私が鬼瓦だと?」

 

「後ろにいるぅぅぅぅぅ!!!?」

 

奥沢君が戻ってきた瞬間にいつもの騒がしさが戻る。先程の雰囲気が嘘のようだ。そしてエアグルーヴがゲイ・ボルクで奥沢君を殺しにかかる。だが今は待って欲しい。

 

「エアグルーヴ。少し待って欲しい。先に先刻の事案を奥沢君に話しておきたい」

 

「そうですね。では会長、お願いします」

 

「なんだよ、なんかあったのか?タキオンの尻尾でももげたのか?」

 

「そんなことは起きていないが…よく聞いてくれ。さっきまで桜上君がこの場にいた」

 

場に静寂が流れる。奥沢君が顎に手を当てしばらく考え、私を懐疑的な目で見てゆっくりと息を吸い

 

「は?」

 

一文字だけ発した。信じられないのも無理は無いだろう。全然信じていない彼を無視するように話を続ける。

 

「君が走っていったすぐに彼女が突然現れたんだ。そしてさっき君が来た方面へ走り去っていったんだが…鉢合わせにならなかったか?」

 

「ぬかしよるww」

 

だめだ、全然信じていない。

 

「悪かったって。お前が冗談いうような性格じゃあないのは分かってる。周りの目もあるし本当なんだろうな。だが俺と鉢合わせにはなっていない。なんか…裏があるかもな」

 

「次に会えたら君に必ず連絡する」

 

「頼んだ。そう簡単に会えそうにないだろうけど」

 

それはそうだろうな。だが……連絡しても良いものだろうか。次に会った時は武力行使を検討するようにしよう。

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