新人トレーナーの日常   作:サラダ味

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47話

最近やけに激動の日々が続いている気がする。吉花の事しかり、俺のチョンボで殺されかけてみたり。だからこそ、癒しを求めてしまうのだろう。

 

「……ふぅ~~~」

 

俺は今学園内のカフェテリアではなく都心から少し離れた古民家カフェに来ている。そこで俺は名古屋発祥のモーニングを堪能している。メニューはブレンドコーヒーにバタートースト、ゆで卵。デザートにソフトクリームだ。コーヒーを鼻に近づければ香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。それを少し口に流しいれ、追うようにトーストを運びこむ。…この塩味、実に俺好みだ。クッションとしてゆで卵を割り塩で頂く。…うん、普通だ。普通だからこそ良いんだ。

 

読者諸君はカフェや喫茶店に何を求めているだろうか。特別な体験?非日常感?それをカフェに求めるのは間違いだと俺は思う。俺にとってのカフェは『安心できる時間』だ。喧騒や仕事に追われ疲れ切った体が癒しを求めるのは必然だ。一番の癒しとはただ単純に快楽を求める事?違う違う違う。癒しとは…普通の時間である。

 

実家の縁側で寝ているような、何でもない時間。そして捻りも無い素朴な味。それらは日々の疲れを忘れさせるのに十分なものだ。俺にとっての癒しとは、少なくともそういうものだ。

 

「にゃ」

 

「…ほう」

 

そこに気まぐれな猫。看板猫かぁ。触れ合いたいが、眺めているだけでいい。寄ってきたら撫でてやる。今は、この距離感で十分。

 

「ここからにゃんこの気配!さぁデュランダル、私に付いてくるのです何をもたもたしているそんな事ではもふもふできないぞ」

 

「ああ、もう!そんなに急がなくてもお店は逃げないわよ!!?」

 

俺の平穏に暗雲立ち込める!冗談だろ、なんでこんな所に奴がいる?ライトオの友人よ、大変そうだな。同情する。かと言って助けてやるわけにもいかない。俺は平穏を守りたいんだ。なのでとる行動は一つ。

 

「ふむ、ここが一番いいだろう。猫好みの日当たりに爪とぎの跡が近い。絶好の猫眺めスポットだ」

 

「あんまり騒がないでよ?他のお客さんの迷惑になるわよ」

 

変装である。トレーナーバッチを引っぺがしグラサンを掛けウマ耳装着。基本的にはバレることは無い。…ギムレット以外には。まぁ初見でバレることは無いだろう。

 

さて、平穏を再開しようか。ソフトクリームを口へ。すると甘みが広がっていく。甘すぎないのがやはりいい。その後数口食べた後にコーヒーを飲む。この苦みが口に残った甘味をリセットし、ソフトクリームを迎え入れる準備が完了する。完璧だ。完璧な布陣だ。

 

「みー」

 

「おっと」

 

猫が膝の上に乗ってきた。人懐っこいなぁ、可愛い。撫でてほしそうにしやがって。その熱いリクエストのお答えしてワッシャワッシャしてやろう。

 

「なんて事だ、あのにゃんこが向かいのOLに占領されてしまった。私の何がいけなかったのだ」

 

「来い来いオーラを出してればそりゃ来ないわよ」

 

凄い目で見られている気がする。別にこのまま肉球を堪能してもいいが「肉球フニフニまで…!」見られるというのは少しばかり都合が悪い。変装を見破られる可能性がゼロじゃないからだ。

 

「あの…貴方も抱っこしてみます?」

 

少し惜しいが、この子を明け渡すことで俺に向いてる視線を外す。すでに肉球も堪能した。そろそろいいだろう。

 

「まじか、圧倒的感謝。遂ににゃんこがこの手の中にフニフニモフモフカーニバル。最高過ぎる」

 

「中々人馴れしてるわね。すみません。気を使っていただいて」

 

「いえ…その方、とても猫ちゃんが好きそうだったので。それに私は十分堪能したので。では…私はこれで」

 

席に戻り、残ったコーヒーを惜しむように飲み干す。さて、会計を済ませてトレセンへ帰ろう。…帰って何するんだ?俺。最近スカウトしなさ過ぎたせいで仕方を忘れてしまった。…とりあえず帰るか。

 

「ではお会計が…あら?」

 

店員さんが訝しむ。そりゃそうだ。来店したはずのない奴が会計しようとしてるんだから。

 

「ちょっとやんごとなき事情で…お察しくださいな」

 

「?」

 

ご理解いただいていないが何とかお会計を済ませて店を後にする。うーむ…今更だけど変装する必要あったかな?

 

 

 

 

 

「…ん?」

 

トレセンに帰ってきたら何故かみんなすごい見てくる。俺の顔に何かついてるのか?

 

「あの…」

 

「どもどもたづなさん。どうしたんすか?俺の顔に何かついてます?」

 

口元を触ってみるも何もない。卵の殻でもついているのかとおでこを触っても何もなし。皆何を見てるんだ?

 

「すみません、どちら様でしょうか?」

 

「えぇ?」

 

酷い。もしかして俺の事嫌い?

 

「俺ですよ俺!奥沢ですよ!」

 

「お、奥沢さん!?でしたらその耳はどうされたんですか?」

 

「耳?…あ、」

 

頭を触るとなんか生えていた。忘れてた。つけっぱでここまで来たのか俺。

 

「えへへお騒がせしやした。ちょいとばかり必要になっちゃって」ヒョイ

 

ウマ耳を外して髪を結べば普段通りに早変わり。

 

「そ、そうだったんですか。まぁ深くはお聞きしませんが…」

 

「助かります。それじゃ失礼しまーす」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、吉花って人だと思ったら違うんだね」

 

「ね。カフェテリアで見たウマ娘に似てたからそうだと思ったんだけど」

 

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